AFP(American Faamily Physician)2023年4月号が刊行されており、その中で今年で12回目となりますカナダ医師会からのPOEMs(patient-oriented evidence that matters)と認定された2022年の研究トップ20の要約が出ておりました(COVID-19以外)。長いので小分けにしてみていきましょう。
の②です。
Behavioral Health
Clinical question |
Bottom-line answer |
現在抗うつ薬を服用しており 良好な状態にある患者で 抗うつ薬を中止した後の再発の可能性はどの程度か? |
抗うつ薬を中止すると再発が多くなる。 抗うつ薬を中止したプライマリケア患者は、抗うつ薬を飲み続けた患者に比べて、1年後にうつ病が再発する可能性が有意に高い(Number need to harm=6)。楽観視すると、調子が良い時に抗うつ薬を中止したうつ病患者の44%は調子が良い状態が続く。 |
成人の急性重症うつ病および 再発性うつ病に対する単剤療法と比較した併用療法の治療効果および忍容性はどうか? |
急性重症うつ病や単剤治療に反応しない患者には併用療法が望ましい。 SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬とミルタザピンまたはトラゾドンを用いた併用療法は、急性重症うつ病の第一選択治療、および最初の単剤治療に反応しない患者に対して、単剤治療よりも有効であることがわかった。有害事象によるドロップアウト率は、併用療法群と単剤療法群で同程度であった。 |
パニック障害に対する薬物療法としてはSSRIが推奨されている。 短期間かつ不十分な研究の多いエビデンスの中で、SSRIは有効性とリスクのバランスを最もよく示している。この研究絵は薬物療法と精神療法を比較しなかったが、限られた研究のメタ分析では、一方が他方に対して有益であることを証明することはできなかった。 |
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睡眠薬は二次治療にとっておく。 このネットワークメタアナリシスでは、成人の不眠症を管理する薬剤は、有効性と忍容性の間に大きなトレードオフがあることが示された。エスゾピクロン(ルネスた)とレンボレキサント(デービゴ)は、短期および長期において、有効性と忍容性のバランスが最も優れている。バイアスリスクが低い研究は全体の2分の1程度であったため、米国国防省と退役軍人省、米国医師会は睡眠薬を二次治療に回すことを推奨しているが、これは賢明であると思われる。 |
③Relapse of Depression More Likely After Discontinuation of Medication (Number Needed to Treat to Harm = 6)(Maintenance or discontinuation of antidepressants in primary care. N Engl J Med. 2021;385(14):1257-1267.)
Clinical question
現在抗うつ剤を服用している患者さんで、調子が良い場合、服薬中止後の再発の可能性はどの程度あるのか?
本文のあらすじ
プライマリケアで治療を受けているうつ病患者は、抗うつ薬を長期間投与される可能性がある。このような環境で抗うつ薬治療を維持または中止した場合の影響については、データが限られている。
本研究はイギリスの150の一般診療所で治療を受けていた成人を対象に、無作為化二重盲検試験を実施した。
P:少なくとも2回のうつ病エピソードの既往があるか、2年以上抗うつ薬(シタロプラム、フロキセチン、セルトラリン、ミルタザピン)を服用しており、抗うつ薬の中止を検討できるほど体調が良い患者
I:現在の抗うつ薬治療を維持
C:プラセボを使用してその治療を2ヶ月かけて漸減・中止
O:primary outcomeは52週間の試験期間中のうつ病の再発。secondary outcomeは、抑うつ症状、不安症状、身体症状、離脱症状、QOL、抗うつ薬またはプラセボを中止するまでの時間、グローバルな気分評価
試験参加者は478人(維持群238人、中止群240人)、平均年齢54歳、女性73%。
52週までに、維持群では238人中92人(39%)、中止群では240人中135人(56%)が再発した(ハザード比2.06;95%CI、1.56~2.70;P<0.001)。secondary outocomeとして、抑うつ症状および不安症状は、平均して中止群でより重度であった。さらに、中止群ではより多くの患者がプラセボの服用を中止し(48% vs 30%;HR 2.28;1.68~3.08) 、より多くの患者が抗うつ薬の服用を再開した(39% vs 20%)。また、7項目の全般性不安障害質問票と9項目の患者健康質問票の平均スコアも、中止群で有意に高くなった。
感想
自分たちが普段継続的に診療する機会があるとすれば軽症うつ病かうつ症状に伴う身体症状でのフォローなどですかね。まだ長年抗うつ薬を自分が出している人はあまりいませんが、改めて安易な中止は避けようと思います。
④Combination Antidepressant Therapy Is More Effective Than Monotherapy for Acute Severe Depression and Nonresponding Depression(Combining antidepressants vs antidepressant monotherapy for treatment of patients with acute depression. A systematic review and meta-analysis. JAMA Psychiatry. 2022;79(4):300-312.)
Clinical question
成人の急性重症うつ病および再発性うつ病に対する単剤療法と比較した併用療法の治療効果および忍容性は?
