地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230918:NEJM Case recored:Case 28-2023: A 37-Year-Old Man with a Rash

今週のNEJM case recordです。37歳男性の全身の皮疹の症例です。

Case 28-2023: A 37-Year-Old Man with a Rash

 

Profile:37歳男性

 

HPI

37歳の男性9日前まで元気であったが手足にびまん性の発疹が生じた。発疹は3日間で腕、脚から鼠径部、体幹、顔面へと拡大した。6日前に新たに喉の締めつけ感と唇の腫れに気づいた。3日前に嚥下困難と息切れが生じたため別の病院のERを受診した。

 

問診をすると、発疹が出現する前日にCovid-19ワクチンを接種したと判明した。バイタル、ルーチン検査は正常であり、デキサメタゾンジフェンヒドラミンファモチジンによる治療が行われ帰宅した。

 

その後3日間、症状は軽減せず、本病院のERを受診した。口唇の痛みのため口を開けられず、軽度の嚥下、呼吸呼吸を認めた。発疹は腕、脚、胸、背中、顔、鼠径部にあり、発赤と腫脹が増加していた。発疹は掻痒と痛みを伴い、 "つっぱった "感じがしたとのこと。


ROS+:疲労、倦怠感、悪寒、寝汗、断続的な嘔気、腹痛、水様便、排尿障害
ROS−:発熱、頭痛、咳、筋肉痛、関節痛

 

PMH:なし


Meds:なし


Allergies:なし


SH
・南米出身、17年前にアメリカに移住
・現在はニューイングランド郊外に親戚家族と在住、ペットなし
・職業は清掃員、清掃時には手袋を使用していた
・喫煙:1/2箱/日 5年間
・飲酒:なし
・違法薬物:なし
・sexually active、2年前に避妊なしの性交渉を女性パートナーと行った


FH:自己免疫疾患なし、皮膚疾患なし

 

Physical examination
Vital signs:BT37.1℃、HR105/min、BP138/92mmHg、SpO2100%(RA)
HEENT:口角の亀裂あり、後咽頭は敷石様、粘膜病変なし、頸部リンパ節腫脹なし
Lungs:呼吸音異常なし
Extermities:関節腫脹なし、両側鼠径
無痛性リンパ節腫脹あり
Skin:腕、脚、胸、背中、顔、頭皮、鼠径部、陰茎にMorbilliform macules, papules, plaques(麻疹様発疹、丘疹、斑状疹)を認め、発疹は手足全体に集簇した。剥離、びらん、潰瘍、水疱は認められなかった。

 

L/D
・血算:正常
電解質:正常
・腎機能/肝機能:正常
・炎症:CRP16.7mg/L(基準値0~8.0)、ESR30mm/1h(基準値0~13)
・尿検査:正常
・その他:以下


Diagnostic tests were performed.
What’s your diagnosis?

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はい、ということで皆さんどうでしょうか?

皮疹については以前シンプルなアプローチを勉強しました。

tknk830.hatenablog.com

今回は丘疹もありますが、表面はつるつるした紅斑でしょうか。

 

ただし、今回は分布もかなり特徴的です。

 

自分が研修医になった初日に全身の皮疹の患者さんが今いました。鑑別が絞れていませんでしたが、上司から「手掌と足底にも皮疹があるけどちゃんと見た?手掌と足底に皮疹が生じる疾患には何がある?Rash on palms and solesって知ってる?」と聞かれ、何も答えられず心が折れかけた経験があります。

 

手掌・足底の皮疹はRash on palms and solesというカテゴリーとして考えます。僕みたいに心が折れる前に、知らなかった方はぜひここで簡単に勉強してみてください。

 

Am Fam Physician. 2010;81(6):735-739にまとまっていました。

 

 

以下のような書籍にもまとめてくださっていました。

・玉井道裕. かんかんかん TO 鑑別診断

https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307101912

・長野広之. ジェネラリストのための内科診断キーフレーズ

ジェネラリストのための内科診断キーフレーズ | 書籍詳細 | 書籍 | 医学書院

 

