めまいのスライド作りのための勉強です。5月号のAFPにめまいのレビューが載っていました。
総論的な流れは先日upしたスライドから変える必要はないと思いました。ATTESTの方が分かりやすいと思います。Table5は2018年のStrokeに載っていたものですが、これは臨床に即していていいと思います。
そんな中で良いと思った点、勉強になった点はこちら
・t-EVSの時のみDix-hallpikeを行うこと、AVSの時のみHITを行うことが強調された点(ただし高齢者など病歴がはっきりしない場合はBPPVは閾値低く疑うべきだと私は考える)
・若年成人では頭部外傷がBPPVの主な危険因子である点
・BPPVと前庭神経炎の治療として前庭リハビリテーションが勧められている点
・BPPV再発予防のvitDについて記載がある点
・剪定神経炎の経過が自分の認識と少し違った点(症状は数日後に消失するが、数ヶ月間症状が再発すしたり(持続期間が次第に短くなる)、BPPVを発症する患者もいる。)
・前庭神経炎に対するステロイドが推奨されていない点
・前庭性片頭痛に対する治療はコンセンサスがない中で急性期治療としてのトリプタン、予防薬としてインデラルが勧められている点
・VBIが全てのタイプのめまいで検討されるべきである点
以下本文まとめです。
Dizziness: Evaluation and Management(Am Fam Physician. 2023;107(5):514-523)
一般的な鑑別
鑑別疾患 |
特徴 |
BPPV |
頭位変換性めまいの繰り返しによって特徴づけられる内耳の障害 |
前庭神経炎 |
前庭神経または迷路器官の炎症(通常はウイルス感染)による発作性なめまい発作 |
20分~12時間または24時間以内のめまいのエピソードが2回以上あり、感音難聴、耳鳴り、患耳の圧迫感がある |
|
前庭性片頭痛 |
片頭痛に伴う発作性めまい |
VBI |
椎骨脳底系に影響を及ぼす動脈の閉塞または潅流不全による持続的、発作性めまい |
その他(末梢性) |
ACS、貧血、大動脈解離、不整脈、生活習慣病、異所性妊娠、ホルモンバランス異常、感染症、代謝異常、耳硬化症、肺塞栓症、甲状腺疾患、血管迷走神経反射 |
その他(中枢性) |
めまいを生じさせる可能性のある薬剤
めまいのアプローチ
TiTrATE(Timing of the symptoms, triggers that provoke the symptoms, and targeted examination)アプローチを利用する
タイミング(onset、持続時間、増悪)で、EVSとAVSを区別する
・EVS(Episodic vestibular syndromes)は一過性のめまい、立ちくらみ、ふらつきが数秒から数時間続く症候群
・AVS(Acute vestibular syndromes )急性発症し、持続的なめまい、立ちくらみ、ふらつきが数日から数週間続く症候群
分類 |
持続時間 |
特徴 |
病因 |
Triggered EVS |
秒〜分 |
安静時には無症状 Dix-Hallpikeが有用 頭の動きや体位の変化により、症状が誘発される |
BPPV 起立性低血圧 |
Spontaneous EVS |
分〜時間 |
安静時に有症状 頭部運動は症状を悪化させることがあるが明らかな誘因はない |
後方循環TIA(VBI) 前庭性片頭痛 |
Traumatic/Toxic AVS |
急性経過 典型的には暴露がなくってから数日〜数週 |
暴露との関係で発症 身体検査はあまり役だたない |
薬物中毒 薬の副作用 頭部外傷 |
Spontaneous AVS |
急性経過 持続時間はさまざま |
明らかな外傷や毒物への曝露がない HINTSにより、中枢性と末梢性を区別することができる |
脳幹・小脳梗塞 リステリア脳炎 VitB1欠乏 前庭神経炎 |
タイミングで分類した後は、トリガーがあるかどうかで分ける
その後、鑑別ごとに必要な身体診察を行う
