ボスにお誘いいただき、中部地方の某国立大学医学部4年生に臨床推論セミナーという形で講義をさせていただきました。
4年生相手でしたが、とても勉強されていて、かつ議論に慣れていて、こちらも勉強になることがたくさんありました。
それではセミナーの振り返り的をしてみます。
まずは症例の提示。12月、田舎の市中病院での1人救急外来での症例です。
問診・診察までのスライドは以上になりました。以下追加で質問をいただきました。
・体重減少なし、関節腫脹なし、上気道症状なし
・sick contact:甥とDSで会う人以外にはよく会う人はいない、体調悪い人はいない。
・最近食べたもの:基本的に甥がいつも食事を用意しているので変わったものは食べていない
ここで最初のdiscussion
4年生からは
・急性経過の発熱で感染症を考えたい、インフルエンザ・コロナはまず確認したい、血液培養は忘れずに採取したい
・芍薬甘草湯を飲んでいて低Kで動けないのも考えられる
ボスからは
・診断では、与えられた情報を星と例えると、夜空全体を見て星をを繋げて診断としての星座を作れるかが大切
・患者さんの訴えを無視してはいけない、体全体で語っている(ボスはこれをまどみちお作の詩「するめいか」で例える)
・今回は発熱が主訴だが、それは医療者が切り抜いている可能性が高い
発熱が本当に問題かどうかはわからない、本症例は体動困難で困って受診となっている
・Onsetは疑った方が良い、発熱は2日前からで良さそうだが、動けなくなったのは本当にacute onsetの問題で良いのか?(原病歴の最初は、いつから症状があるのかではなく、いつまで元気にいつも通りだったかを書くべき。)
・この方は痩せすぎている。chronicな問題がないとここまで痩せない。
続いて検査結果の提示です。ブログでは全身の写真や画像などが載せれませんがご容赦ください。
ここで最後のdiscussion。
4年生からは
・感染症としての方針はあまり変わりないが、これといったものがなく方針が悩ましい。高齢者だと症状が出づらく、少し肝酵素が上がっているので胆管炎が気になる。動けないのは椎体炎なども考えるべきか。
・痩せに関してはALSなどの神経筋疾患も気になる
ボスからは
・今回の検査結果からは一つ一つを見ると妄想が膨らむが、すごく心が動くものではない。
・高齢女性が発熱で受診となったが、問診、診察、検査からこれといった診断がつかない状況。こういう症例は臨床をしているとよくある。
・発熱で動けないほどぐったりしているので、菌血症は考えておきたい。市中感染症で菌血症が多いものとして5+1(髄膜炎、肺炎、尿路感染症、胆道感染、皮膚軟部組織感染+感染性心内膜炎)を考える。今回は、しっかり話せていて髄膜炎の可能性はかなり低い。呼吸状態が悪くなくCTで影がないので肺炎は下がる。尿路感染症は閉塞起点がない中で膿尿・細菌尿がないので下がる。皮膚軟部組織感染症は皮膚所見が本当にないのであれば下がる。胆管炎はちょっとした肝胆道系酵素の上昇のこともあるので否定はできない。ここで外せないのがOccult bacteremia。
・Primary(Occult) bacteremia:皮膚の少しの傷などから入る菌血症。C/G群連鎖球菌などが多い。血液培養を取ることはもちろんだが、どのように待つかを決めることが大切。バイタルも落ち着いているし、抗生剤を入れずに待つのも選択肢。高齢者でるいそうが著明で余力がない時には抗生剤を入れながら待つ選択をすることもある。その時になんとなく抗生剤を入れずに、仮説を立てることが大切。
・この症例では胆道系かPrimary(Occult) bacteremiaを考えて抗生剤選択をするだろう。
ここからは実際の流れ
最終診断は上記の通りです。経過スライドは以上になります。
ここからはお勉強スライドです。
リケッチアについての基本情報でした。
ただ、リケッチアはそんなにcommonではないです。
この症例を診断できたのは何故でしょうか?
