地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230823:STEC HUSの腎外症状

問題です。

1:STEC HUSの神経合併症で生じうるものはどれか?

a) Seizures

b) Stroke

c) Coma

d) All of the above

 

2:STEC HUSの急性期に生じる高血糖の機序は?

a)  Dextrose containing dialysate solutions

b)  Stress response of the body

c)  Pancreatic involvement in STEC HUS

d)  Dextrose containing IV fluids

 

3:以下の胃腸合併症のうち、STEC HUSの数ヵ月後に起こる可能性のあるものはどれか?

a) Hepatitis

b) Bowel stricture

c) Appendicitis

d) Meckel’s diverticulum

 

4:STEC HUSの合併症として報告されていないものは?

a)  Elevated bilirubin

b)  Diabetes mellitus

c)  Pigmented gallstones

d) Arthritis

 

5:3歳の女児がSTEC HUSで入院2日目に突然循環不全を起こした。患者は腹膜透析を受けている。この時点で行うべき重要な検査は?

a)  Coombs testing

b)  Cardiac ECHO

c)  Ultrasound of the pancreas

d)  Repeat stool cultures

 

お疲れ様でした。

1問でもわからなかった方は以下の記事を読んでみてください。(うざいですね、自分も全然わかっていなかったです、すみません)

正解は最後にあります。

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Pediatric Nephrology volume 34, pages2495–2507 (2019)

 

 はじめに

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害の三徴候で定義される。
・米国では、下痢に関連したHUSのほとんどの症例は志賀毒素産生性大腸菌(STEC)0157:H7によるものである。STECに続発する下痢症患者の約15%に発症する。

・最近では、HUSを引き起こす病原体として、血清型の異なる他の大腸菌株も出現している。ドイツでは2011年に、汚染されたもやしによる大腸菌血清型O104:H4によるSTEC HUSが大流行した 。

大腸菌以外では、肺炎球菌、赤痢菌、Citrobacter freundi関連感染症のまれな症例で報告されている。
・STEC HUSは、小児における急性腎障害の一般的な原因であり、血栓性微小血管症(TMA)により腎障害を呈する溶血性尿毒症症候群のすべての患者に腎病変が認められ、50%の患者が何らかの腎代替療法を必要とする。
・腎臓以外の臓器障害としては、中枢神経系、消化管、膵臓、筋骨格系、心臓、その他がある。

・今回はSTEC HUSの腎臓以外の臓器障害をまとめる。(以下まとめtable)

STEC HUSの腎外症状

 

 病態生理

・STEC HUSは、いくつかの臓器の細小血管、特に腎細小血管に微小血栓を形成するTMAを特徴とする。STEC HUSにおける急性腎障害および他の臓器系を含む合併症は、主にTMAによるもの。

TMAの存在下では、血管内皮細胞の腫脹と剥離とともに、細動脈と毛細血管の肥厚が観察される  。
・志賀毒素(Stx)を産生するプラスミドを有する大腸菌は、Stx-1および/またはStx-2を産生する。HUSを発症する小児のほとんどは、Stx-1とStx-2、またはStx-2のみを産生する大腸菌に感染している。
・Stxが大腸細胞から標的臓器に輸送される正確なメカニズムは完全には解明されていないが、感染時に大腸菌が腸粘膜細胞に付着し、Stxを放出することで大腸血管に損傷を与え、それによってStxが血流に入ると推測されている。

・Stxはスフィンゴ糖脂質グロボトリアオシルアミド(Gb3Cer)受容体を発現する細胞に結合する。Gb3Cerレセプターは腎臓組織で発現しており、Stxとの結合により腎微小血管系が顕著に侵される 。様々な臓器における細胞性Gb3Cerリセプターの多様な発現が、Stxに対する臓器特異的な反応の理由かもしれない。
・Gb3Cer受容体に結合したStxはエンドサイトーシスされ、細胞内でタンパク質の合成を阻害し、アポトーシスを引き起こす。また細胞内サイトカインレベルの上昇もこのプロセスに寄与している 。
・内皮細胞死は、白血球/フィブリンの沈着、微小血栓の形成を伴う微小血管の機能不全をもたらす。白血球と好中球は損傷した内皮細胞と相互作用し、炎症に拍車をかけ、微小血管障害を悪化させる  。

 

Central nervous system involvement

疫学
・STEC HUSによる神経疾患の発生率は約17~34%
神経病変は、疾患の重症度や死亡率の高さと関連してい
中枢神経症状はHUSの第4の症状と考えられている

 

