地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231024:NEJM レビュー SIAD

(本文症例)

85歳の男性。定期診察で血清Na128mmol/L。若干ぼーっとして、歩容が不安定であった。既往歴は原発性高血圧、前立腺肥大症。服用薬はアムロジピン、フィナステリド、タムスロシン。血圧136/68mmHg、起立性変化はない、その他の診察で異常はない。再検査で、血清Na127mmol/L、血清浸透圧260mOsm/L、Cre0.8mg/dL、BUN8mg/dL、尿酸4mg/dL、尿浸透圧645mOsm、尿Na95mmol/L。

今後の評価と治療は?

 

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はい、と言うことで今回は最近出たNEJMのSIADのレビューを読んでみましょう。

先日もふらつきで来院された高齢女性がNa119でした。利尿剤は飲んでいますがFEUA>12%でSIADの要素もあると考えましたが(J Clin Endocrional metab. 93 2992, 2008)、そう言えば原因検索とか最近治療はどうなっているんだろうと気になっていたのでちょうどよかったです。

 

今回の論文はこちら

The Syndrome of Inappropriate Antidiuresis

N Engl J Med 2023; 389:1499-1509
DOI: 10.1056/NEJMcp2210411

 

補足に使用した文献はこちら

・Inteitivist生理学2:名著!

www.medsi.co.jp

 

・サムスカ使用についての心不全学会からの提言

バソプレシン V2 受容体拮抗薬の 適正使用に関するステートメント

 

 

一般社団法人 日本循環器学会
http://www.j-circ.or.jp › 20131021_statement

最初に個人的な勉強になった点のまとめです。

・推奨的にはSIADの原因検索はCTくらい(それでいいんだ)

・治療法にSGLT2が登場してきている

・Kの補充もNaに影響する

・特発性がかなり多い

・軽症低Naも治療意義はありそう

・有効循環血液量減少が高度になるとADHが分泌される

・SIADHは浸透圧刺激と有効循環血液量減少刺激によらずADHが分泌される

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はじめに

低Na血症(血清Na135mmol/L未満)は最も一般的な電解質異常であり、成人全体の約5%、入院患者の約35%が罹患している。

 

低Na血症は軽度(130~134mmol/L)、中等度(125~129mmol/L)、重度(125mmol/L未満)に分類されるが、外来患者であれ入院患者であれ、低ナトリウム血症の約70%は軽度である。

 

軽度の低Na血症であっても、入院期間の延長、再入院、資源の使用、死亡などの有害な転帰と関連している。

 

 

 

低Na血症は通常陽イオンに対する水分過剰を反映し、最も一般的な原因は、腎臓での電解質を含まない水(自由水)の排泄障害。これらは抗利尿ホルモンであるバソプレシンAVP)の分泌増加に大きく依存しており、このホルモンはネフロンの集合管にあるバソプレシン2受容体を活性化し、水分貯留を促進する。

※血清Na値は(体内総NA量+総K量)/体内総水分量で規定される

 

◎補足(Intensivist 生理学2より)

・低NRS血症は体内のNaとKの和がが下がるか、総体液量が増加するか、またはその両方で起こる

・NaだけでなくKの投与は血漿Na濃度を上昇させる

・NaだけでなくKの喪失は血漿Na濃度を低下させる

・尿中のNaとKの濃度の合計をみることで、低Na血症の今後の変化が推測できる

・輸液中のNa濃度とK濃度の合計を見ることで、輸液による血漿Na濃度の変化を予測できる

 

AVP浸透圧刺激(高張性)血行力学的刺激(非浸透圧刺激:有効循環血液量減少)によって誘発される。

 

hypovolemiaや一部のhypervolemia(心不全、肝硬変、ネフローゼなど)に伴う低ナトリウム血症では、有効血液量減少によるAVP放出が水分貯留を促進する。対照的に、euvolemiaであるSIADでは、浸透圧刺激および血行動態刺激がないにもかかわらずAVP分泌が起こる、つまり抗利尿が不適切とみなされる(浸透圧刺激も有効循環血液量減少もないのにSIAD分泌が生じる)。

