地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20220515 AFP:2022年のプライマリケア医が読むべき論文20⑤Prediabetes/Diabetes Mellitus

AFP(American Faamily Physician)2023年4月号が刊行されており、その中で今年で12回目となりますがカナダ医師会からのPOEMs(patient-oriented evidence that matters)と認定された2022年の研究トップ20の要約が出ておりました(COVID-19以外)。長いので小分けにしてみていきましょう。

です。

 

Prediabetes/Diabetes Mellitus

Clinical question

Bottom-line answer

60歳以上の成人における前糖尿病の自然経過は?

糖尿病予備軍の高齢者の多くは、糖尿病を発症することはない

このコホート研究では、糖尿病予備軍の高齢者は、糖尿病を発症したり死亡したりするよりも、正常な血糖値になる可能性の方が高かった。

前糖尿病の治療が死亡率や心血管アウトカムに与える長期的影響は?

前糖尿病の治療は、長期的なアウトカムに影響を与えない

前糖尿病において、集中的なライフスタイル介入もメトホルミンも、心血管転帰の長期リスクに影響を及ぼさない。

施設に入所している高齢の2型糖尿病患者における低血糖の頻度は?

薬剤性低血糖は、介護施設に住むフレイルな高齢者によく見られる

この小規模な研究では、老人ホームに住む2型糖尿病の高齢者の75%以上が、2週間のモニタリング中に少なくとも1回の低血糖イベントを経験し、50%近くが重度の低血糖を経験していた。HbA1C値が低いほど、低血糖イベントの頻度が高く、低血糖状態にある時間が長いことが示された。

アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンは糖尿病性末梢神経障害のある成人の痛みを軽減する効果があるか?

糖尿病性神経障害の疼痛に対して単剤療法よりも併用療法が優れている

痛みを伴う糖尿病性末梢神経障害の成人は、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリンを用いた単剤療法で同程度の改善がみられました。最初に選択した薬剤にかかわらず、その後の併用療法でより大きな改善がみられた。

12:Persons Older Than 60 Years With Prediabetes Are More Likely to Become Normoglycemic Than to Develop Diabetes or Die(Risk of progression to diabetes and mortality in older people with prediabetes: the English Longitudinal Study on ageing. Age Ageing. 2022;51(2):afab222.)

 

本文のあらすじ

イギリスの高齢者を対象とした大規模な疫学研究であるEnglish Longitudinal Study on Ageingにおいて元々糖尿病を発症していない60歳以上の成人2,027人を、prediabetes(前糖尿病)(HbA1c5.7-6.4%または空腹時血糖5.6-7.0mmol/L[100-125mg/dL]と定義)かどうかで分類し、糖尿病への進行、死亡率を調べるために8年間のフォローアップを行なった。参加者の平均年齢は70.6歳、55%が女性であった。

 

結果は以下の通り

正常血糖群(HbA1c<5.7%、空腹時血糖<100mg/dL):糖尿病発症2.3%(発症率3.5人/1000人/年)、死亡9.8%(発生率13.7人/1000人/年)

 

HbA1cでの前糖尿病群:糖尿病発症12.9%(発症率19.6人/1000人/年)、死亡11.6%(発生率16.8人/1000人/年)、正常血糖化37.6%

 

空腹時血糖値での前糖尿病群:糖尿病発症15.6%(発症率23.8人/1000人/年)、死亡11.6%(発生率19人/1000人/年)、正常血糖化58.2%

 

 


メッセージとしては、前糖尿病の60歳以上の高齢者は、糖尿病を発症したり死亡したりするよりも、正常血糖になる可能性が高い。高齢者にとっては前糖尿病という概念は不要かもしれない。

 

感想

prediabetesは将来DMを発祥するリスクは虚血性心疾患・脳卒中のリスクが言われており、必要に応じて生活指導をしておりproblemにもあげていましたが、60歳以上ではひとまず気にしなくてよさそうですね。(日本の高齢者はまだまだ若い気はしますが)

 

 

13:Treatment of Prediabetes With Metformin or Intensive Lifestyle Therapy for at Least 3 Years Has No Long-term Benefits (Diabetes Prevention Program)(Effects of long-term metformin and lifestyle interventions on cardiovascular events in the diabetes prevention program and its outcome study. Circulation. 2022;145(22):1632-1641.)

 

本文のあらすじ

Diabetes Prevention Program Trialは、前糖尿病の肥満の成人3,234人を、メトホルミン850mg1日2回投与、集中運動プログラム(7%以上の体重減少、週150分以上の中強度の身体活動)、またはプラセボに無作為に割り付け、3年間追跡したもので、主要アウトカムとして2型糖尿病の罹患が、プラセボと比較して、集中運動プログラム療法群で58%、メトホルミン群で31%減少した。同試験参加者にその後のフォローアップ試験への参加を呼びかけ86%が参加した。

 

中央値21年間の追跡で310人の重大な初回心血管イベントを認めたが、各群での差はなかった。

・メトホルミンプラセボ:ハザード比 1.03 (95% CI、0.78 -1.37; P = 0.81)

・ライフスタイル対プラセボ:ハザード比 1.14 (95% CI、0.87 -1.50; P = 0.34)

 

結論としては、前糖尿病患者において、集中的な生活習慣への介入とメトホルミンは、心血管疾患の長期的な転帰のリスクに影響を与えなかった。

 

感想

12もそうですが、前糖尿病へのアクション自体、あんまり頑張らない方のエビデンスが出ているということですね。

 

14:Tight Control Associated With More Frequent and Persistent Hypoglycemia in Elderly Persons With Diabetes Mellitus(Frequent and severe hypoglycaemia detected with continuous glucose monitoring in older institutionalised patients with diabetes. Age Ageing. 2021;50(6):2088-2093.)

