地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20240204:JACC DOAC使用についてのレビュー

65歳男性、HT以外内科的既往のないIAD fullな65歳男性。1週前から左下腿が腫れてきたため受診。エコーで左大腿静脈から遠位にかけて広範囲にDVTあり。右膝窩静脈にDVTあり。造影CTで右肺動脈主幹部にPEあり。PESIClassⅠであったが、誘因の乏しい広範囲両側DVTとPEであったためヘパリンで治療を開始した。

 

後輩の先生からなんでDOACじゃないんですか?と質問があった。最近はVTEの治療もlow riskであればDOACで始めることも多い。ただ、今回のような病態がVTEの病態、誘因が不明確な場合にはヘパリンから開始した方が良いと考えていると答えた。

 

そんなことがあったのが数日前。DOACの適応についてまとめた論文がJACCから出ていたので読んでみた。

 

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Pointをまとめると

・DOACが推奨される病態:心房細動における脳卒中予防(Stroke prevention in atrial fibrillation:SPAF)、ほとんどの患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の急性期治療および長期二次予防

・DOACを使うべきでない血栓病態:APS、リウマチ性Af、機械弁、LVAD

・DOACが有意な利益をもたらさず、有害性を増大させる可能性がある血栓病態:TAVR後、ESUS

・DOACを使うべきでない患者群:妊娠、授乳

・最近エビデンス出てきているがDOACの使用は控えた方が良い状態:ESRD

・DOAC使用についてエビデンスが限られている血栓病態:CRDVT、内臓静脈血栓、左室内血栓、成人先天性心疾患

・DOACは急性VTEの標準治療薬であるが、中高リスクのPE患者における初回線溶後、経口抗凝固療法に切り替えるタイミングは十分に確立されていない。

 

イラストサマリー

DOAC使用フローチャート

 

はじめに

DOACは、ワーファリンと比較して,頭蓋内出血のリスクが低いこと,ルーチンの検査モニタリングや食事制限を必要としない固定用量であること,薬剤のオンセット/オフセットが早いため,周術期の治療計画が立てやすいことなどの利点がある。


大規模RCTのデータに基づいて、DOACは心房細動における脳卒中予防(Stroke prevention in atrial fibrillation:SPAF)、ほとんどの患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の急性期治療および長期二次予防に望ましい抗凝固薬となっており、VTEの一次予防を含む他の適応にも使用されている。

 

その反面、特定のシナリオでは、DOACは標準治療ほど有効でも安全でもない可能性がある。例えば、血栓性抗リン脂質症候群(APS)、リウマチ性心房細動における脳卒中予防、機械弁による血栓塞栓症の予防などがある。経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)患者や原因不明の塞栓性脳卒中(ESUS)を発症した患者など、DOACが有益性を示せなかった例もある。 カテーテル関連VTE、 脳静脈洞血栓症(CVST)、 左室内血栓、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する抗凝固や、末期腎不全(ESRD)、 肝硬変 、妊娠などの特定の状況で抗凝固療法を必要とする患者サブグループなどではDOACのリスクとベネフィットについては不確実性が存在する。

 

DOACの各疾患の研究結果のまとめ

 

DOACの有効性と安全性が実証されている状況

心房細動の脳梗塞予防

ACSまたは直近のPCI歴がある場合は単一の抗血小板薬(特にP2Y12阻害薬(クロビドグレル))の併用が推奨。動脈硬化性リスクが低い慢性冠動脈疾患者ではPCI1年後に抗血小板薬の中止とDOACの継続が考慮される。

多くの種類の心臓弁膜症を有していてもDOACは推奨され、非弁膜症性心房細動(nonvalvular atrial fibrillation)の用語はほとんどのガイドラインから削除されている。(リウマチ性心疾患、機会弁は後述)

 

VTE

・長期二次予防だけでなく、がん関連血栓症を含む急性期管理のために DOAC を使用することが推奨されている。intermediate/high riskのPE患者において、血栓溶解などの治療後にDOACに切り替えるタイミングは十分に確立されておらず、さらなる検討が必要。

 

その他

・安定したアテローム動脈硬化性心血管系疾患や最近の末梢動脈血行再建術後の患者では、低強度リバーロキサバンがアスピリンとの併用で心血管系イベントの抑制に関与することが示されたが、他のDOACはこれらの条件下ではまだ研究されていない。

 

 

 

