地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20240210:好酸球増多症(Hypereosinophilic syndrome:HES)

70歳女性、腎硬化症で20年前から透析を当院で行なっている。

10年前に好酸球が10000まで上昇し、他院血液内科にコンサルト、無症状で血液検査でFIPL1-PDGFRA遺伝子異常なく経過観察となった。その後自然に低下したが好酸球2000前後で推移、5年前にも10000まで上昇したが、同様の経過で自然に軽快。

2週前に感冒症状あり、血液検査で15000まで好酸球上昇あり、透析科から内科に相談あり。喘息の既往はなし。

感冒症状は軽快傾向であったが咽頭痛が残っている。臓器障害としては心筋逸脱酵素上昇や心電図以上、心機能低下などはなし。肺には3年前からびまん性GGOがあるが著変なし、BALをしたがBALFの好酸球は0%。咽頭痛があり、好酸球性食道炎も考え生検したが異常所見なし。緊急でのステロイドは不要と判断した。

血液検査で広く検査を提出。自己抗体や寄生虫抗体は陰性。IgEとTARCが高値。骨髄穿刺を行なったがdry tapであり、生検を実施、FIPL1-PDGFRA遺伝子異常なし、腫瘍性変化なし。

一応見ておいたrapid ACTHでコルチゾール頂値9、負荷前7と反応性低下あり、ACTHは低下なし、原発性副腎不全の疑いとしてコートリル開始とした。

コートリル開始前から好酸球は6000程度まで低下、コートリル開始後も好酸球数は横ばいで経過。

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ということで今回は好酸球増多についてです。悩ましいことが多いですよね、実際今回もまだ悩んでいます。

この症例は、コートリルを始めてみての経過次第ですが、リンパ球性HESの検索が不十分かつTARCやIgE高値などそれらしさがあるので、今後詰めていく予定です。

 

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好酸球増多のアプローチを復習してみましょう。

日本での一般的なアプローチをまずは復習

 

 

 

次に詳しくレビューを見てみる

Hematology Am Soc Hematol Educ Program . 2022 Dec 9;2022(1):47-54.
doi: 10.1182/hematology.2022000367.

 

Visual Abstract

Visual Abstract

 

はじめに

好酸球増多症候群(HES:Hypereisinophilic syndrome)は、倦怠感から生命を脅かす心内膜心筋線維症や血栓塞栓症に至るまで、様々な臨床症状を呈する稀な疾患群。

 

生命を脅かす急性のPDGFR遺伝子変異陰性HESでは、副腎皮質ステロイドが依然として初期治療の主役であり、最近、特発性HESやオーバーラップ症候群を中心に、極めて有効で毒性もほとんど認められない好酸球標的療法が利用可能になり、治療のパラダイムが変わりつつあるが、ただし、薬剤の選択、併用療法の影響、好酸球減少の長期的影響などについては未解決の問題が残っている。

 

本総説では、臨床的HESサブタイプによる分類を含め、HESの鑑別診断について症例に基づいた考察を行い、HESおよび他の好酸球関連疾患の治療薬として最近承認された新規好酸球標的薬剤を含め、治療の選択肢について概説する。

好酸球増多に関連する一次性(骨髄性)疾患については、本総説では深く触れていない。

 

HESの定義
HESは、1975年にChusidが特発性HEで様々な臨床症状を示す14人の患者について記述をしたのが始まり。

 

現在のWHOの定義では、臨床症状を示す特発性好酸球増多のみをHESという用語で表現しているが、最近更新されたコンセンサス定義では、特発性HESと他のタイプのHESとの臨床症状の重複、利用可能な診断検査の不完全な感度と特異度、HESの新たな病因の同定を考慮するなどにより広く設定されている。

 

以下、HESのWHOの定義(左)と最近のコンセンサス定義(右)

 

 

