他院での症例検討会がありました。
深夜0時からの腹痛、下痢、血圧低値の症例でした。
腹痛は自発痛は下腹部にあるが、圧痛は目立たちませんでした。圧痛が目立たない自発痛が強い腹痛を見た時には
腹腔外の臓器として胸部/肺、後腹膜臓器、心血管系、神経(神経根、末梢神経)、陰部(精巣など)
臓器以外から代謝系(DKA、高Ca血症など)、免疫系(IgA血管炎、アナフィラキシーなど)、中毒系(鉛中毒など)
などを考え、特に局在がはっきりする時には血管、神経の病態を考慮します。本症例はそこまで局在ははっきりしませんでした。
下痢は感染性腸炎が圧倒的にcommonですが、まず除外したいものとして
② トキシックショック症候群③
甲状腺クリーぜ、副腎不全など内分泌疾患
④消化管出血(特に高齢者)
⑤(下痢ではなく軟便だが)骨盤内炎症性疾患(虫垂炎、腸腰筋膿瘍、腹腔内出血など)
などがあります。
その後ショックが遷延し、hypovolemic、septic shockとして対応しても血圧が上がらず、造影CTでも所見なし。追加でとった病歴で3時間前の餃子摂取がありアナフィラキシーショックの判断で、アドレナリン筋注を行い、その後腹部症状や血圧低値は改善していった症例でした。
皮膚所見はなく診断が難しい症例でしたが、原因不明のショック、難治性ショック、圧痛が目立たない腹痛、危険な下痢など色々な観点からアナフィラキシーを疑うポイントはいくつかありました。
ただ、本症例でのアナフィラキシーの診断は本当に正しかったのか、検討が必要と感じました(もちろんショックでのアナフィラキシーの対応を躊躇う必要はないのは前提として)。
まず餃子を食べてから3時間後からの症状であるということです。アナフィラキシーは1型アレルギーに分類されますので、長くても2時間以内に症状が出ると言われています。本症例のように暴露から発症までが長い疾患は遅発性アナフィラキシーと言われ、鑑別は限られます。
遅発性アナフィラキシー
①肉アレルギー:α-Galという糖鎖に反応、マダニに噛まれることで感作される、牛・豚の摂取3-6時間後(鶏はならない)
②納豆アレルギー:γ-PGAという粘り気の成分に反応、クラゲに刺されることで感作される、納豆の摂取10時間後
③食物依存性運動誘発アナフィラキシー:食物の摂取だけでは症状は出ない、食事摂取後4-6時間での運動で発症することが典型的、原因食物は小麦、えび・かに、果物などが多い
(参考文献:長野広之.ジェネラリストのための内科診断キーフレーズ)
また、本症例はショックはありましたが、皮膚や呼吸器症状は目立たず、消化器症状が全面的に出ていました。その場合には消化管アレルギーも考慮したほうが良いです。原因物質としては成人だと魚介類やマッシュルームなどが多いです。こちらについては以前のまとめがありますのでよければご覧ください。
ということでアナフィラキシーは医者をやっている以上、全員が適切に診断、対応できないといけません。ただ、やっぱり不安な若手の先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そんな中、今月こんな良書が出版されておりました。さまざまなシーン別での対応がまとめられており、アナフィラキシーに対応するかもしれない全ての医療従事者に必携の本でした。今回は、こちらの中で、特に重要だと思ったこと、あまり知らなかったことを簡単にまとめました。
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Scene0:アナフィラキシー Basics &Update
・アナフィラキシーの原因の分類
①IgE依存性:食物、薬品(βラクタム系抗生物質、NSAIDs、生物学的製剤など)、精液、毒、造影剤、職業性アレルゲン、大気中アレルゲン、天然ゴム・ラテックス
②IgE非依存性:造影剤、NSAIDs、デキストテン、生物学的製剤
③肥満細胞を直接刺激:物理的要因(運動、気温の変化、日光)、アルコール、薬品(オピオイドなど)
④特発性:未知のアレルゲン、肥満細胞症/クローン性肥満細胞疾患
・アナフィラキシーの診断基準(2020WAO)
・アナフィラキシーのマネジメント
