地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231116:射精時痛

80歳男性。前立腺肥大症で泌尿器かかりつけ。GERD症状で私の内科外来に通院中。

いつもの定期外来でふと「射精の時に痛みがあって困ってます。泌尿器科では専門でないと言われました。」と相談してくれました。ひとまず尿検査やPSAなど評価しつつ、セルニルトン(植物由来で前立腺の炎症を抑える薬で慢性前立腺炎に適応がある)を処方して外来フォローとしました。

 

正直初めての経験で困りましたが、ナイーブな話題を相談してくれたことにとてもありがたい気持ちになりました。

 

なので勉強しました。

ということで今回はこちらを読んでみました。

Cureus. 2020 Oct; 12(10): e11253. 
doi: 10.7759/cureus.11253
PMID: 33269171

 

いやぁ、無視されていますよね。。。。

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はじめに

射精関連痛(Orgasm-associated pain)は、射精時に生じる苦痛を伴う感覚と定義される。(dysejaculation、odynorgasmia、 dysorgasmia、orgasmalgiaとも呼ばれる 。)

 

多くの患者が最初は自分の経験を自分から話さないが、痛みを伴う射精は患者のQOLに有害な影響を及ぼす症状であり、かつしばしば無視される症状である。

 

主に陰茎レベルでの痛みが報告されているが、精巣、直腸、下腹部などさまざまな部位での痛みも報告されている 。

 

痛みの特徴としては、痛みの持続時間は数秒から2日程度、感覚は鈍痛から耐え難い痛みまで様々。

 

この話題に光を当てた論文は比較的少なく、米国泌尿器科学会(AUA)、欧州泌尿器科学会(EAU)、NICEガイドラインなど、主要な泌尿器科団体による疼痛性射精に関する具体的なガイドラインは存在しない。

 

この文献レビューの目的は、有痛性射精の発生率、原因、調査、および潜在的な管理方法を見つけること。

 

 

 

有病率
痛みを伴う射精は、依然としてあまり報告されていない症状。

 

2003年に米国と欧州6カ国で大規模な多国籍調査が実施され、下部尿路症状(LUTS)に悩む50~80歳の男性患者12,815人を調査した。これらの患者のうち、6.7%が射精痛に悩まされていた。

 

別の研究では、性的に活発な男性約2000人のLUTS患者の25.9%が射精不快感を経験していた。

 

別の2つの研究では、発生率は1.9~12%と報告されている。

 

まとめると単独症状としてか他の下部尿路症状と関連して、男性の1.9~25%が有病率である。

 

国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score)で評価されるLUTSの重症度が高くなるにつれて、症例数の増加が認められることも報告されている。

 

生理学
男性では、オーガズムと射精は同時に起こる。

 

射精とオーガズムは、ドーパミン、ノルエピネフリンセロトニンアセチルコリン、一酸化窒素などの神経伝達物質を含む中枢神経系と末梢神経系の間の複雑な相互作用に依存している。

 

射精にはホルモン経路も重要な役割を果たしている。代表的なホルモンは、オキシトシン、プロラクチン、甲状腺ホルモン、グルココルチコイド、性ホルモンなど。射精生理に対するホルモンの影響を評価した研究はほとんどない 。

 

射精とオーガズムを評価する脳研究は、視床視床下部が性行動の制御に重要な役割を果たすことを示している 。陰茎背神経からの感覚入力は脊髄に感覚を伝え、会陰部や精巣を刺激することでも、陰茎背神経が活性化され、同様の効果が得られる 。

 

 

射精にはemission(放出)expulsion(排出)の2段階がある。

 

①emission:第1段階

物理的または視覚的刺激を受けた後、骨盤神経叢と下腹神経叢の両方が働き、膀胱頸部の閉鎖によって分泌物の逆流を防ぐことから始まり、ここでは精巣上体、精管、original vesicles、前立腺器官、前立腺尿道、膀胱頸部が関与している。

その後、前立腺分泌液と精子が精管から前立腺尿道へ排出される。

 

