地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230816:S.maltophiliaに対する抗生剤治療

最近ICUで拗れた誤嚥性肺炎で広域抗菌薬を長期間使用している方の喀痰からS .maltophiliaが陽性となることが多いです。定着菌なのか、治療すべきか悩ましいことが多いですが、最近の症例では重症のため治療しようとなりました。

緑膿菌も含めた腸内細菌もカバーしたいしLVFXにしようかなと議論していたら。。

 

上級医「LVFX単剤で耐性取られないですか?併用にしなくていいですか?」

 

私「・・・」

 

ということでS.maltophiliaの治療について少し勉強してみました。

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まずは日本ということでこちら!

感染症プラチナマニュアル2023-2024

選択すべき抗菌薬

・第1選択はST合剤。第2選択はニューキノロン系やTC系、またはそれらの併用

・2021年のIDSAガイドラインでは、基本的にはST合剤単剤を推奨しているが、重症の場合はLVFXまたはMINOの併用を検討となっており、軽症例にはLVFXかMINO単剤で治療可能かもしれないとしつつもこれらを使用する場合には併用を検討

・投与量はそれぞれST8-12mg/kg/日 TMP、LVFX750mgq24h、MINO200mgq12h

 

次は私はあまり使っていないこちら!

Jons Hopkins Antibiotic Guide'Stenotrophomonas maltophilia' updated February 5,2019

Primary Regimens
・TMP/SMX 15-20mg/kg/日TMP po/iv q8or12h
Alternative Regimens(感受性がある場合)
・CAZ2gq8h iv
・CTRX2gq12-24h iv
・ABPC/SBT3gq6h iv
・TIPC/CVA(チカルリシン/クラブラン酸)3.1gq4h iv
TGC(チゲサイクリン)100mg点 laoding、50mgq12h iv
・DOXY or MINO100mgq12h po/iv(200mgq12hも検討可能)
・CPFX500-750mgq12h iv or 400mg18-12h iv
・MFLX(モキシフロキサシン)400mgq12h po/iv
・LVFX750mgq24h po/iv

※専門家は耐性出現の懸念から、TMP/SMXと他の薬剤の併用を推奨する

 

私は愛用しているこちら!

Sanford Guide 'Stenotrophomonas maltophilia' updated Mar 29,2023

軽症の感染症または病原体としてのS. maltophiliaの感染が明確でないpolimicrobial感染
Primary Regimens
・TMP-SMX 8~12mg/kg/日TMP q8or12hの単剤

Alternative Regimens

・TMP-SMX、LVFX、MINO、TGC(チゲサイクリン)、CFDC(セフィデロコル)の単剤

 

中等度または重度の感染症

Primary Regimens

・ TMP-SMX(8~12mg/kg/日 q8horq12h)+MINO(200mg q12h iv)の2剤併用

Alternative Regimens

・以下の薬剤のうち2種類を併用する:
 TMP-SMX(8~12mg/kg/日 q8horq12h)、LVFX(750mg q24h iv)、MINO(200mg q12h iv)、TGC(チゲサイクリン)(200mg loading、100mg q12h iv)、CFDC(セフィデロコル )(2gq8h iv)
・CAZ/AVI(セフタジジム/アビバクタム)2.5gq8h iv+AZT(アズとレオナム)2gq8h ivの2剤併用

 

※基本的には耐性出現を防ぐために併用療法が推奨される

 

 

最近出ていたIDSAの薬剤耐性GNRの治療ガイダンスといえばこちら!

https://doi.org/10.1093/cid/ciad428

使用薬剤の用量はこちら!

 

Q1:中等症から重症のS. maltophiliaによる感染症の一般的な治療法は?
A:以下の2つのアプローチのいずれかが推奨される
 (1)TMP-SMX、MINO、TGC(チゲサイクリン)、CFDC(セフィデロコル)、LVFXのうち2剤の使用
(2)臨床的に著しい不安定性が認められる場合、または他の薬剤に対する不耐性や無効性が確認された場合に、CAZ/AVI(セフタジジム/アビバクタム)+AZT(アズとレオナム)の2剤併用

※S. maltophiliaによる中等症から重症の疾患に焦点を当てている場合、少なくとも1つの有効な薬剤が投与されている可能性を高めるために、併用療法を支持している。

 

Q2:S. maltophiliaによる感染症の治療におけるTMP-SMXの役割は何か?

