地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20240211:化膿性関節炎疑いだけど培養陰性

生来健康な主婦をしている60歳女性。2日前から発熱、悪寒戦慄あり。1日前に内科受診、コロナ・インフル陰性。夜から右足関節の痛みあり。当日痛みで歩けず内科受診。水槽や土壌の暴露、性交渉歴などなし。右足関節の腫脹あり、エコー下穿刺で2ml採取。関節液細胞数は50000以上、Gram染色陰性、結晶陰性。化膿性関節炎疑いで抗生剤CTRX+VCMを開始し入院。

皮膚は乾燥はあるが明らかな傷は目立たない。IEを示唆する所見なし。

 

day2、関節の痛みは改善傾向であったが、day3関節腫脹が目立つようになってきた。再穿刺+穿刺洗浄を行なった。その後主張は軽快傾向、CRPも3⇨10⇨2と低下傾向となり、day3から解熱している。

 

血液培養3set、関節液培養ともに生えず。追加で関節液の一般培養再検査、抗酸菌培養、16S rRNAを実施。関節液培養は長期の培養を依頼した。

 

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ということで今回は化膿性関節炎疑いだけど培養が陰性、って状況を勉強してみました。

 

成人の可能性関節炎疑い患者のアプローチ

(Up to date:Septic arthritis in adults)

Image

 

一般的には上記の対応となりますね。

では感染症診療の原則から

・患者背景

・臓器

・微生物

・治療

を考えてみましょう

 

感染症診療の原則は以前のブログで取り上げました

tknk830.hatenablog.com

 

 

患者背景:どういったリスクが重要か

まずどうやって関節内への細菌のが侵入するのか

(CMAJ May 22, 2007 176 (11) 1605-1608.)

関節内への細菌の侵入経路

主に血行性伝播(最も一般的)直接侵入の2つの経路で起こる。

直達性伝播:隣接する骨髄炎、軟部組織感染、関節注射を代表とする診断・治療手技、貫通外傷の直達伝播。

 

それを踏まえて敗血症性関節炎になりうるリスクファクター、患者因子

(Am Fam Physician.2021;104(6):589-597)

敗血症性関節炎のリスク因子

 


患者背景、暴露ごとの関節炎の特徴

(Am Fam Physician.2021;104(6):589-597)

患者背景、暴露ごとの関節炎の特徴

性交渉はもちろんだが、水槽の管理やガーデニング、乳製品など暴露も意識する。

SLEは関節炎の原因としても、淋菌性関節炎のリスクとしても重要

 

臓器:関節炎なのか、感染なのか

関節炎vs関節痛、関節炎vs関節外炎症

上田剛士著. ジェネラリストのための内科診断リファレンス)

・関節の痛みは関節内、関節外、放散痛に分類される

・関節に炎症徴候(発赤・腫脹・熱感・圧痛・機能障害)があれば関節炎と考える

・関節内:関節可動域制限があり、関節裂隙全周に沿った圧痛がある場合

・関節外(靭帯、腱・腱付着部、筋、皮下組織など):局所的な圧痛しかない場合、関節の動かす方向によっては疼痛を誘発しない場合、能動的な運動に比べ他動的には関節可動域制限が少ない場合

・放散痛:痛みを訴える部位を診察しても炎症所見や圧痛がない場合

 

急性(単)関節炎を呈する疾患

(Am Fam Physician.2021;104(6):589-597)

急性(単)関節炎の鑑別

急性単関節炎の3大原因は化膿性、結晶誘発性、外傷。

最も見逃していけいないのは化膿性。

疲労骨折など明らかな外傷起点がないこともあるので注意。

 

急性単関節炎の鑑別ごとの特徴

(Am Fam Physician.2016;94(10):810-816)

急性単関節炎の鑑別ごとの特徴

 

急性単関節炎のフローチャート

(Am Fam Physician.2016;94(10):810-816)

急性単関節炎のフローチャート

※関節液細胞数の診断精度(JAMA. 2007;297(13):1478-1488.)