①アナフィラキシー対応の文書化した緊急手順書を持っておき、日常的に予行演習を行う。
②可能であればアナフィラキシーの誘因物質への暴露を取り除く。
③患者の評価を行う。気道、呼吸・循環と意識状態、皮膚、体重を確認する。
④助けを呼ぶ。病院なら緊急組成チーム、病院がいなら救急要請を行う。
⑤アドレナリン投与:大腿外側に筋注。0.01mg/kg(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg)。投与した時刻を記録し、必要があれば5-15分ごとに再投与する。通常は1-2回の投与に反応する。
⑥患者を仰臥位にする。呼吸苦や嘔吐がある場合には楽な姿勢にする。下肢挙上を行う。
⑦適応があれば高流量酸素を投与する。
⑧静脈路を確保する。14-16Gのカテーテルを使用する。1-2Lの0.9%生食を急速輸液(成人だと5-10ml/kg、小児だと10ml/kgを最初の5-10分で投与する)。
⑨どのタイミングでも適応があれば心肺蘇生を行う。
⑩頻回に一定の間隔で患者のモニタリングを行う。
Scene 1;ワクチン接種後のアナフィラキシー
・ワクチン接種に伴う有害事象とハイリスク被接種者
事象 |
ハイリスクの被接種者 |
対応例 |
アレルギー性疾患既往 ※接種予定ワクチンの成分に対しての アレルギー歴があれば接種を避ける ※接種予定ワクチンに対しての アナフィラキシー歴があれば接種は禁忌 |
30分間の経過観察 |
|
アナフィラキシーの重症化 |
降圧剤(特にβ遮断薬、ACE阻害剤)の使用 |
接種禁忌とはならないものの アナフィラキシー発症時の対応に注意が必要 |
血管迷走神経反射 |
過去にワクチン接種や採血などで 血管迷走神経反射を起こした既往 |
臥位での接種 30分間の経過観察 |
止血困難 |
抗血小板剤・抗凝固薬 血液疾患(血小板減少症など) |
十分な圧迫止血(2分以上) |
・アナフィラキシーと血管迷走神経反射の特徴と鑑別のポイント
血管迷走神経反射 |
||
発症タイミング |
数分〜30分以内が多い |
接種直後から |
血圧 |
↓ |
↓ |
脈拍 |
↑ |
↓ |
顔面 |
紅潮 |
蒼白 |
皮膚・呼吸器症状 |
みられることがある |
通常みられない |
Scene 2:抗菌薬投与後のアナフィラキシー
・抗菌薬投与直後のショックでは基本的にはまずアナフィラキシーとして対応⇨適切な初期対応でショックが遷延する場合には敗血症性ショックをはじめとする他のショックの原因を考慮する。
・皮疹や気道狭窄(Stridorや喘鳴)が目立つ場合にはアナフィラキシーの可能性が高いが、皮疹についてはToxic Shock Syndromeなどの感染症が原因で全身性の紅斑を生じることがあるので注意が必要
・患者に抗菌薬アレルギーがある際の確認事項
①どの抗菌薬か:漠然とした「ペニシリン」ではなく、具体的な抗菌薬名をお薬手帳や電子カルテ情報などを利用して確認する
②どんな症状が、いつ起きたか、それはその抗菌薬の初回投与時か複数回目か:下痢・嘔気などは過敏症でないことが多いが、皮疹や呼吸器症状などを合併してアナフィラキシーを疑うケースもある。発症時期は初回の内服開始後であれば即時型が疑われ、遷延型反応やその他の副作用(CD感染症など)との区別が可能である。
③どのような治療を受けたか:アドレナリン筋注を受けている場合などにはアナフィラキシーと判断するのが良い。
④上記の情報をもとに反応を分類する:上記をもとに起きた反応が即時型反応(1型)か、遷延型反応(Ⅱ〜Ⅳ型)か、あるいはアレルギー反応ではない(下痢、嘔気などの副作用)かを判断する
Scene 3:造影CT検査後のアナフィラキシー
・重篤なアナフィラキシーの頻度は0.04%、死亡例は0.0006%。
・造影剤によるアレルギー反応と生理的反応
①アレルギー反応:蕁麻疹・掻痒感・紅斑・くしゃみ・結膜炎・鼻汁・顔面浮腫・嗄声・喘鳴・咳嗽・胸部絞扼感・低血圧・頻脈
②生理的反応:一過性の熱感や悪寒・嘔気・嘔吐・共通・肺水腫・不整脈・痙攣発作・血管迷走神経反射(低血圧+徐脈)