DOACの有効性または安全性が低いあるいは標準治療と比較して利益がない状況

最近のいくつかのRCTの結果から以下の状況でDOACは標準治療と比較して有効性や安全性が低いあるいは利益をもたらさない可能性があることが示されている。

・機械弁

・リウマチ性心房細動

血栓APS

・TAVR後

・ESUS

 

機械弁

・機械式大動脈弁または僧帽弁を有する患者252人を対象とした第2相試験では、ダビガトラン150~300mgを1日2回投与してワルファリンと比較し、ダビガトラン群で血栓性イベント(脳卒中9件[5%]対0件)および出血性イベント(大出血7件[4%]対2件[2%])が過剰に発生したため、早期に中止された。
・非盲検のRCTで、On-X大動脈機械弁置換術後3ヵ月を超えた時点で、両群とも低用量のアスピリンを背景に、アピキサバン5mgを1日2回投与する群とワルファリン投与する群とが比較され、ワルファリンと比較してアピキサバン群に割り付けられた患者で、弁血栓症または弁関連血栓塞栓症の複合発症率が高かったため(20 vs 6イベント;HR:2.6;95%CI:1.0-6.7)、863人の参加者を登録した時点で早期に中止された。
・3ヵ月以上前に大動脈機械弁または僧帽弁機械弁置換術を受けた患者を対象としたオープンラベルの概念実証試験では、44例の患者がリバーロキサバン15mg1日2回投与群とワルファリン投与群に無作為に割り付けられた。追跡期間中央値90日間で、リバーロキサバンとワルファリンとの間に血栓塞栓性イベント(1例対3例、リスクレイティオ:0.27、95%CI:0.02-2.85)や大出血(大出血例はなかった)に有意差はみられなかった。
・現在進行中の非盲検RENOVATE trialでは、大動脈機械弁を有する1,300人の患者を無作為にリバーロキサバン(1日20mg)またはワルファリンに割り付け、術後3ヵ月以上経過した患者を対象としている。

 

・全体的に機械弁を有する患者におけるDOACの使用は、血栓リスク、出血リスクともにほとんどが好ましくない結果が示され、現在のガイドラインでは、機械弁を有する患者ではVKAを標準治療として推奨している

 

リウマチ性心房細動

・リウマチ性心房細動患者4,531例を対象としたRCT(心房細動+心エコーで証明されたリウマチ性心疾患と定義)では、リバーロキサバン(20mg 1日1回投与)はVKAと比較して、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、死亡の複合発症率を有意に増加させ、(560 vs 446;HR:1.25;95%CI:1.10-1.41)大出血の発生率(40 vs 56; HR: 0.76; 95%CI:0.51-1.15)に有意差はなかった。このRCTや他のRCTでは、それほど重症でない僧帽弁疾患を伴うリウマチ性心疾患の既往がある心房細動患者に関するデータは乏しい。

 

ガイドラインでは、リウマチ性心房細動患者の脳卒中予防にはVKAの使用を推奨している

 

血栓APS

APS患者におけるDOACの安全性と有効性が4つのRCTで検討された。このうち、3つのRCTではリバーロキサバンが検討され、1つのRCTではアピキサバンが検討された。
・合計472例の患者を対象としたこれらのRCTのメタアナリシスでは、亜急性動脈血栓イベント(MI、脳卒中、主要急性四肢イベント)のオッズは、ワルファリンと比較してDOACを投与された患者で高いことが明らかになり、(24 vs 3; OR: 5.43; 95% CI: 1.87-15.75)。VTEまたは大出血のオッズに有意差は認められなかった。性別、APS のタイプ(トリプル陽性 vs その他)、動脈血栓症の既往歴(既往歴なし vs 既往歴あり)による修飾はみられなかった。これらの試験では、血栓症と強く関連することが知られているループスアンチコアグラントが陽性の患者が多かったが 、アピキサバンの試験では、アピキサバン投与中に脳卒中を発症した 6 例中、ループスアンチコアグラントが陽性であった患者は 3 例のみであった。

 

・全体として、DOAC は動脈血栓症のリスクを有意に高めるため、血栓APS 患者の第一選択薬として使用すべきではない。VTE の既往歴があり、血栓APS を有する患者に対しては、ガイドラインは長期間の VKA 治療を推奨している

 