 

フランスの6つの老人ホームで、65歳以上の2型糖尿病患者で低血糖を誘発する薬剤(スルホニルウレア、レパグリニド、インスリンなど)を使用している42名の参加者を選別し、最大14日間、連続グルコースモニターを装着し低血糖の評価を行なった。

 

参加者の特徴:平均年齢は87.4±6.6歳、患者は女性69%)、平均HbA1C7.7±1.1%、31%はHbA1Cが7%未満、全患者が2型糖尿病 、55%(n=23)はSU剤またはレパグリニドを使用、76%(n=32)はインスリンを使用

 

低血糖の定義:血糖70mg/dL(3.9mmol/L)未満

重度の低血糖の定義:血糖54mg/dL(3mmol/L)未満

 

結果としては以下の通り

・標準的な血糖測定では4人の患者で5つの低血糖イベントが検出にとどまったが、持続血糖測定では33人の患者(79%)で242の低血糖イベントが検出された。

・7人の患者(17%)が、期間中の20%以上を低血糖状態で過ごした。

・19人の患者(45%)が、血糖値54mg/dl未満となった。

・持続血糖測定で検出された低血糖イベントの数、低血糖に陥った時間、血糖値54mg/dl未満となっていた時間は、HbA1C>8%の患者に比べHbA1C<7%の患者で有意に高かった。

HbA1Cが7%以上8%未満の患者とHbA1Cが8%以上の患者の間で、低血糖パラメータに差は認められなかった。

 

HbA1c値<7.0%は高齢者において、低血糖のリスクとなり、今回の調査結果では、HbA1Cが7%未満の患者の100%が、14日間の間に少なくとも1回の低血糖イベントを起こしており、このリスクを裏付けている。

しかし、HbA1C≧8%の患者でも86件の低血糖イベントが検出され、つまり79%の患者が14日間に少なくとも1回の低血糖イベントを経験し、21%が50mg/dl以下の低血糖を経験した。今回の結果は、低血糖のリスクとなる薬剤を使用しているHbA1c 8%以上の患者においても低血糖をスクリーニングすることの重要性を強調している。

 

結論としては、低血糖を引き起こす可能性のある薬剤を服用している高齢の施設入所糖尿病患者において、低血糖の有病率が非常に高く、かなりの割合で重症低血糖が認められた。HbA1Cが7%未満では低血糖のリスクが高いが、HbA1Cが8%以上の患者でもそのリスクは高い。

 

メッセージとしては、高齢者では低血糖リスクのない抗糖尿病薬の使用と、低血糖リスクのある抗糖尿病薬の減量、中止を推進することが重要である。FreeStyleLibreProのような持続決闘モニタリングは、高齢者の低血糖を検出、回避するのにも有用である。

 

感想

こんなに低血糖になっているんですね。8%以上でもこれだけ低血糖があるのは驚きです。

自分は上司に高齢者のHbA1cの目標は年齢➗10くらいと教わりました。フレイルある人では特にA1cに拘りすぎないようにします。少量SUが惰性で入っている人とか切ります。

 

15:Amitriptyline, Duloxetine, and Pregabalin Each Effective in Decreasing Pain From Diabetic Peripheral Neuropathy; Combinations Even Better(Comparison of amitriptyline supplemented with pregabalin, pregabalin supplemented with amitriptyline, and duloxetine supplemented with pregabalin for the treatment of diabetic peripheral neuropathic pain (OPTION-DM): a multicentre, double-blind, randomised crossover trial. Lancet. 2022;400(10353):680-690.)

 

本文のあらすじ

糖尿病と遠位対称性多発神経炎に伴う疼痛を少なくとも3ヵ月間有する成人130人を選別し、以下のようにランダムに割り振った。

・①アミトリプチリン(A)⇨②プレガバリン(P)

・①プレガバリン(P)⇨②アミトリプチリン(P)

・①デュロキセチン(D)⇨②プレガバリン(P)

 

試験の流れは以下

1:まず2週間①の薬の量を最大耐容量まで漸増

2:6週間の維持単剤療法

3-a:痛みがNRS3/10以下になった人は10週間単剤療法を維持

3-b:痛みがNRS3/10以下にならなかった人は10週間②の薬を追加投与

4:計16週が終わったところで、7日間の平均NRSを評価

⇨2週あけて別の組み合わせ(計3種)の試験を開始

 

※アミトリプチリンは1日最大75mgまで漸増

※デュロキセチンを1日120mgまで漸増

※プレガバリンは、eGFRが60mL/min/1-73m2以上の場合際第600mg/日に変更、eGFRが30~59mL/min/1~73m2の場合は75mg/日から開始し、150mg/日を経て最終的に300mg/日とした

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・6週間の単剤療法終了時、NRS<3の割合はアミトリプチリン(37%)、デュロキセチン(32%)、プレガバリン(34%)で同程度であった。

・16週終了時点では、NRS<3の割合はA-P(48%)、D-P(43%)、P-A(47%)で同程度であった。

 

ほとんどの有害事象は軽度かつ3つ組み合わせで同様であったが、D-Pはめまい、P-Aは嘔吐、A-Pは口渇が多かった。

 

感想

アミトリプチン(トリプタノール®︎)、デュロキセチン(サインバルタ®︎)、プレガバリン(リリカ®︎)の比較でした。自分はトリプタノールはほとんど使ったことがありません。でも副作用はほとんど変わらないんですね。。。

現実的にはサインバルタ⇨リリカですかね。併用に効果があるのがわかっているのはいいですね。