関節液細胞数の診断精度

穿刺液は炎症性>2000、化膿性>50000が目安(西伊豆の仲田先生は)

 

※注意点

関節液白血球数が50,000/μL未満であっても、敗血症性関節炎を除外することはできない。

結晶の存在は敗血症性関節炎を除外するものではない。

 

 

微生物

成人の感染性(感染関連)関節炎の原因微生物

(Sanford guide Updated Mar 14, 2023)

急性単関節炎

(STDリスク+)

・N.gonorrhea

・Staph aureus

・Streptococcus sp.

・Gram-negative bacilli

(STDリスク−)

・Staph. aureus

・Strepotococcus sp.

・Gram-negative baccili

 

慢性単関節炎

Brucella sp.

・Nocardis sp.

・Mycobacteriua

・Fungi

 

多関節炎

・N. gonorrhea

・B. burdorferi(Lyme disease)

・S. aureus

・Group A Streptococcus, oneumococcus

・Acute rheumatic fever

・Primary-streptococcal arthritis

・Reactive arthritis

・Viral:HBV、Rubella vaccine、ParvoB19、Chikungunya(travel history)

 

成人化膿性関節炎の原因微生物の割合

(Mandell 8th edition)

成人化膿性関節炎の原因微生物割合

黄色ブドウ球菌が最多。連鎖球菌、肺炎球菌、グラム陽性菌が続く。

・高齢者やメンでき不全では腸内細菌、医療暴露があれば緑膿菌を考慮する

・sexual contact、発疹、腱鞘炎所見があれば淋菌を考慮する。

・最大10%の症例でpolymicrobialとなる。

・血液・関節液培養が陰性の細菌性関節炎の原因としては、Mycoplasma hominis、Ureaplasma urealyticum、B. burgdorferi、Brucella species、Tropheryma whipplei(Whipple病)などがある。

 

 

治療

※十分な外科的ドレナージが必要なことは前提として今回は割愛

成人の化膿性関節炎の初期抗生剤

(Sanford guide Updated Mar 14, 2023)

急性単関節炎

(STDリスク+)

Gram染色:− または GNdC

・CTRX or CTX

Gram染色:GPC

・VCM

Gram染色:GNR

・CTRX(緑膿菌リスク低い)

・CFPM(緑膿菌リスク高い)

(STDリスク−)

Gram染色:−

・VCM+CTRX

・VCM+CFPM(医療関連感染)

Gram染色:GPC

・VCM

Gram染色:GNR

・CTRX(緑膿菌リスク低い)

・CFPM(緑膿菌リスク高い)

 

可能性関節炎の総論がわかったところで、今回のシチュエーション、疑わしいけど培養陰性の時を考えてみましょう。

 

培養陰性の場合

Up to date

・個々のの状況に合わせて経験的抗生剤治療を継続する。

・CPPDなどの代替診断を検討する。

(かなりざっくりしか書かれていない)

 

Guideline for management of septic arthritis in native joints (SANJO)では

(J Bone Jt Infect. 2023; 8(1): 29–37.)

How should synovial fluid be analysed in the microbiology laboratory? 

Recommendations:

  • Synovial fluid (1ml) should always be sent for culture in sterile tubes (B1). In case fluid is left over after initial sampling for culture, white blood cell count, and crystal analysis, it is recommended to inoculate the remaining synovial fluid into blood culture bottles (C2).
  • Performing Gram staining on synovial fluid is recommended despite its limited sensitivity; given its excellent specificity, it can provide early proof of infection and help guiding empirical treatment (B2).
  • Synovial fluid from a sterile tube should be plated on agar plates and enrichment broth (thioglycolate) as an alternative or in addition to inoculation in blood culture bottles (D2).
  • Incubation time is recommended between 5 and 7 d according to local practice (D2).
  • In cases with high suspicion of infectious arthritis but negative culture results after 7 d, prolonged cultivation for up to 10–14 d should be considered (C2).
  • In patients taking antibiotics at the time of synovial fluid aspiration, when difficult-to-culture pathogens are suspected, or in case of negative culture results despite high suspicion of SANJO, molecular polymerase chain reaction (PCR) technology using synovial fluid are recommended (C2).
  • In patients with suspicion of TB arthritis, a sample of synovial fluid and synovial biopsies should be analysed for acid-fast bacilli stain, mycobacterial culture, and nucleic acid amplification test (C1).

