敗血症でICU管理中、昇圧剤もかなり使って血圧は落ち着いてきたと思ったら、急に鳴り響くアラーム、血圧が低下している。。フロートラックはデバイスの関係で使えていない。。
エコーで心収縮やIVCみたりしてあたふたしていました。
そこに指導医が近づいてきて
「先生がICUでもしエコーで一つだけ見れるとしたら何をみますか?」
と質問
僕は
「IVCで体液評価したり、EFも大事ですよね、TRPGも。。」
とゴニョゴニョ
指導医は
「僕だったらVTIかな、しっかり心拍出量と輸液反応性を評価して方針を立てよう」
ということで今回はJAMAから最近出ていた敗血症に対する輸液のレビューを読んでみました。輸液必要性、輸液反応性の指標がまとめられていて勉強になりました(輸液不耐性についてはあまり触れられていなかった)。
※最近よく勉強させていただいている川上大裕先生の本の内容も少し加えました。
Fluid Therapy for Critically Ill Adults With Sepsis(JAMA. 2023;329(22):1967-1980.)
集中治療室(ICU)に入院する患者の約20%から30%が敗血症であり、約25-40%が退院前に死亡している。
輸液療法は、敗血症患者に対する治療の重要な要素であり、今回敗血症の重症患者に対するICUでの輸液療法についてのレビューを見てみる。
Short Summary
敗血症患者に対していつ輸液療法を考慮すべきか?
輸液療法は、敗血症による低灌流(精神状態の変化、血圧の低下、尿量の減少、 CRTの延長)の証拠があり、輸液によってCO心拍出量が増加する可能性が高い患者に対して開始すべきである。輸液投与は、低灌流の証拠が消失したとき、患者が輸液に反応しなくなったとき、または患者が輸液過多の証拠を示したときに中止すべきである。
どのような種類の輸液を使用すべきか?
敗血症患者の輸液療法には、0.9%生理食塩水よりもリンゲル液(例えば、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液)を選択すべきである(外傷性脳損傷患者では避けるべき)。ヒドロキシエチルスターチは敗血症患者には使用すべきではない。
いつ、どのように輸液の除去を考慮すべきか?
体液除去は、蘇生および最適化段階の後、患者が安定した(例えば、昇圧剤の投与量が減少し、末梢の灌流が十分に行われた)ときに考慮すべきである。利尿薬は、体液の排泄を促進するための第一選択療法である。腎代替療法は、体液過剰による合併症があり利尿療法に反応しない重度の急性腎障害患者に考慮される。
方法
PubMedで下記の用語で検索、RCT28本、RCTの二次解析7本、観察研究20本、システマティックレビュー/メタアナリシス5本、スコープレビュー1本、診療ガイドライン1本、その他14本からなる76本の論文をレビューした。
・early goal-directed therapy [and] sepsis
・fluid resuscitation [and] sepsis
・fluid therapy [and] sepsis [and] critical illness
・fluid responsiveness [and] sepsis
・POCUS (point-of-care ultrasonography) [and] critical care
病態生理
・敗血症の影響:静脈容量増加や静脈抵抗減少を伴う体液喪失により有効循環血液量が減少し、静脈還流、心拍出量、組織灌流が減少する。そして、血管内容積、静脈還流、心拍出量、組織灌流を維持するための複数の生理学的経路が破壊される。
・静脈内輸液の役割:血管内血液量、心臓に戻る静脈血液量、心拍出量、組織提供酸素量を増加させる。血圧の変化は動脈エラスタンス(弾性)に依存する(動脈が硬くてコンプライアンスがない場合(エラスタンスが高い場合)は、動脈が柔軟でコンプライアンスがある場合と比較して、輸液による血圧の上昇が大きくなる)。つまり、輸液により心拍出量が増加していても、血圧が上昇しないことがある。