その他に溶質摂取不足、急性腎障害、慢性腎臓病(G3~G5)や稀だが自由水排泄を上回る過剰な水分摂取など、AVP分泌とは無関係の自由水排泄障害を反映することもある。

 

◎補足(Intensivist 生理学2より)

・ADH分泌の閾値は、張度が1%上昇しただけでも分泌されるのに対し、有効循環血液量の減少に対しては鋭敏ではない。一方、RAA系はわずかな有効循環血液量の減少でも活性化する。

心不全や肝硬変のように体内総Na量は増加しているが有効循環血液量が減少している時には、軽度の場合はRAA系の活性化が起こり、ADH分泌はほとんど見られず、10度の時にADHが分泌され低Na血症が生じる。

 

また重要な点としては、病因にかかわらず、低Na血症は水分摂取量が腎臓および他の経路からの水分喪失量を上回らない限り生じない。

 

 

低Na血症全体、特にSIADの有病率は、加齢とともに増加する。高齢(65歳以上)の入院患者の40%が低ナトリウム血症であり、症例の25~40%がSIADに起因している。

この有病率の増加は、高齢者にSIADを起こしやすい併存疾患(がん、肺疾患、中枢神経系の障害など)および薬剤が頻繁に存在することに起因しているまた、加齢は、GFRの低下、腎プロスタグランジンの減少、浸透圧および非浸透圧刺激に対するAVP反応の増加により、自由水排泄障害を引き起こす。そのほかに高齢者によくみられる塩分およびタンパク質の摂取量の低下も、自由水排泄障害の一因である。

 

 

SIADの症状は、発症の速さ、低Na血症の重症度と持続時間によって異なる。

 

急性SIAD(低Na血症発症から48時間未満)の症状は脳浮腫に起因し、軽症で非特異的なもの(脱力感や頭痛など)から重症で生命を脅かすもの(痙攣や昏睡など)まである。

 

慢性SIAD(低Na血症発症から48時間以上)は脳容積調節が働き、症状は一般に軽微であるが、重度の慢性SIADでは吐き気、嘔吐、頭痛、錯乱、せん妄、まれに痙攣発作を伴うことがある。認知障害、歩行異常、転倒、骨粗鬆症脆弱性骨折など、慢性SIADに伴うその他の症状は、正常な老化と誤認されることがある。

 

 

 

診断

SIADの診断には、euvolemiaな低張性低ナトリウム血症の臨床的確認が必要である。

 

体液量の状態を評価する際の身体診察の感度と特異度が低いことから、欧州のガイドラインでは、尿浸透圧と尿Naの測定が優先されている。

 

Na利尿(尿Na30mmol/L以上)および不適切な尿浸透圧(尿浸透圧100mOsm以上)はSIADの基準となる。加えて、SIADを診断するには、続発性副腎不全と重度の甲状腺機能低下症を除外する必要がある。

 

◎補足(Intensivist 生理学2より)

・ADHによる腎臓での自由水の再吸収は尿浸透圧に反映され、尿浸透圧はADH分泌を反映する

・尿浸透圧が低い場合、上記フローチャートの溶質摂取不足以外に心因性多飲やbeer potomaniaなどがある

・尿Na減少は交感神経系、RAA系の活性化が起こることにより生じるため、有効循環血液量の減少を反映する。

・尿Naが低い場合、細胞外液も有効循環血液量も減少ている脱水や利尿薬などや細胞外液が増加しているが有効循環血液量が減少している心不全、肝硬変、ネフローゼなどかを主に浮腫の有無などで見分ける。

・尿Naが高い場合、SIADパターンを考えるが、利尿薬の使用や腎不全がないかを最初に確認することが重要

 

 

※実際には、診断に必要な血清検査と尿検査が省略されることが多い。the Hyponatremia Registryによると、SIADと診断された患者のうち、これらの検査がきちんと行われていたのはわずか21%であった。