本文のあらすじ
成人における急性重症うつ病および反復性うつ病の初回エピソードの最適な管理は、依然として不明である。
本研究は、複数のデータベースにおいて、抗うつ薬単独療法と抗うつ薬2剤の併用療法を比較した無作為化試験を言語制限なく検索した。主要アウトカムは、標準化平均差(SMD:低いほど効果が低い)として測定された治療効果である。
併用療法は、初回治療および非反応者において、単剤療法よりも優れた有効性を示した(SMD 0.31;95% CI 0.19~0.44)。バイアスのリスクが低い研究のみに限定しても結果は同様であった。ミルタザピン(NaSSA)またはトラゾドンの併用は、初回治療および非反応患者において、単剤療法と比較して優れた有効性と関連している。ブプロピオン(SNRI)との併用療法は、初回治療では単剤療法と比較して優れた治療成績とは関連しなかったが、非反応例では単剤療法よりも優れていた。
感想
精神科紹介の領域かと思いますが、うつ病患者に出会った時に精神科医とディスカッションをするために知っておくべき知識ですね。
⑤Selective Serotonin Reuptake Inhibitors Are Probably the Best First Option for Patients With Panic Disorder(Drug treatment for panic disorder with or without agoraphobia: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2022;376:e066084.)
Clinical question
本文のあらすじ
不安障害についての12,800人が参加した87のランダム化比較試験のネットワークメタアナリシスで、パニック障害の治療薬として12種類の薬剤(三環系抗うつ薬、SSRI、MAO阻害薬、SNRI、NaSSA(例:ミルタザピン)、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(例:レボキセチン)、ベンゾジアゼピン、ノルアドレナリンおよびドーパミン再取り込み阻害薬(例:ブスピロン)、β遮断薬)が評価された。
メタ分析の結果、最も有効な薬剤はベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ薬、SSRIであり、SSRIが最も副作用のリスクが低いことがわかった。セルトラリンとエスシタロプラムは、高い寛解率と低い有害事象のリスクのバランスが最も優れていた。
すべての薬物クラスにおいて寛解と有害事象の両方を考慮したSUCRAクラスター順位プロットは、SSRIが寛解が高く、有害事象のリスクが低いことと関連していることを示した。
※右上の治療法は、他の治療法と比較して、より効果的(すなわち、寛解率の増加)かつ安全(すなわち、有害事象のリスクの低下)
しかし、他の研究では、認知行動療法やマインドフルネスに基づく療法が薬物療法と同等の効果がある可能性が高いことが分かっていることは重要なことである。
感想
ジェイゾロフトは使いやすくて、レクサプロはシャープ、SSRIは吐き気はあるけど1週間で慣れるからと伝える、最初は短時間ベンゾ頓用(メイラックスなど)でも使ってもらう、と教わってきて、基本出すならジェイゾロフトでやってきたのでこのまま続けようと思いました。レクサプロはあまりだし慣れていないですが。
⑥Hypnotic Agents Are Effective for Insomnia but at the Expense of Adverse Events(Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2022;400(10347):170-184.)
Clinical question
本文のあらすじ
幅広い種類の睡眠薬とプラセボを比較した無作為化二重盲検比較試験154試験について、ネットワークメタアナリシスを実施した。ベンゾジアゼピン、メラトニン、トラゾドン、エスゾピクロン(ルネスタ)、レンボレキサント(デエビゴ)などの新しい短期作用型睡眠薬を含む20種類の薬剤および薬剤クラスからなる個別試験が含まれた。不眠症の急性管理(中央値2週間)および長期管理(中央値25週間)における薬物療法の有効性と忍容性を評価した。
最も効果が期待できる薬剤は、長期的にはエスゾピクロンとレンボレキサント、短期的にはエスゾピクロン、レンボレキサント、ベンゾジアゼピン、セルトレキサント(米国で臨床試験中)、トラゾドン、トリミプラミン、ゾピクロン(米国では入手不可)、ゾルピデムであった。しかし、どの薬剤も比較的高い確率で副作用が発生した(プラセボも同様であったが)。
下は視覚的に各薬剤の有効性(症状改善)、受容性(全脱落)、忍容性(有害事象による脱落)を急性期治療(左)と長期治療(右)の両方で視覚化したもの。
安全性(有害事象が発生した参加者)は、一番下のウェッジで報告されており、治療終了時の結果である。
色は、緑(介入はプラセボより優れている)、黄色(プラセボより優れているか劣っているか不明)、赤(介入はプラセボより劣っている)の順に、対象となる介入の相対的パフォーマンスとプラセボと比較した推定値の精度を示す。推定イベント率は治療群(灰色の長方形)とプラセボ(水色の円)の絶対パーセントで表される。色のついたウェッジタイトルは、解析のためのデータの有無を示す。
AEs=有害事象
最も効果が期待できる薬剤は、長期的にはエスゾピクロンとレンボレキサント、短期的にはエスゾピクロン、レンボレキサント、ベンゾジアゼピン、セルトレキサント(米国で臨床試験中)、トラゾドン、トリミプラミン、ゾピクロン(米国では入手不可)、ゾルピデムであった。
エスゾピクロンとレンボレキサントが、短期および長期における有効性と忍容性のバランスが最も優れていると結論付けられた。しかし、エスゾピクロンは有害事象が多く、レンボレキサントの安全性データは結論が出ていなかった。
今回のメタアナリシスでは、バイアスリスクが低い研究が半数程度であったため、米国国防総省、退役軍人局、米国医師会のガイドラインの通り、睡眠薬を二次治療として保留することが賢明であると考えられる。
感想
あくまで二次治療としてですが、薬ではルネスタとデエビゴが良いとのことです。
最近はベルソムラからデエビゴに以降してデエビゴの処方頻度が増えました。あとはデジレルの処方が多いです。ルネスタは非ベンゾ系ですが、時々マイスリーを処方していて、ルネスタはあまり使用経験がありませんでした。薬物治療以外を主軸とするとして、薬では今後はこの2剤を中心に、お金のことなどと合わせて処方していければと思います。