地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230817:NEJM Clinical Practice:Community-Acquired Pneumonia

今週のNEJMに市中肺炎のClinical Practiceがありました。コロナ流行が再び、という最近ですが、そんな時だからこそCAPの勉強をしておきましょう

 

Community-Acquired Pneumonia

N Engl J Med 2023; 389:632-641

 

はじめに
・Community-acquired pneumonia(CAP)とは、院内感染と区別した、市中で感染した患者における急性肺感染症
・米国では、入院および死亡の主な原因の一つであり、毎年約600万件の症例が報告されている。市中肺炎による入院の年間発生率は、人口10万人当たり成人約650人であり、毎年150万人がこの疾患で入院していることになる。
・市中肺炎のリスク要因は、高齢、慢性肺疾患、慢性心疾患、心血管疾患、糖尿病、栄養不良、ウイルス性気道感染症、免疫不全、喫煙、過度の飲酒などがある。

・病原体が肺胞の防御機構を克服すると、局所的な組織障害を引き起こし、肺胞マクロファージを刺激してサイトカインやケモカインを産生し局所炎症反応を引き起こす

⇨サイトカインが血流に流出すると全身性の炎症反応が起こる

⇨一部の患者では全身性炎症反応により臓器機能障害を引き起こすことがある



 

原因微生物

※Uncommon or infrequentな微生物は、下記のようなリスクや免疫不全で生じうる

CAP Pathogen

Specific Risk factors

Influenza

地域におけるインフルエンザ流行、感染者との濃厚接触

SARS-CoV-2

地域におけるSARS-CoV-2流行、感染者との濃厚接触

MRSA

MRSA感染歴または保菌歴

Pseudomonas aeruginosa

緑膿菌感染歴または保菌歴

Multi-drug resistant (MDR) GNR

MDR-GNR感染歴または保菌歴

Oral anaerobic bacteria

口腔衛生不良

Chlamydophila psittaci

鳥類への暴露

Coxiella burnetti

家畜または出産が近い猫への暴露

Francisella tularensis

ウサギへの暴露

MERS-CoV

感染しているラクダへの暴露(アラビア半島への旅行)

Coccidioides species

米国南西部への旅行

Histoplasma capsulatum

コウモリや鳥の糞への暴露

 

 

 

診断
・CAPの診断は、胸部レントゲン(CT写真)に認められる浸潤影に加え、症状、身体所見(crackles、rhonchi、egophonyなど)、炎症性バイオマーカーに基づいて行われる。
・プロカルシトニン:一般的に細菌性CAPでは上昇するが、ウイルス性CAPでは上昇しないため、細菌性CAPの診断の補助をする可能性がある。また、細菌感染の消失とともに速やかに低下し、抗菌薬治療を中止する判断材料となる。しかし、プロカルシトニン値は、偽陽性を示すことがあり(例:出血性ショックや腎障害)、プロカルシトニン値が正常でも肺炎を起こす細菌(例:マイコプラズマ)があるため、確定的な指標とはならない。

 

微生物学的検査

外来

・経験的抗生物質療法がほぼ成功しているため、外来で治療を受けているほとんどの患者には、細菌性微生物学的検査は一般的に推奨されていない。

・ウイルス(SARS-CoV-2やインフルエンザなど)の検査は、その結果が治療法の選択に影響する可能性があるため、考慮すべき。

 

入院

・入院患者の市中肺炎の病因診断を確立することは、特定の病原体に対して使用する抗生物質を適切に選択すること、優れたantimicrobial stewardshipを推進すること、SARS-CoV-2感染やレジオネラ症などの届出疾患に関連する病原体を同定することなど、いくつかの理由から重要。

・推奨される検査には、喀痰のグラム染色/培養、血液培養、肺炎球菌尿中抗原、レジオネラ・ニューモフィラ血清群1の尿中抗原、SARS-CoV-2を含むマルチプレックスアッセイなど。

・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)感染のリスクがある場合は、鼻腔スワブを採取してPCR検査を行うことが有用。

 

重症度

・CURB65やPSIなど重症度スコアを用いることは有用であるが、併存疾患、低酸素血症の有無、在宅支援の妥当性、治療遵守の可能性など、多くの要因によって介入の方法が決まる。