病態生理
・中枢神経症状の正確なメカニズムはまだ明らかではない
・Stxが誘発する血管傷害と内皮機能障害に、代謝異常や高血圧に伴うサイトカイン放出が組み合わさったものであろうと推測される
・剖検所見では、大部分で低酸素性虚血性病変とそれに伴う脳浮腫と一致する所見であった。全例ではないが、ほとんどの症例で血栓性微小血管障害の証拠も認めた。

 

臨床症状
・多施設共同レトロスペクティブ研究(J Infect Dis. 2002 Aug 15;186(4):493-500.)では、神経学的病変を有する患者52人中9人(17%)が死亡し、12人(23%)が重度の障害を有し、5人が軽度の後遺症を有し、26人(50%)が完全に回復した。52人の患者での神経学的異常は、精神状態の変化(44人)、痙攣(37人)、錐体路症状(27人)、錐体外路症状(22人)であり、12人の患者は、他の神経学的症状に加えて昏睡状態であった 。また、複視、失語、顔面神経麻痺などの限局的な神経学的異常を示す患者もいた。 以上から、中枢神経系のどの部位も侵される可能性があると考えられた。

神経学的病変を伴うHUSの経過の初期にMRI画像で認められた特異的な変化や異常で、経過の後期に神経学的転帰が悪くなることを予測させるようなものはなかった。

 

治療
・神経病変に対する特異的な治療法はない。
・抗痙攣薬:一般的な治療だが、根本的治療とはならない
血漿交換:神経学的障害が微小血管血栓症とStxの直接毒性によるものであるSTEC HUSでは、有益とは考えられない。 2011年にドイツで大腸菌O104:H4が集団発生した際、あるセンターで一部の患者を対象に血漿交換が行われたが、転帰の改善とは関連せず、むしろ神経論理学的症状の悪化と腎機能の悪化に関連していることが観察された。619人のHUS患児を対象とした大規模なプロスペクティブ研究では、38人の小児が血漿交換を受け、血漿交換と高血圧・神経学的症状・透析の必要性の有無との間に有意な関連が認められた。しかし、両試験で血漿交換を受けた患者は、より重症の患者であった可能性が高く、神経症状や腎機能障害が重症HUSの結果なのか、血漿交換の使用によるものなのかの判断は難しい。STEC HUSの成人患者を対象とした5人の小規模研究では、血漿交換が有益であることが判明したが、この所見は大規模研究で再現されていない。

・エクリズマブ:補体カスケードの終末複合体を遮断するモノクローナルC5抗体であり、補体を介するatyoical HUSの患者に対して優れた治療成績をあげているが、STEC HUSにおけるエクリズマブの有用性は不明。2011年にドイツで発生したSTEC HUSの重症例に対するエクリズマブの使用に関する症例報告では、良好な転帰が最初に報告されたが、その後の研究では、エクリズマブが転帰の改善につながらないことが示されている。

 

長期アウトカム

・神経障害から完全に回復する例もあれば、長期にわたって障害が残る例もある

・20ヶ月女児のSTEC HUSの症例(Radiol Case Rep. 2023 Jun; 18(6): 2268–2273.):痙攣、昏睡、瞳孔固定、失明、失語、斜視、運動障害を呈したが、入院35日目までに症状は完全に消失、18ヶ月後にも症状の残存はなかった。画像所見は入院1週では頭部MRIで広範な病変を認めたが、10ヶ月後にはほとんど消失していた。

入院1週での頭部MRI
T2WI:後頭葉の皮質下白質(細い黒矢印)、側脳室三角部周囲(太い黒矢印)、両側外包(開いた矢印)に高信号

10ヶ月後の頭部MRI:病変はほとんど消失している
T2WI:左の側脳室三角部周囲の白質に小さな高信号のみ。

急性期に脳卒中重篤な神経障害をきたした患者は、長期にわたって神経障害が残る可能性が高い。

・HUSで神経学的障害を受けた22人の小児の追跡調査(Pediatr Nephrol. 1996 Aug;10(4):504-6. ):2年後に検査したところ、マッチさせた対照群と比較して、認知スコアと学力スコアが低かった。

・HUSで神経学的障害を受けた7人の小児の追跡調査(Pediatr Nephrol 10:504506):7年後に調査したところ、有意な認知障害は認められなかった。

・退院時に神経学的病変を認めなかったSTEC HUS患児の追跡調査(Arch Dis Child. 1999 Mar;80(3):214-20.):平均4年後に検査したところ、学習障害、行動、注意のリスク上昇を示す証拠は見つからなかった。