・輸液の分布:輸液は血管内⇨間質⇨細胞内の順に分配される。間質ではリンパ管を経由して血管内に再吸収される。輸液の分布は血清膠質浸透圧、血管内皮完全性、毛細血管静水圧、輸液速度/量、その他の因子に影響を受ける。輸液療法では血行動態の改善(心拍出量増加、血圧上昇、組織灌流改善)が起こりうるが、敗血症では過剰な輸液が血管外漏出と間質性浮腫を引き起こすことがある。また、敗血症における血管内皮および内皮糖鎖の損傷は、血管外漏出を増加させる可能性がある。静脈圧の上昇による組織浮腫は、臓器障害や腹部コンパートメント症候群などの合併症と関連する。
⇨輸液は、副作用を最小限に抑えつつ、早期効果を最大化するように調整されるべき。
輸液方法の種類:重症患者には、主に4種類の輸液が行われる(①fluid challenge、②fluid bolus、③maintenance or replacement fluid or as part of parenteral nutrition、④ medication diluent or carrier)
①fluid challenge:心拍出量、心拍数、血圧、尿量の変化など、輸液に対する患者の生理的反応を評価する目的で少量の輸液(250mLほど)を短時間(10分ほど)で投与すること
②fluid bolus:血管内容量を増加させることを目的として、比較的短時間(15分ほど)に大量の輸液(500-1000mL)を投与すること
③maintenance or replacement fluid or as part of parenteral nutrition:水、電解質、栄養、および損失(尿、消化管、ドレーンなど)の補充を目的として、遅い速度で長時間(数時間から数日間ほど)にわたって投与すること
④ medication diluent or carrier:薬剤の希釈剤または担体として投与すること
輸液の流れ
・敗血症に対する輸液療法は、resuscitation蘇生、optimization最適化、stabilization安定化、evacuation排出という重症の4段階で行われ、患者の回復の過程で輸液療法のアプローチが変化する。
・大枠の流れとしては流れとしては、迅速な初期蘇生⇨臓器および組織灌流の最適化⇨生理学的安定化⇨臓器機能障害
Resuscitation:輸液を行い、低灌流を回復させる
✅敗血症の診断と低灌流の評価。
・低灌流の所見:意識レベルの変化、血圧の低下(MAP<65mmHgと定義)、尿量減少(<0.5mL/kg/h)、mottling、CRTの延長(≧3秒)、乳酸値の上昇(>2mmol/L)など
✅初期輸液を行う。(SSCG2021では30ml/kgが推奨)
✅必要に応じて血管圧迫薬を投与する(NA、VSPなど)。
✅輸液に対する反応性を評価し、感染症を治療する。
・輸液によってMAPが上昇しなくなるまで、蘇生の目標が達成されるまで、患者の状態が直ちに生命を脅かすものでなくなるまで、輸液の合併症(低酸素血症の悪化など)が生じるまで、輸液療法を継続するのが一般的。
Optimization:臓器および組織への灌流を確立する
✅輸液の反応性と低灌流の徴候に基づいて、追加輸液のリスクと利益を検討する。
✅血行動態目標(乳酸値、毛細血管再充填時間など)に合わせて昇圧薬圧および強心薬を追加する。
Stabilization:灌流の維持
✅体液過剰とそれに関連する臓器機能障害をモニターする。
✅臓器障害を評価し、治療する。
✅CRT、乳酸およびその他の灌流マーカーをモニターする。
✅輸液制限を考慮する。
・ARDS患者では、輸液制限は人工呼吸器期間の短縮につながる
・N Engl J Med 2022; 386:2459-2470で敗血症性ショック患者の制限輸液戦略とSSCGの標準治療を比較し、以下のどれかに当てはまる時のみ250-500mlの輸血ボーラスを行う制限輸液戦略で、90日死亡率(42.3% vs 42.1%)、有害事象(虚血、AKI)に有意差はなく総輸液量は少ない結果となり、今後の指標となる可能性がある