・CURB65

hokuto.app

・PSI

hokuto.app

ICU治療が適応となる重症CAPの診断基準

The American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America (ATS–IDSA) criteria for defining severe community-acquired pneumonia

 

治療

外来

外来患者
・65歳未満で健康であり、最近抗生物質による治療を受けていないほとんどの患者には、以下の3種類の内服薬のいずれかを推奨

○アモキシシリン(1g1日3回)
○ドキシサイクリン(100mg1日2回)
マクロライド(アジスロマイシン1日目に500mg⇨2日目から1日250mg、またはクラリスロマイシン500mg1日2回[徐放性で1日1000mg])
マクロライド系抗菌薬は、マクロライド系抗菌薬に対する肺炎球菌耐性が25%以下の地域でのみ考慮すべきである(米国は耐性が30%を超える)

・過去3ヵ月以内に抗生物質による治療を受けている患者、重篤な併存疾患(慢性心疾患、肺疾患、腎疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症など)を有する患者、喫煙者には、以下のを推奨

○アモキシシリン・クラブラン酸塩(875mg1日2回経口投与[徐放性2gを1日2回経口投与])+マクロライド(優先的に使用)またはドキシサイクリンのいずれか

※アレルギーや副作用のためにβ-ラクタム薬を服用できない患者には、レボフロキサシン750mg/日またはモキシフロキサシン400mg/日、または最近承認されたレファムリンまたはオマダサイクリンのいずれかを使用する

入院

・重症CAPかどうか、緑膿菌リスク/MRSAリスクがどうかで治療を決定する

・Group1:重症CAPではない、緑膿菌/MRSAリスクが低い

⇨β-ラクタム+マクロライドまたはドキシサイクリンの併用療法、代替療法としてフルオロキノロン単剤療法が推奨される

※RCTのデータは不足しているが、多くの観察研究でマクロライド併用レジメンが重症市中肺炎患者の臨床転帰を改善することが示唆されており、これはおそらくマクロライドの免疫調節作用によるものであろうと推察される

・Group2-3:リスクに応じて緑膿菌/MRSAカバーを追加する

・Group4:ICUに入院している昇圧薬や人工呼吸器管理が必要な場合は、培養とPCR検査の結果が出るまで抗MRSA療法と抗緑膿菌療法を行うことが推奨

ICUに入院した重症市中肺炎患者は、緑膿菌/MRSAリスクにさらされる可能性が高いため(エビデンスは限られている)

 

※リスク
緑膿菌のリスク
Strong:既知の定着または過去の感染、グラム染色でのGNR
Weak:弱い危険因子には、過去3ヵ月の抗生物質の静脈内投与、気管支拡張症、ステロイド抗生物質の使用を必要とするCOPDの頻繁なAE

MRSAのリスク 
Strong:既知の定着または過去の感染、グラム染色でGPCcluster 
Weak:過去3ヵ月間の抗生物質の静脈内投与、最近のインフルエンザ様疾患の罹患、空洞性浸潤影または膿胸、末期腎疾患

※Strong risk factorがある場合は緑膿菌/MRSAを対象とした経験的治療を開始することが推奨される。

※Weak risk factorがある場合は、臨床的判断となる。

 

※ピペラシリン-タゾバクタムとバンコマイシンの併用は急性腎障害と関連しているため、可能であれば通常この併用は避ける。

 

※腎機能が正常な患者に推奨される治療法と用量は以下

ampicillin–sulbactam (3 g IV every 6 hours)

ceftriaxone (1 to 2 g IV daily)

cefotaxime (1 to 2 g IV every 8 hours)

azithromycin (500 mg IV or orally daily)

clarithromycin (500 mg twice daily) or clarithromycin XL (two 500-mg tablets once daily)

doxycycline (100 mg orally or IV twice daily)

levofloxacin (750 mg IV or orally daily)

moxifloxacin (400 mg IV or orally daily)

omadacycline (200-mg IV loading dose on day 1 followed by 100 mg IV daily, or 300 mg orally twice daily on day 1 then 300 mg daily)

lefamulin (150 mg IV every 12 hours or 600 mg orally every 12 hours)

vancomycin (15 to 20 mg per kilogram of body weight IV every 8 to 12 hours or a loading dose of 20 to 35 mg per kilogram IV not to exceed 3000 mg for severe CAP; subsequent dose amounts should be based on area-under-the-curve values)

linezolid (600 mg IV or orally twice daily)

piperacillin–tazobactam (4.5 g IV every 6 hours)

cefepime (2 g IV every 8 hours)

ceftazidime (2 g IV every 8 hours)

imipenem (500 mg IV every 6 hours)

meropenem (1 g IV every 8 hours)

 

免疫不全患者

・本文中には記載なし、こちらを参照(Chest2020;158:1896-1911.

