めまいのスライド作りのための勉強です。最近SNSで少し話題になっていためまいの新しいガイドラインを読んでみました。
※過去のめまい記事はこちら
総論的な流れは先日upしたスライドから変える必要はないと思いましたが、スライド後半の高齢者のめまい診療のところでは今回紹介するSTANDINGアルゴリズムが近いことを言っているなと思いました。
そんな中で良いと思った点、勉強になった点はこちら
・病歴が取れずタイミング、トリガーで分類できない時にSTANDINGアルゴリズムを使用する点
・HINTSとBPPVの手技は救急医は耳鼻科や神経内科と比べると精度が劣るが、そんなこと言っていないでトレーニングしろと何度も強調されている点
・めまいの頻度でTIAらしさを考えている点:外来脳卒中クリニックに紹介された339人の患者の1つのレトロスペクティブレビューでは、1週間に5回未満のめまい患者は、脳血管障害となる傾向が強かった。2つの専門家によるレビューでは、3週間以上または6ヶ月以上に渡って発生する孤発性めまいの複数のエピソードは、後方循環TIAによるものであることはまれである。
・前庭神経炎にステロイドを考慮する点
以下本文まとめです。
Guidelines for reasonable and appropriate care in the emergency department 3 (GRACE-3): Acute dizziness and vertigo in the emergency department(Acad Emerg Med. 2023 May;30(5):442-486. )
救急外来での2週間未満の急性めまいへのアプローチについてのガイドライン
※慢性めまいは含まれないので注意
①:Timin and Triggerでめまいを分類する
めまいの分類
分類 |
特徴 |
Common benign causes |
Key dangerous mimics |
Important uncommon or less common causes |
AVS
|
・急性発症 ・日-週の単位で持続性めまい ・前庭障害症状を随伴するのが一般的(嘔気/嘔吐、眼振、姿勢不安定)・寝て休んでいる時も症状がある |
・前庭神経炎 |
・後方循環の脳梗塞 |
・後頭蓋窩の出血 ・ウェルニッケ症候群 ・迷路炎 ・薬・中毒 |
EVS
|
・多様な再発性の発作 ・自発性または誘発性 ※初回発作で診察時にめまいが続いていればAVSへ |
|||
s-EVS |
・分-時間の単位の一過性再発性めまい ・前庭障害症状を随伴するのが一般的(嘔気/嘔吐、眼振、姿勢不安定) ・明確な誘因はない・寝て休んでいれば症状はない |
・前庭片頭痛 |
・後方循環のTIA |
・不整脈 ・肺塞栓 |
t-EVS
|
・秒から分の単位の一過性再発性めまい ・前庭障害症状を随伴するのが一般的(嘔気/嘔吐、眼振、姿勢不安定) ・明確な姿勢の誘因がある:たいてい頭位変換か起立動作 ・寝て休んでいれば症状はないが、ベッドサイドで症状を誘発できる |
・BPPV ・起立性低血圧 |
・起立性低血圧 ・CPPV |
・椎骨動脈圧迫症候群によるTIA ・頸動脈洞症候群 ・POTS |
※BPPVの中には、エピソードとエピソードの間に、漠然とした持続的なめまいやふらつきを表現する人がいる
※軽度の前庭神経炎を早期に発症した患者の中には、安静時の症状はほとんどないが、頭の動きによって誘発される明確な症状があり、エピソード性であることが示唆される場合がある
眼振の分類
特徴 |
Common causes |
|
末梢性 頭位変換性 |
・Dix-Hallpike testによる30秒未満の一過性の天井向き回旋性眼振 ・Supine roll testによる90秒以下の床向き水平性眼振
|
・後半規管型BPPV ・水平半規管型BPPV |
末梢性 持続性 |
・方向固定性自発性眼振 |
・前庭神経炎(脳梗塞でも起こりうる) |
中枢性 頭位変換性 |
・頭位変換時の垂直性眼振 |
・CPPV(BPPVでも起こりうる) |
中枢性 持続性 |
・Supine roll testによる減衰しない天井向き水平性眼振 ・自発性垂直眼振 ・自発性回旋性眼振 ・方向交代性水平性眼振 |
・水平半規管型BPPV(CPPVでも起こりうる) |
※病的な眼振は、生理的な終末眼振(「終点眼振」と呼ばれることもある)と区別する必要がある。生理的眼振は、(a)極端な側方注視時にのみ現れ、(b)振幅が小さく、(c)非持続的(すなわち数拍続く)である(正常な)。時折、「正常」な人でも生理的な終末眼振が目立つことがあるが、急性めまいの患者では、そうでないことが証明されるまでは、持続性眼振は生理的ではなく、むしろ病的であると考えるのが普通である。
