地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231226:尿路感染症で〇〇する??

88歳女性。視床出血、塞栓性脳梗塞後で要介護4、尿道カテーテル留置されている方。受診前日からの発熱で受診。診察、検査から熱源として尿路感染症が疑われた。

尿検査はpH6.5、白血球>100/HPF、細菌3+であった。尿Gram染色では下記のような所見であった。

 

今後のマネジメントは?

 

 

 

 

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実際は

Gram染色ではほとんとGPRが見えました。Corynebacterium様だけど少し小さいなという印象でした。あとはウレアーゼ産生菌のはずなのにPHが高くないなと感じました。ただ治療は始めた方が良さそうと感じたため、VCMを開始としました。

2日後には解熱しましたが、尿培養は生えてきません。4日後に検査室に連絡し、〇〇を追加しました。7日後に菌種が□□と判明しました。

 

 

〇〇と□□に入るのは?

 

 

 

 

 

 

 

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正解は

〇〇:嫌気培養 ※当院にMALDI TOF MSはありません

□□:Actinotignum schalii

 

ということで、今回は嫌気性菌の尿路感染症についてです。

 

研修医指導を行っていると、尿路感染症緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌をカバーをしたいときに、PIPC/TAZを選択していると、尿路感染症では嫌気性菌のカバーはいらないだろ!という話をするのはよくある場面ではないでしょうか。

 

当院ではオーダーの時に尿培養を提出しようとすると嫌気培養”禁”とアラームがでます。

 

単純性尿路感染症ではかなりの割合でE.coliが起炎菌となりますが、複雑性尿路感染症カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)ではE.coliの関与が減り、緑膿菌、セラチア、エンテロバクター、シトロバクター、腸球菌などの関与が増えます。基本的には嫌気性菌は起炎菌としては考えません。

 

それでは今回CAUTIの起炎菌についてと、Actinotignum schaliiについて勉強してみましょう。

 

CAUTIの起炎菌について

2011年から2014年までのCDCの全国医療安全ネットワーク(National Healthcare Safety Network)のサーベイランスデータでのCAUTIの起炎菌

(Infect Control Hosp Epidemiol. 2016 Nov;37(11):1288-1301. PMID:27573805

1:E.coli(23.9%)

2:Candida albicans(11.7%)(※の通り実際の起炎菌かどうかは不明)

3:Pesudomonas aeruginosa(10.3%)

4:Klebsiella(10.1%)

5:Enterococcus fecalis(7%)

※2015年以降、CAUTIサーベイランスの定義からカンジダを除外するように変更された。これはカテーテル患者の尿中のカンジダが感染か定着かを示すのか不明確であるため。

※報告されることはまれであるが、培養技術の向上により病原体として新たに認識された新しいグラム陽性尿路病原体には、Actinotignum schaaliiおよびAerococcus urinaeが含まれる。

 

Actinotignum schaliiについて

参考文献

・Mandell, Douglas, & Bennett's Principles & Practice ofInfectious Diseases, 9th ed., in 2 vols.

・Clin Microbiol Infect. 2016 Jan;22(1):28-36.(PMID: 26577137)

・Open Forum Infect Dis. 2018 Feb; 5(2): ofy015.(PMID:29450211)

・Infect Control Hosp Epidemiol. 2016 Nov;37(11):1288-1301.(PMID:27573805)

Microorganisms. 2021 Mar; 9(3): 669.(PMID:33807120)

Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2017 May;36(5):791-796.(PMID:27957598)

 

はじめに

・Mandellには放線菌様菌 (Actinomyces-Like Organisms )の項目に記載あり。1997年に初めて報告され、元々はActinomycesに分類されていたが、2015年に遺伝子的にActinotignum shaliiとして再分類された。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI)など遺伝子検査の発展により、診断が増えている。

Clin Microbiol Infect. 2016 Jan;22(1):28-36.