大腸菌O104:H4関連HUSの小児における長期的な神経学的後遺症追跡調査(Pediatr Nephrol. 2014 Sep;29(9):1607-15.):3,6,9ヶ月時点での脳波(EEG)異常を追跡することにより、を評価し、成績・認知・行動・体力の変化、脳波異常を評価した。3ヵ月後時点では、軽度から中等度の背景活動の鈍化などの脳波異常が患者の35%に観察され、成績低下が67%、行動・認知の変化が55%、体力低下などの身体症状が50%に報告された。急性期に中枢神経系が侵された患者では、上記症状と脳波異常の発生率がわずかに高かった  。6ヵ月時点では、脳波の変化は患者の19%、成績低下は44%、認知・行動の変化は36%、体力低下は10%で、すべての症状が改善した。6~9ヵ月後時点では、神経心理学的検査が実施され、中枢神経系が侵された患者では、そうでない患者と比較して、IQがわずかに低いことが示された(113.4 + 2.8 vs 119.4 + 1.8)。

 

中枢神経系感染症

Clostridium septicum中枢神経感染は非常に稀だが、非常に重篤な合併症であり、ほとんどの報告例で致死的
TMAにより大腸組織の壊死を引き起こし、大腸粘膜壁の完全性が損なわれ、C. septicumが血流に乗る他臓器に広がる。C.septcumは正常な腸内細菌叢と考えられているが、壊死した腸組織ではpHが低下し低酸素となることで、血流感染が生じる。

STEC HUSにおけるC. septicumによる中枢神経系感染の症例報告集




Gastrointestinal complications

腸管病変

・血性下痢:STEC HUSの前駆期には、通常血性の下痢がよくみられる。下痢は前駆期を過ぎ、HUSと診断された後も続くことがある。
TMAによる消化管病変:腹痛および/または腹部膨満とともに、持続する肉眼的血性下痢として現れ、重症例では、腸虚血、壊死、穿孔に進展することがある 。
CDI:偽膜性大腸炎や中毒性巨大結腸などの合併症も報告されている  。

・肛門発赤:肛門の拡張、肛門括約筋の弛緩と収縮を交互に繰り返すと ともに、肛門と肛門周囲の皮膚が赤く見える ことが、3歳未満の3人の患児で報告されている。また、肛門粘膜は静脈うっ血のためと思われる青みがかった変色が認められた。

・直腸脱:STEC HUSの小児37人を対象とした研究では、3人に直腸脱がみられたと報告。単一施設に来院した76人のHUS患児を対象とした別のレトロスペクティブスタディでは、10人に直腸脱が観察された。

・大腸狭窄:HUSの初発症状から数ヵ月~数年後に、腹部膨満、嘔吐、体重増加不良を呈したときに診断される。

大腸狭窄像

大腸切除術中写真:大腸に付着する癒着バンド

胆石形成

・HUSから数ヵ月後に色素沈着した胆石が形成されたというまれな症例報告がある。

・輸血を1回要したが透析を必要としなかった15歳女児のSTEC HUSの症例(World J Gastroenterol. 2006 Apr 14; 12(14): 2291–2292.):STEC HUSのエピソードから4ヵ月後に、疝痛を伴う右上腹部痛を呈し、胆嚢内にスラッジを伴う総胆管の拡張を指摘、保存的管理の後、2ヵ月後に胆石による右上腹部痛で再度来院し、腹腔鏡下胆嚢摘出術が必要となった 。
 

肝病変

・溶血によりビリルビンの上昇し、黄疸の徴候を呈し、肝血管系に関与するTMAの結果肝酵素上昇を呈する可能性がある。
・単一施設に来院したHUS患児76人のレトロスペクティブレビュー(J Pediatr Gastroenterol Nutr. 1990 Nov;11(4):518-24.):47人中23人に間接的高ビリルビン血症を認めた。肝酵素の上昇は43人中25人にみられたが、正常範囲から5倍の上昇は6人の小児にしかみられなかった。肝酵素上昇がみられた小児のうち、肝不全や慢性肝炎を発症した患者はいなかった。

 

膵病変

・アミラーゼ・リパーゼの上昇:急性期のSTEC HUS患児によくみられる。血漿中膵酵素の上昇は、STEC HUSに罹患した小児の66%で認められた  。アミラーゼとリパーゼの両方が腎臓で部分的に除去されるため、腎不全ではこれらの血清レベルが上昇する事に注意する。

・膵炎:アミラーゼとリパーゼの有意な上昇を伴う膵炎を発症し、その後高血糖を呈したSTEC HUSの2歳児の症例が報告されており、1年後の経過観察で膵外分泌・内分泌不全が持続し、CTで萎縮した膵臓が認められた。