以下要約すると

・手掌・足底に皮疹を生じる疾患は限られている。下記の疾患を想定し血液培養や必要と思われる検体の培養、性活動歴やシックコンタクトを聴取することが大切

・①致死的な疾患:髄膜炎菌の敗血症、リケッチア、IE、TSS、②感染を広げてしまう疾患:淋菌、梅毒、HIV、麻疹、③治療できる疾患 に分けて考えると整理しやすい

※手足の皮膚剥離、落屑を認める疾患として手足口病川崎病、麻疹、TSS(回復期)がある

 

ということで、上記鑑別を考えながら、特に致死的な疾患、感染を広げてしまう疾患を意識しつつ、考えていきましょう。

タイミング的にワクチン関連で説明できるか考えつつ、細菌感染を否定できるか、やはりSTDが疑わしいか、といったところでしょうか。

 

それでは本文の解説を見てみましょう。

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Differential Diagnosis

37歳の男性、9日前から手のひらと足の裏を含む落屑を伴わない進行性の斑状丘疹状皮疹の病歴があり、中等度の全身症状と蛋白アルブミン解離を認めた。鑑別診断では、薬疹と感染性発疹を考慮する。特に、手掌と足底を侵す発疹について検討する。

 

Covid-19ワクチン接種反応
・Covid-19ワクチンを接種した1日後に発症しており、Covid-19ワクチン接種と全身性疾患の発症を時間的に関連付けることはよくあることである。
・Covid-19ワクチンに対する最も一般的な反応は、接種後1~2日以内に起こる初期の局所反応である。局所部位反応は通常1回目の接種後に起こり、2回目の接種は安全に行うことができる。一部の症例では即時型過敏症反応が起こり、蕁麻疹、全身紅潮、self-limitedな胸部や咽頭のつかえ感が特徴的。
⇨この患者は発疹とのどのつかえを示したが、発疹の程度と症状の持続期間は、局所部位反応、過敏症反応、Covid-19ワクチンに対するアナフィラキシー反応とは一致しない。

 

薬疹
・発疹の外観から、斑状(斑状丘疹状)薬疹を考慮すべきである。
・薬疹は最も一般的な薬物過敏症反応である。通常、新薬に暴露してから1~2週間後に発現するが、患者が以前にその薬物に暴露したことがあれば、もっと早く発現することもある。
・斑状薬疹は左右対称の分布で発生する傾向があり、しばしば遠心性に広がり、体幹から始まって手足に広がる。
⇨この患者の発疹の広がる方向は求心的で、手足から始まり体幹に向かって広がっている。
・多形紅斑は過敏症であり、薬剤と関連することもあるが、単純ヘルペスウイルス感染と関連することが最も多い。
⇨この患者には、多形紅斑に典型的な標的型の皮疹や粘膜水疱はみられない。
・重症薬疹はSjSとTENである。広範な表皮壊死と剥脱を特徴とし、粘膜病変を伴うこと多い。皮膚剥脱は、SjSでは体表面積の10%未満、TENでは30%以上に生じる。

⇨この患者の発疹はびまん性で広範囲に及んでいるが、粘膜が温存されていること、皮膚剥脱がみられないこと、最近新薬に暴露されたことがないことから、これらの疾患のいずれにも罹患していない可能性が高い。

 