A:少なくとも臨床的改善が認められるまでは、併用療法の1つとしてTMP-SMXを投与することが望ましい。

・TMP-SMXの15mg/kg/日を超えるTMPの投与は血清SMX濃度を必要以上に上昇させる可能性があるというエビデンスを考慮し、S. malophilia感染症患者に対するTMP/SMXの用量8~12mg/kg/日 TMPが推奨される。

・Q1であるようにS. maltophilia感染症にTMP-SMXを処方する場合、少なくとも臨床的改善が認められるまでは、2剤目(MINO、TGC(チゲサイクリン)、CFDC(セフィディロコル)、LVFXなど)の追加が推奨される。

 

Q3:S. maltophiliaによる感染症の治療におけるテトラサイクリンの役割は何か?

A:S. maltophilia感染症の治療には、少なくとも臨床的改善が認められるまで、併用療法の1つとしてMINO 200mgq12h po/ivの使用を検討することが望ましい。

TGC(チゲサイクリン)と比較してMINOの忍容性が改善されている可能性が高いことから、パネルはTGC(チゲサイクリン)よりもMINOを優先するが、TGC(チゲサイクリン)もS. maltophilia感染症に対する妥当な治療選択肢である。

・S. maltophilia感染症にMINOまたはTGC(チゲサイクリン)を処方する場合は、高用量レジメンが推奨される 。高用量(200mgを1日2回)では、ミノサイクリンの静脈内投与製剤と経口投与製剤のいずれでも十分な薬物レベルが得られると考えられる。

 

Q4: S. maltophiliaによる感染症の治療におけるCFDC(セフィデロール)の役割は何か?

A:S. maltophilia感染症の治療には、少なくとも臨床的改善が認められるまでは、併用療法の1つとしてCFDC(セフィデロコル)を使用を検討することが望ましい。

・CFDC(セフィデロコル)を併用療法の一部として使用するか、単剤療法として使用するかを決定する指針となるデータは得られていない。パネルは、少なくとも臨床的改善が認められるまでは、セフィデロコールを併用療法の一要素として考慮することを提案する。 

 

Q6:S. maltophiliaによる感染症の治療におけるフルオロキノロン系抗菌薬の役割は何か?

A:LVFXは、S. maltophilia による感染症の治療における併用療法の一成分としてのみ推奨されず、S. maltophilia感染症に対するレボフロキサシン単剤療法への移行は推奨されない。

・S. maltophiliaのレボフロキサシンに対するベースラインの感受性は、サーベイランス研究では約30%~80%と幅がある 

・いくつかの研究から、レボフロキサシンに感受性を示すS. maltophilia分離株は、治療中にレボフロキサシンのMICが上昇し、治療中に耐性を獲得する可能性があることが示されている

・PK/PDモデリングのデータから、フルオロキノロン単剤療法は、高用量で投与した場合でも、S. maltophilia感染症に対する適切な目標達成には不十分である可能性が示唆されている

・シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンの単剤療法を評価したタイムキル曲線は、S. maltophiliaの増殖を持続的に阻害するには不十分であることを示している

 

 

Q6:S. maltophiliaによる感染症の治療におけるCAZ/AVI(セフタジジム/アビバクタム)+AZT(アズとレオナム)の役割は何か?

A:S. maltophilia感染症では、重症が明らかな場合、または他の薬剤の不耐性や無効が認められる場合に、CAZ/AVI(セフタジジム/アビバクタム)+AZT(アズとレオナム)の併用が推奨される。

・CAZ/AVI(セフタジジム/アビバクタム)+AZT(アズとレオナム)の併用療法は、血液悪性腫瘍集団における肺炎や血流感染症などの中等度から重度の感染症や、他の薬剤に対する不耐性や耐性によって使用が不可能な場合に、妥当な治療選択肢となる。

 

Q6:S. maltophiliaによる感染症の治療におけるCAZの役割は何か?

A:S. maltophiliaに対してCAZの感受性があっても無効である可能性が高く、単剤での治療は推奨されない。

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勉強になりました。Mundellは読んでないですすみません。

 

ST合剤が1st choice、LVFXとかMINOは2nd lineで使えるくらいの認識で生きてきました。意外にLVFXでも治療している人いるなという感覚でしたが、考えを改めました。

 

まとめると

・基本的に中等症以上のS.maltophilia感染症ではST合剤を含む2剤併用(特にST+MINO)が推奨される

・LVFX単剤は耐性獲得や効果の点から推奨されない

・ただし、polymicrobialの場合にはST単剤(もしくはその他の2nd lineの抗生剤)と他の起炎菌疑いのカバーの抗生剤を合わせての投与でも良さそう

・STの投与量は15-20mg/kg/日(TMP換算)で書かれていることもあるが、8-12mg/kg/日で良さそう

・LVFXとMINOは通常の使用量ではなく、高用量(MINOだと200mgq12h、LVFXだと750mgq24h)が推奨されている、投与量の間違いに注意!