t-EVSでは:Dix-hallpike試験、起立試験を行う
・起立性低血圧:仰臥位または座位から立ち上がった後、3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上または拡張期血圧が10mmHg以上持続的に低下する
・BPPV:Dix-Hallpike法が陰性でも、タイミング、トリガーがあっていればBPPVは否定できない
※t-EVSの患者のみにDix-hallpikeを行う(特に自発眼振や視線誘発眼振がない場合)
AVSでは:神経診察、HITNSを行う
・HINTS:脳卒中に対する感度97%、特異度96%
・HIT(Head impulse test):患者が座った状態で、患者の目を検者の鼻に固定したまま、頭を左右に10度ずつ突き出す。サッケード(視線が検査者に集中し続けるために過剰に修正される両目の急速な動き)が発生した場合、末梢性である可能性が高い。眼球運動がない場合は、中枢性疾患であることを強く示唆する。
※HITはAVSの時のみ行う
・Nytagmus:方向固定性眼振(眼振方向を注視すると増強、反対方向を注視すると減弱するのが典型的)は末梢性を示唆する。垂直性眼振、純回旋性眼振、方向交代性眼振は中枢性を示唆する。
※視覚固定による眼振の抑制は典型的には末梢性めまいを示唆する。視覚固定は、患者に部屋の中の物体に焦点を合わせるように指示し、次に患者の顔の前に白紙を置くことで行う。物体に焦点を合わせると抑制されし、白紙を取り除くと戻る眼振は、末梢性を示唆する。
・Test of skew:患者にまっすぐ前を見てもらい、両目をそれぞれ覆ったり外したりすることで評価する。覆いを外した後、覆っていた目の上下方向の偏位は、脳幹部の脳卒中などの中枢性疾患を示唆する。
血液検査、生理検査
・基本的には不要。心疾患など疑えば行う。
画像検査
・ルーチンでは不要
・難聴や耳閉感のある患者では側頭骨のCTやMRIを考慮する。CTでは骨折、骨びらん、上半規管裂隙などを評価する。
各論
BPPV
・末梢性の病因として最多、50-70歳代に発症、男性より女性に多い・三半規管内の耳石の落下が原因
・若年成人では頭部外傷が主な危険因子となる。
・後半規管型の最も効果的な治療法は、Epley法。成功率はほぼ100%。 一部の患者、特に外傷に関連したBPPVでは、成功率は下がる。
・繰り返しの操作で改善が見られない場合、あるいは非定型的な眼振や吐き気がある場合は、別の原因を検討する必要がある。
・体位変換に加えて、 患者の平衡感覚、視覚、筋肉の動きを調整する前庭リハビリテーションが安全で効果的。
・抗ヒスタミン剤やベンゾジアゼピン系薬剤などを避けることも重要。
・ 7つの研究のメタアナリシスではBNPPVでビタミンD欠乏症の患者にビタミンDを補充すると、再発が低下することが示唆されている。
Dix-hallpike
Epley
前庭神経炎
・末梢性の原因として2番目、30~50歳の患者に多い、ウイルス感染の後に発症が多い
・患側への方向固定性眼振と観測へ偏る歩行が特徴的
・診察で最も有用なのがHITNS、前庭神経炎でみられる前庭眼反射の低下を検出する(Dix-Hallpike無意味)
・症状は数日後に消失するが、数ヶ月間症状が再発すしたり(持続期間が次第に短くなる)、BPPVを発症する患者もいる。
・治療は前庭リハビリテーション(PTとの連携が必要)や薬での対症療法がある。
・薬は、嘔気を伴う前庭神経炎のめまいには抗ヒスタミン剤、制吐剤、ベンゾジアゼピン系薬剤が有効であるが、制吐剤は中枢性の代償機構を抑制する可能性があるため過剰使用は控える。
・抗ウイルス薬やステロイドは効果が立証されていないため使用は推奨されない。
・メニエール病は、難聴、耳鳴り、方向固定性眼振などを特徴とする誘因のない再発性めまい。 過剰な内リンパ液による圧に伴う内耳機能障害で生じる。
・20歳代と60歳代の二峰性