 

the Hyponatremia Registryに含まれるSIADの主な原因は、がん(24%)、薬剤(18%)、肺疾患(11%)、中枢神経系疾患(9%)である。

 その他の原因としては、運動、疼痛、ストレス、重度の吐き気、術後、まれにバソプレシン2受容体をコードする遺伝子の機能獲得型変異(腎性SIAD)などがある。

実際は複数の原因が存在することが多い。

 

抗うつ薬は、特に低体重の高齢女性において、最も一般的に関与する薬剤である。抗うつ薬の使用のリスクは、SSRIで最も高く、ミルタザピンの使用で最も低いと報告されている。

また、薬剤の中止により低ナトリウム血症が回復すれば、薬が原因と考えて良い。


SIAD患者の17~60%では、評価の程度や患者の年齢にもよるが、原因が特定されない(高齢者で最も多い)、特発性である。

 

臨床的診断の手がかりがない場合には、特発性と言う前に、頭部/胸部のCTが推奨され、それでも不明であれば、腹部および骨盤のCTを考慮してもよいとされる。

⇨逆にこれだけでいいの??

 

マネジメント

緊急治療

緊急治療を要するのは下記
・低ナトリウム血症の重篤な症状(傾眠、痙攣、心肺機能障害、昏睡など)を有するSIAD患者
・中等度の症状(嘔吐、錯乱など)を有し、臨床症状から進行のリスクが高い患者(術後、運動関連など)、
・頭蓋内疾患(くも膜下出血、頭部外傷など)を伴う低Na血症患者で脳浮腫の悪化が致命的となりうる場合

※通常、このような患者は急性低Na血症であるが、acute on chronicな低Na血症や極度の慢性低Na血症の患者もいる。

 

 

従来の治療法では、3%NaClを緩徐に持続点滴投与して、血清Naを数時間では1~2mmol/L/hour、24時間では8~10mmol/L、48時間では18~25mmol/Lが補正限界としていた。

米国とアイルランドガイドラインや欧州のガイドラインで支持されている現在の迅速なアプローチは、3%NaClをそれぞれ100mlと150ml静脈内ボーラス投与し、必要に応じて2~3回繰り返すというものである。この治療法の目標は、1~2時間以内に血清Naを4~6mmol/L増加させることであり、これは脳浮腫の臨床症状を改善させるのに十分な増加量である。補正速度は、最初の24時間以内に10mmol/L、最初の48時間以内に18mmol/Lの補正限度が設定されている。

 

補正限度は慢性低Na血症を過度に急速に是正すると、浸透圧性脱髄のリスクが高まるためである。浸透圧性脱髄は、まれではあるが、橋中心または橋外構造(中脳、視床、規基底核など)で生じ、反射亢進、仮性球麻痺、パーキンソニズム、閉じ込め症候群、死亡を引き起こす可能性のある、危険な合併症である。

 

 

浸透圧性脱髄のリスクが高い患者
・110mmol/L未満の慢性低Na血症
・アルコール使用障害
・肝疾患または肝移植後
・低カリウム血症
・栄養不良

上記の場合、補正限度は24時間で8mmol/L。
より厳しい補正限度を推奨している専門家もいる(浸透圧性脱髄のリスクが低い患者では24時間で8mmol/L、リスクが高い患者では6mmol/L)。

 

※低ナトリウム血症の期間は把握できないことが度々問題となる。 運動関連低Na血症であっても、既存の慢性低Na血症を否定することはできない。

 

 

重度の症候性SIAD患者を対象とした非ランダム化試験で、3%NaCl100mlを静脈内ボーラス投与したところ、3%NaClを持続点滴投与した過去の比較群で観察された値よりも高い血清Na値の上昇が認められ(6時間後に6mmol/L vs. 3mmol/L)、その間隔においてより高い神経学的改善が報告された。

しかし、過剰補正は、ボーラス静注した患者の4.5%にみられたのに対し、持続点滴を行った患者ではみられず、Na低下療法を行った患者はそれぞれ23%、0%であった。他の2件の小規模試験でも、ボーラス法(1回150ml)では過剰補正およびNa低下療法の割合が高かった。これらの試験には、おそらく補液後に自由水排泄が生じたhypovolemiaの参加者が多く含まれていたと考えられる点は解釈に注意が必要である。