・造影剤アナフィラキシーの病態は多くがIgE非依存性:肥満細胞の細胞膜に作用してメディエーターを放出するか、あるいは直接補体を活性化することでアナフィラキシーが起こると考えられている。
・発症のタイミング:投与中が48.7%、投与後5分以内21.6%で約70%となる。94%は20分以内である。投与5分までは慎重に様子を見て、その後も30分ほどは院内に滞在してもらうのが安全。
・皮膚テストの役割:現在の非イオン性造影剤のアナフィラキシーでは皮膚テスト陽性の割合が昔と比べて増えており、被疑薬で陽性であれば診断がより確実になり、陰性となる造影剤があれば代替薬として検討できるのではないかとされている。欧州アレルギー臨床免疫学会、米国アレルギー喘息・免疫学会ではヨード造影剤アレルギーについての皮膚テストの実施が推奨されている。皮膚テストを行う場合には、2-6ヶ月以内の早期が推奨されている。
・前投薬について:軽度の反応を抑えるのには有用かもしれないが、中等度から10度の反応に対する有効性は確認されていない。日本では急性副作用発生の危険性軽減の手段として、以下のいずれかのプロトコルが紹介されている。
1:プレドニゾロン50mgを造影剤投与の13時間前、7時間前、および1時間前に経口投与
2:メチルプレドニゾロン32mgを造影剤投与の12時間前と2時間前に経口投与
3:デキサメタゾン7.5mgもしくはベタメタゾン6.5mgなどのリン酸エステル型ステロイドを1-2時間変えて点滴投与
※ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどのコハク酸エステル型ステロイドを点滴で用いると喘息発作を誘発することがある(特にアスピリン喘息)
Scene 4:アナフィラキシーの入院を受け持ったら
・二相性アナフィラキシーについてはScene 7に記載
・退院前の指導、確認事項:SAFEアプローチ
Seek support |
患者のサポートを求める(家族などに) |
Allergen identification and avoidance |
アレルゲンを同定し、避ける |
Follow-up for spefiality care |
専門診療(アレルギー専門医)のフォローアップにつなげる ※アレルゲン不明の場合は血中アレルゲン特異的IgE抗体検査や皮膚テストなどの追加評価が必要 ※適応に応じてアレルゲン免疫療法を検討する |
Epinephrine for emergencies |
緊急時用にアドレナリン(エピネフリン)自己注射器を処方する |
※エピペン処方のためにはe-learningが必要です
・アナフィラキシーの危険因子の確認:β遮断薬やACE阻害薬などはアナフィラキシーの発症や重症化のリスクとなる。向精神病薬、抗不安薬、不眠症治療薬など中枢神経系に作用する薬剤は、アナフィラキシーの認識能力を低下させる可能性がある。これらは長期的にみてリスクとベネフィットを考慮して変更を検討する。
・エピペンの併用禁忌、併用注意薬剤の変更、中止を検討する(蘇生が必要なエピペンの緊急時使用は可能)。
・アレルゲン免疫療法:皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)がある。適応は下記。
ダニSLIT:ダニアレルギー性鼻炎
スギ花粉SLIT:スギ花粉症
Scene 5:食物アレルギーによるアナフィラキシー
・原因食品別のショック症状発生頻度は、カシューナッツ(18%)、小麦(17%)、くるみ(16.7%)、そば(16.5%)、落花生(15.4%)、エビ(14.9%)。カシューナッツおよびくるみのアレルゲンコンポーネントとして、それぞれAna o 3とJug r 1の特異的IgE抗体が検査可能。
・患者・家族や教職員へのアナフィラキシー講習会の内容例
学習項目
①アナフィラキシーの認識
②食品成分表時ラベルの読み方や食品の調理法などの日常的な対策
③リスク軽減策
④不安への対処法
⑤アドレナリン自己注射器の使用法
参加者の課題
①トレーニングデバイスを使用してアドレナリン自己注射器の投与など、学んだことを実践する
②親族、友人、教師など他の人に緊急時の支援方法を伝える
Scene 6:ハチ刺されによるアナフィラキシー