症例

38歳の生来健康な女性、発疹はないが断続的で強い掻痒感を呈した。当初足首のみであったが、その後脚に広がり、大腿および臀部の血管浮腫を伴い、ズボンがはけなくなった。抗ヒスタミン薬は効果がなく、副鼻腔炎で処方されたソルメドロールを短期間服用したが、そう痒症や腫脹は緩和されなかった。皮膚科医は抗生物質内服・外用を処方したが、改善はみられなかった。症状発現から1年後、貧血、血小板減少(34,000/μL)、好酸球増多(1400/μL)が認められ、血液内科に紹介された。

 

初期評価


Eosinophiliaは好酸球数>450/μLと定義され、一般人口の1~2%にみられるごく一般的な疾患。対照的に、Hypereosionphilia(HE;好酸球数≧1500/μL)はきわめてまれであり、米国での推定発生率は10万人あたり0.315~6.3人。

 

病因は様々で、アレルギー性、感染性、腫瘍性、遺伝性、免疫疾患などがある。

 

臨床症状はきわめて多様であり、皮膚症状、肺症状、消化器症状が最も頻繁に報告されるが、あらゆる臓器系が罹患する可能性があり、有効な治療法がないまま時間の経過とともに進行することもある。

 

最初の臨床/診断検査では、CBC、生化、Ig値、vitB12/トリプターゼ、フローサイトメトリーの評価を行う。

 

糞線虫への曝露の可能性がある場合は、血清学的検査を実施し、致命的な感染過剰症候群を予防するためにイベルメクチン(150μg/kg×1回)を予防的・経験的に投与すべきである

 

好酸球数が1500/μL以上で、二次的原因が明らかでない患者では、骨髄生検と胸部〜骨盤の画像診断を考慮する。糞線虫以外の寄生虫感染症の検査を含む追加検査は、臨床病歴と病態から判断する。

 

※K. Takagishi先生がブログで好酸球増多+臓器症状で想起すべき寄生虫感染症をまとめてくださっている

note.com

Infect Dis Clin N Am 26 (2012) 781–789


※日本で寄生虫検査をする流れは、SRLの寄生虫抗体スクリーニング⇨宮崎大学へ精査依頼(スクリーニングは自己負担5000円)

www.kchnet.or.jp

(1):スクリーニング検査の内容:
   ①イヌ糸状虫 ②イヌ回虫 ③ブタ回虫 ④アニサキス ⑤顎口虫 ⑥糞線虫
   ⑦ウエステルマン肺吸虫 ⑧宮崎肺吸虫 ⑨肝蛭 ⑩肝吸虫 ⑪マンソン孤虫 ⑫有鉤嚢虫 

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 クラス0 抗体陰性・・・・・寄生虫感染症の可能性少、経過観察
 クラス1 抗体疑陽性・・・寄生虫感染症の可能性少、または感染初期・慢性期
 クラス2 抗体弱陽性・・・寄生虫感染症の可能性あり
 クラス3 抗体陽性・・・・・寄生虫感染症の可能性大、至急要精査
 クラス4 抗体強陽性・・・寄生虫感染症の可能性大、至急要精査
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(2):SRLのスクリーニングの結果がクラス1以上で臨床症状と一致する場合、
   宮崎大学医学部感染症学講座へ精査を依頼する事ができる。
   
 「依頼方法」
  1)検査予約:依頼医師が宮崎大学医学部感染症学講座寄生虫学分野へ電話又はe-mailで申し込む。
    TEL:0985-85-0990 e-mail:kessei@med.miyazaki-u.ac.jp
  2)宮崎大学の申込書に必要事項を記入する。(下記リンク 2)へ)
  3)イントラネットの「検体保存・送付依頼書」を入力する。(下記リンク 3)へ)
    ※入力書式の最下部、□検体送付依頼書 にチェックを入れ、展開した画面に送付先の情報も必ず入力。
  4)「伝票依頼」→「外注1」をオーダし、「宮崎大学送り、茶栓 5ml」とコメント入力して採血する。
  5)検体を送付する日程が決まり次第、検査管理室に連絡する。
  6) 2)「宮崎大学申込書」と 3)「検体保存・送付依頼書」を検査管理室に提出する。

 

 

以下、著名な好酸球増多を呈する疾患群


症例続き

骨髄生検標本は好酸球と形質細胞の増加を認め、FIP1L1/PDGFRAの検査は陰性であった。

 