今後意識するとすると

・関節液が残っていたら血液培養ボトルに入れる(検査技師さんに確認必要)

・疑いが強ければ培養期間は最長14日

・疑いが強い場合には関節液PCR(日本では16S rRNA)を行う

 

通常培養で陰性の場合、抗酸菌や真菌を考え培養期間を伸ばしたり滑膜生検を行う

(CMAJ May 22, 2007 176 (11) 1605-1608)

(Mandell 8th edition)

・最初の細菌培養が陰性であれば、抗酸菌や真菌のような増殖の遅い細菌を調べるために滑膜生検を考慮して

・血液・関節液培養が陰性の細菌性関節炎の原因としては、Mycoplasma hominis、Ureaplasma urealyticum、B. burgdorferi、Tropheryma whipplei(Whipple病)などがある。

 

※関節液の感度

・Gram染色:29-65% (GPC70%、GNR40-50%)

・培養:75-95%

淋菌は培養で陰性となりやすいが、関節液のPCRが感度78.6%、特異度96.4%と有用とされる(Arthritis Rheum. 1994 May;37(5): 702-9.)

 

※血液培養ボトルの有用性

47例の細菌性関節炎を分析した結果、関節液の培養に血液培養法を適用すると、従来の方法では陰性であった10例(21%)で陽性結果が得られたという報告あり(Ann Rheum Dis. 1986;45(6):454-7.)

 

小児の化膿性関節炎ではKingella Kingaeが起炎菌として重要だが、培養陰性となることが多いためPCRを試みるべき

(Pediatr Child Health. 2016;21(2):79.)

16S rDNA PCRを実施することで、小児の培養陰性の関節炎・骨髄炎の14-26%の割合でKingella. kingaeが検出される。

・Kingella kingaeはS.aureusに次ぐ小児の関節炎・骨髄炎の原因菌になる。

・Kingella kingaeの関節炎は、小児の中でも低年齢に多くCRPが上昇しない症例が多い可能性がある。

 

かなりrareだが、成人のnative jointの化膿性関節炎の原因菌としてKingella kingaeの報告はある

(IDCases 24(2021) e01106)

 

 

敗血症性関節炎が疑われるのに培養陰性の場合、リウマチ性疾患を発症する可能性がある

(Joint Bone Spine 79:156, 2012)

・1979年から2005年にGabriel Montpied Teaching Hospital リウマチ科に入院し、敗血症性関節炎と診断され治療されたすべての関節炎患者を対象としたレトロスペクティブ研究。
・敗血症性関節炎と推定された398例中74例(19%)で血液・関節液培養陰性であった。
・培養陰性の患者は、培養陽性の患者よりも若く(54 vs 62歳)、敗血症性関節炎の危険因子を有している可能性が低く(31 vs 41%)、死亡率が低かった(0 vs 5%)。
・長期転帰が判明した患者は48例であり、敗血症性関節炎の可能性が高い患者は18例、可能性が低い患者は13例(そのうち10例は平均6ヵ月後にリウマチ性疾患を発症した:関節リウマチ(n=3)、脊椎関節症(n=3)、分類不能のリウマチ性疾患(n=2)、ヴェゲナー肉芽腫症(n=1)、特発性大腿骨頭壊死(n=1))であった。
培養陰性で敗血症性関節炎と診断された患者の少なくとも14%(n=10/79)は、平均6ヶ月後にリウマチ性疾患を発症した。

 

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勉強になりました。

培養陰性の場合、診断が正しいかの再考、特殊な菌を意識した問診、長期の培養、PCR、洗浄時の滑膜生検(病理も)などを意識してみます。

また、治療が成功した後も、今後のリウマチ性疾患の発症リスクを考慮してフォローしてみます。