地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231027:連鎖球菌のIEリスク

85歳女性、要介護2、施設入所をされている方。受診前日からの発熱で受診。診察すると背部に発赤あり。蜂窩織炎として診断した。

(自分は蜂窩織炎でも血液培養をとるように育てられてきたので)血液培養を採取し、家族や施設の希望もあり、全身状態を鑑みつつ内服抗生剤CEXで治療を開始とした。

翌日血液培養からグラム陽性連鎖球菌が2/2セットで陽性となり、最終的にはStreptococcus dysgalactiae ssp equismil(SDSE)が陽性となった。

 

入院での治療に切り替え、抗生剤ABPCを開始した。

ここで疑問。連鎖球菌菌血症でIE検索はどこまで行う?行う必要ある?

 

 

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ということで今回は連鎖球菌のIEリスクについて勉強してみました

 

https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046723

 

はじめに

連鎖球菌の血流感染症(BSIs)は、感染性心内膜炎(IE)の最も頻度の高い原因の一つであり、大規模な登録研究により、過去数十年間における溶連菌IE有病率の増加または横ばいが証明されている。

新たに発表された大規模な集団ベースの研究によると、連鎖球菌によるBSIの7.3%がIEによる入院と関連していた。


連鎖球菌は50以上の種が同定され、時代とともに分類が変化している細菌群であり、以前の研究では、一部の溶連菌、特にMitisグループの溶連菌がIE患者に多いことが示されている。

 

しかしESCやAHAのIEガイドラインが、IEの有病率や異なる溶連菌種に起因するBSI患者におけるワークアップの違いに関して何も明記していない

さらに、ESCガイドラインIEの診断基準は、主に修正Duke基準に基づいており、連鎖球菌性IEの診断の主要な基準として、viridans streptococciまたはS. bovisの血液培養陽性のみが含まれている。

 

Viridansという用語は、血液寒天培地上で緑色の溶血を引き起こす細菌培養に基づくもので、含まれる連鎖球菌種の中には溶血を引き起こさないものもあれば、数種類の溶血を引き起こすものもあるため、時代遅れで一貫性がない。

 

以上より特定の溶連菌性BSIを有する患者を前にしたとき、臨床医はIEを併発するリスクに関する明確な根拠がないままであり、その結果、これらの患者においてどのようにワークアップを区別すべきかが不明確となっているのが現状。

 

今回連鎖球菌の菌種レベルでのIE有病率を調べるために、デンマーク首都圏での2018年から2017年にかけての連鎖球菌BSIの全患者を調査した。

患者組み入れフロー

 

菌種の分類

16-rRNA遺伝子の塩基配列決定による系統関係に基づいて、連鎖球菌を種レベルで分類8つの主要なグループに分けた結果が下記

連鎖球菌の分類

※S pneumoniaeは系統学的にMitisグループと近縁であるが、通常、連鎖球菌IEを評価する際には別々に分析されるか、含まれない。

 

※S oralisとS mitisは系統遺伝学的に非常に近い関係にあり、微生物学的な結果がS mitis/oralisとして報告されることが多いため、一緒に解析した。

 

※症例数が非常に少なく、系統学的にも密接な関係があることから、MitisグループのS cristatusとS sinensisも合わせて解析した。

 

※S suis,S acidominimus,S ovisのような未分類の連鎖球菌を,Granulicatella adiacens,Granulicatella paraadiacens,Granulicatella elegans,Abiotrophia defectivaのような栄養要求性の変異がある連鎖球菌とともにother streptococciとして解析した。

 

 

患者特性

患者の特徴

6224例の患者における6506例のBSI症例を対象とした。

236例は2例以上のBSI症例を有し、最初のエピソードから2回目のエピソードまでの日数中央値は332日(四分位範囲102~869日)であった。

 

全集団の平均年齢は68.1歳(SD 16.2歳)、S pyogenes BSI患者の平均年齢が最も低く、S gallolyticus(旧S bovis)BSI患者の平均年齢が最も高かった。

 

コホート全体では男性がやや多かったが(52.8%)、いくつかの菌種は女性に多かった(S pneumoniae、S pyogenes、S mutans)。

 

S mutansのBSI患者では、弁膜症の有病率が最も高かった(n=7、14.6%)のに対し、S sanguinisのBSI患者では、人工弁(n=20、15.0%)とIE既往(n=7、5.3%)の両方の有病率が最も高かった。

 

