80歳女性、アルツハイマー型認知症あり、受診当日から不穏になり受診。原因を調べていても、診察、血液検査、心電図、頭部CTではっきりしない。。
とりあえず入院で経過観察目的に入院。
次の日、病棟Nsからコールあり。「先生、患者さん昨日から排尿がないんです。」
診察すると下腹部の膨隆あり、エコーを当てると尿閉になっている。
バルーンを入れると多量の排尿あり、不穏も落ち着いた、これが原因だったか。。
さて、じゃあこれで退院ですかね?
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ということで、今回は「尿閉」です。
私たちが普段よく見るのは、高齢男性の尿閉ですね。かなりの確率で前立腺肥大症です。
では女性の尿閉はどういった原因でしょうか。ということで今回はこちらを読んでみました。
Urinary Retention in Adults: Evaluation and Initial Management
Am Fam Physician. 2018;98(8):496-503
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はじめに
尿閉は急性と慢性に分けられる
急性尿閉は、突然の排尿不能に加え、恥骨上部の疼痛、腹部膨満感、切迫感、苦痛、場合によっては軽度の失禁を伴うことを特徴とする泌尿器科緊急疾患である。
尿閉の全体的な発生率は、女性よりも男性の方がはるかに高く、男性の年齢が高くなるにつれて劇的に増加する。
男性は1,000人年当たり4.5~6.8人で、80歳代の男性では1,000人年当たり300人まで増加するのに対し、女性の発症率は年間10万人当たりわずか7人。
原因疾患
尿閉の主な原因は、閉塞性、感染性/炎症性、医原性、神経性
閉塞性の原因が最も多い。
閉塞性
前立腺肥大症は、尿閉の最も一般的な閉塞性原因であり、症例の約53%を占める。男性におけるその他の閉塞原因には、前立腺癌、包茎および嵌頓包茎が含まれる。
女性における閉塞原因には、膀胱、直腸または子宮の骨盤臓器脱が含まれる。
男女ともに、結石、尿道狭窄、血尿による血栓閉塞、膀胱癌などに起因する直接的な物理的閉塞がある。
まれに、尿道内異物または尿道外圧迫を引き起こす異物や糞便塞栓、骨盤内を占拠するその他の腫瘤の間接的な圧迫が尿閉の原因となることがある。
感染性/炎症性
様々な感染症が尿道や膀胱の浮腫を引き起こし、急性尿閉を引き起こすことがある。
男性では、急性細菌性前立腺炎および亀頭包皮炎/痔瘻が一般的な感染性の原因である。
女性では外陰膣カンジダ症およびベーチェット症候群が感染性および炎症性の原因である。
男女ともに、腰仙部帯状疱疹を含む尿路感染症やその他の感染症が尿閉の誘因となることがある。
医原性
医原性尿閉の2つの主な原因は、術後合併症と薬剤性である。
ある教育病院に入院した急性尿閉症例の約2%が薬物副作用によるものであった。
別の研究では、慢性尿閉症例の約12%が薬物によるものであった。
急性/慢性尿閉の原因となる最も一般的な薬物には抗コリン作用であり、排尿筋の副交感神経ムスカリン受容体が遮断され、排尿筋の収縮力が低下する。
カルシウム拮抗薬は膀胱の平滑筋収縮力を低下させる。
NSAIDsはプロスタグランジン合成を阻害するため、理論的には、このプロスタグランジン合成阻害作用により、排尿筋収縮力が低下する可能性がある。
術後尿閉は入院患者の手術の2%~14%にみられ、使用した麻酔薬の種類だけでなく、患者の年齢、性別、併存疾患によっても大きく異なる。
2つの大規模な解析において、術後尿閉の最も強い危険因子は、高齢と下部尿路症状の存在であった。
術前のα遮断薬の使用、術後尿閉を減少させた。
神経性
正常な排尿機能は、尿が漏れることなく低い膀胱内圧で膀胱に貯留されること、および間欠的に自発的かつ効果的に膀胱を空にする能力に依存する。
これらの経路の連絡ミスや中断では尿失禁を引き起こすことの方が多いが、尿閉が併存または独立して起こることもある。
尿閉は、多くの神経学的疾患によって生じる可能性がある。
糖尿病患者の男女の25%~60%は、時間の経過とともに糖尿病性神経因性膀胱を発症する。
2010年の横断研究では、多発性硬化症患者の約25%が間欠的カテー テルが必要であると報告している。
脊髄損傷患者は、損傷後1~12ヵ月間spinal shockを経験し、その結果、完全な尿閉になる可能性があり、間欠的カテーテル留置や恥骨上チューブ留置などの管理が必要となる。
二分脊椎患者の多くは、膀胱圧を下げるために抗コリン薬を必要とし、これにより
尿閉となりうるため膀胱を空にしやすくするために間欠的なカテーテル留置が必要となることがある。
脳血管障害の場合、尿失禁に至るのが一般的であるが、一部の患者では、排尿筋反射低下/消失のために尿閉を経験し、脳幹に病変がある場合には尿閉が起こりやすい。初発の虚血性脳卒中後に入院リハビリを受けた成人80人を連続的に調査した研究によると、入院時に尿閉が認められたのは23人であったが、退院時までに尿閉が認められたのはわずか4人であった。
