地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230619 BMJ:寝汗のアプローチ

去年の初診外来の症例

60歳男性、高血圧でアムロジピン内服、皮膚科で湿疹の保湿剤をもらっている以外に既往のない、まだ建設会社で働いている中肉中背の元気な方

3ヶ月前から、衣服を1度は着替えるほどの寝汗を毎日認めるようになり、仕事が落ち着いたタイミングで受診

問診:発熱なし、倦怠感軽度、体重減少なし、振戦なし、悪寒なし、渡航歴なし、性交渉歴最近はなし、頭痛なし、抑うつなし、呑酸なし

診察:リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし、心雑音なし、肝脾腫なし、皮疹なし

血液検査:炎症反応上昇なし、肝腎機能異常なし、電解質異常なし、血液培養2set陰性、IGRA陰性、HIV陰性、sIL-2R陰性、ESR正常、甲状腺正常、副腎正常、低血糖なし

Xp:肺野異常なし

CT:リンパ節腫脹なし、腫瘍性病変なし、肺野に異常なし

 

Q:寝汗の原因は?アプローチは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A:いびきや日中の眠気はなかったが、簡易PSGで引っ掛かり、精密PSGで重症OSASの診断、CPAP導入で寝汗消失、途中CPAP離脱で寝汗再燃

⇨OSASによる寝汗

 

 

 

 

ということで本日は寝汗です。上記症例は色々縦断爆撃的に検査をしてしまった反省症例です。commonを蔑ろにしてしまいました。

 

以下以前作った寝汗のまとめスライドです。

www.docswell.com

 主な参考文献

・Persistent Night Sweats: Diagnostic Evaluation(Am Fam Physician. 2020;102(7):427-433

・Up To Date:Evaluation of the patient with night sweats or generalized hyperhidrosis

 

 

今回はBMJに寝汗のPracticeが載っていましたので読んでみました。

 

Patients who report night sweats(BMJ 2023;381:e073982)

 

寝汗の定義

・寝汗は歴史的に定義が曖昧だが、一般的には夜間に起こる過剰な発汗と考えられる

・「昼の汗」ではなく「夜の汗」が重要視されるのは、汗をかく閾値が夜の方が低いため(結核のように断続的に体温が上昇する疾患では、午後3時よりも午前3時に発汗する可能性が高くなる)

 

疫学

寝汗の有症率

・東南アジアの無作為人口サンプル:4.4%

プライマリケアに来院した65歳以上の米国人患者:10%

ホスピスに入院した英国人患者コホート:16%

※寝汗の疫学を示すデータは、標準的な定義がないことや複数の症状を併発することが多いことから、寝汗を単独の症状として報告する研究はほとんどない

 

 

 

寝汗の原因

寝汗はQOL(生活の質)の低下につながる可能性があルガ、すべての原因が危険というわけではないという前提が重要

原因は大きく分けて、炎症性、内分泌性、その他の3つに分類される(以下)

個人的には炎症があるかどうかで大きく2つに分けるのが方向性を決めやすい!

(炎症がある場合は不明熱的なアプローチをすることになるので、炎症がない場合の方が鑑別が絞られる)

 


①炎症性

感染症
- HIV(急性HIV感染症、AIDSの後遺症)
- 結核
- 感染性心内膜炎
- 伝染性単核球症や急性呼吸器ウイルス感染症
- 地理的な感染症
 媒介性疾患(ライム病、バベシア症、アナプラズマ症、マラリアデング熱など)
 風土病(コクシジオミクシスなど)


悪性腫瘍
- 白血病
- リンパ腫
- 固形悪性腫瘍


自己免疫疾患
- サルコイドーシス
- 関節リウマチ
- 巨細胞性動脈炎

 

②内分泌・代謝
- 甲状腺機能亢進症
- エストロゲンの変化(更年期障害)またはアンドロゲンの変化(性腺機能低下症)
- 褐色細胞腫
- 低血糖症 

 

③その他
薬物
- 低血糖を引き起こす可能性のある薬物
- SSRI
- βブロッカー

- コリンエステラーゼ阻害剤
-抗コリン剤
- 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンアスピリン
睡眠環境
胃食道逆流症
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
薬物離脱症状(アルコールを含む)

 

 

