地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231003:AMPC/CVA出荷調整!動物咬傷どうする?

NICUICUの勤務が終わり、10月から地方中規模病院に戻ってきました。標高1000mくらいで、ひたすら寒いです。

 

この6ヶ月外来をほとんどしていなかったせいか、タイミング的な問題かわかりませんが昨日薬剤師さんからオーグメンチンの出荷調整の話がありました。当院は整形外科Drが多く、動物咬傷に対する代替抗生剤投与について質問を受けました。

 

そこで、動物咬傷の原因微生物、予防/抗生剤投与について勉強しました。

 

原因微生物

犬、猫、人咬傷の起炎菌(Dtsch Arztebl Int. 2015 Jun; 112(25): 433–443.

・咬傷の感染症の30~60%は、咬んだ動物の口腔内細菌に由来する好気性/嫌気性混合感染であり、まれに被害者の皮膚細菌叢や環境に由来する。
・猫や犬に咬まれた傷口には、平均して2~5種の細菌が存在する。

・Staphylococcus ssp.(MRSAを含む)およびStreptococcus ssp. (Streptococcus pyogenesを含む)とともによく分離される病原体として、Pasteurella spp.(P. multocida、P. canis、P. dagmatis)、 Capnocytophaga canimorsus嫌気性菌(Fusobacterium spp、 Prevotella spp.、Bacteroides spp.、Porphyromonasspp.)などがある。

 

 

代表的な微生物の各抗菌薬に対する感受性(Mandell 9th edition)


感染予防的抗菌薬

予防的抗菌薬投与のまとめ(NICE guideline Published: 4 November 2020)

猫の咬傷は、鋭い歯が深く狭い刺し傷を作り、評価が難しいため別で考える

予防のために選択される抗生物質は、感染した傷の治療に使用されるものと同じであり(以下治療の項目参照)、投与期間は3日間

 

上記を踏まえたフローチャート(Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2022 Dec;107(6):442-445.

※High risk area:手、足、顔、生殖器、軟骨の上にある皮膚、血行不良の部位など

※Co-morbidity:糖尿病、免疫抑制、脾機能低下、非代償性肝硬変など

 

人咬傷

 

 

猫咬傷

 

犬咬傷


感染治療的抗菌薬

成人に対する推奨される抗菌薬(NICE guideline Published: 4 November 2020)

 

小児に対する推奨される抗菌薬(NICE guideline Published: 4 November 2020)

・通常は5日間投与。創傷の評価次第では7日間まで延長(感染巣の改善次第で延長を検討)。組織破壊が著しい場合、腱や血管構造に至っている場合は、7日間が推奨。敗血症性関節炎や骨髄炎の場合は、3~4週間まで延長し、より長期の治療が必要。

 

 

上記を踏まえてアモキシシリン/クラブラン酸供給不足に対しての抗生剤治療を考えてみると

IDATEN:アモキシシリン並びにアモキシシリン/クラブラン酸の不足に関する提言(http://www.theidaten.jp/data/AMPC_AMPC-CVA.pdf)

※ドキシサイクリンやミノサイクリンはST合剤に比して連鎖球菌のカバーに劣るため、後者を使用する場合にはクリンダマイシン併用が適切と考えられる。

 

ちなみに

Mandell 9th editionでは

Penicillin allergyAlternative therapy)

• Metronidazole 500 mg, 1 tablet by mouth three times daily plus trimethoprim-sulfamethoxazole, 1 double-strength tablet by mouth twice daily

• Moxifloxacin 400 mg, 1 tablet by mouth daily

• Doxycycline 100 mg, 1 tablet by mouth twice daily

 

プラチナマニュアルでは

βラクタムアレルギーの場合

・予防:MINO

・治療:LVFX+CLDM

 

Sanfordでは

Human bite:Alternative therapy

・Clindamycin + (Ciprofloxiacin or Levofloxacin or Moxifloxacin)

Dog bite:Alternative therapy

・Pediatric:Clindamycin+TMP+SMX

・Adult:Clindamycin+Fluoroquinolone

Cat bite:Alternative therapy

・Cefuroxime + Doxycyline

 

Johns Hopkinsでは

Bite Wounds:Alternative therapy

・Moxifloxacin

・Doxycycline

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勉強になりました。

 

基本的には今回の供給不足に対してIDATENが提示してくださっている対応(http://www.theidaten.jp/data/AMPC_AMPC-CVA.pdf)が、今の日本の対応としては最も推奨されるでしょう。

 

それを踏まえた上で、改めて基本に立ちかえり

・患者背景として閾値低い予防が必要な併存症があるか(脾機能低下(OPSI)でCapnocytophagaは有名ですよね)

・受傷部位は予防が必要な部位か

・抗生剤はどういった細菌を標的としていて、オプションとしてどういったものが他にあるか(キノロン+CLDMなど)

などを踏まえて、院内でのコンセンサスを形成していければと思います。