◎補足
神経性の尿閉の原因として、今回記載はないがMeningitis Retention Syndrome(MRS)は知っておくべき
・狭義にはHSVによるもの、広義には無菌性髄膜炎に合併するもの
・仙骨神経根障害による排尿障害を指す
・HSVが最多、VZVが2番目に多い
・無菌性髄膜炎を疑う症状+尿閉でくることが多いが、尿閉で発症する無菌性髄膜炎が存在することも頭においておく
その他
急性尿閉のリスクは、妊娠中および産褥期以降に増加する。
妊婦における急性尿閉の発生率は約200人に1人で、妊娠第9週から第16週に最も多い。
急性尿閉の発症リスクは、35歳以上の妊婦、子宮後傾の妊婦、妊娠中に早産を経験した妊婦で有意に高い。
産褥期では、急性尿閉の発症率は10人に1人に上昇し、危険因子には、吸引分娩、分娩時間が700分を超えること、分娩第2期に子宮底の圧がかかることなどが含まれる。
急性尿閉の自傷的原因には、勃起を維持するために使用される外陰茎収縮器具の使用や、その他のさまざまな泌尿生殖器外傷が含まれる。
診断
男性
女性
性別問わず
問診
初期評価では、市販薬やハーブサプリメントの使用を含めた薬歴聴取も行う。
米国泌尿器科学会症状指標(American Urological Association Symptom Index)は、前立腺肥大症に続発性であることが多い閉塞性尿路障害に関連する男性の下部尿路症状を定量化することを目的とした有効な質問票である。
(https://www.aafp.org/afp/2014/1201/p769.html#afp20141201p769-f1)
診察
膀胱および腹部/骨盤内臓器の触診と打診を含む腹部評価、側腹部圧痛の評価、結節/
腫瘤の有無を評価する直腸診(男性)/骨盤内検査(女性)、下部胸椎、腰椎、仙椎レベルの筋力、感覚、筋緊張、反射を評価する神経学的評価を含める。
検査
エコーで排尿後残尿(PVR)尿量評価を含めるべきである。現在までのところ、急性尿閉を定義するカットオフ量に関するコンセンサスは得られていない。
一部の研究では、膀胱に150mLの尿が溜まっていれば打診で評価可能であり、200mL以上であれば触診が可能であるとしているが、米国泌尿器科学会は、少なくとも6ヵ月間持続し、2回に分けて記録された300mL以上の値を使用することを推奨している。
以下は、尿閉患者の評価として、原因検索の追加検査である。
男性
女性
性別問わず
管理
急性尿閉
カテーテル挿入前に、尿道狭窄、尿道損傷、膀胱や尿道の手術歴、骨盤/会陰部外傷など、尿道解剖学的構造を変化させるような病歴があるかどうかを患者に尋ね、尿道へのアクセスを評価する。
特にカテーテル留置が困難であったという既往歴がある場合は、カテーテル留置を試みるよりも、泌尿器科的評価のためにこれらの患者を緊急に紹介することが望ましい。このような患者には、従来の16Frカテーテルではなく、尿道拡張用バルーンカテーテル、膀胱鏡による内視鏡的カテーテル留置、恥骨上カテーテル留置などの代替カテーテルが有効である。恥骨上カテーテルは患者の快適性を向上させ、最長14日間のカテーテル留置が必要な患者の細菌尿および再カテーテル留置の必要性を減少させる。
カテーテル留置後、膀胱は少なくとも3日間は連続的に排出させるべきである。
大量の尿閉は時に尿管閉塞を引き起こし、結果として急性腎障害を引き起こす可能性があることを医師は認識しておくべきである。そのため、膀胱を急速に減圧すると、時に閉塞後利尿や血尿を引き起こすことがある。医師はこのまれな合併症の可能性を認識し、電解質異常、脱水、低血圧について患者を注意深く監視すべきである。
慢性尿閉
非神経性慢性尿閉の患者に対して、米国泌尿器科学会は、慢性尿閉の患者をリスクで分類した後に症状で分類することを推奨する治療アルゴリズムを提唱している。
高リスクの慢性尿閉は、画像診断で水腎症、ステージ3の慢性腎臓病、培養証明された再発性尿路感染症、会陰部皮膚変化または仙骨褥瘡を伴う溢流性尿失禁を伴うものを指す。
症候性は、一般に米国泌尿器科学会症状指数(American Urological Association Symptom Index)で中等度から重度の排尿症状を指す。
脊髄損傷患者を含め、神経学的な原因による尿閉(神経因 性膀胱)のある患者は、尿閉による感染症や腎罹患のリスクが 著しく高く、これらの患者は神経科内科医や泌尿器科医と連携して経過観察する必要がある。
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勉強になりました。そこまで新しいことはなかったですが、自分的要点をまとめると
・尿閉の原因は、男女別(性別問わないものも)に閉塞性、感染性/炎症性、医原性、神経性に分けて考える
・急性利尿の解除後は、閉塞解除後利尿や血尿に注意して、バイタルや電解質をフォロー
・尿閉を起こす薬は思ったより多い、やっぱりいつも心に薬
本症例は
ということで、高齢女性の尿閉、仙髄領域の診察を忘れないずに行いましょう!