95歳男性、要介護5、施設入所中。先日からの発熱で受診。コロナ陽性、右肺にどちらかというと細菌性様の肺炎像あり。レムデシビル、CTRXの投与を開始し入院。翌日に血液培養好気ボトル2setからグラム陽性連鎖球菌が生えたと報告あり。第3病日に菌種が判明し、S. infantarius subsp coliでした。
マネジメントはどうしますか?
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先日SDSEの菌血症症例があり、勉強しました。
今回は、コロナ、細菌性肺炎と思って治療していた方の血液培養からS. infantarius subsp coliが陽性となりました。以前はS. bovisと呼ばれていた菌でIEが多く、大腸癌との関連が指摘されている菌として有名であった。Tierney先生も下記のように言っています。
In patiens with endocaiditis due to Strep bovis, find the tumor; it is most certainly there, given the exceptionally strong association between colonic polyps and carcinoma and this specific form of endocarditis, for reasons remaining somewhat elusive still.
思いもよらない血液培養陽性であったのと、あんまり頻繁に生える菌ではないので勉強してみました。
主にはMandell 9th editionを読んで、そこに追加した感じとなります。
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MandellではEnterococcus、Leuconostocと同じ章で記載されている、いわゆるD群で括られている。
連鎖球菌の中での分類
血清学的にはLancefield分類でD群に分類される。
PYR試験は陰性、6.5%NaCl存在下で発育しないことなどから他のD群(Enterococcus属、 Leuconostoc属)と区別される。
基本的にはα溶血となるが、時にγ溶血となる(γ溶血は基本的にD群)。
旧Bovisの現状の分類、それぞれの特徴
もともとはStreotococcus bovisと言われていたが、現在は遺伝学的に細分化され、以下のように従来のbiotypeごとに命名が変わっている
・S. bovis biotype Ⅰ
⇨S. gallolyticus aubsp gallolyticus
・S. bovis biotype Ⅱ/1
⇨S. infantarius subsp coli
S. infantarius subsp infantarius
・S. bovis biotype Ⅱ/2
⇨S. gallolyticus subsp pasteurianus
※この命名法の変化については、S. gallolyticus群による菌血症/心内膜炎と大腸悪性腫瘍との間の重要な関連が、新しい種名が認識されていなかったために見逃されていた可能性があるとされていることが危惧されている
※これらの鑑別は時として困難であり、16SrDNAの塩基配列決定や全ゲノム塩基配列決定などの核酸検査が必要である。
S. gallolyticus属細菌は心内膜炎全体の約7%、連鎖球菌性心内膜炎の約20%を引き起こすと推定されている。
S. gallolyticus属菌による菌血症および心内膜炎は、大腸悪性腫瘍(特にS. gallolyticus subsp. gallolyticus、ただしS. gallolyticus subsp. pasteurianusは消化管の他の部位の悪性腫瘍と関連している)および肝胆道疾患の存在と高い関連性を示すが、この関連性の理由は不明である。
※S. gallolyticus subsp.gallolyticus感染のin vitroモデルでは、免疫活性化を回避しながら、表面にコラーゲンの多いバイオフィルムを形成し、前癌性大腸病変部位に移動する能力が、心内膜炎や大腸悪性腫瘍との関連性の根底にある可能性が示唆されている。
宿主と病原体の相互作用に関するさらなる研究から、S. gallolyticusはβ-カテニンの発現を誘導し、培養ヒト結腸癌細胞株における細胞増殖と腫瘍形成を促進することが示唆された。
このことは、S. gallolyticusが消化器系の悪性腫瘍と関連しているだけでなく、病態形成にも寄与している可能性を示唆している。
13年間にわたるS. gallolyticus群による心内膜炎20例(薬物中毒者を除く)の臨床的特徴を分析した研究では、大動脈弁が最も頻繁に侵された弁であった。2つの心臓弁の同時侵襲、中等度から重度の逆流、塞栓事象もよく見られた。大腸新生物は患者の77%に認められた。
その他のStreptococcus Gallolyticus (Bovis) Group感染症の特徴
Up to date:Infections due to Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex (SBSEC; formerly group D streptococci)
IEは男性で発生率が高い。
他の菌によるIE患者よりも一般的に高齢である(平均年齢59〜67歳 vs 46〜59歳)。
IEを発症しやすい危険因子(静注薬物の使用や心臓の構造的疾患など)を持っている可能性が低い。
糖尿病や慢性肝疾患、特に肝硬変などの慢性疾患を有している可能性が高い。
※肝疾患での血流感染は、網内系の機能不全が細菌クリアランスを損ない、門脈または全身循環への菌の侵入を許している可能性がある
肝胆道由来の菌血症はの頻度はS.bovis biotype II>S.bovis biotype I>非gallolyticus groupとなり、より多菌感染が観察されることがある。
悪性腫瘍との関連について
・一般人口よりS.bovisⅠは大腸癌が多い
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2014;33(2):171. Epub 2013 Aug 11.