②:病歴が明確に取れずTiming and Triggerが不明瞭な場合はSTANDINGプロトコルやHINTS、歩行行不安定、血管リスクなどを総合評価する
STANDING algorithm
Timing and Triggerが病歴的に不明確な場合にはSTANDING algorithmを用いる
STANDINGアルゴリズムでは、AVS、s-EVS、t-EVSに分類するステップを意図的に省略し、眼振、HIT、歩行評価をアルゴリズム的に組み合わせたもの。病歴が曖昧で、タイミングとトリガーで明確に分類することが困難な患者に有効。
通常AVSが明らかな患者にはDix-Hallpikeテストを、t-EVSが明らかな患者にはHINTSは行わないが、BPPVのごく初期に、吐き気や頭を動かすことへの不安が長く続くためか、AVSを模倣する患者がおり、このような患者では、Dix-Hallpikeテストを実施することが有用
軽度の前庭神経炎患者の中には、安静時には症状が軽微であっても、頭を動かすと症状が出現し、t-EVSを模倣するものがおり、タイミングやトリガーがあいまいな病歴であっても、STANDINGアルゴリズムで診断が明確になる可能性がある
STANDINGアルゴリズムには、Test of skewや聴覚テは含まれていないことに注意
推奨15個
眼球運動の評価
1:救急医はAVS患者のHINTS、t-EVS患者のBPPVの診断・治療操作(Dix-HalpikeとEpley)の訓練を受けるべき
・HINTS:The HINTS exam - YouTube
・Dix-Hall pike:Vertigo Myth: BPPV = Dix-Hallpike test, the patient gets dizzy, and you see nystagmus - YouTube
・めまいの教育系youtuber:Peter Johns - YouTube
AVSの診断
2:眼振を伴うAVS患者では、HINTSを行う
3:眼振を伴うAVS患者では、HINTSが末梢性でも、脳卒中を見落とさないために指擦り試験での聴覚を評価し、新規の片側難聴を見つけるべき
・Head impulse test:前庭の専門家が実施した場合、脳卒中に対する感度98%、特異度92%以上
・Nystagmus:中枢性めまい(垂直性、回旋性、注視方向性)の脳卒中に対する感度50.7%、特異度98.5%
・Test of skew:脳卒中に対する感度23.4%、特異度98.6%
・+(片側難聴):HINTSの偽陽性症例のほぼすべてを占める血管分布であるAICA領域の脳卒中患者の同定に役立つ、HINTS plusの感度は99.0%、特異度は84.8%
※救急医がHINTSをすることについて
・特別な訓練を受けない救急医が日常診療でHINTSテストを適用した場合、誤った患者への使用(AVSでない患者への使用)や解釈の問題が起こりうる
・一方、めまいを伴う救急患者を対象にHINTSの正しい適用と使用を訓練(1日コース)した救急医は、脳卒中に対する感度97.9%、特異度64.5%
4:眼振を伴わないAVS患者では、歩行不安定性の重症度を評価する
Grade |
定義 |
脳卒中に対する陽性的中立 |
Grade0 |
正常 |
0%(n=0/5) |
Grade1 |
自立歩行可能だがやや不安定 |
7%(n=3/42) |
Grade2 |
立位のバランスがとても悪い 支えがないと歩けない |
28%(n=11/39) |
Grade3 |
自立できない 直立姿勢で転倒する |
100%(n=28/28) |
5:眼振の有無にかかわらずAVS患者では、頭部CTまたはCTAをルーチンで撮らない
・メタアナリシスでは、脳卒中に対する頭部CTの感度は28.5%(95%CI 14.4-48.5%)、特異度は98.9%(95%CI 93.4-99.8%)、LR+は26.2(95%CI 5.6-123.4)、LR-は 0.72(95%CI 0.58-0.91)
6:眼振の有無にかかわらずAVS患者では、第一選択診断検査として、身体検査より先に頭部MRIまたはMRAをルーチンで撮らない
・システマティックレビューでMRIの脳卒中に対する感度は79.8%(95% CI 71.4-86.2%)、特異度98.8%(95% CI 96.2-100%)、LR- 0.20 (95% CI 0.14-0.30) であった。
・後方循環梗塞は前方循環梗塞の5倍DWI-MRI陰性になりやすい。
・AVSで症状発現から72時間以上のMRIと比較して72時間以内のMRIは感度がおよそ80%-90%となる。症状発現から48時間以内にMRI検査が行われた場合、HINTSよりも精度が低い。
