無症候性の新規発症の心房細動を見た時、持続していなくても、通常はCHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコアで抗凝固療法の適応を考え、HAS-BLEDスコアで出血リスクを検討し、抗凝固を開始するかどうか検討します。
ただICUで働いていると、重症疾患に伴う新規発症のAf(NOAF:New Onset Af)で抗凝固を開始するかどうかは意見が分かれるみたいでした。
ということで最近出ていたガイドラインを読んでみました。GRADEシステム準拠の診療ガイドライン(CPG)です。
背景
・NOAF(New Onset Af):これまでAf既往のない患者に新たに診断されたAf。重症患者において、2-44%と報告されている。
・観察データによると、 重篤な疾患に関連した心房細動は、 入院期間の延長、 血行動態の不安定化、 血栓塞栓イベントのリスク上昇、 死亡率の上昇など、 悪質な転帰と関連することが示唆されている。 血行動態の不安定化、 心不全、 脳卒中によるものかもしれないがメカニズムは不明。
・ICUにおけるNOAFの管理にはかなりのばらつきがあり、重症患者におけるNOAFの管理に関するエビデンスは乏しく、具体的な推奨事項は不足している。重症患者における心房細動の管理に関する現在の推奨は主に非重症患者集団から得られたものであり、これらの推奨をICUの臓器不全患者に当てはめられるかどうかは疑問。
・今回、the Clinical Practice Committee of the Scandinavian Society of Anesthesiology and Intensive care medicine (SSAI) が重症成人患者におけるNOAFの管理について、この診療ガイドラインを作成した。
主な疑問
重症成人患者のNOAFにおいて、第一選択薬理学的薬剤は何がよいか?
重症成人患者のNOAFにおいて、心房細動により血行動態が不安定な場合、直流除細動を行うべきか?
重症成人患者のNOAFにおいて、抗凝固療法を行うべきか?
重症成人患者のNOAFに置いて、退院後フォローアップを受けるべきか?
Population
ICUでNOAFを発症した重症成人患者
Intaevation/Comparator
(1)アミオダロン
(2)ジゴキシン
(3)β遮断薬
(4)マグネシウム
(5)プラセボ/無治療
(6)直流除細動
(7)抗凝固療法
(8)退院後のフォローアップ
Outcome
(優先順に)
(1)最長追跡期間での死亡率
(2)有害事象
(3)NOAFの再発
(4)出血事象
(5)血栓塞栓事象
(6)入院期間
(7)ICU入室期間
(8)QOL
結果
1:重症成人患者におけるNOAFの治療において、第一選択薬理学的薬剤は何か?
⇨ICUの重症成人患者のNOAF治療において、第一選択薬理学的薬剤に関する推奨は得られなかった。
根拠
・NOAFの重症成人患者において、関連するRCTは確認されなかった。
・重篤な成人患者を対象とした観察研究はいくつか確認されたが 、介入効果を評価する観察研究には交絡のリスクがかなりあり使用しなかった。
・心房細動の原因や薬理学的介入の効果は異なると考え、非重症患者やER患者を含む他の集団から得られた間接的なエビデンスは使用しなかった。
・専門家(医師含む15名)の意見としては、アミオダロンについて最も経験があることが示された。
2:NOAFで心房細動による血行動態不安定な重症成人患者に、除細動をすべきか?
⇨NOAF で血行動態が不安定な重症成人患者に除細動を行うべきかどうかについて推奨は得られなかった。
根拠
・NOAFの重症成人患者において、関連するRCTは確認されなかった。
・重篤な成人患者を対象とした観察研究はいくつか確認されたが 、介入効果を評価する観察研究には交絡のリスクがかなりあり使用しなかった。
・心房細動の原因や除細動の効果は異なると考え、非重症患者やER患者を含む他の集団から得られた間接的なエビデンスは使用しなかった。
・専門家の意見としては、除細動を定期的に使用している専門家いれば、ほとんど使用していない専門家もおり、診療のばらつきが大きいことが示された。
3:重症成人NOAF患者にルーチンに抗凝固療法を行うべきか?
⇨NOAFを有する重症成人患者において、抗凝固療法を行わない場合と比較して、治療量の抗凝固療法をルーチンに使用しないことを推奨する(weak recommendation, very low certainty of evidence)
根拠
・NOAFの重症成人患者において、関連するRCTは確認されなかった。
・観察研究のシステマティックレビュー(Thromb Haemost. 2021; 121: 1599- 1609.)が使用された。このシステマティックレビューは、4つの観察研究と44,087人の心房細動患者から構成され、NOAFまたは既存の心房細動を有する重症患者における抗凝固療法の効果を評価した。抗凝固療法を受けた心房細動患者では、抗凝固療法を受けていない患者と比較して大出血の発生率が増加することが報告されたが、血栓塞栓イベントの発生率には有意差は認められなかった。死亡率やICU滞在期間については不明。
⇨NOAFで他に抗凝固療法の適応がない重篤な成人患者に対して、ルーチンに抗凝固療法を行うことは推奨しないこととなった。
・専門家の意見としては、抗凝固療法を一度も使用したことがない専門家もいれば、常に使用している専門家もいるなど、大きなばらつきがあることが示された。
4:重症成人NOAF患者は退院後フォローアップを受けるべきか?
⇨NOAFのエピソードが1回以上ある重症成人患者には、退院後に循環器専門医による定期的なフォローアップを推奨する。
※備考:NOAFは30秒以上持続し、12誘導心電図またはモニターからのプリントにより記録され、フォローアップ時に循環器専門医が確認できること。
根拠
・NOAFの重症成人患者において、関連するRCTや観察研究は確認されなかった。
・心房細動の原因や治療法は異なると考え、非重症患者やER患者を含む他の集団から得られた間接的なエビデンスは使用しなかった。
・専門家にの意見としては、退院後のフォローアップのための循環器への紹介を行っているかどうかにはばらつきがあったが、ルーチンでの循環器への紹介は推奨されるとなった。(Best Practice Statement)
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勉強になりました。
とにかく、厳密に重症患者に限定した場合、RCTがないことが強調されていました。現状ではルーチンの抗凝固療法は推奨しない側に記載されたことは意識すべきかと思います。循環器への紹介は施設にもよりますが、現状判断ば難しい領域であるため、そういった意味で専門家と議論との閾値を下げるべきと思いました。