 

過剰補正は、固定用量ボーラスを繰り返すことによる3%塩化NaClの過剰投与のために起こりうるという認識が大切である。

 

 

3%塩化ナトリウム投与に対する個別化アプローチは、他の入出力がない場合、任意の溶液を1リットル注入した後の血清Na値の変化を効果的に予測する式以下のを使用することで適用できる。


ΔNa=輸液(Na+K)-ベースライン血清Na/(全身の水分量+1)

 

この式は、SIAD患者に関して検証されており、24時間後の実際の血清Na値は予測値と非常に類似している。

 

◎補足(Intensivist 生理学2より)

・実際には上記の補正式は尿排泄や不感蒸泄が考慮されていない分の誤差を生じる。

・意味合いとして、輸液による補正時にKの影響を忘れないことを理解できることが重要。

・DDAVP(デスモプレシン)を投与した上で上記の式を利用したところかなり近い結果が得られたと言う研究もある。

 

 

過剰補正は、原因薬剤の中止後または一過性SIAD(術後など)の改善後の自由水利尿(尿量が1時間当たり100ml超)への移行によっても起こりうる。このようなリスクに対抗するため、デスモプレシンを予防的(自由水利尿を予期して)または反応的(自由水利尿に反応して)に使用することができるが、このような状況におけるデスモプレシンのランダム化試験は不足している。レトロスペクティブ研究では、その使用に関連する一貫した有益性は示されておらず、体積過剰、入院期間の延長、検査の増加、低Na血症の悪化などの合併症の可能性が示されている。

 

過剰是正が生じた場合は、3%NaClの中止、5%ブドウ糖液の投与、デスモプレシンの投与など、緊急の治療が必要である。

 

 

非緊急治療

低Na血症患者のうち、緊急治療が必要なほど症状が重篤な患者は5%未満。大半の患者に対しては、根本的な原因(または複数の原因)への対処に重点を置いた治療が行われ、通常は外来ベースで行われる。

 

例外としては、低ナトリウム血症の根本的な原因の管理のために入院している患者や、血清Na値が120mmol/L未満の患者の治療がある。後者の患者では、重篤な症状がみられないことは、脳容積がかなり順応している証拠であるため、浸透圧脱髄のリスクを最小限に抑えるために、治療中は血清ナトリウム値の綿密なモニタリングが必要である。

 

根本的な原因(薬物の影響や肺炎など)を取り除くことができれば、低ナトリウム血症は数日以内に回復する。

 

中等度または重度の慢性SIAD患者を対象とした観察研究では、Na値の是正と神経認知能力、運動機能、気分の改善との関連性が示されている。しかし、関連する併存疾患の治療など、患者ケアの他の側面の関与は不明。

 

ランダム化比較試験から得られた限られたデータでは、Na値の増加に伴い、身体的QOLスコアが改善するという知見が得られている。 さらに、慢性SIADおよび軽度または中等度の低Na血症患者における血清Na値の増加は、骨折の発生率への影響は不明であるが、骨芽細胞機能のマーカーの増加と関連している。これらの観察結果は、SIAD患者においていかなるレベルの低Na血症を是正する努力の合理性を支持するものである。

 

 

SIADの治療法まとめ

 

SIADの治療アルゴリズム

 

水分制限
第一選択の治療法である水分制限は、安価で安全であるが、効果は限定的。

 

尿量が1日1.5リットル未満、または尿浸透圧が水1kgあたり500mOsmを超えると、このアプローチに反応しないことが予測される。

 

慢性SIAD患者46人(一過性で可逆的な原因が除外された患者)において、低ナトリウム血症治療なしと比較した水分制限(水分摂取を1日1Lに制限)を評価したランダム化比較試験では、水分制限による血清ナトリウム値の緩やかな上昇が示された(4日目で3mmol/L vs 1mmol/L、30日目で4mmol/L vs 1mmol/L)。4日目に血清ナトリウム濃度が5mmol/L以上上昇した患者は、それぞれ17%と4%。