①乳酸値≧4mmol/L
②MAP<50mmHg
③Mottling score>2
④割り付け後2時間後の尿量<0.1ml/kg/h
Evacuation:回復と余分な体液の除去の促進
✅重症時に蓄積した余分な体液の除去を考慮する。適応があれば、利尿または腎代替療法を用いる。
・RCTで、ARDSでない患者において、体液除去のための早期腎代替療法を優位性が示されなかった。さらに、中等速度の体液除去(1.01-1.75mL/kg/時)と比較して、腎代替療法による緩徐(濾過量<1mL/kg/時)および急速(濾過量>1.75mL/kg/時)の体液除去はいずれも、より高い死亡率およびより長い腎代替療法期間と関連している可能性がある。
✅早期のリハビリテーション、動員、栄養計画を開始する。
具体的な実際の輸液の流れとしては
輸液必要性の評価
↓
輸液反応性の評価
↓
輸液不耐性の評価(今回はあまり記載なし)
↓
輸液負荷の検討
↓
輸液必要性の改善の評価
輸液必要性
正常値 |
根拠 |
妥当性 |
|
HR |
60-100/min |
血圧が低いと、心拍数は増加し、COと酸素供給量が増加する。循環血液量減少が改善されると、心拍数は正常に戻る。 |
頻脈は、循環血液量減少以外の要因(例えば、発熱)から生じることもあるし、循環血液量減少が存在するときには生じないこともある(例えば、β遮断薬投与後)。 ほとんどの患者にとって、心拍数は輸液療法の指針となる十分な指標ではない。 |
MAP |
70-100mmHg |
平均動脈圧は臓器灌流の評価。平均動脈圧が60~65mmHg未満では臓器灌流が低下する。 |
MAP65mmHg以上を維持することが、敗血症の重症成人患者のほとんどに推奨される。MAPが低くても、輸液によって心拍出量が増加する患者を正確に識別することはできない。 |
CO |
5-6L/min |
COは、部分的に臓器/組織に供給される酸素量を決定する。 COが不十分で組織に十分な酸素が供給されない場合、虚血と嫌気性代謝が起こる。 |
COの絶対値よりも酸素需給バランスの方が重要である。 十分なCOがあっても、敗血症では微小循環が障害され、灌流が損なわれる可能性がある。 RCTでは、心拍出量の増加が敗血症の転帰を改善するという結果は得られていない。 |
ScvO2 |
70-80% |
ScvO2は全身の酸素供給量と全身の酸素消費量のバランスを反映する。低ければ、組織への酸素供給を増加させることが有益であることが示唆される。 |
RCTでは、ScvO2を治療の指針として用いることで敗血症の転帰が改善することが示されている。 ScvO2の測定には中心静脈カテーテルが必要である。 ScvO2の値が低いと酸素供給が不十分な患者が特定される可能性があり、高いと酸素利用に障害のある患者が特定される可能性がある。 |
CVP |
5-10cmH2O |
中心静脈圧は右房圧、右室拡張末期圧、前負荷の代用指標として用いられてきた |
中心静脈圧は、輸液によってCOが増加する患者を正確に同定するものではない RCTでは、中心静脈圧を用いた輸液療法が敗血症の転帰を改善することは認められていない。 |
尿量 |
0.5-1.5ml/kg/h |
尿量は腎灌流の代用指標となりうる。 |
尿量は、微小血管の変化や急性尿細管壊死の発生など、腎臓の灌流以外の要因に影響される。 COと臓器灌流を増加させる輸液投与は尿量を増加させないことがある。 |
乳酸値 |
1-2mmpl/L |
乳酸値の上昇は、COまたは血液中の酸素量の不足による酸素供給不足を示すことがある。 |
敗血症における乳酸値の上昇は、組織への酸素供給が十分であるにもかかわらず、しばしば起こる。 乳酸値を低下させることで転帰が改善する可能性の高い患者を特定することができるが、RCTでは、蘇生の指針として乳酸クリアランスを用いることで敗血症の転帰が改善することは認められていない。 |
