地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230508 AFP:2022年のプライマリケア医が読むべき論文20①Preventive Health Care

GWは後半お休みいただいておりました。ちゃんと勉強します。

 

AFP(American Faamily Physician)2023年4月号が刊行されており、その中で今年で12回目となりますカナダ医師会からのPOEMs(patient-oriented evidence that matters)と認定された2022年の研究トップ20の要約が出ておりました(COVID-19以外)。半数くらいは結構話題になりましたかね。長いので小分けにしてみていきましょう。

 

Preventive Health care

Clinical question

Bottom-line answer

1.LDLコレステロールの低下が全死亡、心筋梗塞脳卒中の個別リスクに与える影響は?

一次予防のためのスタチン投与の効果は大きくない。

スタチンによってLDLコレステロール値を下げると、3-6年の間の総死亡(0.8%減)、心筋梗塞(1.3%減)、脳卒中(0.4%減)の絶対量がわずかに減少するだけである。相対リスクや他のより低いアウトカムとの比較され、重要性が誇張されることが多く注意すべきである。LDL低下と上記アウトカムの相関は僅かかつ一過性がなく、多くの米国ガイドラインと反している。

2. ビタミンD補充は高齢者の骨折リスクを減らす?

ビタミンDの補給は骨折リスクを下げない。

ビタミンD値は、不健康の指標としては非常に優れているが、治療目標としては最悪である。この大規模研究では、ベースラインのビタミンD値が低い人や骨折の既往がある人でも、ビタミンDの補充は骨折のリスクを減らさないことが示された。

 
①Patient-Oriented Gains With LDL Lowering Are Small(Evaluating the association between low-density lipoprotein cholesterol reduction and relative and absolute effects of statin treatment: a systematic review and meta-analysis. JAMA Intern Med. 2022;182(5):474-481.)
 
 
Clinical Question
LDL減少が、心筋梗塞脳卒中、総死亡の個々のリスクに与える影響は?
 

このグラフを見てどう思いますか?
 
本文あらすじ
スタチン治療は、絶対リスクとして19の研究で128,086人の中で総死亡を0.8%(0.4-1.2%)、18の研究で121,190人の中で心筋梗塞を1.3%(0.9-1.7%)、128,086人の中で脳卒中を0.4%(0.2-0.6%)減少させていた。相対的リスクとしては全死亡を9%、心筋梗塞を29%、脳卒中を14%減少させていた。

スタチンによる絶対的リスク低下と相対的リスク低下の比較
絶対的リスクは一次予防では総死亡を0.6%、心筋梗塞を0.7%、脳卒中を0.3%、二次予防ではそれぞれ0.9%、2.2%、0.7%減少させた。相対的リスクでは、一次予防では総死亡を13%、心筋梗塞を38%、脳卒中を24%、二次予防ではそれぞれ14%、27%、13%減少させた。

スタチン治療と総死亡、心筋梗塞脳卒中との相対的・絶対的関連性に関するメタアナリシスの結果
スタチンによる治療の心血管ベネフィットは、相対的リスクとして報告されることがある。しかし、対応する絶対リスクや治療の必要数を伴わない相対的リスクの報告は、誤解を招くことがある。例えば、心筋梗塞の相対的リスク減少は29%であったが、絶対的リスク減少は1.3%であった。言い換えれば、77人のうち1人の心筋梗塞を予防するためには、平均しておよそ4.4年間スタチンによる治療を受ける必要がある。

絶対的リスクは臨床的な意思決定に不可欠であり、臨床医が特定の治療法の真の有益性と有害性を患者と議論するのにより正確な手段を提供する。このように考えると、スタチンの絶対リスクを考慮すると、有益性は非常に小さく、スタチン服用者のほとんどの試験参加者は臨床利益を得られない。

臨床医が絶対リスクの観点から介入の有益性を報告することは患者にとって有益であるが、この実践は必要以上に広まっていない。いくつかの研究では、医師は「絶対的なリスク低減よりも相対的なリスク低減に基づいて治療法を推奨することがわかった」と報告している。医師は健康リスク統計の解釈が困難な場合があり、リスク低減が絶対的ではなく相対的に示されると治療を処方しやすい。

 
感想
論文の解釈は難しいのは日々実感します。相対リスクの解釈の危険性、患者とのディスカッションで絶対リスクを使用する重要性を学べました。
 
※2023年6月8日 追記

Treat-to-Target or High-Intensity Statin in Patients With Coronary Artery Disease A Randomized Clinical Trial(JAMA. 2023;329(13):1078-1087.)

2023年3月のJAMAで、二次予防でのTreat to target と高容量スタチンの比較があり、有意差なしとの結果でした。

 
②Supplemental Vitamin D Does Not Reduce the Risk of Fracture in Older Adults (VITAL)(Supplemental vitamin D and incident fractures in midlife and older adults. N Engl J Med. 2022;387(4):299-309.)
 
Clinical Question
ビタミンDサプリメントは、高齢者の骨折リスクを低減するか?
 
本文のあらすじ
Vitamin D and Omega-3 Trial(VITAL)の付随試験として、ビタミンD3補充がプラセボに比べて骨折のリスクを下げるかどうかを検証した。
VITALは、米国の50歳以上の男性と55歳以上の女性を対象に、ビタミンD3(1日2000IU)、n-3系脂肪酸(1日1g)、またはその両方を補充することでがんや心血管疾患を予防できるかどうかを調べた2×2要因のRCTである。参加者は、ビタミンD欠乏症、低骨量、骨粗鬆症を基準に募集されてはいない。骨折の発生は、参加者が年1回のアンケートで報告し、集中的な医療記録レビューによって判定された。主要評価項目は、全骨折、非椎骨骨折、股関節骨折の発生とし、intention-to-treat解析における治療効果の推定には、比例ハザードモデルを使用した。
 
 
参加者:25,871人(女性50.6%[25,871人中13,085人]、黒人20.2%[25,304人中5106人])
追跡期間:中央値5.3年
全骨折:1551人中1991件、ビタミンD群で12,927人中769人、プラセボ群で12,944人中782人、ハザード比0.98;95%CI 0.89~1.08;P=0.70
非椎体骨折:ハザード比0.97;95%CI 0.87~1.07;P=0.50
股関節骨折:ハザード比1.01;95%CI 0.70~1.47;P=0.96
骨粗鬆症性骨折(股関節+手首+上腕骨+脊椎):ハザード比0.99;95%CI 0.83〜1.17
ビタミンD群はプラセボと比較して、優位差なし
 
 
年齢、性別、人種、民族、BMIベースラインの血清25(OH)D値、骨折歴などのベースライン特性による治療効果の修飾・群間差はなかった。

サブグループ別のビタミンDプラセボを比較した全骨折のハザード比

結論としては、ビタミン D 欠乏症,低骨量,骨粗鬆症を基準に選択されていない米国の一般健康中高年成人において,ビタミンD補充(1 日 2000 IU)は,プラセボに比べて骨折のリスクを低下させなかった。

 
感想
ビタミンD単独では骨折を減らさないということが科学的に証明されました。BP製剤やデノスマブが使いづらくて、vitaminDだけでも。。と処方していること、ありませんか?高Caなどの副作用やポリファーマシーの観点からも不要なvitD補充はやめましょう。