 

 

食塩

慢性SIAD患者83人を対象としたレトロスペクティブ研究では、食塩錠剤(中央値1日あたり5g)を服用した患者では、血清Na値の平均上昇が5.2mmol/Lであったのに対し、食塩錠剤を服用しなかった患者では3.1mmol/Lであった。

 

しかし、SIAD患者92人を対象とした非盲検無作為化対照試験では、食塩錠剤+フロセミドと重度の水分制限を併用した治療では、水分制限のみと比較して、7日目のナトリウム濃度がわずかに上昇したが、28日目では差はなかった。食塩+フロセミドの併用は、急性腎障害と低カリウム血症のリスクも増加させた。

 

ランダム化盲検試験によるデータは不足している。

 

尿素

小規模な観察研究では、中等度の水分制限(水分摂取を1日1~1.5Lに制限)に加えて尿素を投与した外来患者および入院患者のナトリウム値の改善が示されている。

 

レトロスペクティブ研究では、尿素のみを投与した12人の患者において、過剰補正やその他の重篤な副作用を起こすことなく、血清ナトリウム値が4日間で6mmol/L上昇したことが示されている。

 

ランダム化盲検試験によるデータは不足している。

 

腎性SIADの管理には効果的に使用されている。

 

蛋白

SIAD患者は一般に、タンパク質の摂取量が少ない。タンパク質の摂取量を(体重1kgあたり約1gまで)増やすと、尿素療法を模倣して低ナトリウム血症を改善できる可能性があるが、この効果に関するデータは不足している。

 

ランダム化盲検試験によるデータは不足している。

 

トルバプタン

低ナトリウム血症治療のためのトルバプタンに関する2つの無作為化プラセボ対照試験に組み入れられた110人のSIAD患者を含むサブセット分析では、トルバプタンを投与された患者は、プラセボを投与された患者よりも血清ナトリウム値の増加が大きかった。トルバプタンを投与された患者はベースラインから4日目までで5.3mmol/L、ベースラインから30日目までで8.1mmol/L、プラセボを投与された患者はベースラインから4日目までで0.5mmol/L、ベースラインから30日目までで1.9mmol/Lであった。

トルバプタンを投与された患者は、プラセボを投与された患者よりも水分制限の必要性が少なく、入院期間も短かった。しかし、口渇が一般的に生じ、トルバプタンで治療された患者の5.9%で低ナトリウム血症の過剰是正が起こった。


これらの試験の非盲検延長試験では、トルバプタンによる毎日の治療は4年以上にわたって有効であり続けた。トルバプタンは、高張食塩水の併用は禁忌であり、安全性に関する情報が限られているため、血清Na濃度が120mmol/L未満の患者では注意すべきである。

 

腎性SIADの管理には無効である。

 

◎補足(バソプレシンV2受容体拮抗薬の適正使用に関するステートメントより)

・2023年に心不全学会から発表されているトルバプタンの適正使用について

・トルバプタン開始時は基本入院、開始後4-6時間と8-12時間で採血評価

※低Na補正中は特に飲水制限解除を忘れずに

 

エンパグリフロジン

最近のデータでは、SIAD患者の治療において、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンの潜在的な役割が支持されている。


87例の患者を対象とした無作為化比較試験において、1日1Lの水分制限とエンパグリフロジン投与は、水分制限単独よりも5日目の血清Na値の上昇と関連していた(10mmol/L vs. 7mmol/L)。

重篤な有害事象の発現頻度はエンパグリフロジン群とプラセボ群で大きな差はなかったものの、エンパグリフロジン群では一過性の腎機能障害が4例、低ナトリウム血症の過剰是正が2例に認められた(プラセボ群ではそれぞれ0例、1例)。

 
その後の14人の患者を含む無作為化4週クロスオーバー試験では、エンパグリフロジンの投与により血清Na値が4.1mmol/L上昇したのに対し、プラセボ群では上昇しなかった。