・治療として塩分を1日2,000mg未満に制限、カフェインの摂取を減らす、アルコールを1日1杯に制限するなどが言われてきたがエビデンスはない。 利尿剤内服、ゲンタマイシンまたはグルココルチコイドの経鼓膜注射もエビデンスは不十分。発作の急性期治療には、プロクロルペラジン(ノバミン®︎)、プロメタジン(ピレチア®︎)、ジアゼパム(セルシン®︎)などを用いた前庭抑制が選択肢となる。labyrinthectomyは難治性症例で選択肢となりうる。
前庭性片頭痛
・前庭片頭痛はs-EVSで最多。 成人における有病率は2.7%で、女性(64.1%)に多く、平均年齢40歳で発症する。
・発作時の頭痛または頭痛の既往があり、眼振は垂直または水平(つまり中枢パターンも末梢パターンもありうる。)
・診断基準には、5分から72時間続く再発性の前庭症状(少なくとも5回)、および過去または現在の片頭痛が含まれる。
・治療または予防療法に関するコンセンサスは存在しない。
・片頭痛の誘因を避けるための生活習慣の改善には、十分な休息、身体運動、食事の改善、ストレス管理などがある。トリプタン系薬剤、鎮痛剤、制吐剤などの頓服薬は治療に有用である。トピラマート、アミトリプチリン(トリプタノール®︎)、プロプラノロール(インデラル®︎)などの片頭痛の予防薬も発生を抑える可能性がある。
前庭型片頭痛の診断評価について
前庭型片頭痛の診断基準
A. CおよびDを満たすエピソードが少なくとも5回以上ある
B. 前兆のない片頭痛または前兆のある片頭痛の既往歴または現在症状がある
C. 5分以上72時間以内に持続する、中等度または重度の前庭症状
D. エピソードの少なくとも50%が、以下の3つの片頭痛の特徴のうち少なくとも1つと関連している:
・次の4つの特徴のうち少なくとも2つを有する頭痛:片側性、拍動性、中等度または重度の頭痛、日常的な身体活動による増悪
・光過敏と音過敏
・視覚的前兆
E. 他の ICHD-3の疾患 または他の前庭疾患によって説明できない
前庭性片頭痛の可能性が高い
A. 中等度または重度の前庭症状が5分~72時間続くエピソードが少なくとも5回以上ある。
B. 前庭片頭痛の基準BおよびDのうち1つだけが満たされる(片頭痛の既往または発作時の片頭痛の特徴)
C. 他の前庭診断または ICHD-3 診断でうまく説明できない。
VBI(後方循環TIA)
・椎骨脳低動脈系TIAの患者は多くの症状を示すが、47%はめまいや立ちくらみがある。
・s-AVSとして分類されることが一般的だが、すべてのタイプのめまいの鑑別に考慮されるべきである。s-AVSの約10-20%は、小脳または脳幹の虚血があるため、 HITNSや適切な専門家への紹介が重要である。
めまい診療における誤解
誤解 |
Pearl |
Vertigo(回転性めまい)は内耳障害 |
症状の質ではなく、タイミングと誘因に注目する |
頭を動かすと悪化するめまいは末梢性 |
頭部の動きは中枢性・末梢性ともに症状を悪化させる可能性があるため、誘因と増悪を区別する |
難聴や耳鳴りがあるめまいは末梢性 |
聴覚症状がある場合、末梢よりも中枢の原因の除外が優先 |
頭痛を伴うめまいは前庭片頭痛 |
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めまいを引き起こす脳卒中は四肢の運動失調やその他の巣症状がある |
HINTSは四肢の運動失調やその他の局所的な徴候よりも、脳卒中を除外するための特異性と感度が高い |
年齢や血管リスクを重視しすぎず、若い患者には椎骨動脈解離を考慮する。 |
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急性めまいで小脳出血を除外するためにCTが必要 |
頭蓋内出血が良性のめまいや立ちくらみとして現れることは稀である |
CTは後方循環の脳梗塞の診断に有用 |
画像診断、特にCTの限界を認識する。 |
拡散強調MRIであっても、画像診断の限界を認識する、陰性でも48時間以内に再検査を検討する |