TAVR

・TAVR後のリバーロキサバン(10mgを1日1回)をアスピリンと併用した3ヵ月コース(n=826)とアスピリンとクロピドグレルの併用(n=818)が比較された。リバーロキサバンは死亡率または初回治療率の有意な上昇と関連した。 死亡または最初の血栓塞栓性イベントの発生率が有意に増加した(105 vs 78;HR:1.35;95%CI:1.01-1.81)。大出血の発生率もリバーロキサバンで増加し(46 vs 31;HR:1.50;95%CI:0.95-2.37)、安全性の懸念から試験は早期に中止された。
・TAVR後の患者1,500人を対象としたRCTでは、アピキサバン(5mgを1日2回)と標準治療を1年間比較し、死亡、心筋梗塞脳卒中/一過性脳虚血発作、全身性塞栓症、心臓内血栓症または人工血管内血栓症、VTE、大出血の複合発症率は、アピキサバンと標準治療との間に有意差はなく(138 vs 151;HR:0.92;95%CI:0.73-1.16)、大出血または生命を脅かす出血の発生率もアピキサバンと標準治療との間に有意差はなかった(64 vs 64; HR: 1.02; 95% CI: 0.72-1.44)。
・2つのRCTがTAVR後の患者におけるエドキサバンの使用を検討した。最初の試験(n=229)では、洞調律のTAVR後の患者においてエドキサバン(1日60mg)とDAPTが比較され、リーフレット血栓症のリスク(10 vs 20;リスク比:0.53;95%CI:0.26-1.09)に有意差はなかった。もう1つの試験では、心房細動を有するTAVR後の患者1,426例を対象に、エドキサバン(1日60mg)とVKAを比較した。エドキサバンは、死亡、MI、脳卒中、全身性塞栓症、弁血栓症、大出血の複合予防において、ワルファリンに対して非劣性であったが(170 vs 157;HR:1.05;95%CI:0.85-1.31;P=0.01)、エドキサバンはワルファリンと比較して大出血のリスクが有意に高かった(98 vs 68; HR: 1.40; 95% CI: 1.03-1.91)。
まとめると、DOACは洞調律のTAVR後の患者には有益ではないようである。TAVRを受ける心房細動患者に対するアピキサバン、ダビガトラン、リバーオキサバンのRCTデータはない。


TAVR後の患者で経口抗凝固薬の適応が他にない場合、ガイドラインアスピリンとクロピドグレルの併用療法を3~6ヵ月間行い、その後アスピリン単独療法を行うことを推奨し、抗凝固薬の使用は推奨されていない。

 

ESUS(塞栓源不明の塞栓性脳梗塞

・ESUS患者5,390例を対象とした試験において、ダビガトラン(150mgを1日2回投与)はアスピリン(100mgを1日1回投与)と比較して脳卒中再発率を有意に低下させなかった(177例 vs 207例;HR:0.85;95%CI:0.69-1.03)。大出血の発生率に有意差はなかったが、ダビガトランはCRNMB(臨床的に重要な非大出血)のリスクが有意に高かった(70 vs 41; HR: 1.73; 95% CI: 1.17-2.54)。

・ESUS患者7,213例がリバーロキサバン(1日15mg)またはアスピリン(1日100mg)に無作為に割り付けられたRCTでは、その後の脳卒中発症率に有意差はなかったが(171 vs 158;HR:1.08;95%CI:0.87-1.34)、大出血のリスクはリバーロキサバンの方が高かった(62 vs 23;HR:2.72;95%CI:1.68-4.39)。

・ESUS を有し、心房細動/全身性塞栓症のリスクが高い 352 例の患者を対象とした RCT で、アピキサバン(5mg 1 日 2 回)がアスピリンと比較され、MRIで新たな虚血病変の発生率は2群間で有意差はなかった(アピキサバン13.6% vs アスピリン16.0%)。

ARCADIA trialは、ESUSと心房性心疾患を有する患者を対象に、脳卒中再発予防に対するアスピリンと比較したアピキサバンの安全性と有効性を検討した試験であるが、脳卒中再発率(4.4%対4.4%、HR:1.00、95%CI:0.64-1.66)、大出血率(0.7%対0.8%、HR:1.02、95%CI:0.29-3.51)にアピキサバンとアスピリンの間に有意差は認められず、CRNMB(臨床的に重要な非大出血)は報告されなかった。

まとめると、ESUS患者において、DOACはアスピリンと比較して有意な利益はなく、出血リスクの増加と関連している。


現在のガイドラインでは、ESUS患者に対する経口抗凝固療法は推奨されていない。

 

