地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230605 小児のアナフィラキシーの注意点

今日は小児外来で4歳の小児のくるみ摂取後のアナフィラキシーの対応をしました。普段小児をたくさんみている小児外来でもアナフィラキシーの対応はあたふたします。

 

ということで、今回は小児のアナフィラキシーを対応する上での注意点を書いてみました。こんなことに注意しているよ、なんてことがあればお気軽にコメントください。

 

①投与量

大人は0.3-0.5mg。最近は多めに行ったほうが良いとなってきて0.5mg入れる人も多いのではないでしょうか。

小児はどうでしょうか。久しぶりだと、あれ0.3mg入れていいんだっけ?となります。

投与量即答できますか?

0.01mg/kgです。

最大量即答できますか?

0.3mgです。

何歳まで最大0.3mgか即答できますか?

12歳まで、小学生までです。13歳以降は0.5mgです。

体重がわからない時の大まかな投与量即答できますか?

以下の図のように年齢でおおよその量を推定します。

②患児の姿勢

アナフィラキシーの基本姿勢は仰臥位で脚を持ち上げます(トレンデンブルグ体位)。これが基本姿勢です。

では小児の場合はどうでしょうか?泣き喚く小児を母親が抱き抱えていることが多いです。啼泣がひどいとそれだけで酸素化が下がりますし、泣かないために抱っこしているのはいいようにも思いますが、この姿勢は危険です。

https://kidsna.com/magazine/mother-family-18050508-3725

血管内に血液量が維持されていない病態で急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大静脈内に十分に血液が充満していない状態に陥いります(Empty vena cava syndrome)。こうした状態ではアドレナリンが不応になるだけでなく、心拍出量の低下や心室細動などの不整脈を誘発し失神突然死を引き起こすことがあります。

(J Allergy Clin Immunol. 2003 Aug;112(2):451-2.)

急に抱き抱えるなどの姿勢の変化は特に小児の場合は容易に起こり得ます、注意しましょう。

 

③針の種類

アドレナリンを0.3ml吸うとすると、使われるシリンジはおそらく1mlでしょう。

https://axel.as-1.co.jp/asone/d/1-1793-01/

1mlシリンジには元々26Gくらいの短い針がついています。初めて筋注しようとした時、このまま注射しようとしたら上司に怒られる、これは研修医のあるあるではないでしょうか?26G針だと筋肉まで到達しない場合があり、基本は23G針を使用します。

https://maiplemedical.com/products/telmo-collection-none-23g-1-1-4r-bnn-2332r

成人だとある程度常識になりつつありますが、小児だと小さいし26Gでいいよねとなりがち、看護師さんもそのまま私がちだと感じます。もちろん筋肉は少ないですが、ムチムチで脂肪のある子供も多いためやはり基本は23Gを使用した方が良いです。大は小を兼ねますので。

 

上小児のアナフィラキシーで意外に陥りやすいポイントでした。

 

以下以前の記事から抜粋した一般的なアナフィラキシーの救急対応での要点(診断基準・マネジメント・難治性の治療)についてです。参考までに。

※元記事はこちら

tknk830.hatenablog.com

アナフィラキシーの診断基準(2020WAO)

アナフィラキシーガイドライン2022

個人的には福井大学の林先生の「アナフィラキシーのABCD」が覚えやすいです。基本は急な蕁麻疹+ABCDの異常です。皮膚所見がない場合も最大20%ありますが、抗原暴露後にABCDがあり辛そうなら積極的に疑いましょう!

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/3/108_557/_pdf

 

アナフィラキシーのマネジメント

アナフィラキシー対応の文書化した緊急手順書を持っておき、日常的に予行演習を行う。

②可能であればアナフィラキシーの誘因物質への暴露を取り除く。

③患者の評価を行う。気道、呼吸・循環と意識状態、皮膚、体重を確認する。

④助けを呼ぶ。病院なら緊急組成チーム、病院がいなら救急要請を行う。

⑤アドレナリン投与:大腿外側に筋注。0.01mg/kg(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg)。投与した時刻を記録し、必要があれば5-15分ごとに再投与する。通常は1-2回の投与に反応する。

⑥患者を仰臥位にする。呼吸苦や嘔吐がある場合には楽な姿勢にする。下肢挙上を行う。

⑦適応があれば高流量酸素を投与する。

⑧静脈路を確保する。14-16Gのカテーテルを使用する。1-2Lの0.9%生食を急速輸液(成人だと5-10ml/kg、小児だと10ml/kgを最初の5-10分で投与する)。

⑨どのタイミングでも適応があれば心肺蘇生を行う。

⑩頻回に一定の間隔で患者のモニタリングを行う。

 

アドレナリン筋注で反応しない場合

①⇨③の順に考慮、β遮断薬内服患者では②の前に④を考慮する。

①アドレナリンを5-15分間隔で反復投与

②アドレナリン持続点滴:アドレナリン(1mg/A)3A+生食47mlの組成で希釈(3mg/50ml)。0.5ml~15ml/hrで使用(50kgで0.01~0.3γ相当)。実際には体重50kgで開始用量が0.02γ、最大が0.2γまで、小児では0.1γで開始が推奨される。

バソプレシン持続点滴:バソプレシン5A(1A:20単位/1ml)を45mlの5%glu液または生食で希釈(100単位/50ml)。0.03単位/分(0.9ml/hr)で開始。維持用量0.01~0.04単位/分(0.3ml~2.4nk/hr)で使用。

④(β遮断薬使用患者では)グルカゴン点滴:グルカゴン1-5mgを5分かけてゆっくり静注(小児では20-30μg/kg(最大1mg))、その後効果に応じて5~15μg/分の点滴投与(体重によらない)※嘔吐に注意して側臥位にするなど考慮する