⑦AVS患者では、HINTSの結果が中枢性パターンまたは判断が難しければ、頭部MRIは推奨される。
※その他
・deadly Ds:diplopia, dysarthria, dysphagia, dysphonia, dysmetria,dysesthesia は中枢性を示唆する。
・指鼻指テストの以上は、脳卒中と強く関連(OR 25.3, 95% CI 7.3-88.2, p < 0.001)
・血管リスクの存在は、急性めまいを呈する患者の脳卒中の可能性を高めるが、血管リスクは、大血管動脈硬化、小血管疾患、心原性塞栓症による脳卒中と関連しているが、椎骨動脈解離の患者には存在しないことが多い。非外傷性椎骨動脈解離患者302名(平均年齢42歳)の前向き観察研究では、高血圧(23.3%)、糖尿病(3.3%)、現在の喫煙(36%)、過去の喫煙(13.2%)と比較的低い割合であった。椎骨動脈解離は救急外来の急性めまいの原因としては珍しいが、若年脳卒中患者1008人(15-49歳)の研究では、15%が頸動脈解離によるものであった。血管の危険因子(ABCD2スコアなど)の有無を判断材料にすることができるが、それがないからといってめまいの脳血管性の原因が除外されるわけではない。
AVS患者に対する診察、検査の影響(検査前確率からどれだけ変わるか)
s-EVSの診断
8:s-EVS患者には視野、眼球運動、四肢協調運動、歩行評価など脳神経所見の病歴と身体診察を詳細に評価すべき
・救急外来を受診しためまいが1回で治まった患者の半数(16/32)がTIAと診断
・救急外来を受診しためまいが1回で治まった患者63人のうち、11人(17%)が脳卒中、9人(14%)が小脳TIAと診断
・めまいは後方循環脳梗塞の最も一般的な症状であり、めまい単独は後方循環TIAとして最も一般的
・TIA407人の成人患者を対象としたあるケースシリーズでは、47%がめまいを訴えた
・ABCD2スコアは後方循環TIAを評価するには不適:Aが60歳以上であり椎骨脳底動脈解離を落としやすい(平均年齢42-46.5歳)、Cが大脳半球症状であり後方循環症状を落とす、B・Dは血管リスクだが椎骨脳底動脈解離は血管リスクを持たないことが多い、Dは非常に短い発作を0点とするが後方循環TIAは持続時間が非常に短い傾向にある
・急性虚血性脳卒中患者1141人を対象としたプロスペクティブ研究では、脳卒中前48時間以内の孤発性めまいのエピソードは、前方循環脳卒中では1%未満であるのに対し、後方循環脳卒中では275人の患者のうち9%で認められた(OR 35.8, 95% CI 8-153)
・後方循環脳卒中患者447名を対象とした多施設共同前向き研究では、脳卒中発症前30日間に短時間の一過性前庭症状が12%の患者で報告された
・外来脳卒中クリニックに紹介された339人の患者の1つのレトロスペクティブレビューでは、1週間に5回未満のめまい患者は、脳血管障害となる傾向が強かった
・2つの専門家によるレビューでは、3週間以上または6ヶ月以上に渡って発生する孤発性めまいの複数のエピソードは、後方循環TIAによるものであることはまれである
・後方循環と前方循環のTIA後の脳卒中に関するシステマティックレビューにおいて、脳卒中のリスクは後方循環で高かった(OR 1.48, 95% CI 1.1-2.0 )
9:s-EVS 患者にはCT のルーチン使用は推奨しない
・AVS患者 でさえ感度が悪く、s-EVS 患者の脳卒中診断に CT は有用でない
10:s-EVS患者には、TIAを考えるなら、頭頸部のCTAまたはMRAの使用を推奨する
・TIAでは基本的に画像検査は正常、基本的に画像所見としては「一過性の神経症状を有する患者における軽症脳卒中」または「画像上で高リスクの血管病変を有する患者におけるTIA疑い」を評価する
・後循環の軽症脳卒中またはTIA患者359名において、椎骨脳底部狭窄(ほとんどがMRAで一部がCTA)があると、その後の脳卒中のリスクが有意に上昇する(OR 4.2、95%CI 2.1-8.6)
※その他
・前庭性片頭痛の診断基準
A. CおよびDを満たすエピソードが少なくとも5回以上ある
B. 前兆のない片頭痛または前兆のある片頭痛の既往歴または現在症状がある
C. 5分以上72時間以内に持続する、中等度または重度の前庭症状
D. エピソードの少なくとも50%が、以下の3つの片頭痛の特徴のうち少なくとも1つと関連している:
・次の4つの特徴のうち少なくとも2つを有する頭痛:片側性、拍動性、中等度または重度の頭痛、日常的な身体活動による増悪
・光過敏と音過敏
・視覚的前兆
E. 他の ICHD-3の疾患 または他の前庭疾患によって説明できない