 

Area of uncertnainty

慢性的な低Na血症と有害な転帰(骨折や死亡リスクの増加など)とに因果関係であるかどうかは不明であるが、因果関係を支持する証拠もある。例えば、高齢のラットに実験的に慢性SIADを誘導すると、骨密度の低下、サルコペニア、心筋症、性腺機能低下がみられた。

 

低Na血症を回復させることが長期的な転帰の改善につながるかどうかも不明である。観察研究のメタアナリシスでは、入院中に低Na血症が改善した患者では、低Na血症が改善しなかった患者と比較して、入院中および退院後の死亡の発生が大幅に少ないことが示されている。

 

高張食塩水のガイドラインに沿った固定量(静脈内ボーラス投与)の使用による低Na血症の緊急管理を、個別処方ベースのアプローチと比較して評価するプロスペクティブ研究が必要である。

 

トルバプタン、尿素、エンパグリフロジン(および他のSGLT2阻害薬)による治療を、有効性の結果、安全性、および費用に関して比較する長期無作為化試験が必要である。

 

ガイドライン
SIADによる低ナトリウム血症を含む低ナトリウム血症の診断と管理に関する、米国とアイルランドの専門家パネルおよびヨーロッパのガイドラインが発表されている。
今回の推奨はこれらのガイドラインに沿ったものである。

 

結論と今回の症例の推奨事項
今回の患者は、SIADに一致する低ナトリウム血症を有している。


診断を確定するためには、続発性副腎不全と重度の甲状腺機能低下症を除外するための検査が必要である。


SIADに関連する薬を服用しておらず、他の原因も明らかでないため、胸部と頭部のCT画像診断を行うが、画像診断が陰性であれば、特発性と考える。


尿浸透圧が高いことから、水分制限のみに対する反応は不良である。この患者の高血圧と前立腺症を考慮すると、塩錠とフロセミドの推奨は避けたい。その代わりに、1日1500mlまでの水分制限とともに、1回15gの尿素を1日2回(経口尿素製剤として)投与することを推奨するが、この方法を支持するランダム化試験のデータは得られていない。あるいは、1日7.5mgから開始するトルバプタンの長期使用を検討する。この治療法は患者によっては費用が障壁となる可能性があることに注意する。

 

治療中はナトリウム濃度を注意深くモニターすべきである。

 

Key clinical points

低ナトリウム血症は最も一般的な電解質異常である。この状態は通常、ナトリウム/
カリウム含有量に対する水分の過剰によって引き起こされる。

 

低ナトリウム血症の原因として頻度の高いSIADでは、浸透圧刺激や血行動態刺激がないにもかかわらず抗利尿ホルモンの分泌が亢進するため、腎臓による水分貯留が起こり、水分過剰となる。

 

SIADの症状は、発症の早さ、重症度、持続時間によって異なる。症状は、軽症で非特異的なもの(例えば、脱力感や頭痛)から重症で生命を脅かすもの(例えば、痙攣や昏睡)まで様々である。

 

SIADの原因としては、がん、薬剤、肺疾患、中枢神経系障害、術後、重度の吐き気、ストレスなどが挙げられるが、原因が特定できないことも多い。

 

重篤な症状のSIADでは、脳浮腫を回復させるために3%NaClによる緊急治療を行う。専門医への相談が必要である。

 

SIADの管理戦略には、可能であれば基礎疾患の回復または改善、水分制限、塩化ナトリウムの補充(多くの場合フロセミドとともに)、尿素補充、トルバプタンによる治療が含まれる。

 

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勉強になりました。

 

改めて知らなかった点、勉強になった点のまとめです。

・推奨的にはSIADの原因検索はCTくらい

・治療法にSGLT2が登場してきている

・Kの補充もNaに影響する

・特発性がかなり多い

・軽症低Naも治療意義はありそう

・有効循環血液量減少が高度になるとADHが分泌される

・SIADHは浸透圧刺激と有効循環血液量減少刺激によらずADHが分泌される