CRT |
≦3s |
CRTは末梢灌流を測定し、大循環と微小循環の連関を反映し、輸液蘇生に迅速に反応する。 |
RCTでは、輸液療法の指針として乳酸クリアランスと比較して毛細血管再充填時間を用いた場合、敗血症の転帰が少なくとも同程度に良好であることが示されている。 |
・乳酸値、CRT、ScvO2、尿量、皮膚所見(mottling)、PvaCO2ギャップなどから輸液必要性を評価する
・血圧の正常化単独は蘇生のゴールとしては不十分
※時系列で紐解く有益な輸液の話(金芳堂、川上大裕著)では
・ScvO2は臨床的には50%台で低い、50%以下でやばい!といったイメージとなる
・ScvO2が上昇する病態として組織での酸素利用障害(敗血症、シアン中毒など)、右左シャント(透析患者、LC患者、心内シャントなど)、ミクロ循環障害などが挙げられ、高すぎる場合も死亡率が上昇する
・酸素需供給バランスの構成要素はDO2酸素供給量:CO1回拍出量・Hb・CO・SaO2とVO2酸素消費量
・乳酸値は組織低酸素以外(TypeB)でも上昇し、ScvO2は上昇する病態もあるため、PvaCO2ギャップを評価することが重要
・PvaCO2ギャップが6mmHg以上で灌流障害(ミクロ、マクロ)、例外はPO2高値、代謝性アシドーシス、高体温、Hb上昇
・マクロの灌流障害はCO1回拍出量の低下:COが低いとCO2がウォッシュアウトできない
・ミクロの灌流障害はScvO2が上昇する上記の病態
まとめると
・乳酸以外の輸液必要性に問題がないのに、乳酸だけクリアランスが悪いときに下記のアプローチを行う
・①CO心拍出量低下に関しては:輸液反応性があれば輸液、心収縮が落ちていれば強心薬を考慮する、また運動や炎症など酸素需要が高まることによるCO2産生が増えていると考えればそちらにもアプローチ
・④ミクロの灌流障害を考える時には、同時にScvO2上昇の病態も考えるため、見かけ上ScvO2が低下していないように見えてもCO1回拍出量が低下している可能性があり注意
・基本的に輸液を考慮する可能性があるのは①、③も隠れたCO心拍出量の低下がある可能性があり考慮する
輸液反応性
定義 |
正常値 |
根拠 |
コメント |
妥当性 |
|
中心静脈圧 (CVP) ※静的指標 |
右心房圧や前負荷を推定する |
5-10cmH20 |
血管内容積を推定する 低値の場合輸液でCOや血圧などを増加させる可能性がある |
CVPの単独または静的な測定値だけでは、輸液反応性を反映しない場合がある。 |
単独では利用すべきではない |
肺動脈楔入圧 (PAWP) ※静的指標 |
左室拡張末期圧や左房圧を推定する |
4-12cmH20 |
血管内容積を推定する 低値の場合輸液でCOや血圧などを増加させる可能性がある |
PAWPの単独または静的な測定値だけでは、輸液反応性を反映しない場合がある |
単独では利用すべきではない |
脈圧変動 (PPV) ※動的指標 |
人工呼吸器換気で生じる脈圧の動的変化 |
10-15% |
脈圧(収縮期圧から拡張期圧を引いた値)は、陽圧換気を受けている患者で吸気時と呼気時の脈圧の差が大きくなると、右室静脈還流の減少と輸液反応性が推定される |
脈圧変動が輸液反応性の予測因子として信頼性が低い条件 ・自発呼吸(偽陽性) ・腹腔内圧の上昇(偽陽性) ・右室機能障害(偽陽性) |
PPV>10-12%は、輸液反応性の予測において感度88%、特異度89% |
1回拍出量変化 (SVV) ※動的指標 |
人工呼吸器換気で生じる1回拍出量の動的変化 |
10-13% |
陽圧換気を受けている患者の呼気と吸気の間のSVの大幅な減少(25%以上)は、前負荷と静脈還流の低下を示し、輸液チャレンジに反応して心臓前負荷と拍出量が増加しやすい患者を特定する。 |
SVVが輸液反応性の予測因子として信頼性が低い条件 ・自発呼吸(偽陽性) ・腹腔内圧の上昇(偽陽性) ・右室機能障害(偽陽性) |