それは今まで大切なことを教えてくれた先生方のおかげです。
実際の自分の当時の思考の流れに沿ってみていきましょう。
以前、当院に年に数回感染症コンサルテーションに来てくださっていました。感染症の原則をとにかく叩き込んでいただきました。
②依田窪病院総合診療科 佐藤泰吾先生
研修開始当初からのボスです。医者として大切なことをたくさん教えてもらいました。市中感染症を想起したときには5+1を考えます。
③諏訪中央病院総合診療科 玉井道裕先生
直属の上司で、人としても内科医としても尊敬しています。新型コロナウイルス感染症の説明書で一躍時の人となっていました。5+1で診断がつかないときにはFocus不明な理由を考えて分類します。
(引用:https://dr-note.blogspot.com/2022/06/gim-sab.html)
ここまでを踏まえ微生物、治療、経過観察を考えると
実際の診療の流れを整理できました。
感染症診療の原則を意識して背景を考え、臓器としてよくある5+1を否定的と考えた後で、冬の高齢者の厚着を脱がすことで刺し口を見つけることができ、ツツガムシ病の診断にたどりつきました。
ただ、実は今回ツツガムシを自分で診断したのが初めてでした。
なぜこんなに上手くいったかというと、、、
これまでツツガムシ病を経験された先生方が診療のポイントをカンファレンスで共有してくださっていたからです。
④富士見高原病院内科 水間悟氏先生
自分の元チームリーダーです。医者としてのロールモデルとして勉強させていただいています。ツツガムシの診断の難しさのポイントは5つです。
以上の診断の難しさを教えてもらっていたからこそ診断することができました。
皮疹がないことについては、かなり稀な皮疹がない症例だったのか、早期診断のために皮疹が出ていない段階で治療を開始したため結果として皮疹が出なかった可能性を考えました。
最後にTake home messagesです。
学生にとってリケッチア、皮疹がないなら尚更難しかったかもしれません。ただ、今回は皮疹がないツツガムシ病を今後診断できるようになってほしいから提示したわけではありません。
今回の診断は大切なことを何度も繰り返し教えてくれた先生方、経験した症例をカンファレンスで共有してくれた仲間のおかげで診断に至ることができました。
今後、医者になると忙しくなりますが、その中でも大切な症例を心に留めてほしい、そして周りに共有をしてほしいと思います。
皆さんが今後困った時に今回のことがふと思い出されて、患者さんが救われることがあると思います。未来の患者さんを一緒に救いましょう。
最後にボスからいくつかコメントいただきました。
・身体診察で大切なこと:診察にこだわりだすと細かい診察手技をたくさんするようになったり、たくさん診察所見名を羅列しだすが、大切なのは服を脱がして体を触って全身診察しているかに集約されている。冬の患者さん、特に高齢の方はほぼ十二単を来ているくらい厚着で、脱がすのも一苦労、その中でそれができるかどうか。
・集団的営為:これまで考えたこともなかったが、今回学生の講義を担当して自分の中で気づいたことがある。臨床推論とは”集団的営為”である。系統的に誰かから何かを教わったことというのはあまり自分の中に残らないが、臨床場面で「これはあの時あの先生が言っていたことだな」と思うことがないと診断はできない。自分1人で考えていては診断できないことも、ディスカッションを日々重ねている人には診断できることがある。口に出さないと、ディスカッションをしていかないとこの感覚は形成されない。臨床において、自分の意見を口に出す機会をどれだけ持っているか?日々ディスカッションをする仲間が必要だがどれだけいるか?個人としての緻密な勉強に加えて、それを口に出す場がないと絶対に臨床推論は育たない。そういった議論の場所は最初は当たり前になるように気がするけれど、学年が上がってくるとそれを自分で作っていかないといけなくなる。素晴らしい意見を言わないといけないわけじゃなくて、思っている妄想を口に出すことだけでいい。今回の芍薬甘草湯の発言とかも脇道に逸れているかと思ったら、実臨床では一番困ることになるかもしれないです。
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2時間があっという間にすぎる、とても楽しい時間でした。
自分が伝えたかったことを、集団的営為という言葉でボスがまとめてくれました。
スライド作成から当日まで、改めて自分の臨床の中で大切にしていることを振り返ることのできた時間でした。
お疲れ様でした!