心臓デバイスは、平均年齢が最も高い菌種で最も一般的であり、S gallolyticus BSI症例(n=27、12.0%)で最も観察された。

 

連鎖球菌のIEの有病率

連鎖球菌BSIでのIE有病率

 

連鎖球菌BSIの頻度とIE有病率のまとめ


連鎖球菌BSIにおけるIEは有病率7.1%(95%CI 6.5-7.8)、平均年齢は69.0歳(SD 14.8歳)、男性が66%であった。

 

それぞれの菌種類のリスク(実際の数字は上記table参照)

低リスク(3%未満):S pneumoniae、S pyogenes、S intermedius、S peroris、その他Rare BSIs
中リスク(3-10%):S dysgalactiae、S anginosus、S agalactiae、S salivarius、S constellatus、S thermophilus、S vestibularis、S lutetiensis
高リスク(10-30%):S mitis/oralis、S parasanguinis、G adiacens、S infantarius、S equinus
超高リスク(30%以上):S gallolyticus、S sanguinis、S gordonii、S mutans、S cristatus/S sinensis

 

多変量ロジスティック回帰分析

多変量ロジスティック回帰解析結果

3セット以上血液培養陽性、人工弁、固有弁疾患、心疾患、男性がIEと有意に関連していた。

 

リスク因子を調整すると、S pyogenesを除くすべての菌種が、S pneumoniaeと比較してIEのリスクが有意に高いことが示された。

 

TTE、TEEを行うかどうか

今回の結果に基づくと

IEのリスクが高い(10-30%)または非常に高い(30%-):TTE+TEEを実施すべき

IEのリスクが中程度(3-10%):臨床的な疑いとIEの追加的なリスク因子(3セット以上血液培養陽性、人工弁、固有弁疾患、心疾患、男性)に基づいて、TTE±TEEを実施するかどうかを慎重に判断すべき

IEのリスクが低い(-3%):臨床経過を予測し、臨床的疑いが高いか持続する場合にのみ、TTE±TEEを実施する

 

スコアリングについて

・Discussionで以前から提唱されている非β溶連菌菌血症でのIEリスクスコアリングとして知られるHANDOC score(Clinical Infectious Diseases 2018;66(5):693-8):3点以上で感度100%、特異度76% について、S.anginosusが-1点になることについて異を唱えていた

 

※HANDOCスコアについて、HOKUTOで簡単に計算できます

hokuto.app

 

 

まとめ

IEのリスクは感染する連鎖球菌の菌種に依存する

 

最も一般的な連鎖球菌性BSIはIEの有病率が比較的低い

 

連鎖球菌群内におけるIEの有病率の変動は大きく、したがってIEのリスクは菌種レベルで評価されるべきである

 

IEの有病率が最も高かったのは、S mutans、S gordonii、S sanguinis、S gallolyticus、S mitis/oralisの血流感染であった

 

3セット以上血液培養陽性、人工弁、弁疾患、心疾患、男性がIEと有意に関連していた

 

 IEリスク毎にTTE、TEEを行うかどうかを判断すべき

 

実践的フローチャート

https://doi.org/10.1093/ejechocard/jer023

 

上記のサブ研究として、連鎖球菌BSI患者における心エコー検査のフローチャートが提案された

 

菌種、その他のIEリスクによるIE有病率

菌種、リスク因子、血液培養陽性本数によるIE有病率

IE有病率

-3%:低リスク

3-10%:中リスク

10%-:高リスク

 

フローチャート

figure 3

 

菌種ごとのリスクと血液培養陽性率、リスクファクターによる分類でのフローチャート

 

IE有病率3%未満:wait&see

IE有病率3〜10%:TTE

IE有病率10%以上:TTE+TEE

 

※リスクファクター(元文献の多変量解析結果とは若干異なることに注意)

弁膜症、人工弁、過去のIE、心臓デバイス

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勉強になりました。

 

菌種ごとのリスクを意識しつつ、血液培養陽性率やリスクを見極めて対応を考えていくのは実践的でわかりやすいですね!

 

ただ、最初から3setは血培取らないことも多いし、2set陽性となった後に追加で血培とっても抗生剤入っちゃってるしというところはあります。スタンスとしては2set陽性となったら3set陽性と仮定しての対応を考えるのが無難ですかね!

 

今回の症例では、SDSEということでModerte risk streptococciと考え、血液培養は2set陽性で3set陽性と仮定して、リスク因子はなく、TTEを行い疣贅がないことを確認しました。