左室補助循環装置 
血栓塞栓症予防について、ダビガトラン+アスピリンの安全性と有効性をフェンプロクモン(VKA)+アスピリンと比較検討した試験は1件のみであり、ダビガトラン+アスピリン投与群では血栓塞栓イベントの発生率が高かったため、試験は早期に中止された。

・DOACに関する他の進行中の臨床試験ははない。

ガイドラインでは、左室補助循環装置装着の全患者にVKAと低用量アスピリンの併用を勧めている。

 

心房細動を伴わないHFrEF
・心房細動を伴わない冠動脈疾患を有するEFが低下した慢性心不全患者で、リバーロキサバン(2. 5mgを1日2回投与)をプラセボと比較したところ、死因、心筋梗塞脳卒中の複合率は有意に低下しなかったが(626例 vs 658例;HR:0.94;95%CI:0.84-1.05)、脳卒中発症率は有意に低下した(2.0% vs 3.0%;HR:0.66;95%CI:0.47-0.95)。治療期間中の解析では、リバーロキサバン服用患者はプラセボ服用患者よりも大出血の発生率が高かった(3.3% vs 2.0%;HR:1.68;95%CI:1.18-2.39)。

低強度リバーロキサバンは診療の変更を正当化するほどの利益をもたらさず、ガイドラインは心房細動を伴わないHFrEFにおける抗凝固療法のルーチン使用を推奨していない。

 

DOACの安全性または有効性が不確かな状況

不確実な適応の疾患

左室内血栓 


心筋梗塞後予防

・279例の患者を対象としたRCTで、前壁梗塞後の左室内血栓形成予防におけるリバーロキサバン(2.5mg 1日2回)+DAPTの併用療法とDAPT単独療法の有効性が比較され、リバーロキサバン+DAPTはDAPT単独と比較して、前壁梗塞後30日以内の左室内血栓形成の発生率が低かった(1 vs 12;HR:0.08;95%CI:0.01-0.62)。全身性塞栓症の発生率(1 vs 4;HR:0.49;95%CI:0.09-2.69)と大出血の発生率(1 vs 0)には有意差はみられなかった。現在進行中のAPERITIF trialは560例の登録を目指しており、前壁梗塞後の左室内血栓予防におけるリバーロキサバン(2.5mg 1日2回)とDAPTの併用とDAPTのみの有効性を比較する予定。
現状では急性心筋梗塞後の左室内血栓に対する予防的抗凝固療法は通常推奨されていない。

 

左室内血栓治療

・最近のAHAのScientific Statementでは、左室血栓を有する患者において、3つの不十分なRCTに基づき、DOACはワルファリンの代替薬として妥当であると示唆されている。これらの試験のメタアナリシス(n=139)のプール結果はサンプルサイズが不十分であり、脳卒中(OR:0.14、95%CI:0.01-1.27)または全死亡(OR:0.68、95%CI:0.10-4.43)に有意差は認められなかった。
血栓の局在や基礎疾患の有無にかかわらず、左室内血栓を有する患者に対する抗凝固薬の選択はまだ確立されていない。
※ 現在進行中のARGONAUT trialでは、340例の患者をVKAまたはDOAC(アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン)に無作為に登録している。

 

 

CRDVT(カテーテル関連DVT)


カテーテル関連深部静脈血栓症に関するエビデンスのほとんどは、一次予防に関する研究から得られている。 
 ・動物実験では、高濃度のダビガトランのみがカテーテル閉塞を抑制することが示唆されている。
・In vitroのデータでは、アピキサバンとリバーロキサバンはエノキサパリンよりもCRDVTの予防効果が低いことが示されたが、臨床データは不足している。
カテーテル関連上肢DVTに対してアピキサバンを投与した70人のがん患者を対象とした前向きコホート研究では、すべてのカテーテルが抜去されることなく機能を維持し、DVT再発は1例のみであったが、大出血は2.9%、CRNMB(臨床的に重要な非大出血)は5.7%に発生した。
・がん患者における VTE の一次予防を目的としてアピキサバン(2.5mg 1 日 2 回)とプラセボを比較した RCT103 では、中心静脈カテーテルを留置した 217 例のサブグループ解析で、アピキサバン群では VTE 発生率が有意に低かった(4 対 17、HR:0.26、95%CI:0.14-0.47)。
・中心静脈カテーテルを有するがん患者105例を対象とした非盲検パイロット試験では、リバーロキサバン(1日10mg)群またはプラセボ群に割り付けられた患者のVTE発生率に有意差は認められなかった(2 vs 3;HR:0.66;95%CI:0.11-3.90)。リバーロキサバン群では1件の大出血イベントが発生した。
・TRIM-Line(Primary Thromboprophylaxis in Patients With Malig- nancy and Central Venous Catheters:悪性腫瘍と中心静脈カテーテルを有する患者における血栓予防)は、中心静脈カテー テルを有する 1,828 例のがん患者の登録を目指して進行中の RCT であり、一次血栓予防としてリバーロキサバン(1 日 10 mg)とプラセボを比較する予定。
・VTEの治療に関しては、主要なRCTではライン関連DVTのサブグループに関する結果は報告されていない。