SVV>12%は、輸液反応性あり |
呼気終末閉塞テスト (EEOT) ※動的指標 |
機械的換気で、呼気終末時呼吸を15秒ほど中断した時の1回拍出量の変化 |
variable |
EEOT後の脈圧(15%以上)およびCO(5-12%以上)の大きな増加は、輸液反応性あり 輸液チャレンジと同じ意味合い ※実際は15秒の変化をフロートラックで評価するのは困難でVTIが増加するかを評価する |
EEOTの信頼性が低い条件 ・呼吸負荷が高い患者で15秒間の呼気終末閉塞試験が実施できない |
EEOTで脈圧の5%以上の変化は、輸液反応性(COの上昇)の感度87%、特異度100% |
受動的下肢挙上 (PLR) ※動的指標 |
両脚を30°~45°に上げて半座位の患者を仰臥位に急速に体位変換させ、それに伴う前負荷とCO心拍出量の変化を評価する |
variable |
PLR後のCO/SVや脈圧の大きな増加(10%~15%以上)は輸液反応性あり PLR後のVTI10%以上増加は輸液反応性あり ※輸液チャレンジ(≒300mLの自己輸液)を再現している |
受動的下肢挙上術が実施不可能または信頼性の低い条件 ・重度の血液量減少(偽陰性) ・腹腔内圧の上昇(偽陰性) ・動けない、またはベッド上で急速に体位を変えられない。 (脊髄外傷など) ・圧迫ストッキングの併用による反応低下 ※正しい受動的下肢挙上手技や心拍出量評価など、操作者に影響されることがある。 |
PLRでSV19%以上、脈圧10%以上の変化は、感度85%、特異度91%で輸液反応性あり |
Mini fluid challenge ※動的指標 |
少量の輸液(〜100mL)を1分以内に急速に投与し、VTIの変化を評価する |
variable |
急速な(1分以内)100mLの輸液ボーラス(その後14分間で400mLの輸液)後のVTIの大きな増加(10%以上)は、輸液反応性あり |
Mini fluid challengeが制限される時 ・輸液ボーラスの投与が必要 ※VTIの変化をリアルタイムで測定するためにエコーが必要 |
100mLの水分負荷に対するVTI10%以上の変化は輸液でのCOの増加の感度95%、特異度78% |
POCUS |
エコー |
variable |
以下のパラメータを推定する: VTIをSVの推定値として算出する。 LVEDVを前負荷の推定値として算出する。 IVC径と呼吸性変動で輸液反応性/不耐性を予測する。 Blineで輸液不耐性を予測する。 |
POCUSが制限されたり信頼性が低くなる可能性がある条件 ・技術に依存する ・IVCの呼吸変動などの動的測定は機械的換気を受けている患者では信頼性が低い |
・輸液によってSV1/COが増加すると予想される患者(輸液反応性あり)と輸液によってSV/COが増加しないと予想される患者(輸液反応性なし)を区別、評価する
・基本的に動的指標>静的指標(今回は動的指標のみ解説する)が有用
・Fluid challeng(Mini fluid challeng):Fluid challengeは本来4ml/kg(200-250ml程度)の晶質液を5-10分で輸液し、CO/SVが10%以上変化すると輸液反応性ありと判断する。Mini fluid challengeは100mlの晶質液を1分以内に投与し、CO/SVが5-6%以上、VTIが10%以上上昇した場合を輸液反応性ありと判断する。
・PLR:下肢挙上後1分以内のCO/SV/脈圧/VTIが1回拍出量が10%以上上昇した場合に輸液反応性ありと判断する
※検査終了後に元の45度ヘッドアップに戻して検査前の状態に戻るかを確認する
・SVV:SVV=(SVmax-Svmin)/SVmean✖️100(%)。12-13%以上で輸液反応性あり。
※SVVは以下のLIMITSが揃っている時に評価に値する(Ann Intensive Care. 2022;12:46.)