感染性発疹
・感染性発疹の最も一般的な原因の1つはVZVであり、一次感染(水痘)または潜伏ウイルスの再活性化(帯状疱疹)を引き起こす。
・水痘:様々な発育段階で出現し、全身に分布する多発性のそう痒性小水疱を特徴とする。
帯状疱疹:通常1つの皮膚に限局した単発または多発の小水疱を特徴とし、その発生には疼痛と熱感が伴う。
⇨この患者の発疹は小水疱ではなく斑状丘疹であることから、VZV感染は考えにくい。
・麻疹はmorbilliform rashを引き起こし、病変は通常頭部と頸部に出現した後、体幹やその他の部位に広がる。発熱、咳、鼻汁、結膜炎を伴う。
⇨この患者には麻疹の随伴症状がすべて見られない。
手足口病ヘルパンギーナはいずれもコクサッキーウイルス感染と関連しており、発熱と咽頭痛が一般的な症状である。手足口病と関連する発疹は、手足に無痛性、非掻痒性、斑状、斑状丘疹または小水疱性病変として現れ、まれに中心性に広がる。口腔内病変は、斑状疹から有痛性の小水疱、最終的には潰瘍へと進行するのが特徴。
⇨この患者には咽頭痛があるが、発疹は手足口病ヘルパンギーナとは一致しない。
・Covid-19は、斑状丘疹状皮疹、丘疹小胞性皮疹、凍瘡様肢端病変(「Covid toes」とも呼ばれる)、血管壊死、紫斑、点状出血、livedo様皮疹など、多様な皮膚症状を引き起こす。
⇨この患者は発疹が出現する以前から健康であったため、Covid-19の診断は考えづらい。

 

手掌と足底の発疹
・この患者の発疹の特徴として、手掌と足底が侵されていることがあげられる。手掌・足底の発疹は、斑状丘疹性発疹の鑑別診断よりもはるかに限定的となる。以下鑑別を考える。
・(亜急性)IE:微小血管閉塞の結果として、点状出血、Janeway病変(手掌および足底の紅斑)、Osler結節(手指および足指の圧痛性結節)を呈することがある。
・TSS:手掌および足底の日焼けに類似したびまん性の赤い斑状の発疹を生じ、落屑に進展することがある。
・ロッキー山紅斑熱:通常、頭痛、高熱、倦怠感で始まり、24~72時間以内に発疹が出現する。紅色の不整形斑状の発疹(斑丘疹)が手首足首に出現し体に向かって広がり、点状出血を伴い、重篤になると、壊死が集簇する。
IE、TSS、ロッキー山紅斑熱は症状が合致しない。

HIV、梅毒:下記

 

HIV感染症、梅毒
HIV感染:疲労、発熱、筋肉痛、リンパ節腫脹、咽頭炎または粘膜炎(口腔潰瘍を引き起こすことがある)などの全身症状を伴うことが多い。また、頭痛、嘔気、下痢、手掌や足底の斑状丘疹状皮疹を伴うこともある。
⇨この患者の症状の多くは、急性または初期のHIV感染症の症状にぴったり当てはまる。
※急性HIV感染が疑われる場合には、他の性感染症との併発も考慮することが重要である。急性HIV感染症の多くの症状は、疲労、倦怠感、咽頭痛、リンパ節腫脹など、二次梅毒の症状と重なる。


・二次梅毒:最も重篤な皮膚症状は潰瘍性皮膚症状であるが、二次梅毒の最も一般的な症状は、典型的には手掌と足底を含むびまん性斑状丘疹状皮疹である。

⇨この患者の皮疹と合致する。

 

本症例を考えてみると

・全身症状、蛋白アルブミン解離、手掌と足底を含むびまん性斑状丘疹状皮疹から、二次梅毒の有無にかかわらず急性HIV感染が最も可能性の高い原因であると考えられる。しかし、性交渉歴は、この症候とは一致しないため、患者にもう一度社会生活歴を尋ねることが必要である。
・急性HIV感染症と梅毒の診断を確定するために、HIV抗原/抗体のスクリーニング検査とHIV-1 RNA検査と梅毒のスクリーニング検査を行う。

 

Diagnostic Testing

・この患者はCovid-19、淋菌、クラミジアPCR検査を受け、CMV、EBV、HAVHBVHCVの血清学的評価を受け、血液培養を採取した。
⇨EBVとCMVは既感染パターン、その他の検査は陰性であった。HIV-1抗原とHIV-1およびHIV-2抗体のスクリーニング検査は陽性であった。

 