低分子ヘパリンまたはVKAが推奨されている。

 

 

内臓静脈血栓症


・非肝硬変の慢性門脈血栓症患者111例を対象とした非盲検RCTにおいて、リバーロキサバン(1日15mg)はプラセボと比較して、追跡期間中央値11.8ヵ月後のVTE再発率が有意に低かった(100人年当たり0例 vs 19.71例;95%CI:7.49-31.92)。大出血はリバーロキサバン群2例、プラセボ群1例にみられた。

・質の高いデータが限られている中で、国際血栓止血学会(ISTH)の専門家のコンセンサスは、癌に関連した症候性急性内臓静脈血栓症を含む活動性出血のない非肝硬変患者に対して、DOACの全量投与を勧めている。

・また、ISTHのガイダンスでは、血栓症の進展や危険因子に関係なく、これらの患者に対して最低3~6ヵ月の抗凝固療法を行うことを勧めている。

限られたエビデンスの中でDOACが推奨されている。

 

脳静脈洞血栓症(CSVT)


・CVST患者120人を対象に、ダビガトラン(150mgを1日2回)とワルファリン(INR目標値2.0~3.0)を24週間投与して比較したRCTでは、いずれの群でもVTEの再発は認められなかったがサンプル数が不十分であった。
これまでガイドラインやScientific Statementでは、DOACに関するエビデンスは限られているため、CVSTにはVKAの使用を推奨している。

 

エビデンス不足しているサブグループ

末期腎不全(ESRD)
・現在のガイドラインでは、ESRD患者におけるVKAとDOACの有効性に関する明確なエビデンスがないことが強調されている。急性または長期にわたるVTE治療に関するRCTでは、血清クレアチニン値が2.5mg/dLを超える患者、またはCCrが25~30mL/分未満の患者は除外され、同様に、心房細動患者を対象とした臨床試験では、進行した腎疾患または ESRD の患者は除外されている。

・上記の現状にもかかわらず、主に薬物動態学的および薬力学的研究に基づき、FDAはアピキサバンとリバーロキサバンの、ESRDでの使用を除外していない。他のDOACは重度の腎機能障害(CCrが15mL/min未満)または透析を受けている患者には承認されていない。

・現在のところ、ESRD患者におけるVTE治療にDOACを使用することを支持するRCTはないが、ESRD患者のAFにおいてDOACとVKAを比較した小規模なRCTがいくつかある。

 

血液透析を受けている心房細動患者132人を対象とした試験では、致死的心血管系疾患、非致死的脳卒中、心疾患、およびその他の血管イベントの複合イベントの発生率は、リバーロキサバン(10mg1回)を投与した患者の方がVKAを投与した患者よりも低かった(23 vs 35;HR:0.41;95%CI:0.25-0.68)。大出血の発生率もリバーロキサバンの方がVKAよりも低かった(8 vs 17;HR:0.39;95%CI:0.17-0.90)。
・心房細動を有する血液透析患者においてアピキサバン(5mg2回)とワルファリンを比較したRCTは、登録に問題があったため早期に中止されたが、1年間の脳卒中または全身性塞栓症の発生率はアピキサバン(3.0%;95%CI:0.5-9.7)とワルファリン(3.3%;95%CI:0.6-10.5)で有意差はなかった。1年後の大出血またはCRNMB(臨床的に重要な非大出血)の複合発生率は、アピキサバン群とワルファリン群で有意差はなかった(31.5% vs 25.5%;HR:1.20;95%CI:0.63-2.30)。
・慢性血液透析を受けている心房細動患者において、アピキサバン(2.5mg2回)とフェンプロクモンを比較したRCTでは、大出血、CRNMB(臨床的に重要な非大出血)、全死亡の複合率は有意差がなかった(22 vs 25;HR:0.93;95%CI:0.53-1.65)。

