地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230801:呼吸不全に対する筋弛緩

挿管時以外の筋弛緩を使い慣れていなくて悩んでいたら、上司から筋弛緩使用の勘所を教えてもらいました。

 

□中等度以上のARDSに対して

・PEEPをうまく使うなどして人工呼吸器の設定を最適化する

・筋弛緩薬以外の薬剤で肺保護換気を目指す

それでも肺保護ができない場合や吸気努力のコントロールが不十分な場合に筋弛緩を行う

□筋弛緩を行う場合はできれば間欠投与から、それでもダメなら持続投与

 挿管時に筋弛緩を使用して、その直後も呼吸状態が悪ければ基本的には持続投与の方が良い、間欠投与で時間を稼いでその間に呼吸器設定や鎮静を調整するのはあり

□筋弛緩を使用すると、呼吸状態改善後や抜管後に全然体が思うように動かなくなりリハビリが進まない人が一定するいることを常に意識する

 

とてもわかりやすかったです。以下いただいたガイドラインとレビューの簡単なまとめです。なかなか強い推奨は出せないようですが、筋弛緩で酸素化が改善するところを経験すると前向きにうまく使えるようになりたい限りです。

Intensive Care Medicine volume 46, pages1977–1986 (2020)

診療ガイドラインまとめ

キースライド

Fig. 1

 

概要

Population
人工呼吸器管理を受けている成人早期ARDS患者

※除外:既存の神経筋疾患のある患者、筋弛緩薬が禁忌の患者、小児、エビデ※低・中所得国における患者のデータが不足しているため、これらの環境におけるARDS患者への筋弛緩薬の使用に関しては不確実性が高い。


Intervention
投与量/投与期間を問わず筋弛緩薬を投与


Comparator
プラセボ点滴、筋弛緩点滴なし(必要に応じて筋弛緩薬の投与はあり)


Outcomes
1. 死亡率
2. QOL
3. 身体機能
4. 認知機能
5. メンタルヘルス
6. 重篤な有害事象
7. ICU-AW
8. 入院期間
9. 呼吸器離脱
10. ICU在院日数
11. 圧損傷
12. 酸素化
13. 人工呼吸器非同期

 

結果

Good

・病院死亡率(深鎮静対照):筋弛緩使用群が有意に死亡率を低下させた[RR 0.72;95%CI 0.58-0.91]

・28日死亡率/90日病院死亡率の統合推定値:筋弛緩使用群が有意に死亡率を低下させたが、臨床的・統計的に異質性が認められ、推奨には用いられなかった。

・圧損傷:筋弛緩使用群が圧損傷リスクを有意に低下させた[RR 0.55;95%CI 0.35~0.85]

・72時間後のPaO2/FiO2:筋弛緩使用群がのわずかに有意な改善をさせた(平均差15.21;95%CI 1.9~28.52)

Bad

48時間のNMBA点滴の使用は

・有害事象が増加(RR 1.63、95%CI 0.98-2.72)

ICU-AWが増加(RR 1.16、95%CI 0.98-1.37)

※循環動態の有害事象は深鎮静の影響の関与の可能性がある

Others

・病院死亡率(浅鎮静対照):有意差なし。[RR0.99;95%CI 0.86-1.15]※ROSE trial

メンタルヘルス、認知機能、QOL、人工呼吸器不要日数、長期的な身体機能に及ぼす影響は不明。

 

推奨のまとめ

持続的な低酸素血症、腹臥位での人工呼吸、非同期やプラトー圧の上昇など人工呼吸の有害事象がある成人で肺保護換気を促進するための推奨・提案

1.
成人のARDSで、ARDSの重症度を評価する前に、筋弛緩薬点滴をルーチンで使用しないことを推奨(Recommendation, low certainty of evidence)。

2.
中等度以上の成人のARDSで、浅鎮静で人工呼吸管理をしてい流場合、筋弛緩点滴を使用しないことを提案(Suggestion, low certainty of evidence)。肺保護換気を促進するために神経筋遮断が必要な場合は、深部鎮静+筋弛緩持続点滴よりも、深部鎮静+間欠的筋弛緩ボーラスの使用を提案(Suggestion, low certainty of evidence)

3.
中等度以上の成人のARDSで、肺保護換気を促進するために継続的な深部鎮静と神経筋遮断が必要であると臨床医が判断した場合、筋弛緩の間欠的ボーラスよりも、最長48時間の筋弛緩持続点滴の使用を提案(Suggestion, low certainty of evidence)。

 

アプローチまとめ

Fig. 1

 

注意点

・大規模RCTで使用された薬剤はシサトラクリウムのみ。大規模RCT2つでの使用方法は、シサトラクリウムを15mgのボーラス、その後37.5mg/hの点滴を48時間行われた。

ロクロリウムでは無い!

 

Intensive Care Medicine volume 46, pages2357–2372 (2020)

こちらのレビューからはキースライドのみ

筋弛緩薬のメリット(改善、予防)、デメリット

Fig. 1

 

筋弛緩アプローチまとめ

(個人的には実数やproningのことも含まれてこちらの方がわかりやすい)

Fig. 3

 

 

※実際の筋弛緩の使い方(重症患者管理マニュアル)

基本的には使用するとしたらロクロニウム(エスラックス®︎)

静注:0.6-1.0mg/kg

持続静注:10mg/1ml原液で用いる(エスラックス®︎50mg/5ml/V 10V(500mg/50ml)で使用)、7-12μg/kg/min(50kgの場合2.1-3.6ml/hr)で持続投与

モニタリング:筋弛緩薬の効果をTrain of four(TOF)、鎮静の程度をBISなどで評価する