血小板減少はITPと推定されたため、プレドニン60mgを1日1回投与し、臨床的/血液学的改善をみたが、プレドニゾンを漸減したところ、好酸球増多、掻痒、浮腫が再発した。

 

さらなる評価のためにMayo clinicに紹介された。


糞線虫は血清学的に陰性であったが、イベルメクチンを2回、アルベンダゾールを2週間投与した。この間、プレドニゾン5mg隔日投与であったが、好酸球数が2600/μLまで上昇し、症状は持続した。

 

プレドニゾンを1日25mgに増量し、ヒドロキシカルバミド(500mgを1日2回)を開始したが効果はなく、さらなる評価のために国立衛生研究所に紹介された。

 

疲労感、浮腫(大腿に対称性)、強い掻痒(主に下腿)を訴え、大腿に対称性の浮腫がみられ、主に下腿に搔痒がみられた。


血液検査では好酸球数は3000/μL、血小板114,000、IgG/M/Eの著明な上昇、血清B12/トリプターゼ正常。


CTでは、軽度脾腫とわずかなびまん性リンパ節腫脹が認められた。骨髄検査では、好酸球の増加のみが認めら、肥満細胞は増加しておらず、D816V KITの検査は陰性であった。PCRでのT細胞受容体検査ではクローン性パターンが認められ、フローサイトメトリーではCD3-CD4+CD10+T細胞集団の異常が目立ち、B細胞クローナルな増殖はなく、リンパ球変型好酸球増多症候群(L-HES)と診断された。

 

IFN-αを投与し、症状改善、血液学的な正常化を認めた。

 

 

分類

(1) 骨髄性HES:M-HES(PDGFRα融合遺伝子など遺伝子異常と関連したAML/ALL、好酸球性骨髄増殖性疾患)

 

(2) リンパ球異常HES:L-HES(好酸球増多を促進するサイトカインを産生するクローン性/表現型異常T細胞)

 

(3) overlap HES(単一臓器に限局した好酸球性疾患と特発性HESと症状が重複するもの(好酸球性胃腸障害、EGPAなど)

 

(4) associated HES(寄生虫感染、腫瘍、免疫不全、過敏性反応などの疾患と関連したもの)

 

(5)家族性HES(associated HESを除く1人以上の家族における発症がある)

 

(6) 特発性HES(原因不明)

 

以下:原因不明の好酸球増多で米国国立衛生研究所に紹介された554例の頻度

 

 HESの初期評価

 

その他

TARCI-HES患者に比べてL-HESで有意に高く、3000pg/mLの閾値により75%の特異度でL-HESの全患者を検出することができたという報告もある(PMID: 33545400)ため、原因不明の場合は測定が推奨される。

 

好酸球増多の二次的な原因、例えば寄生虫感染などは、異なる治療アプローチを必要とするため、診断の初期段階で考慮すべき。

 

一次性(クローン性/腫瘍性)好酸球増多も、予後および治療上の意義から早期に同定すべき。

 

⇨明らかな原因がはっきりしない場合には上記初期評価は広く評価すべき

 

リンパ球異常HES

リンパ球異常HES(L-HES)は1994年、掻痒と咳嗽を呈し、IL-4/5を産生するCD2+CD3-CD4+T細胞増殖を有する30歳の男性において初めて報告された。

 

それ以来、他の表面表現型が報告され、LHES患者の臨床所見と検査所見を記載した有益なケースシリーズがいくつか報告されている。

 

あらゆる臓器系が侵される可能性があり、無症候性HES患者の中には、症候性L-HES患者と区別できないクローン性異常T細胞増殖を有する者もいる。

 

L-HESの診断のゴールドスタンダードは、Th2サイトカインを産生するT細胞のクローン性または異常増殖を同定することであるが、細胞内フローサイトメトリーはほとんどの施設では使用できないため、診断には適合する臨床像と末梢血中のクローン性または異常T細胞増殖の証明に頼ることが多い。

 