まとめると、減量DOACは心房細動とESRDの患者においてある程度の有望性を示している事になるが、しかし、より大規模なRCTが必要であり、shared decision makingが重要である。

 

授乳中


・限られたデータによると、ダビガトランとリバーロキサバンの乳汁中/血漿中濃度比は低く(それぞれ0.1と0.2)、乳汁と血漿の比率が極めて低い薬物(例えば、0.1)は、授乳中でも安全である可能性が高い。
・また、新生児における推定最高血漿中ダビガトラン濃度は、凝固指数に有意な影響を及ぼす濃度の10万倍以下であった。
・上記にもかかわらず、これら2剤の授乳中の安全性に関する臨床エビデンスは不足している。

 

・ アピキサバンの乳汁中血漿中濃度比(2.61)は許容範囲を超えており、その使用は推奨されていない。

 

 

妊娠

・Ex vivoヒトモデルでは、妊娠中にアピキサバン、ダビガトラン、リバーロックスアバンの経胎盤移行が確認され、有効な抗凝固作用を有する可能性があるレベルであったため、さらなる研究が行われるまでは、胎児への潜在的リスクがあるため、DOACを妊娠中の抗凝固療法に用いるべきではない。

DOAC服用中に患者が妊娠した場合は、できるだけ早く代替抗凝固薬に切り替えるべきであり、多くの専門家は妊娠中絶を推奨していない。

 

・非出血性の問題に関しては、ファーマコビジランス分析から得られたDOAC曝露妊娠の研究において、336例のDOAC曝露妊娠の結果が得られている。流産率は22.0%(95%信頼区間:17.7%-26.8%)、21例の胎児異常が報告され、そのうち12例(4%;95%信頼区間:2.0%-6.0%)が重大な先天異常と判定された。流産率は22.0%(95%CI:17.7%-26.8%)、21例の胎児異常が報告され、そのうち12例(4%;95%CI:2.0%-6.0%)が重大な先天異常と判定された。一般集団では、流産率は15.3%(95%CI:12.5%-18.7%)、重大な先天異常率は2.76%(95%CI:2.73%-2.79%)。

 

 

成人先天性心疾患


ガイドラインでは、成人先天性心疾患で心房細動または心房粗動がある患者にはワルファリンを使用することが推奨されているにもかかわらず、DOACは臨床でしばしば使用されている。 
・限られたレトロスペクティブ研究のプールデータは、DOACを投与された患者の血栓塞栓率や出血率が低いことを示唆している。

 

 

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
・CTEPHにおけるDOACの安全性と有効性を評価したRCTは公表されていない。3 件の限定的なレトロスペクティブ研究(n=2,427)のプール結果によると、CTEPHにおいて、DOAC の使用は死亡率が低く、VTE および出血イベントの再発率が低いことが示唆されている。
・現在進行中のエドキサバンとワルファリンを比較するRCTでは、74人の患者を登録し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者におけるベースラインの安静時肺血管抵抗と1年後の肺血管抵抗の改善を評価する予定。

 

その他のサブグループ:HIT
・ヘパリンによる血小板減少や血栓症の患者では、限られたレトロスペクティブなコホートデータに基づいてDOACが使用されることがあり、DOACはヘパリンベースの薬剤ではないので、このサブグループの患者には有効である可能性が高い。
・しかし、質の高いエビデンスがまだ必要であり、現時点ではDOACはこの適応には広く推奨されていない。

 

 

その他の考慮事項
DOACの使用に関連する安全性の問題
薬剤相互作用

・ほとんどの主要なVTEおよびSPAFの試験では、血栓症や出血のリスクが高まるため、DOACと重篤な相互作用を引き起こすことが知られている薬剤を使用している患者は除外されている。 

・ DOACはチトクロームP450 3AおよびP糖蛋白を介して代謝されるので、これらの経路の強力な誘導剤または阻害剤との併用は禁忌である。

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17973

 

フレイル
低強度DOACは、フレイル患者など不確実な領域で外使用されることがある。

 

肝疾患

DOACは部分的に肝クリアランス(アピキサバン75%、リバーロキサバン65%、エドキサバン50%、ダビガトラン20%)であり、血清中濃度と消失時間が増加するため、進行した肝疾患(Child-Pugh C)の患者には禁忌である。

