地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230712:抜管直後の上気道閉塞 どうする?

窒息で挿管になった80歳の患者さんの抜管をしました。抜管直後は呼吸状態は安定していましたが、数分後に嗄声になり、呼吸状態が悪化、SpO2が低下しました。吸引しても喀痰はほぼ引けず、バッグバルブマスクは硬くて全然揉めません。

 

さてどうする?

 

 

 

 

実際のアクション

喉頭痙攣を考えてプロポフォール2mg iv

・その後換気は良好となり、落ち着いて再挿管

 

実際に喉頭は見れていませんでしたが、抜管直後の上気道閉塞、プロポフォールですぐに改善したことから臨床的に喉頭痙攣の診断とし対応しました。

以下、ボスからもらった喉頭痙攣のreviewのまとめです。

 

ポイントは

喉頭痙攣は小児で有名だが成人でも起こりうる

・リスクはたくさんあるが、挿管時(特にケタミンを使用する時)、抜管時に意識はしておく

喉頭痙攣を見た時に非薬理学的には軽く胸骨圧迫をする、Larson maneuverを行うことができる

喉頭痙攣を見た時に薬理学的にはプロポフォール、サクシニルコリン(実臨床ではロクロニウムで良いだろう)をすぐに使用する

・個人的には、ケタミンを使用する時にはプロポフォールも準備しようと思いました

 

 

 

疫学
・周術期喉頭痙攣は周術期の生命を脅かす合併症であり、その発生率は手術の種類、患者の年齢、既往症、麻酔手技によって0.78~5%。

 

病態生理

・機序としては、気管気管支の誤嚥を防ぐための原始的な気道保護反射が過剰に働き声帯が持続的に閉鎖することで起こる。

・上記の反応は正門周囲の刺激で起こる。求心路としては上喉頭神経内枝があり、声門に沿ってレセプターが分布し、その大部分は喉頭蓋の喉頭表面に存在する。

・また、上気道粘膜を刺激すると、心血管系の変化(徐脈、動脈圧の変化)も生じることから、骨格筋だけでなく平滑筋もこれらの反射に関与していると推測される。
喉頭痙攣では、真性声帯のみ、または真性声帯と仮声帯の両方が関与する。

 

喉頭の解剖を復習してみる。

(喉頭の臨床解剖:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/112/2/112_2_86/_pdf/-char/ja)

筋肉

喉頭の筋には内喉頭筋と外喉頭筋がある

・内喉頭筋は 喉頭の軟骨を結ぶ筋で,声門閉鎖筋,声門開大筋,声帯 緊張筋に分けられる

・声門閉鎖筋:収縮により声帯を短縮させて厚みを増し内方移動させる甲状披裂筋(内筋)、筋突起を前 方に引いて声帯突起を内転させる外側輪状披裂筋(側筋)、両側の披裂軟骨を内方に引き寄せて声帯を正中に移動させる披裂筋(横筋)がある。

・声門開大筋:収縮により筋突起を後方に引き声帯突起を外転させる後輪状披裂筋(後筋)がある。

 声帯緊張筋:収縮により声帯が伸長して緊張が増し声を高くする輪状甲状筋(前筋) がある

神経

喉頭の運動、感覚は迷走神経支配で,枝は声門の下は反回神経 (下喉頭神経),声門の上は上喉頭神経に分かれる。内筋,側筋,横筋,後筋は反回神経支配で,前筋は上喉頭神経支配となる。

・上記の神経は脳幹の孤束核で収束し、上気道反射の発生に重要な役割を果たしている。

https://visual-anatomy-data.net/nurve/index-superior-laryngeal-nerve.html



 

リスクファクター



症状・診断

・吸気性喘鳴、奇異性呼吸、陥没呼吸、SpO2の急速な低下がある、閉塞が完全な気道閉塞に進行すると、リザーバーバッグが硬く揉めず、カプノグラムも測定されない。

・酸素化低下が最も一般的な症状であり、その他の症状としては、徐脈(6%)、肺水腫(4%)、心停止(0.5%)、誤嚥(3%)、不整脈および死亡など。

・診断は閉鎖した声門と声帯が可視化された場合にのみ可能であるが、ほとんどの症例では不可能。

・表面麻酔のみでの気管挿管中または抜管中に最も頻繁に起こる。

・鑑別として、気管支痙攣、声門上閉塞、心因性アナフィラキシー私見)、声帯麻痺、気管軟化症、血腫、異物、喉頭浮腫、気管虚脱など、他の鑑別診断を除外することが重要だが難しい。

 

 

予防

・(特に喘息の既往がある小児では)喉頭反射を低下させるプロポフォール導入がベストの方法。

・抜管2分前にリドカイン1-2mg/kg ivすることも効果がある。リドカインの声帯局所投与も、小児の全身麻酔中の喉頭痙攣予防に有効であることが示されている。(個人的にはリドカインivはちょっと抵抗があるので、局所投与くらいかな・・)

・気管抜管前の硫酸マグネシウム15mg/kg ivは、気道反射と咳を減少させる作用があり、喉頭痙攣予防の可能性がある。

・抜管前に喉頭が完全にきれいになるまで分泌物や血液をすべて除去することも重要である。

・artificial cough maneuverも有用かもしれない。(よくわからなかった)

 

起こった時の対応

Step0:喉頭痙攣を認識する

Step1:喉頭痙攣の刺激を除去し、頭部後屈・顎先挙上を行い、100%酸素マスクでPEEPをかける。

CPAPの使用は胃を膨張させ、胃逆流のリスクを高める可能性があり、適度な間欠圧をかけることを好む人もいる。

※適切なサイズの経口エアウェイを使用し、舌根沈下に対応することも重要。

Step2:人を集める

Step3:喉頭痙攣かどうか判断する

・実際には難しいことも多いが、喀痰はそれほどなく窒息でなさそうなのにバッグが固くで押せない時などは想起する

Step4a:薬があれば

プロポフォールを0.25~0.8mg/kg ivが1st

・それでダメならサクシニルコリン0.1mg/kg iv(ロクロニウムでも可、投与量の記載はないが挿管用量は0.6-1mg/kg、※サクシニルコリンは挿管用量の1/10の記載)

・アルフェンタニルとメペリジン(ペチジン)があり、特に喉頭痙攣の誘因が疼痛刺激である場合に有効。

・ドキサプラム1.5mg/kgは、呼吸深度を増加させることで、喉頭痙攣を抑制することができる。

ニトログリセリン4μg/kgも有効であると報告されているが、平滑筋にのみ作用し、声帯の骨格筋には作用しない。

Step4b:薬がなければ(薬があっても)

Gentle thracic pressure:胸部正中線を20~25回/分で優しく圧迫すると痙攣が解除される。

Larson maneuver:下顎後枝と乳様突起前部の間を両側から圧迫する方法。痛みで声帯が弛緩することで、喉頭痙攣が停止する。(NEJMのビデオがある!)

www.youtube.com

Step5:最終手段

・声帯を閉鎖した状態で強引に気管挿管を行う:外傷は生じるが、緊急に気道を確保することができる。

・輪状甲状靭帯穿刺/切開術:最終手段