 

De-escalation

・培養結果に沿って抗生剤を狭域抗菌薬に変更する

MRSA のスクリーニング鼻腔スワブが陰性であれば、経験的な抗 MRSA 治療は通常中止できる。

・分子検査によってウイルス(SARS-CoV-2を含む)が同定され、ウイルス性市中肺炎が疑われる患者で、同時に細菌感染や臨床的悪化が認められない場合は、抗菌薬治療を中止することができる。(以下アルゴリズム参照)
・ほとんどの患者は、抗菌薬治療開始後48~72時間以内に何らかの臨床的改善がみられる。抗菌薬静注は、患者の状態が改善するにつれて、同様のスペクトラム活性を有する経口抗菌薬に移行することができる。

細菌感染のないウイルス性肺炎における抗菌薬治療の中止

 

治療期間
・患者が無熱で臨床的に安定した状態が48時間以上続くまで治療を続ける。
・最低5日間続けるべきであるが、病状が完全に安定している特定の患者には、3日間が適切な治療期間となることもある。
免疫不全、特定の病原体(緑膿菌など)による感染症、または膿胸などの合併症を有する患者には、治療期間の延長が適応となる。
・臨床的判断の補助として、プロカルシトニンの閾値を連続的に測定することは、抗生剤治療の中止の目安となる。

 

退院
・退院は、患者が臨床的に安定した状態にあり、経口薬の服用が可能で、安全な環境で治療を継続できる場合に適切である。
・経口薬に切り替えた後の一晩の経過観察は必要ない。
・不必要な入院費用と入院に伴うリスクを減らすために、臨床的安定と経口薬への切り替え基準に基づいた早期退院が推奨される。

 

フォローアップ

・再入院の可能性を減らすため、早期の外来フォローアップのための患者のプライマリケアクリニック医とのコミュニケーションと連携が奨励される。
・フォローアップのための胸部X線撮影が適応となるのは、年齢、喫煙歴などで肺癌のリスクがある患者、症状の持続している患者など、ごく一部の患者に限られる。

 

予防
・喫煙と過度のアルコール摂取に注意する
・インフルエンザ、Covid-19、肺炎球菌に対するワクチンを、一般的な推奨にしたがい実施する

 

後遺症・予後

・CAPは従来肺の急性疾患とみなされてきたが、現在では急性および長期の後遺症をもたらす多臓器疾患であると理解されている。

・市中肺炎は罹患後の死亡に関連しており、1年後の死亡は入院患者全体の約30%、集中治療室(ICU)に入院した患者の約50%にみられる。

 

CAPの短期的/長期的後遺症

 

ガイドライン
今回はATS-IDSAガイドラインに沿っての記載となった(Am J Respir Crit Care Med 2019;200(7):e45-e67.)
・肺膿瘍または膿胸の証拠がない限り、誤嚥性肺炎の疑いに対する嫌気性菌検出をルーチンに行うべきではないことには同意

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勉強になりました。

 

今回の特徴は

・プロカルシトニン推し

・ウイルス肺炎疑い患者の抗生剤中止アルゴリズムの記載

MRSA鼻腔スワブPCRを推奨(ICU入室している昇圧薬や人工呼吸器を使用している重症患者では、VCMはempiricに開始が推奨で、PCR陰性を確認して終了する)

・退院後のフォローアップレントゲンの言及(適応となるのはごく一部)

 

あたりでしょうか。プロカルシトニンはほぼ出したことないので、コメントは控えます。MRSAの鼻腔のPCRがあるんですね。鼻腔培養は推奨されませんが、こちらは有用なのでしょうか?

あとは、グラム染色所見が方針決定にほぼ書かれていないのが、2019年のIDSAのガイドラインのテンションを見るとそうだろうなという感じですが残念です。MRSAの治療をするかどうかも、グラム染色所見がないと議論が難しいと思いました。