 

DOACs薬物モニタリングの限界
DOAC血漿中濃度を測定するための実験的検査(chromogenic antifactor X assaysなど)は徐々に利用可能になってきているが、薬物レベルのモニタリングにおけるその役割は不確か。

さらに、DOACの血中濃度脳卒中や出血などの臨床転帰との相関はあまり理解されていない。

 

 

※Chromogenic assaysについては過去の記事で記載あり

tknk830.hatenablog.com

・検体中に含まれるヘパリンを過剰量のアンチトロンビン試薬と混和し結合させ、そこに過剰量Ⅹa試薬を加えることでアンチトロンビンによりⅩaを阻害させ、阻害されずに残ったⅩaを特異的な発色性合成気質と反応させて、遊離した発色基を検出し抗Ⅹa活性を求める方法(血栓止血誌 2022;33(3):351-355)

抗Xa活性は、試薬、急性反応蛋白(第Ⅷ因子、フィブリノゲンなど)、肝疾患、凝固因子欠乏など、APTTが影響を受ける因子の影響を受けず、より正確にヘパリンの効果を測定できる

保健収賄はされているが、日常検査として実施している検査室は限られている。アメリカでは測定が一般的になりつつあるが、抗Ⅹa活性の測定はAPTTの測定と比べて費用が高く、日本での普及にはまだ至っていない。今後日本でもスタンダードとなりうる日が来るかもしれない。(Hospitalist Vol.7 No.3 2019.9)

Chromogenic anti-Ⅹa assayの原理 (血栓止血誌 2022;33(3):351-355)

 

 

適応症によって異なるDOACの有効性と安全性のメカニズム
・特定の病態におけるDOACの有効性の低下は多因子によるものと考えられる。
複数の凝固因子の合成を阻害するVKAとは異なり、DOACは第Xa因子またはトロンビンを特異的に標的として血栓形成を阻止する。

・この違いは、カテーテル、ステント、TAVRプロテーゼ、機械弁、などの医療器具が内在性経路を介して血栓形成を誘発することから重要である。


・in vitroモデルでは、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンは機械弁によるトロンビン生成を抑制する効果がワルファリンよりも低いことが実証されている。

 

血栓APSでは、好中球細胞外トラップ(NETs)が関与する凝固と、代替経路および古典的経路を介した補体活性化により凝固が働く。NETsは内在系を介して凝固を誘発するため、VKAは、第Xa因子やトロンビンだけでなく、内因系や共通系におけるいくつかの凝固因子の合成を低下させるので、NETsによって誘発される凝固を抑制するためには、DOACよりもVKAの方が有効かもしれない。

 

リウマチ性心疾患患者を対象としたINVICTUS trialでは、VKA群はリバーロキサバン群に比べ、毎月のINRモニタリングによる医師とのやりとりが多く、このような頻繁な交流は、より広範な健康問題に対処することを容易にした可能性があり、VKAを投与された患者がより良好な有効性結果を得た理由を説明できる可能性がある。

 

 

消化管出血について、アピキサバンを除き、DOACはVKAよりも消化管出血の発生率が高い。エドキサバンとダビガトランの消化管出血リスクは用量に関連しているようである。

・ENGAGE AF-TIMI trialにおいて、エドキサバン1日30mg投与レジメンはワルファリン投与レジメンよりも消化管出血が有意に少なく、RE-LY  trialにおいて、ダビガトラン110mg2回投与レジメンでは消化管出血の増加はみられなかった。

 

あらためてPointをまとめると

・DOACが推奨される病態:心房細動における脳卒中予防(Stroke prevention in atrial fibrillation:SPAF)、ほとんどの患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の急性期治療および長期二次予防

・DOACを使うべきでない血栓病態:APS、リウマチ性Af、機械弁、LVAD

・DOACが有意な利益をもたらさず、有害性を増大させる可能性がある血栓病態:TAVR後、ESUS

・DOACを使うべきでない患者群:妊娠、授乳

・最近エビデンス出てきているがDOACの使用は控えた方が良い状態:ESRD

・DOAC使用についてエビデンスが限られている血栓病態:CRDVT、内臓静脈血栓、左室内血栓、成人先天性心疾患

・DOACは急性VTEの標準治療薬であるが、中高リスクのPE患者における初回線溶後、経口抗凝固療法に切り替えるタイミングは十分に確立されていない。

 

あらためてイラストサマリー

DOAC使用フローチャート