ごくまれに、HUSの後期に石灰化を伴う膵臓の完全壊死を呈することがある 。

腹部造影CT
膵臓壊死を示唆する所見を伴う膵臓の腫大。

インスリン依存性糖尿病(IDDM)::STEC HUS関連で急性期と遅発性の両方で起こりうる。膵微小血管系での血栓形成による膵機能障害、膵島細胞の壊死、その結果として膵臓の内分泌機能が障害され、インスリンの分泌が低下する。膵島細胞の細胞質、表面抗原およびインスリンに対する抗体は検出されていないため、抗体を介した膵島細胞の損傷によるものではないと考えられる。剖検所見では、TMAがランゲルハンス島を選択的に侵すこともあれば、膵外分泌および膵内分泌の両方をびまん性に侵すこともある 。

急性期IDDM:STEC HUSを発症した小児の8%(3/37)が急性期に耐糖能異常を発症(J Pediatr Surg. 1995 Feb;30(2):158-63.)。高血糖を認めた8名のうち(8/121)7人は、グルコース管理のためにインスリンによる治療を必要とし、インスリン治療の平均期間は18日(1~46日)であった  (Nephron. 1995;71(1):54-8. )。メタアナリシスでは、HUSの急性期におけるIDDMのプールされた発生率は3.2%であり、重症の小児に多く発症し、これらの小児はIDDMを発症しなかった小児と比較して死亡率も23%と高かった(Diabetes Care. 2005 Oct;28(10):2556-62.)。

遅発性IDDM:HUS(急性期に短期間インスリンを使用したがすぐり中止)から11年後にIDDMを発症した2歳の男児の症例(Pediatr Nephrol.2007 Feb;22(2):294-7.

 )、下痢関連HUS(急性期に短期間インスリンを使用したがすぐり中止)から8年後に糖尿病を発症した2人の小児症例(J Paediatr Child Health.2016 Jul;52(7):771-3.

)、6歳で下痢関連HUS(21日間インスリンを必要とした)から6.8年後にIDDMを発症した12歳の少年の症例(Diabetes Care 2006;29(4):947–948)などが報告されている。

 

Cardiovascular complications

・高血圧、うっ血性心不全、心嚢液貯留、心筋機能低下、左室肥大、心筋梗塞などは、STEC HUSの小児でよく報告されている。
・高血圧:腎臓が関与するTMAの状態で、体液過剰、電解質異常など一連の状態によるものと推測される。HUSにおける高血圧の発生率は、入院中27%、ドイツで発生したの大腸菌O104:H4HUSでは、来院時約33%(Clin Infect Dis. 2012 Sep;55(6):753-9.)。

・心血管疾患の症例報告のまとめは以下table 

・STEC HUSで死亡した64例の剖検では、19例に心病変がみられ、うち15例に心筋血管にTMAがみられ、2例にTMAを伴わない多発性出血と壊死巣がみられ、2例に左室壁に肉眼的に見える梗塞領域がみられた(Pediatr Nephrol. 1995 Feb;9(1):117-9. )

 

Rare case reports

眼病変

・STEC HUSによる眼病変の症例報告(J Pediatr. 2014 Aug;165(2):410-410.)(Arch Ophthalmol. 1998;116(8):1119-1120. )TMAに続発する網膜出血や視神経に沿った虚血性病変として現れることがある

眼底鏡所見:網膜出血が散見する

 横紋筋融解
HUSに関連した横紋筋融解症の症例報告(J Pediatr. 1983 Jul;103(1):78-80.)(Child Nephrol Urol. 1991;11(4):223-7.):進行性の筋力低下と筋圧痛 。

 

まとめ

・急性期腎外合併症:STEC HUSで入院した小児は、神経学的状態を注意深く観察する必要がある。血糖の上昇は糖尿病の発症を疑わせ、血行動態の不安定性は心原性ショック(心筋梗塞)を考える。腸管虚血/穿孔が起こることがあり、この場合患者は激しい腹痛と急性腹症の徴候を呈する。眼病変および横紋筋融解症はまれ。

・長期腎外合併症:大腸狭窄、胆石、IDDM、神経障害の残存など。

 

Answers

1. d

2. c

3. b

4. d

5. b

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勉強になりました。

 

HUSの腎外症状について、今回勉強してみました。HUS自体が小児に多く、今回初めて診療にあたりました。透析を要し、腎症状が目立ちましたが、腎外症状を注意してみていくこと、また長期的にも合併症が生じる可能性があることなどは意識しないといけないと思いました。