地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230905:postictal stateはどれくらい続くのか?

症例:50台女性。子宮癌指摘あるも病院受診をしていなかった。意識障害で救急搬送、血液検査で高Ca血症(補正Ca16)あり、初療中に繰り返す短時間の全身性痙攣あり。挿管管理でICU入室となった。(頭部MRI、髄液は正常)

Caは治療で翌日には正常化。持続脳波で発作がないことを確認しつつプロポフォールを減量終了としたが、day4にも意識の覚めが悪い。

 

てんかん重責後の意識障害の遷延で一般的に考えることは下記のようなことがあります

①原因の検索、制御ができていない

⇨高Ca血症は改善、その他誘因となるものはなし

②NCSEヘの移行

⇨今回は持続脳波を使用しており否定的

③抗てんかん薬による過鎮静

⇨解釈としては、初療でMDZが使われており腎機能障害があるため作用が遷延している可能性がある(今まではあまり実感はなかったですが、ICUにいると短時間ましてはショットのミダゾラムでも、腎機能障害があると平気で数日作用が残る症例があります)。

④postictal sate

 

 

ここで生じた臨床疑問

CQ:postictal stateはどのくらい続くのか?この症例で考えるべきか?

 

 

日本からの報告がありました!

https://doi.org/10.1016/j.seizure.2019.01.001

 

 

Introduction
・ほとんどのてんかん発作には、postitcal stateという、意識、感覚、運動、認知機能、感情の障害を特徴とする異常な状態があり、発作が終わってからベースラインと推定される状態に戻るまで続く。
・メカニズムはよくわかっていないが、脳内の電気生理学的変化や脳血流の変化が関与していると考えられている。
・以前の小児科の研究では、急性症候性発作や抗てんかん薬を使用した発作では、postictal stateが長いことが示されている。今回は成人患者を対象としたgeneralized convulsion(以下:GC)後のpsotictal stateを調べた。

 

Methods
・2015年1月から2016年12月まで神戸市立医療センター中央市民病院の外来データベースをレトロスペクティブに検索し、GCで救急外来を受診した16歳以上の患者を対象とした。

 

GCの定義明らかな意識障害を伴う両側けいれん

 ・inclusion:単発の発作

 ・exclusion:複数回のGCGCから連続したNCSE、急性症候性発作

※ 発作持続時間および発作後持続時間の不正確な測定を避けるため、複数回のGCGCの合間に完全回復することなくGCを繰り返す)を有する患者は除外した。

 

※NCSEの診断Unified EEG terminology and criteria for nonconvulsive status epilepticus.:Epilepsia. 2013; 54: 28-29の基準を用いた。入院後できるだけ早く脳波検査を実施した。

※急性症候性発作の診断Recommendation for a definition of acute symptomatic seizure.:Epilepsia. 2010; 51: 671-675基準を用いた。

急性症候性発作を除外するために、CBC、肝酵素、Cre、電解質、血糖を含む血液検査、頭部CTをほぼすべての患者、特に初発発作の患者に対して実施した。アルコールまたはベンゾジアゼピン離脱は病歴から除外した。必要に応じて、頭部MRI、腰椎穿刺、薬物中毒スクリーニング検査が行われた。

 

postictal stateの定義:痙攣が終わってから意識と運動機能が回復するまでの時間。回復の評価は、患者の意識、質問に対する反応、見当識、運動機能をチェックし、患者本人または家族の発言を考慮した。
※非入院例:救急車搬送中は救急隊員が1分ごとに患者をチェックし、救急外来に到着後は医療スタッフが約30分ごとに患者を診察し、患者が回復して安全に退院できるかどうかを判断した。
※入院例:看護スタッフが日中は少なくとも2~3時間おきに、場合によっては夜間も患者を診察し、気づいた変化を記録した。主治医は、入院日に2、3回、入院期間中は少なくとも毎日1回、患者の状態をカルテに記録し、回復を評価した。
※入院中に回復しなかった患者の発作後期間は、入院期間全体とした。
※抗けいれん薬のdaily useは、GCが発生した日まで使用したものと定義した。判断は患者本人または家族の供述、あるいはの血中濃度に基づいて、服用をスキップしたかどうかを判断した。
※緊急での抗痙攣薬の使用は、意識回復前にGCを停止させるためにERで抗痙攣薬を静脈内投与したことと定義した。