220人以上のS. bovis菌血症患者(S. bovisbiotype Iによるものが159人、S. bovisbiotype IIによるものが64人)を含む多変量解析では、S. bovisbiotype I菌血症は結腸新生物と独立して関連していた(OR5.7、95 % CI 3.0-10.9)
・S.bovisⅠの方がS.bovisⅡより悪性新生物が多い
Clin Infect Dis. 2011;53(9):870.
S. bovisbiotype I感染患者は、S. bovisbiotype II感染患者に比べて、大腸新生物(pool OR 7.26、95% CI 3.94-13.36)およびIE(pool OR 16.61、95% CI 8.85-31.16)のリスクが高かった
・S. bovisⅡは一般人口と大腸癌有病率に有意な差はない
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2014;33(2):171. Epub 2013 Aug 11.
多変量解析では、S. bovisbiotype II菌血症と大腸新生物との間に有意な関連は認められなかった(OR 0.17、95%CI 0.09-0.33)
・その他様々な消化管疾患との関連が報告されている。
Up to date:Infections due to Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex (SBSEC; formerly group D streptococci)
S gallolyticus group感染と胃腸管の他の病変との相関も報告されており、胃癌、前癌性または良性のポリープ、リンパ腫、大腸炎、機械的異常などがある 。
・Up to dateでの腫瘍検索の推奨は下記
Up to date:Infections due to Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex (SBSEC; formerly group D streptococci)
AHA/IDSAガイドラインでは、S. gallolyticus groupでは大腸内視鏡検査を推奨している。
特にS. bovis biotype I(S. gallolyticus subsp gallolyticus)およびsubtypeレベルまで同定されていないS. bovis分離株による菌血症の患者にとって重要である。
陰性であれば、大腸内視鏡検査を4~6ヵ月後に再検査することが推奨される。
IEとの関連について
・S.gallolyticusI groupのIE有病率を調べたレトロスペクティブ研究では下記のような有病率となった
Infect Dis (Lond).2022;54(10):760.Epub 2022 Jun 22.
・S. bovis biotype Ⅰ
⇨S. gallolyticus aubsp gallolyticus:33%
・S. bovis biotype Ⅱ/1
⇨S. infantarius subsp coli:5%
S. infantarius subsp infantarius:16%
・S. bovis biotype Ⅱ/2
⇨S. gallolyticus subsp pasteurianus:5%
先日まとめた連鎖球菌のIE検索のマネジメントでは、gallolyticusが一括りでvery high riskになっていましたが、上記のようにそれぞれのsub typeごとにIE riskを勘案する方が良いでしょう
・Up to dateの推奨は下記
Up to date:Infections due to Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex (SBSEC; formerly group D streptococci)
菌血症ではTTEは行うべき
TEEは以下の時に行うべき
・TTE が陰性または技術的に不十分で、IE の臨床的疑いが強い場合(適切な抗菌薬療法にもかかわらず菌血症が持続しているまたはduke criteriaで確診とはならないが複数の項目が当てはまる)。
・傍弁膜膿瘍のような心内合併症の存在が懸念される TTE 陽性(リスクとして心電図上の新たな伝導遅延、大動脈弁IE、適切な抗菌薬療法にもかかわらず持続する菌血症または発熱が含まれる)または重大な弁逆流がある場合(手術の必要性を判断するため)。
IE の徴候、重度な弁逆流、大動脈弁狭窄症、人工弁やその他の心臓内デバイスがない場合、抗生物質治療で菌血症が速やかに消失する患者に対しては、TTE が正常であれば十分
⇨フォロー血液培養を推奨している?
臨床病型
Up to date:Infections due to Streptococcus bovis/Streptococcus equinus complex (SBSEC; formerly group D streptococci)
菌血症(感染性心内膜炎[IE]を伴う、または伴わない)および菌血症またはIEを伴わない感染でわける
菌血症の感染経路として最も重要なのは消化管であり、その他の感染経路としては尿路や肝胆道が考えられる。
S. bovis ⅡはS. bovis Ⅰと比較して、菌血症の場合、IEの頻度が低く、胆道系感染症やprimary bacteremia(感染源不明)が多い(J Infect. 2015 Sep;71(3):317-25.)
※プラチナマニュアル2023では明らかな胆道感染と診断できない場合には、S gallolyticus subcp. gallolyticusと同様にIEの検索を行うことが推奨されている。
・肝、胆道系感染症:菌血症を伴うことが多い。subtypeによる特徴があり下記のようになる。(Clin Microbiol Infect. 2014 May;20(5):405-9.)
