CKD grade3、高血圧などが背景にある80代男性の胆管炎治療
CMZで開始となったが、翌日血液培養でE.faecium陽性となり主治医は抗生剤をVCMに変更していた
一旦状態改善したが、day4に発熱あり、fevor work upで血液培養採取し、day5に血液培養Pseudomonas aeruginosa陽性
ドレナージは予定しているが、抗生剤はPIPC/TAZ+VCMにしようと思った
が、そういえばPIPC/TAZ+VCM併用でAKIリスクがあると聞いたことがある
一度勉強してみよう
Introduction
VCMとPIPC/TAZの併用療法は、CA-MRSAの出現もあり、過去20年間で最も頻繁に使用される経験的抗菌薬併用療法の1つになった。
VCMによる腎毒性はよく知られていたが、PIPC/TAZなどのβ-ラクタム系抗菌薬もまた、主に間質性腎炎の症例において、急性腎障害(AKI)と独立して関連していた。
VCMとPIPC/TAZの併用療法が増加し、血清Creの増加に基づき、PIPC/TAZの追加によりVCMのAKIが増加することが明らかになった。 最初の報告では、レトロスペクティブなデータであったこと、感染症入院患者におけるAKIの多因子性という性質から疑問が呈されたが、全体的にエビデンスの質は低いものの、複数の研究による再現性により、この認識はほぼ確固たるものとなった。
2020年、MRSA菌血症におけるVCMにFLX(抗ブドウ球菌βラクタム薬)を追加することの有益性を評価したRCT(CAMERA2)が、併用療法群におけるAKIリスクの上昇により早期に中止された。これらの結果は、VCMにβ-ラクタム系抗菌薬を追加するとAKIリスクが実際に上昇することをRCTで証明しただけでなく、どのβ-ラクタム系抗菌薬がVCMのAKIリスクを特異的に上昇させるかを示す手がかりとなった。
この知見は、β-ラクタムの化学的特性と腎近位尿細管細胞との相互作用によって説明できる。
Clinical evidence
VCMとβ-ラクタム薬の併用によるAKI発生率の上昇を示す主なエビデンスは、β-ラクタマーゼ活性を有する広域スペクトルペニシリンであるPIPC/TAZに存在する。 VCMとPIPC/TAZは、重症患者におけるAKIおよび腎回復の低下と独立して関連しているが、併用投与を受けている患者ではAKI発生率が3~4倍増加することが報告されている。
VCMとPIPC/TAZを併用した患者では、VCM単独、VCM+CFPM、VCM+MEPMを併用した場合と比較してAKIリスクが上昇することも報告されている。
MRSA治療の複雑性やAKIリスク増加の倫理的問題からRCTでの評価は困難であり、これらの解析のほとんどはレトロスペクティブコホートであることには留意が必要である。
また、これらの研究では腎機能障害のマーカーとして血清クレアチニンの変化を用いており、尿量の測定が一貫して記録されていないことも問題点として挙げられる。
Mechanisms
VCMとβラクタム薬の腎毒性
・酸化ストレス、アレルギー性間質性腎炎、organic anion transporter-3(OAT-3)を介した近位尿細管の細胞蓄積など、多因子が関与
・尿細管内腔へのクレアチニン分泌が阻害されることによって偽毒性が生じ、血清クレアチニンが偽性に上昇することもある
OAT-3とβ-ラクタム系抗菌薬の相互作用
・バンコマイシンと併用した場合のいくつかのβ-ラクタム系抗生物質の腎毒性は種類により異なるが、細胞内へのβ-ラクタム蓄積を介して、バンコマイシンによってすでに負荷されている近位尿細管への酸化ストレスの増強を介して生じることが示唆される。
・毒性は、β-ラクタムの近位尿細管細胞への蓄積に依存しており、例えば、CEZは他のセファロスポリンと比較して、取り込まれた後、尿細管細胞から分泌されないことが腎毒性に関与している。
・β-ラクタムの疎水性がOAT-3の親和性と取り込みに強く関係しているということがわかっている。つまり、疎水性が高い(分配係数が正)の場合、OAT-3との親和性が高く、近位尿細管細胞への取り込みが増えるため、毒性が増える。
AKI with vancomycin plus β-lactam hydrophobicity
β-ラクタム系抗菌薬の分配係数:疎水性(y軸)とバンコマイシンAKIの相対リスク(x軸)の関係
・FLX(AKIリスク28%)、CLOX(AKIリスク24%)は、セファロスポリン系やカルバペネム系と比較して、VCM-AKIに対する影響が大きい
・PIPC/TAZの相対リスクは約3%
・FLX、CLOX、PIPX/TAZの3つβ-ラクタム系抗菌薬は、正の分配係数を持ち脂溶性であり、分配係数をプロットすると、強い直線関係が得られる
・腎毒性リスク増大を示さないβ-ラクタム系抗菌薬を調べてみると、いずれも負の分配係数である
VCMと併用した場合のAKIリスクの上昇を予測するための、一般的に処方されているβ-ラクタム系抗菌薬の分配係数のまとめ
・近年、MSSAが増加しているため、VCMとPenicillinの併用投与が行われている可能性がある。基本的にはこのような治療はありえないが、ペニシリンの分配係数を考慮すると、VCMとPenicillinの併用投与は控えるべきである。
Creatinine increase with vancomycin and β-lactam: renal toxicity or pseudo-toxicity?