 

Results

Fig. 1

・救急部を受診した16歳以上の患者355件のGCを同定。

・86件の複数回のGC、1件のGCから発症したNCSE、57件の急性症候性発作、2例の経過観察されなかったGCは除外。

⇨合計209件のunprovoked な単回のGCを対象とした。

 

患者の特徴は以下

 

postital stateの時間は以下

postictal sateの中央値は0.75時間(45分)(四分位範囲:0.5-2.4時間)
・132例(62%)は1時間以下、22例(11%)は10時間以上。入院中に回復しなかった2例は入院期間(16dと48d)とした。研究期間中に2回以上GCに罹患した患者のpost ictal sateの持続時間は0.1~5.3時間であった。

 

解析結果は以下

単変量解析の結果
65歳以上では、若年者65歳未満と比較して、postictal stateの持続時間が有意に長かった(中央値:2時間vs0.7時間;p=0.0005)
ベースラインのmRSスコアが高い(3以上)患者では、低い(2以下)患者と比較して、postictal sateの持続時間が有意に長かった(中央値:2.5時間vs0.7時間;p<0.0001)
発作持続時間が長い(30分以上)患者では、短い(30分未満)患者と比較して、postictal stateの持続時間が有意に長かった(中央値:55時間vvs0.7時間;p<0.0001)
緊急で抗痙攣薬が投与された患者では、されなかった患者と比較して、postictal stateの持続時間が有意に長かった(中央値:16時間vs0.6時間;p<0.0001)
挿管された患者では、されなかった患者比較してpostictal stateの持続時間が有意に長かった(中央値:63.5時間vs0.75時間;p=0.0009)

 

単変量解析で有意であった5因子を重回帰分析した結果
高齢、ベースライン時のmRSスコアが高い、発作持続時間が長い、緊急抗痙攣薬の使用が、長いPostoictal sateと独立して関連していた。
・psotictal sateの長さと最も強く相関した因子は、緊急での抗痙攣薬の使用であり、次いで発作持続時間、ベースラインのmRSスコア、年齢であった。

 

Discussion
・高齢、ベースラインのmRSスコアが高いこと、発作持続時間が長いこと、緊急で抗痙攣薬の使用があったことが、postictal sate長いことと独立して関連していることが示された。
抗痙攣薬の使用については、薬の鎮静作用が発作後状態を延長させた可能性が考えられる。
・まとめると、高齢患者(65歳以上)、ベースライン時のmRSスコアが高い患者(3以上)、およびGCの時間が長い患者(30分以上)では、postictal sateが有に長かった。これらは、高齢や脳疾患によりベースライン時に脳機能が低下している患者や、より長いGCにより脳機能が損傷された患者では、postictal sateが長く、時に機能的ベースラインに戻らない可能性があることを示唆している。

 

Limitations
・後方視的研究デザインのため、発作後持続時間の測定が正確でない可能性がある。
・発作持続時間は患者の家族の供述に基づくことがほとんどであり、正確でない可能性がある。
・回復時点を決定する際に微妙な認知障害や微妙な精神症状を評価できなかったため、発作後持続時間が過小評価される可能性があった。
GCから発症したNCSEが発作後状態と間違われ、発作後持続時間が人為的に長くなる可能性がある。しかし、NCSEを除外するために、脳波検査は入院後最も早い平日に行った。
・後方視的研究デザインによりてんかん症候群の分類が困難であった

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勉強になりました。

 

今までの認識ではせいぜい1時間と思っていましたが。平気で数日続くこともありそうですね。高齢、ベースのmRS、痙攣時間が長いなどあればpostictal stateが数日続いていることも考慮して良さそうです。

 

本症例は短時間の発作複数回でありかつ急性症候性発作のため、本研究からは除外されており、その他のリスクは有さなかったため、安易にpostictal stateと言うのは危険そうです。(実際はday5ごろから意識が覚めてきました、鎮静薬が残っていたのでしょうか)