L-HESのクローン集団の表面表現型は、T細胞悪性腫瘍(特に血管免疫芽球性T細胞リンパ腫と皮膚T細胞リンパ腫)でみられるものと区別がつかないことがあることを認識することが重要である。

 

L-HESからリンパ系悪性腫瘍への進行は患者の約10%にみられ、時には何年も病勢が安定した後に進行することもある。従って、LHES患者は最低限、診断時およびクローン性T細胞集団の増大や以前に有効であった治療法に対する抵抗性の発現の際に、潜在的なリンパ腫の評価を受けるべきである。

 

EGPA

EGPAとHESの比較については、最近こちらの論文がとてもまとまっていました。

doi:https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2023.02.013

 

臓器障害ごとの比較

doi:https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2023.02.013

+は頻度

初期対応

doi:https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2023.02.013

 

HESの治療

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Object name is hem.2022000367_figure1.jpg

 



 

病因が同定されたまたは強く疑われる場合は、特異的治療を開始すべきであり、心筋炎や血栓塞栓症、肺病変の場合は、緊急の介入が必要である。

HESの重症または生命を脅かす症状に対する急性期治療依然としてプレドニゾンが中心。

 

臓器障害を認めない無症候性好酸球増多(意義不明の好酸球増多) の場合は、治療せずに注意深く経過を観察することが適切である。

 

 

好酸球増多が24~48時間以内に減少しない場合は、疑われるサブタイプに応じて追加治療を考慮すべき(例えば、骨髄性新生物を示唆する臨床所見を有する患者にはイマチニブ、EGPAを示唆する症状を有する患者にはシクロホスファミド)。

 

急性期における好酸球を標的とした生物学的製剤の使用については、まだ議論の余地があるが、症例報告や小規模なシリーズによって支持されている。

 

 

M-HES患者を除き、症候性HES患者のほとんどは副腎皮質ステロイド療法に速やかに反応するが、毒性と耐性により長期的にはこの療法の有用性は制限される。

ヒドロキシカルバミドやIFNαを含む従来の二次治療薬にも同様の問題があるが、特定のサブタイプではメリットがある。

 

EGPAとHESの治療比較

doi:https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2023.02.013



 

症例続き

その後4年間、彼女はIFNαで症状が部分的にコントロールされ、好酸球<1000/μLと比較的安定した状態を維持され、PSL12.5mg以下に漸減しても、著明な悪化はみられなかった。

クローン性T細胞が全リンパ球の約30%まで増加したため、CTと骨髄生検を繰り返したが変化はなく、PETでもリンパ腫の所見は認められなかった。

 

好酸球標的治療
IL-5(メポリズマブ、レスリズマブ)およびその受容体(ベンラリズマブ)を標的とする生物学的製剤は、FDAにより喘息治療薬として承認されており、IHES、LHES、overlap HESの治療法は近年大きく変化している。

副腎皮質ステロイドはほとんどの症例で初期治療として推奨されているが、好酸球を標的とする生物学的製剤はHESの治療において優れた安全性と有効性を示している。

HESとEGPAに対してメポリズマブが承認され、ベンラリズマブの第3相試験が開始されている。

血液および組織の好酸球増多を直接的または間接的に減少させる他の薬剤は、HESの適応で開発中であり、一部の好酸球増多の適応で承認されている。リレンテリマブ、デュピルマブ、デクスプラミペキソールがある。

 

症例続き

ベンラリズマブによる初期反応後、IFNαを中止した。2週間後、好酸球増加と重篤な症状が再発した。ベンラリズマブを中止し、IFNαに加えてプレドニン60mgの投与を開始した。その後、急性感音性難聴が発症したが、IFNαの中止とプレドニン増量で消失した。その後シクロスポリンが追加されたが、症状が持続し、プレドニゾンを1日20mg以下に漸減できなかったため、メポリズマブの第3相プラセボ対照試験に登録された。症状は改善し、プレドニゾンを1日9mgまで漸減できたが、その時点で咳嗽と息切れが出現し、入院が必要となり、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫が発見された。R-CHOPによる治療を受け、一過性の反応を示したたが、右心不全を発症し、呼吸不全で死亡した。