・医薬品とハチ刺されがアナフィラキシーショックによる死亡例で最多(年間20例前後)
・エピペン携帯についての指導の注意点:仕事先へのエピペンの携帯を強調する。職場の同僚にアナフィラキシー既往があることを伝えておく。
Scene 7:その患者さん帰しても大丈夫?@救急外来
・二相性アナフィラキシー:以下の4つを全て満たす場合
①新規または再発した症状および/または診察所見が、2006年NIAID/FAANアナフィラキシー基準を満たすこと
②初期症状および/または検査所見が完全に消失してから、新規または最初の症状症状および/または検査所見が発生すること
③新たなまたは再発性の症状および/または診察所見が発言する前に、アレルゲンの再暴露がある場合は含めない
④新たな或いは再発した症状および/または検査所見は、最初の症状および/または検査所見が完全に消失してから1時間から48時間以内に発生しなければならない
・二相性アナフィラキシーの頻度は5%、発症1-48時間以内が多く。血圧低値、初回反応が重症、アドレナリン投与が複数回、誘因がピーナッツや不明、慢性蕁麻疹の既往などがリスク。治療としてはアドレナリンによる迅速な治療が最も効果的な予防となる。抗ヒスタミン薬は掻痒や蕁麻疹には有用だが、再発予防にはならない。ステロイドは二相性の予防の有用性はなく、18歳未満では二相性の僅かなリスク上昇の関連が指摘されるシステマティックレビューがあり、米国改訂版診療指針では、二相性アナフィラキシーを予防する目的でのステロイド投与は推奨されない。
・患者を帰宅させられるかについては下記から総合的に考慮する
①二相性アナフィラキシーの発生リスク(重症、複数回のアドレナリン投与に対する長時間経過観察のNNTは41人、13人)
②二相性反応を起こした際の重症化リスク・通院アクセスの良さ
③病院のキャパシティ
Scene 8:アドレナリン筋注の効かないアナフィラキシー@ER、ICU
・アドレナリン筋注で反応しない場合:①⇨③の順に考慮、β遮断薬内服患者では②の前に④を考慮する。
①アドレナリンを5-15分間隔で反復投与
②アドレナリン持続点滴:アドレナリン(1mg/A)3A+生食47mlの組成で希釈(3mg/50ml)。0.5ml~15ml/hrで使用(50kgで0.01~0.3γ相当)。実際には体重50kgで開始用量が0.02γ、最大が0.2γまで、小児では0.1γで開始が推奨される。
③バソプレシン持続点滴:バソプレシン5A(1A:20単位/1ml)を45mlの5%glu液または生食で希釈(100単位/50ml)。0.03単位/分(0.9ml/hr)で開始。維持用量0.01~0.04単位/分(0.3ml~2.4nk/hr)で使用。
④(β遮断薬使用患者では)グルカゴン点滴:グルカゴン1-5mgを5分かけてゆっくり静注(小児では20-30μg/kg(最大1mg))、その後効果に応じて5~15μg/分の点滴投与(体重によらない)※嘔吐に注意して側臥位にするなど考慮する
Scene 9:アナフィラキシーmimicer@ER
・アレルゲン暴露後の発症
①ヒスタミン中毒:赤身魚摂取によりヒスタミンが蓄積し発症する。食後に腹痛・下痢、皮膚紅潮などのアレルギー様症状を引き起こすためアナフィラキシーとの鑑別が難しい。
②食中毒:ウイルス・細菌による食中毒では体内での増殖の過程があるため、摂取から発症までの間隔は長いが、例外として黄色ブドウ球菌とアニサキスがある。黄色ブドウ球菌はおにぎりが典型で、摂取後30分~6時間で激しい嘔吐などを起こす。アニサキスは直接の消化管障害として腹痛・下痢を生じるが、特に再感染の時などは即時型反応により蕁麻疹や呼吸器症状などアナフィラキシー症状を呈する。アナフィラキシーに対して適切な治療を行った後に腹痛が遷延する場合にはアニサキス症を疑う。
③ACE阻害薬による血管性浮腫:皮膚の血管性浮腫や喉頭浮腫による呼吸苦、消化管の粘膜浮腫による腹痛・嘔気などを生じるが蕁麻疹は伴わない。治療はステロイドや抗ヒスタミン薬、アドレナリン、トラネキサム酸などだが有効性は不明。