前庭性片頭痛の可能性が高い
A. 中等度または重度の前庭症状が5分~72時間続くエピソードが少なくとも5回以上ある。
B. 前庭片頭痛の基準BおよびDのうち1つだけが満たされる(片頭痛の既往または発作時の片頭痛の特徴)
C. 他の前庭診断または ICHD-3 診断でうまく説明できない。
要因 |
前庭片頭痛 |
|
年齢 |
若年 |
高齢 |
持続時間 |
長い(通常1 時間以上) |
偏頭痛よりは短い(通常1時間未満) |
onset |
Sudden or gradual |
sudden |
片頭痛既往 |
Very common |
Less common |
複数回の発作 |
Common 長期間 |
Less likely 起こるとしても短期間 |
血管リスク |
Fewer |
More |
発作時の頭痛 |
Very common |
Much less common |
t-EVSの診断
11:t-EVS患者では、後半規管型BPPVを診断するためにDix-Hallpikeテストをルーチンで行う
・中枢性めまい患者は、100%Dix-Hallpikeテストが陰性
・救急医がDix-Hallpikeテストを行い後半規管型BPPVを診断すると、画像検査・入院・総コスト、ER滞在時間の減少、ケアプロセスに対する医師の満足度の向上につながる
・後半規管型BPPVはEpley法、水平半規管型BPPVはLempert rollやGufoni 法が推奨される
※水平半規管BPPV患者やいわゆるsublective BPPV(眼振がない)患者では、Dix-Halpikeテストによる眼振は陰性となりうる、また水平半規管BPPVではDix-Hallpikeテストで水平性眼振を呈しうる
12:t-EVS患者 では、CT または CTA をルーチンで撮らない
13:特徴的な眼振を伴いDix-Hallpike テストが陽性で典型的な 後半規管型BPPV と診断されたら、MRI または MRA をルーチンで撮らない
・典型的な BPPV 症例における画像診断は推奨されない
・BPPVを模倣する中枢性疾患であるCPPVでは造影MRIを考慮する
・CPPVは非典型的な眼振(持続的下向き眼振、背地性水平眼振など)、耳石置換法で治らない、中枢神経所見などで疑う
急性前庭神経炎の治療
14:前庭神経炎の患者で、症状発現から3日以内に来院した場合、早期に(発症2-3日以内に)短期ステロイド治療の使用を検討する
・システマティックレビューでは、生理学的機能の改善に関する有効性を示す直接的なRCTのエビデンスがいくつかある(1ヶ月後のカロリックテストの改善はステロイド群で多い(n=50、RR 2.81、95%CI 1.32~6.00))が、症状の改善やQOLの改善に関するエビデンスはない(24時間後のめまい改善に有意差なし(n = 60、53% vs 87%、RR 0.39, 95% CI 0.04-3.57)、1ヶ月後のDizziness Handicap Inventory scoreに有意差なし(n=30、20.9点vs15.8点、1ヶ月後にめまいの持続に有意差なし(n=30、73.3%vs80.0%))
⇨患者の症状が変わらないのであれば有用ではないだろうと考えられる一方で、患者が2回目の前庭障害を受けたり、加齢に伴う前庭機能の低下を経験した場合に、生理学的機能の改善は重要になるという仮説もあるため、ステロイドの禁忌がなく、患者と話した上で希望があれば処方をすることは妥当であろう
・ステロイドの有無に関わらず、退院後に前庭リハビリテーション療法を紹介することは、システマティックレビューでエビデンスがある
※Up to dateでの前庭神経炎に対するステロイド投与の推奨スケジュール(発症24-48時間以内の投与)(up to date:Vestibular neuritis and labyrinthitis)
PSL:1-5日目60mg、6日目40mg、7日目30mg、8日目20mg、9日目10mg、10日目5mg
後半規管型BPPVの治療
15:Dix-Hallpike テスト陽性により 後半規管型BPPV と診断された患者では、Epley法を実施する
・EpleyはNNT2-4
・ 4つのRCTで7日間でのめまいの消失はEpley法で増えた(n=251、OR 5.32、95%CI 2.95-9.59)
・BPPVの迅速な治療は、QOLを改善し、BPPVの治療を怠ると、再発率が2倍(46%対20%、p=0.002)になり、転倒が6.5倍になり、骨折のリスクを高める
・Epley法を繰り返しても症状が続く場合、診断を再考する必要がある。水平半規管型BPPVまたはCPPVを検討すべき