L |
Low heart rate/respiratory rate |
RRが多すぎると偽陰性 |
I |
Irregular heart rate |
|
M |
Mechanical ventilation with low tidal volume |
低1回換気量で偽陰性 ※8ml/kg以上が理想的だが、最近は8ml/kg以下でも良いのではと言われている |
I |
Increased abdominal pressure |
腹腔内圧が高いと偽陽性 |
T |
Thorax open |
開胸で偽陰性 |
S |
Spontanoeus breathing |
自発呼吸で偽陽性 |
・PPV:SVと脈圧は比例するためSVVとほぼ同じような評価。
・POCUS:輸液反応性の評価としてはVTIが有用。PLR後、Mini Fluid Challenge後のVTI10%以上上昇、VTIの呼吸性変動12%以上で輸液反応性あり ※上記LIMITSに当てはまる条件で
※時系列で紐解く有益な輸液の話(金芳堂、川上大裕著)ではIVC呼吸性変動をICUの人工呼吸器管理下で利用するのは限定的であり、評価としてはIVCが10mm以下に極端に虚脱している場合や、high PEEPをかけていたり、心機能が悪かったりと、IVCが張って見えるべき状況であるのにIVCが虚脱し呼吸性変動がしっかるとある場合は輸液反応性があると判断して差し支えないと考えると記載
・人工呼吸器患者で、PPVやSVVの低い患者、PLRでCOが上昇しない患者は輸液反応性なしと考えられる。
・輸液反応性がないと予想される患者には輸液療法を控え、輸液反応性があると予想される患者に輸液を行うことは論理的であるが、この方法が患者の転帰を改善するかどうかを示すデータはほとんどないということは理解すべき
・輸液反応性は、独立した因子として考えた場合、低灌流の所見がない場合の輸液療法の必要性を示す指標にはならない
POCUSの役割
・ショックの病因を評価する(Rush exam)
・PLRでのVTIの変化で輸液荷反応性を評価する
・Blineで輸液不耐性を評価する
・IVCに加えて肝臓や腎臓の静脈flowを評価して組織浮腫を評価して輸液不耐性を評価する
※操作者間の経験やばらつき、自発呼吸と陽圧換気での評価の変化、その他の技術的限界によって制限される。
輸液の種類
・輸液には、晶質液(水と電解質を含む)と膠質液(水、電解質、より大きな化合物を含む)がある。最も一般的な晶質液は、0.9%塩化ナトリウム(生理食塩水)と乳酸リンゲル液。
晶質液
・20.9%塩化ナトリウム(生理食塩水)とリンゲル液(高Cl性代謝性アシドーシスを予防する)がある。
・SPLIT試験のICU患者2278人(うち敗血症患者は77人)のうち、急性腎障害はリンゲル液群の9.6%、0.9%食塩水群の9.2%に発生(P = 0.77)で有意差なし。
・ SMART試験に参加した1つの学術施設の15802人の重症成人において、死亡、腎代替療法、持続的腎機能障害の発生率は、リンゲル液群で14.3%であったのに対し、0.9%食塩水群では15.4%(P = 0.04)で有意差あり。
・敗血症患者1641人を対象としたSMART試験の二次解析では、30日院内死亡率はリンゲル質液群で26.3%、0.9%食塩水群で31.2%(P = 0.01)で有意差あり。
・BASICS試験の重症成人10520人において、リンゲル液投与群(26.4%)と0.9%生理食塩水投与群(27.2%)の間で90日死亡率に差はみられず(調整ハザード比、0.97[95%CI、0.90-1.05])、敗血症患者の90日死亡率はリンゲル液投与群で46.7%、生理食塩水投与群で49%であった。 事前に計画されたサブグループ解析では、リンゲル液は外傷性脳損傷患者483人の死亡率を増加させた(オッズ比、1.48;95%信頼区間、1.04-2.09)。
