地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230610 NEJM:レビュー PRES

実は診療したことないPRES。今週のNEJMのレビュー。

さまざまな画像パターンの頻度、さまざまな背景疾患など勉強になりました。

マネジメントに関しては下げすぎない程良い降圧と誘因物質/薬の除去、妊娠時の対応など実践しようと思います。

 

Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome(N Engl J Med 2023; 388:2171-2178)

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1 sentence summary

急性の重症高血圧や化学療法薬や免疫抑制剤など特定の薬剤や毒性物質への曝露がある患者において、頭痛、脳症、痙攣などの神経症状と特徴的な画像変化を伴う急性から亜急性の症候群

 

疫学

・末期CKD患者の 0.8%

・SLE患者の約 0.7%

・固形臓器移植を受けた患者の 0.5%

・子癇または子癇前症の患者の 20-98%

・ケースシリーズではすべての年齢層で発症し、若年および中年成人での発症率が最も高く、男性よりも女性で多く見られる

・平均年齢は 57 歳、72%が女性、68%が白人

 

病態

いくつかの仮説がある

・高血圧あり:急性高血圧症例における脳血管調節障害(血液脳関門の破壊)と毒物曝露に伴う脳血管内皮機能障害。PRESの特徴である後頭葉と後頭頂葉の特徴的な病変は、後大脳領域の交感神経支配が前大脳領域よりも少ないため、これらの領域が血圧の変化による傷害を受けやすいことに起因している可能性がある。

・高血圧なし:内皮機能障害をもたらすいくつかの特定できないプロセスが示唆される。免疫修飾剤や細胞毒性剤への曝露、自己免疫疾患、がん、敗血症、腎不全などの全身疾患で血管機能を破壊する可能性が考えられる。

・共通するメカニズム:血液脳関門の破壊に伴う脳血管内皮障害、血管原性浮腫

※神経学的症状、特に後頭葉の視覚変化は浮腫の結果であると推定されるが、昏睡や痙攣などの他の側面の病因は不明

 

症状

・最大94%が生じる典型的特徴は、脳症(軽度の錯乱から昏睡まで幅広い)

・最大50%が鈍い全体的な頭痛を緩徐に生じる、雷鳴様に生じることもある

・20-39%で視覚異常(視力低下、視野欠損、visual neglect、幻覚、失明など)を生じる

・頻度は低いが、局所的な麻痺、協調運動障害、反射亢進、脊髄症状などがある。

 ・635人の患者を対象としたレトロスペクティブケースシリーズでは、最初の症状は50%が痙攣で、20%が視覚障害または言語障害であった。

 

画像

・頭部CT:両側大脳の後方循環領域の浮腫

・頭部MRI:両側の白質領域、典型的には後頭葉に信号変化が多い。頻度は少ないが片側または灰白質の信号変化や他のパターンも報告されている。

・部位別の頻度はこちら

頭頂・後頭部領域(65-99%)

前頭部領域(54-88%)

側頭部領域(68%)

視床領域(30%)

小脳領域(34-53%)

脳幹領域(18-27%)

基底核(12-34%)

後頭部と頭頂部の同時信号変化(22%)

両側半球分水嶺(23%)

上前頭回(27%)

上記の混合パターン(28%)

 

非典型的に小脳半球に生じることもある

※MRAやCTAでは血管拡張を伴うびまん性または局所性の血管収縮(数珠状パターン)を示すことがあるがこれらはRSVSで一般的

 

鑑別診断

脳梗塞(特に後方循環や分水嶺

・RCVS(一部PRESと重複あり)

・中枢神経感染症

脱髄疾患

・脳腫瘍

・硬膜静脈洞血栓症

・CNS血管炎

・中毒性脳症

ミトコンドリア障害など

鑑別疾患と比較してのPRESらしさは

・極端かつ急激な高血圧患者

・既知の薬剤が誘因として考えられる

 

マネジメント

PRESが速やかに発見され、根本的な原因に対処すれば、ほとんどの患者は回復する

ポイントは3つ

①発症原因の迅速なコントロール、被疑薬の中止:特に薬の中止

背景にある基礎疾患

全身疾患

急性・慢性腎不全、原発性アルドステロン症、敗血症・ショック、褐色細胞腫

妊娠関連

子癇前症、子癇、HELLP症候群

自己免疫疾患、膠原病

SLE、強皮症、シェーグレン症候群、クリオグロブリン血症、炎症性腸疾患、橋本病、PSC、APS、GPA、GCA、PAN

処置後の状態

固形臓器移植、幹細胞移植、免疫グロブリン輸血、ECMO、骨髄移植、輸血、脊椎手術、頸動脈手術、心臓外科手術

血液疾患

鎌状赤血球症、PNH、TTP、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病非ホジキンリンパ腫

代謝性疾患

急性間欠性ポルフィリン症原発副甲状腺機能亢進症

神経系疾患

NMOSD、頚動脈解離、亜急性硬化性全脳炎、もやもや病、頭蓋咽頭

 

誘因となる薬剤、物質

※薬剤は可能な限り中止するが、改善するかどうかの結果は一定しない。

 

②支持療法:高血圧、痙攣

降圧

・目標血圧は定義されていない

・最初の 1 時間で収縮期血圧の 25%を超えないようにする

・ 24~48 時間かけて血圧を慎重に正常化させる

・患者の普段の血圧からの上昇の絶対値と上昇速度が関連している

・ニカルジピン、クレビジピン、ラベタロールなど作用が早く調節性のある静注剤が推奨される

・大動脈解離、褐色細胞腫、子癇、冠動脈疾患、腎疾患などの併存疾患があればその都度その疾患の高圧を考慮する

痙攣抑制

・痙攣対応は一般的なものと同様

・低ナトリウム血症など一般的な介入が容易な痙攣の原因も検索すべき

・PRES と痙攣のある患者 84 名を対象に 3 ヶ月間治療を行い3 年間追跡したケースシリーズの長期成績では、3%の患者に遅発性痙攣再発が生じ、1%の患者にてんかんが発症した

 

③妊娠時の対応

・妊娠時はPRESというよりも子癇と診断される、この場合は下記の対応となる

・妊娠中あるいは妊娠後の子癇の診断は典型的な臨床症状と神経画像の特徴に基づいて行われる

・鑑別として脳静脈洞血栓症やRSCVSなどを考慮

・高血圧と痙攣に対する治療は、硫酸マグネシウムの静脈内投与が選択される。重症の高血圧に対しては、ヒドララジンやラベタロールの静注を追加し、痙攣に対してはジアゼパムやフェニトインを使用する。

 

予後

・一般に適切な管理により良好な転帰をたどることが多い。

・入院患者 63 名を含む 1 つのレトロスペクティブケースシリーズでは、2.2%が入院中に死亡

・6つの研究のメタアナリシスでは、予後不良は画像での脳出血や細胞毒性浮腫と関連、予後良好は子癇前症や子癇によるPRESと関連

・癌患者で昏睡、痙攣、大量の脳浮腫があった患者5名を含む1シリーズでは、積極的な治療後に良好な機能予後が報告された