④バンコマイシン注入反応:VCM投与後に皮膚の紅潮・紅斑、掻痒感が顔面など上半身優位に起こる反応。VCM投与によりIgEを介さずにヒスタミン遊離が生じていると考えされている。特に血圧低下を来した際にはアナフィラキシーとの鑑別が困難で同様の治療を行う。バンコマイシン注入反応であれば抗ヒスタミン薬の前投薬や組成・投与速度の変更で再投与が可能なことが多い。
・遅発性アナフィラキシー
①α-gal症候群:牛肉、豚肉など哺乳類の肉類の成分に対するアレルギー、摂取2~6時間後に発症するため原因食品に気づきにくいいことがある、マダニ咬傷を景気に発症すると考えられている、マダニの生息地域では明らかなマダニ咬傷がなくても犬の飼育歴があると鑑別となる、血液型がA・O型であることの関連する
②納豆アレルギー:ねばねば成分のPGAが原因、マリンスポーツ歴のある患者が多く、PGAがクラゲの触手にも含まれることから、クラゲ刺傷を契機に感作され納豆に対してもアレルギーを起こすと推定される。
Scene 10:アナフィラキシーの原因がわかりません@内科外来
・食物依存性運動誘発アナフィラキシー:運動の最中から運動後にアナフィラキシー症状が生じる。発症は思春期以降が多いが、少ないながらも小児や高齢者でも報告がある。原因食品としてはアジアでは小麦と甲殻類が多い。食事摂取直後〜数時間で発症する。誘因としてNSIADs、アルコール、月経期または排卵期、気温の変化、花粉症患者の花粉症暴露などがある。補助検査としいて小麦のアレルゲンコンポーネントの一つであるω-5グリアジンに対するアレルゲン特異的IgE抗体検査があり、感度78%、特異度96%と診断価値が高く保険収載されている。完全に予防する治療はなく、運動2時間前の原因食物の禁止など生活指導が重要であるが、原因食物の完全除去や過剰な運動制限など不適切な指導は避ける。
病歴での主なチェックポイント
①運動または何らかの労作の関連(どんな運動で発症し、運動中止後におさまるか)
②温浴、シャワー、サウナなど、体を温めるような行為で症状が出るか(体温変化による症状は、全身症状を伴うコリン作動性蕁麻疹の可能性がある)
③発作前の24時間以内に、薬(市販薬または処方薬)またはアルコールを摂取したか?
④症状は特定の時期・環境(例えば屋内か屋外か)で発生するか?(花粉症との関連)
・パンケーキ症候群:正式名称'口腔ダニ・アナフィラキシー'。ダニに汚染された小麦粉を使用した食品を食べた直後に重篤なアレルギー症状が起こることを特徴とする症候群。日本でもお好みや胃に混入したコナヒョウダニに対するアナフィラキシーの報告がある。ダニアレルギーの既往や食材の保存状態などを問診で確認し、疑われればダニ特異的IgE抗体検査や皮膚テストでダニ感作を確認、小麦粉からのダニの検出も考慮する(検鏡や簡易型の検査キットなど)。
・肥満細胞症:組織内に病的な肥満細胞が蓄積する一群、皮膚に限定する皮膚肥満細胞症とリンパ節・肝臓・消化管・脾臓などに浸潤する全身性肥満細胞症がある。いずれも運動を含む様々な誘因でアナフィラキシーを生じやすい。皮膚所見として色素性蕁麻疹が典型で、擦過により蕁麻疹が誘発されるDarier's signが認められれば、肥満細胞の集積が疑われ、皮膚生検を検討する部分になる。血清トリプターゼの持続的な上昇やKIT遺伝子変異の同定は診断基準に含まれるが本法では保険診療外のため、皮膚生検や骨髄政権での診断が多い。アナフィラキシーを繰り返す患者で慢性の皮膚病編として色素性蕁麻疹を疑えば肥満細胞症を考える。
Scene 11:分娩後の血圧低下
・妊婦特有の原因としては周産期に使用される薬剤(抗菌薬や筋弛緩剤、オキシトシンが多い)やラテックスを考慮する
・妊婦がアナフィラキシーを発症した際には、通常の管理に加えて①左側臥位(子宮による大動脈の圧迫を防ぐ)②血圧の維持(収縮期血圧90mmHg以上)③胎児心拍モニタリングの3点を追加する。最も大事なのは、妊婦でもアドレナリン筋注である。
・妊婦特有のアナフィラキシーの症状:外陰部または膣のかゆみ、腹痛、腰痛などがある。
・周産期アナフィラキシーの鑑別疾患:神経原性ショック(硬膜外または脊髄くも膜下麻酔)、出血、羊水塞栓症など
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