PMID: 26577137

・基本的には泌尿(生殖)器やその周囲の皮膚に常在することが知られ、腸管からは検出されない。

・Actinotignum(旧Actinobaculum)属の3種(Schalii、Sangunis、Urinale)のうち、A. schaaliiは高齢者における重要な尿路病原体として認識されてきているが、小児の症例も報告されている。

・ルーチンの尿培養(好気性)において、尿路病原体として見落とされてきた可能性がある。近年、MALDIなど遺伝子検査 で診断がされるようになり、その臨床的意義が明らかになってきている。

 

Gram染色・培養・遺伝子検査

・小型のGPRで、直鎖状からわずかに湾曲しており、芽胞は形成しない通性嫌気性菌

微生物学者は、グラム染色で小さな球桿菌が見えた場合、最近陰性の白血球尿の場合、繰り返す尿路感染症の場合に想起すべきとしている

(個人的にはちっちゃいコリネみたいなイメージ、放線菌様に見えることもある)

Lab Med Online Vol.9 No.2: 94-98, April 2019

・ウレアーゼ陰性。

・無菌性膿尿の原因で想起すべきとして提示されていることが多い

Open Forum Infect Dis. 2018 Feb; 5(2): ofy015.
PMID:29450211

・増殖が遅く(48時間)、5%CO2条件下または嫌気条件下で血液寒天培地で有意に増殖する

コロニーが小さく灰色であるため、汚染物質と誤ってみなされたり、複数菌の培養だとコロニーとして同定されない可能性がある。

Clin Microbiol Infect. 2016 Jan;22(1):28-36.

PMID: 26577137

・確実な同定にはMALDIが必要。

 

血液培養の特徴

・Actinotignum菌血症のエピソードが合計58件同定され、人口100万人当たりの年間発症率は11件であった。
・58例中29例では、血液からさらに別細菌種が分離された(4検体では、2種以上の細菌が分離された)。内訳は以下。
Aerococcus(n=9)
Peptoniphilus(n=4)
E coli(n=3)
Enterococcus faecalis(n=3)
Proteus mirabilis(n=3)

多菌菌血症の患者で典型的な泌尿器病原体が認められ、これらも尿路に焦点があることを示唆していた。

 

臨床症状

・典型的な感染症としては膀胱炎、腎盂腎炎、urosepsis(結石などによる閉塞を伴う)などの尿路感染症(尿路感染症全体の1.7%程度)が知られ、その他蜂窩織炎、壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)、椎間板炎、壊死性膀胱炎、精巣上体炎、感染性心内膜炎心内膜炎が報告されている。

・尿検体以外に血液や膿瘍からの検出が報告されている。

・菌血症患者は一般的に高齢の男性であり、比較的高い死亡率(16%)が報告されている。

Clin Microbiol Infect. 2016 Jan;22(1):28-36.

PMID: 26577137

 

治療(抗生剤)

・尿路感染症および菌血症のActinotignumのデータによると、β-ラクタム・バンコマイシンに対するMIC値は低く効果が見込めるが、ST合剤・フルオロキノロン系(特にシプロフロキサシン)に対するMIC値は高く注意が必要。

Clin Microbiol Infect. 2016 Jan;22(1):28-36.

PMID: 26577137

 

 

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勉強になりました。

 

初めて出会った、Actinotignum schalii。MALDIがなくても検査技師さんのファインプレーで診断することができました(嫌気性菌の尿路感染症セミナーに参加していたようです笑)

 

自分として勉強になったことは

・尿路感染症疑いでGPRが見えた時に、やや小さいCorynebacteriumっぽいのが見えたらActinotignum schaliiを想起する

・尿路感染症疑いでGram染色でたくさんGPRが見えたのに培養が生えない時には嫌気培養を検討する(コリネなら好気培養で生える)

・MALDIをはじめとする質量分析機でActinotignum schaliiの症例が増えている

・コロニーが小さく灰色なので、意識しないと見逃すので、技師さんに依頼する際に伝えておけると良い

・血液培養で複数菌陽性となることが多い(なぜ?)

・治療はβラクタムやVCMは普通に効くから治療を落とすことが少ないが、STやキノロンなどでは外してしまうので、安易に使用すると尿路だと思うけど培養も生えず治療失敗みたいなことになりかねない

 

以上、すごい技師さんがいればMALDIなくてもActinotignum schalii診断できたよ報告でした!笑

 

 

ただし、前提として普通は尿検体で嫌気培養は出しません!この基本知識はしっかりとこれからも意識しましょう!