地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230615 NEJM レビュー:皮膚扁平上皮癌

今週のNEJMのレビューはこちら。

感想としては

・こんなに多いんだ

・免疫抑制がこんなにリスクなんだ

・術後の人などフォローする機会があれば、リスク評価をして適切なサーベイランスができているか検討しよう

の3点です。

 

Squamous-Cell Carcinoma of the Skin(N Engl J Med 2023; 388:2262-2273)

 

疫学

・皮膚癌は、米国および世界で最も頻繁に診断される癌であり、アメリカ人の5人に1人が生涯で皮膚癌にかかり、皮膚扁平上皮癌は、皮膚癌の中で2番目に多く(皮膚癌全体の20%)、年間100万人以上が発症している。増加傾向である理由としては、高齢化、日光暴露の増加、日焼けベッドの使用、皮膚癌検診への関心の高まりと関連していると考えらえれる。また、臓器移植後など、免疫抑制が基礎にある皮膚扁平上皮癌患者の割合が増加しているもの特徴。男性に多く(3:1の割合)、年齢とともにリスクは劇的に増加する(75歳以上の発症率は、55歳以下のの5-10倍)。黒人では最も多く、白人、アジア人、ヒスパニック系では2番目に多い皮膚癌のタイプ。アメリカで非ヒスパニック系白人の発症率が150-360人/10万人、黒人の発症率は3人/10万人。

 

皮膚所見

・鱗屑性、紅斑性、出血性の病変を呈し、日光暴露部に多い。組織学的サブタイプによって見た目は異なる(下図)。

・非白人では、手掌、足底、爪、性器などの日光に当たらない部位や、慢性的な炎症や瘢痕がある部位が好発部位となる。

A.C:高分化型皮膚扁平上皮癌
B,D:低分化型皮膚扁平上皮癌

 

リスクファクター

・最も重要なのは、紫外線への累積暴露、年齢、および免疫抑制。その他の要因としては、環境要因(電離放射線への曝露、ヒ素ラドンへの曝露)、遺伝子要因(明るい色の皮膚、赤毛・金髪、明るい色の目、皮膚扁平上皮癌の家族歴(2-4倍)、 色素性乾皮症、表皮水疱症、アルビニズム、特定の遺伝子変異(TP53, NOTCH1 or NOTCH2, CDKN2A, PI3K, and cell-cycle pathways))、その他(慢性炎症(熱傷痕、慢性潰瘍、副鼻腔、炎症性皮膚疾患)、喫煙、甲状腺機能低下症、薬剤(ボリコナゾール、ヒドロクロロチアジド、BRAF阻害剤、TNF阻害剤など)、HPV感染症(特に爪周囲および性器上皮癌の危険因子))がある。

・紫外線:UVB波は、ジピリミジン二量体の形成による直接的なDNA損傷をにより、紫外線A波は、間接的なDNA損傷とフリーラジカルの形成により、悪性化を引き起こす。日焼けベッドもリスクとなり、屋内、屋外ではリスクに差はない。

免疫抑制:固形臓器移植、AIDS、CLL、リンパ腫、長期の免疫抑制療法など。特に、臓器移植後は、免疫不全者よりも発症率が5-113倍高い。

 

病期分類、ワークアップ、予後

・適切な病期分類、リスク認識をすることで、予後不良のリスクが高く、検査、監視の強化が重要な症例を特定することが重要

皮膚扁平上皮癌における局所再発および転移の臨床的・病理的リスクファクター
LVI:リンパ管浸潤 PNI:神経周囲浸潤

病期分類とリスクファクター

 

マネジメント

原発性腫瘍の治療:Low riskでは局所麻酔で手術可能、適切に治療されると治癒率は95%と高い。標準的な広域局所切除は外科的マージンを4-6mmとして、治癒率は90-98%。High riskでも手術が主軸となるが、より広い外科的マージン(6-10mm)およびより詳細な組織学的評価が推奨される。特に高リスク、超高リスクではMohs手術(全ての切除面をすぐに顕微鏡で評価する)が非常に有効。

放射線治療:外科手術の適応とならない症例に考慮。データが限られ議論があるが、Mohs手術後にマージン陽性となった患者、広範な末梢神経病変、太い神経(直径0.1mm以上)または名前付き神経の病変、その他の高リスクの特徴を持つ患者において、集学的な協議後に腫瘍底への補助放射線療法を検討するように推奨される。完全切除できない結節性疾患、多結節、3cmを超える結節で被膜外進展を伴う場合は、放射線療法が標準治療と考えられている。

・化学療法、免疫療法、分子標的療法:手術、放射線療法が実行不可能な場合を除き、皮膚扁平上皮癌患者のほとんどの原発腫瘍の治療には推奨されないが、免疫療法は、cemiplimab(2018年)およびpembrolizumab(2020年)の承認により、ここ数年で皮膚扁平上皮がんに対する全身治療薬の状況を劇的に変化させている。手術の候補とならない再発の局所進行患者(la期)、遠隔転移を有する患者には、単独または放射線療法との併用による全身療法を集学的に検討することが推奨される。

膚扁平上皮癌に対する一般的なアプローチ

 

サーベイランス、二次予防

・皮膚扁平上皮がんは、診断後2年以内に最もよく再発する(70-80%)ため、局所再発や転移のリスクを考慮したサーベイランスが推奨される。臓器移植後、CLL、AIDS、その他の免疫抑制状態にある場合などのはより高度なサーベイランスが必要となる。

・患者教育としては、月1回の皮膚の自己検診と遮光の習慣を身につけるように指導する。

ニコチンアミド(ビタミンB3)のRCTでは、プラセボと比較して、1年後の新規扁平上皮がん病変が30%減少し、新規基底細胞癌病変が20%減少することが示された。

経口レチノイド(ビタミンA誘導体)は、前向き研究では、臓器移植患者や慢性疾患に分類される皮膚がん患者を含む患者において、新規扁平上皮癌病変を最大54%減らすことが示された。

・HPVは直接的な発癌物質ではなく、皮膚扁平上皮癌発症の補因子であると考えられているため、皮膚癌予防のためのHPVワクチンの使用は適応外であり、議論の余地があるが、臓器移植を受けた患者やその他の皮膚扁平上皮癌の高リスク患者においては、新規皮膚癌が減少したという症例報告が発表されている。

・カペシタビンは、nは少ないが、臓器移植後の新規皮膚癌のリスクを軽減することが示されている。

 

今後の展望

皮膚扁平上皮癌の予後と治療における今後の展望

・今後の展望として、患者固有の因子を用いた予後ノモグラムの開発、従来の臨床病理学的特徴および新規の腫瘍生物学の理解を深めること、皮膚扁平上皮がん患者における転移や予後不良の予測に役立つ新規腫瘍バイオマーカーの同定、新規の分子標的薬の開発などが挙げられる。