病歴と身体診察のポイント
病歴
- 寝汗の特徴:寝汗の期間、頻度、重症度(夜中に服や寝具を変えると重症、2週間にわたり毎晩のように大量の発汗がある場合は、過去1年間の断続的で軽い発汗より重篤な可能性がある)
- 寝汗の状況把握:関連症状
- 感染症(呼吸器系ウイルス、結核など)に罹患している人とsick contact
既往歴
- 免疫不全状態(HIV/AIDS、化学療法中の悪性腫瘍、固形臓器または骨髄移植のレシピエント、免疫抑制剤
- 悪性腫瘍の既往歴
- 未治療の潜在性結核の既往歴
薬剤歴
- 寝汗に関連する薬剤
社会歴
- 出生した国
- 渡航
- 性交歴(性交の種類、パートナーの数、コンドームの使用)
- 職業歴
- タバコ、アルコール、その他の娯楽用薬物の使用状況
- 静脈内薬物の使用
家族歴
- 一親等の家族に悪性腫瘍の既往歴がある
身体検査
- バイタルサイン
- 発熱またはその他のバイタルサインの異常
- 意図的でない体重減少
- リンパ節腫脹
- 新規の心雑音
- 発疹

- 易出血性

※全身性炎症性疾患を考慮すべき兆候

 

以下に症状、所見を入れると鑑別を絞ってくれる(これ便利!楽しい!)

www.bmj.com

 

寝汗の代表的病因とアプローチ

Condition

いつ検査するか

初期検査

検査特性

甲状腺機能亢進症

耐暑性低下、動悸、不安、体重減少、排便回数増加などの随伴症状

TSH

FT4

感度86-95%/特異度92-95%

感度82%、特異度94%13

エストロゲン変化

更年期障害

年齢、月経歴、手術の有無、寝汗、ほてり、膣乾燥の随伴症状

FSH のルーチン測定は推奨されない

※ただし元々月経不順(多嚢胞性卵巣症候群など)、子宮摘出や子宮内膜切除の既往があり、年齢が40歳未満の女性には、FSH値の測定が推奨される

N/A

アンドロゲンレベル変化

(性腺機能低下症)

アンドロゲン除去療法(外科的、化学的)の既往、性欲減退、自発的勃起の減退、勃起不全

早朝空腹時テストステロン値

テストステロン値の標準範囲は測定法ごとに異なる

テストステロン値の低下は少なくとも2回の朝の採血で確認する必要がある

 活動性肺結核

呼吸器症状を呈し、危険因子(HIV感染者、既知の活動性結核接触者、高発生国居住者、流行地域への渡航など)を有する

胸部X線撮影

喀痰結核PCR

感度94%、特異度89%

感度85-88%(抗酸菌塗抹陽性98%、抗酸菌塗抹陰性67%)、

特異度 96-98%

HIV/AIDS

過去にHIV検査を受けたことがない、または過去に検査が陰性であったが、その後暴露のリスクが高い(例えば複数の性的パートナー、注射薬の使用など)時

症状2週間以上:抗体/抗原検査

症状2週間未満: 抗体/抗原検査とHIVウイルス定量

第4世代の抗体/抗原(高蔓延集団の患者におけるスクリーニング):感度79.8%、特異度99.9%

HIVウイルス定量(primaryHIVと一致する症状gがある場合): 感度100%、特異度 97.4%

IE

発熱、新規の新雑音、peripheral sign

血液培養

1セット:菌血症に対する感度73-80%

急性白血病

出血、紫斑

末梢血塗抹

N/A

慢性骨髄性白血病

脾腫、早期満腹感

血算

好塩基球数≧0.43×10^9/L:感度93.9%、特異度95.2%

リンパ腫

リンパ節腫脹、体重減少

LDH

CT

PET

LDHが正常値上限の2倍以上:感度56%、特異度85%

感度70%、特異度100%

感度99%、特異度100%

固形臓器悪性腫瘍

局所症状、体重減少、個人または一親等の親族に悪性腫瘍の既往がある

CT

腫瘍マーカー

N/A

PSA:前立腺癌に対して感度93%、特異度20%

 ※衣服や寝具の交換を必要としない間欠的な寝汗で、他に気になる点やリスクの高い点がない場合は、検査評価を行う前に、2-4週間経過観察し、その後再評価する方法が適切

※寝汗のワークアップのための診断戦略を評価した発表文献はない。提案されている診断アルゴリズムは、寝汗の重症度の定義が標準化されていないこと、プライマリケアでは容易に利用できない特殊な処置(骨髄生検など)が含まれていること、1つのアプローチが他よりも優れているという現在のエビデンスがないことから、標準的に広まっているアルゴリズムはない。

 

プライマリケアでの注意点

・不必要な検査は避けるべき:寝汗を伴う患者は、他の臨床的特徴や危険因子がなければ、リンパ腫の初期評価は必要ない、多くの検査は段階的に行うべき。

・初診時の検査で原因がはっきりせず、活発な炎症が検査で確認された場合、あるいは悪性腫瘍や潜伏感染(膿瘍など)が疑われる場合(局所的な症状のなさ)、初診時にCTを行うことが妥当。