②exoulsion:第2段階

球海綿体筋や腸腰筋などのさまざまな筋の収縮で、尿道口から精液が排出される。

このプロセスの間、膀胱頸部は閉じたまま。

尿道括約筋の弛緩と他の付属性器とともに陰部神経の活性化によりオーガズムの感覚が誘発される。

 

病因



 

感染症や炎症: 睾丸炎、精巣上体炎、前立腺炎尿道炎など。

 

前立腺肥大症前立腺肥大症(BPH)の患者は、健常者よりも痛みを伴う射精を起こしやすい 。

 

根治的前立腺摘除術後:膀胱頸部および膀胱頸部の収縮と外括約筋を支配する神経線維の術中損傷は、オーガズム関連症状を引き起こす。ある研究では、根治的前立腺摘除術を受けた患者の9%が痛みを伴う射精に苦しんでいることが示された。別の研究では、33%が根治的前立腺摘除術後に痛みを伴う射精を経験している。

 

精嚢結石: 精嚢結石の原因はまだ謎であるが、慢性感染症前立腺癌、尿逆流、糖尿病のある患者にみられる。これらの患者の大部分は、痛みを伴う射精と血精液症を呈する。診断は、経直腸的超音波検査、MRI、単純X線写真などの放射線学的評価によって行われる。

 

Zinner syndrome:精嚢腺嚢胞、同側腎無形成、同側射精管閉塞の三徴候からなる稀な症候群。精嚢腺嚢胞は、同側腎無形成の70%にみられる。ほとんどが偶発的所見であるが、時に患者は痛みを伴う射精を呈することがある。

 

射精管閉塞(EDO): 射精管奇形、前立腺正中嚢胞、前立腺炎や精嚢炎に伴う繊維症、精嚢結石、内視鏡操作後の瘢痕化など、いくつかの病態が原因となる。不妊症の原因となることもある。

 

慢性骨盤痛症候群(CPPS): 陰部神経障害によるものが多く、多くは神経の圧迫によって引き起こされ、陰部神経が仙結節靭帯と仙棘靭帯の間を通過する際に起こることが多い。性交時の骨盤の動きが原因と考えられ、痛みを伴う射精を引き起こすことがある。その他陰茎、陰嚢、肛門周囲の痛みとして生じることがある。慢性骨盤痛症候群(CPPS)に罹患している患者の24%が、定期的に射精痛を感じている。

 

薬の副作用抗うつ薬でもみられることがある。イミプラミン、デシプラミン、クロミプラミン、プロトリプチリン、アモキサピンフルオキセチン、ベンラファキシンなどで認められる。シクロベンザプリンなどの筋弛緩薬も、疼痛性射精の原因となることが報告されている 。これらの薬剤を中止すると患者の症状が改善することが示されている。

 

その他:精管切除後の射精痛はまれであるが、起こる場合は通常陰嚢に起こる。メッシュを用いた鼠径ヘルニア修復術後の精管の瘢痕化も、射精痛を引き起こすことがある。

 

上記を踏まえて以下を行う

診察
・性器診察
前立腺の直腸指診が含まれる。
検査
・PSAを含む血液検査
・尿検査/培養
・射精管閉塞や結石の有無を調べる経直腸超音波検査
尿道狭窄が疑われる場合は、膀胱鏡検査や尿道造影検査

 

治療

・感染性または炎症性:抗生物質NSAID
・精嚢関連:経尿道的精嚢鏡
・射精管閉塞:経尿道的射精管切除術またはバルーン拡張術 
前立腺肥大症・根治的前立腺摘除術後:タムスロシン(4週間)

・薬の副作用:薬の中止

・鼠径ヘルニア術後:精管を瘢痕組織から解放し、腸骨鼠径神経を分割することで痛みが軽減することが証明されている。

・その他:射精後疼痛を有する若年患者でトピラマート(抗てんかん薬)の経口投与による治療に成功した例があり、1ヵ月以内に患者の疼痛スコアは8/10から1/10に改善した。

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勉強になりました。

 

射精には2段階あるんですね!emission(放出)とexpulsion(排出)。

病因を整理して理解することもできました。薬が原因となるのも意識しないといけないですね。

 

今後は慢性前立腺炎や慢性骨盤痛症候群をもっと深掘れればと思います。