・Streptococcus gallolyticussubsp.gallolyticus菌血症が胆道由来であることは稀
・S. infantariusと S. gallolyticussubsp.pasteurianus菌血症のほぼ半数が胆道由来
・S.gallolyticussubsp.pasteurianusは良性の胆道疾患と関連
・Streptococcus infantariusは胆膵がんと関連。胆管炎では悪性胆道狭窄の可能性を検討する必要がある。
・骨、関節感染 : 敗血症性関節炎、人工関節感染、脊椎炎、椎間板炎、骨髄炎など。
・髄膜炎 :乳児および成人で報告されており、成人では菌血症およびIEに関連して観察されてる。18歳未満の患者における細菌性髄膜炎の4800例以上を含むある研究では、0.5%がS. gallolyticus groupが関与し、S. gallolyticus subsp pasteurianusが80%を占めていた。
・新生児敗血症:S. gallolyticus subsp pasteurianusが髄膜炎の有無にかかわらず、新生児敗血症と関連している。これは臨床的にはStreptococcus agalactiaeによる感染症と区別がつかないことがある。S. pasteurianus感染症のクラスターは、院内伝播の結果として新生児集中治療室で発症することがある 。
・産褥内菌血症:絨毛膜羊膜炎と菌血症を合併したS. gallolyticus subsp gallolyticusによる産褥感染症が報告されている。
・腹膜炎:Spontaneous peritonitisが報告されている。
・尿路感染症
治療
感染性心内膜炎に関するAHA/IDSAガイドラインでは
S. gallolyticus群による自己弁心内膜炎の治療
ペニシリンに対するMICが0.12mg/L以下の場合
・β-ラクタム系薬(CTRXまたはPCG)とアミノグリコシド系薬(GM)の併用2週間
・β-ラクタム系薬単独(腎機能障害または第8脳神経機能障害を合併する65歳以上の患者)の4週間の
MICが0.12mg/Lを超え0.5mg/L以下の場合
β-ラクタム薬(4週間)とアミノグリコシド薬(2週間)の併用
※人工弁心内膜炎の治療ではβ-ラクタム薬の投与期間は6週間まで延長すべき
MICが0.5mg/Lを超える場合
ABPCまたはPCG+GMによる4~6週間の併用
β-ラクタム系抗菌薬が使用できない場合
VCMを固有弁で最低4週、人口弁で最低6週使用
※S. gallolyticusグループで高レベルのバンコマイシン耐性を付与するvanB遺伝子クラスターが同定されている点には注意
心内膜炎以外
心内膜炎を伴わない菌血症に対しては、より短いレジメンを考慮すべき
腫瘍検索
S. gallolyticusが関与している場合は、悪性腫瘍を除外するために消化管の評価を受けるべき
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勉強になりました。
個人的には
・S. gallolyticusが消化器系の悪性腫瘍と関連しているだけでなく、病態形成にも寄与している可能性がある
・subtype毎にIE有病リスクを意識してマネジメントする
・S. gallolyticus群によるIEでは大動脈弁や2弁同時に侵襲されることが多い
・S. bovisbiotype II菌血症と大腸新生物との間に有意な関連はない
・S. gallolyticus菌血症でCF陰性でも、4~6ヵ月後に再検査することが推奨される
・S. bovis ⅡはS. bovis Ⅰと比較して、菌血症の場合、IEの頻度が低く、胆道系感染症やprimary bacteremia(感染源不明)が多い
・S. infantariusと S. gallolyticussubsp.pasteurianus菌血症のほぼ半数が胆道由来
・S.gallolyticussubsp.pasteurianusは良性の胆道疾患と関連
・Streptococcus infantariusは胆膵がんと関連。胆管炎では悪性胆道狭窄の可能性を検討する必要がある。
・尿路感染症やSpontaneous peritonitisの報告がある
などが勉強になりました。
本症例は、IEリスクは中等度と考え、TTEを評価し疣贅がないことを確認、抗生剤は一応ABPC/SBTに変更、胆道、膵臓の病変評価として単純 CTだけ評価しました。解熱傾向、全身状態改善傾向です。色々重なりましたが、primary bacteremiaでしょうか。