・PLUS試験に参加した5037人の重症成人患者において、90日死亡率にリンゲル液群と0.9%生理食塩水群との間に差はなかった(21.8% vs 22.0%;差、-0.2%ポイント[95%CI、-3.6~3.3])。
・バイアスのリスクが低い6件のRCTの患者34 450人を対象としたメタアナリシスでは、90日死亡率の相対リスクは、リンゲル液が生理食塩水と比較して0.96(95%CI、0.91-1.01)であったことが frequentist分析で報告されている。
・5件のRCTから得られた6754例の敗血症患者において、リンゲル液群と生理食塩水群の死亡率に差はなかった(31.3% vs 33.9%;相対リスク、0.93[95%CI、0.86-1.01])。
⇨リンゲル液は、敗血症患者において少なくとも生理食塩水と同程度の予後を達成することが考えられる。
膠質液
・アルブミン製剤はICUで最も頻繁に使用される膠質液。
・1218人の敗血症患者を含む6997人の重症患者を対象としたRCTでは、生理食塩水と比較してアルブミンは死亡率を低下させなかった(アルブミン20.7% vs 生理食塩水20.8%;P = 0.87)。死亡率の結果は、敗血症患者のサブグループでも同様であった(アルブミン投与群30.7% vs 生理食塩水投与群35.3%;P = 0.09)。
・1818人の敗血症のICU患者を対象としたRCTでは、28日後の追跡調査における死亡率は、アルブミン投与群(31.8%)と晶質液投与群(32.0%)の間に有意差はなかった(P = 0.94)。
⇨敗血症治療におけるアルブミンの役割は現在のところ不明である。
・複数のRCTにおいて、ヒドロキシエチルデンプンなどの半合成コロイド溶液は、敗血症患者における急性腎障害、腎代替療法、および死亡の発生率の増加と関連していた。
・敗血症患者537人を対象としたRCTでは、乳酸リンゲル液と比較して、ヒドロキシエチルデンプンは急性腎障害の発生率を増加させた(22.8% vs 34.9%;P=0.002)。
・ 敗血症または敗血症性ショック患者804人を対象としたRCTでは、酢酸リンゲルと比較して、ヒドロキシエチルデンプンは90日後の死亡率を増加させた(51% vs 43%;P = 0.03)。
・7000人のICU患者を対象としたRCTでは、生理食塩水と比較して、ヒドロキシエチルデンプンは腎代替療法の必要性を有意に増加させた(7.0% vs 5.8%;P=0.04)
・この試験の敗血症患者1921人のサブグループにおいて、生理食塩水と比較して、ヒドロキシエチルデンプンは死亡率を増加させなかった(ヒドロキシエチルデンプンの死亡率25.4%、生理食塩水の死亡率23.7%;リスク比、1.07[95%CI、0.92-1.25];P = 0.38)
⇨ヒドロキシエチルデンプンは敗血症患者に投与すべきではない。
輸液投与速度
・85件の試験で3601人の患者を対象としたシステマティックレビューでは、輸液速度が速い(30分未満)(輸液量は500mL未満が12.7%、500mLが79.4%、500mL以上が7.9%であった)ほど、輸液投与に反応してSV1回拍出量/CO心拍出量が増加する確率が高いことが報告されている。
・ 輸液療法を必要とする重症患者10 520人を対象としたRCTでは、輸液速度が遅い群(333 mL/時)と速い群(999 mL/時)が比較され、死亡率は、輸液速度が遅い群で26.6%、速い群で27.0%(P = 0.46)で有意差はなかった。事後解析では、敗血症患者を含むサブグループにおいて、輸液速度の速さは有益性と関連していた(死亡率のオッズ比、0.72 [95%信頼区間、0.54-0.91]、有益性の確率>0.99)
⇨輸液速度の違いが敗血症の重症患者の転帰に及ぼす影響は、依然として不明。