VCMとβ-ラクタムを併用する患者で観察されるCreの増加が、GFRの減少やをクレアチニン分泌を担う腎尿細管内のトランスポーターの阻害(つまり偽性Cre上昇)を如実に反映しているのかは不明確な点もある。
OAT-3は、クレアチニン分泌に関与するそのようなトランスポーターの1つであり、OAT-3に親和性のあるβ-ラクタムは、トリメトプリムが腎機能への影響に比例して血清クレアチニン濃度を上昇させるのと同様に、クレアチニン分泌と競合し、潜在的にクレアチニン分泌を阻害する可能性がある。
Creの代替マーカーとしてのシスタチンCを考えてみる。
Mianoらによる最近の研究では、重症患者を対象に、CreとシスタチンCを、VCM+PIPC/TAZまたはVCM+CFPMの併用療法開始前と開始2日目に測定した。2日目にCre値はVCM+PIPC/TAZで増加し、VCM+CFPMで増加しないことを発見したが、シスタチンCには2つのレジメン間で差はなかった。
ただし、AKIのほとんどの症例は、この研究で測定された48時間後ではなく、ピペラシリン-タゾバクタム併用バンコマイシンを4~8日間投与した後に起こるため、実臨床には即していない。
※VCM+PIPC /TAZの併用療法患者の経過日における急性腎不全の発生率(PMID:27067325)
4日目(10.7%)、5日目(19.3%)
48時間後にみられたクレアチニンの増加は、クレアチニンとシスタチンCの違いから明らかなように、腎偽毒性である可能性があるが、この評価では、ピペラシリン-タゾバクタム併用バンコマイシン投与で数日後に起こる腎毒性に起因するクレアチニンの増加の可能性という臨床的に関連する懸念には対処できず、毒性と偽毒性の問題がさらに明らかになるまでは、疎水性β-ラクタム薬とバンコマイシンの併用は避けた方がよい。
Conclusion
OAT-3親和性の高い疎水性β-ラクタム系抗菌薬は、血清Creの増加によって測定されるバンコマイシン腎毒性を増強することが示されているが、親水性β-ラクタム系抗菌薬ではリスクは増強しない。
Cre分泌の問題を反映して、バンコマイシン+OAT-3親和性(疎水性)β-ラクタム薬によるAKIの重症度が過大評価されている可能性はあるが、近位尿細管ミトコンドリアレベルでの腎障害の科学的根拠は妥当なものである。
β-ラクタムとの併用によりVCMのクリアランスが低下し、その結果バンコマイシンの曝露量が増加し、その後の腎障害が生じるかどうかを判断するには、薬物動態学的研究が必要である。
今後の研究は、このような高リスクのレジメンを回避できない状況において、腎毒性を軽減するための支持的薬物療法の役割を解明する必要がある。
実臨床でVCM+PIPC/TAZを避けようとすると
(J-IDEO 2023 Vol.7 No.1)
・VCM+PIPC/TAZの併用が必要なのは、MRSAなどのGPCfに加えて緑膿菌や嫌気性菌のカバーが必要なケース
・緑膿菌カバーを重視する場合はPIPC/TAZをCAZやCFPMに変更する
・嫌気性菌カバーを重視する場合はABPC/SBTも選択肢となる
・原因菌がわからず絨毯爆撃が必要な場合はカルバペネム系を選ばざるをえないかもしれない
・上記のように4日目以降にAKI発症リスクが高いことから、empiricalに開始となった場合でも3日目までに各種培養結果が報告される体制であればそれまでにdefinitive therapyに移行するようにする、4日目以降に培養結果が報告されるような施設であれば治療開始時点でAKIリスクが高い患者(ベースラインの腎機能や併用薬剤など)をスクリーニングすることでVCM+PIPC/TAZの併用を避けることができるかもしれない
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勉強になりました
PIPC/TAZ+VCMは現状ではAKIリスクありと振る舞う
特に疎水性のβラクタム系抗菌薬がリスクになる
偽性AKIも考えられているが現状ではまだ検証が必要
今回は、CKDもあったし、VCM+MEPM にしてみた