・抗体に加えてHIV p24抗原を検出するスクリーニング検査は、抗体検査のみよりも早期に感染の証拠を検出できるため、HIV感染の診断に最初に選択される検査である。HIV p24抗原は通常、ウイルス感染後約15~20日で検出可能であるのに対し、HIV抗体は一般に感染後20~30日経たないと検出されない。スクリーニング検査が陽性であるだけでは、HIV感染の診断は確定せず、スクリーニング検査の陽性適中率は、検査を受ける患者の集団内でのHIVの有病率に左右される。
⇨この患者は特にHIV有病率の高い地域の出身ではないようであり、スクリーニング検査陽性のすべての患者に推奨されているように、HIV-1およびHIV-2確認検査を行い、HIV確認検査でHIV-1が陽性であったため、HIV-1感染の診断が確定した。患者のHIV-1 RNAウイルス量は342万コピー/ml、CD4+ T細胞数は700/μLであった(基準値500~1500)。

 

※急性HIV感染症の各指標の検出可能時期については以下のFigureを参照

Curr Infect Dis Rep . 2017 Sep 7;19(10):37. doi: 10.1007/s11908-017-0588-3.

 

・このレベルのHIV-1 RNA値は、典型的には急性感染または初期のHIV感染時に発生するが、疾患経過の後期に発生することもある。CD4+T細胞数が保たれていることから、この患者は最近感染した可能性が高い。(しかし、HIV-1抗体の存在が確認され、セロコンバージョンが起こったことが記録されたため、急性HIV感染の定義には当てはまらなかった。)

 

・非特異的ではあるが、この症例で観察された蛋白アルブミン解離とリンパ球減少は診断の手がかりとなった。
・蛋白アルブミンギャップ:4g/dLを超えることは、HIV感染患者においてしばしば観察され、ポリクローナルB細胞の活性化を反映している。
・リンパ球減少は、感染の初期段階において一般的であり、典型的にはCD4:CD8 T細胞比の逆転と関連している。

 

・この患者は梅毒の検査も受けた。
⇨この患者はRPR検査が陽性で、力価は1:8であった。この患者は梅毒の診断を受けたことがなかったため、この結果で梅毒の診断が確定した

※この結果で梅毒の病期を確定することはできない。臨床的には、患者の発疹は二次梅毒を強く示唆するが、この感染段階ではRPR力価が一般的に高くなることに注意すべきである。

 

※梅毒にいては以前のブログ参照

tknk830.hatenablog.com

下記に検査の解釈についてのtableを添付

Discussion of Management

追加の問診:患者はMSMであった。以前、HIV感染に対する曝露前予防のために、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩とエムトリシタビンを毎日服用していたが、支払い能力に限界があったため、服用を中止していた。最後のHIV検査は、2年前に行われていた。
※MSMおよび感染のリスクが高いと思われる人に対しては、少なくとも年1回のHIV検査を繰り返すことが推奨されている。

 

診断:診察所見と検査所見から、二次梅毒と初期のHIV感染症が最も可能性の高い診断であると考えた。しかし、急性HIV感染症患者の中には、CD4+ T細胞数が一過性ではあるが臨床的に有意に減少する患者もいることから、他の日和見感染症も考慮した。


治療:二次梅毒の治療には、ベンザチンペニシリン筋注を行った。HIV感染を治療には、ビクテグラビル、テノホビルアラフェナミド、エムトリシタビンの併用による抗レトロウイルス療法が開始された。

 

その後の経過:治療開始の翌日、体温39.6℃の発熱、頻脈、倦怠感が持続し、ペニシリンに対するJarisch–Herxheimer 反応を考えた。2日後、症状は持続したため、播種性淋菌感染症やVZV再活性化など、他の併発症の可能性を評価した。最終的には、追加治療を開始することなく症状は徐々に軽快し、外来での継続的なフォローアップを予定し退院した。

入院から数週間後、患者は外来での治療を確立することが困難となり、ドロップアウトした。

 

Final Diagnosis

Human immunodeficiency virus type 1 infection and syphilis.

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勉強になりました。

 

そこまで捻った症例ではなかったですが、Rash on palms and solesの復習と性交渉歴の問診は難しく、時にしつこく行う姿勢が見習うべきと思いました。