地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20231228:味覚障害

65歳男性、冬以外はアメリカの北の方に在住。内科的な既往なし。1年ほど前から徐々に味覚を感じなくなった。それが続くため、日本に帰国中に受診。

 

コロナ罹患なし

 

亜鉛75μg/dL、その他一般血算・生化・炎症・鉄など異常なし

 

マネジメントは?

 

 

 

 

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COVID19罹患後の味覚障害が話題になっている昨今ですが、コロナ関連以外だと亜鉛とか舌炎くらいしか浮かばなかったので勉強してみました。

 

日耳鼻 116: 77-82, 2013

・1999年1月から2011年1月までの12年間に味覚外来を受診した味覚障害患者1059例の検討

・全例に問診、味覚検査(電気味覚検査、濾紙ディスク法)、唾液検査(安静時唾液検査、ガムテスト)、採血(Zn、Cu、Fe)、SDS(Self-rating Depression Scale、自己評価式抑うつ性尺度)を行なった

・治療としては亜鉛製剤、鉄剤、漢方薬(香蘇散、半夏瀉心湯、半夏厚朴湯、加味帰脾湯、口腔内乾燥合併例に麦門冬湯など)、抗不安薬などを行った

 

味覚障害の原因は下記の通り

・内科医としてすぐに介入できるのは薬剤生、亜鉛欠乏、鉄欠乏など。

心因性と薬剤生が近年増加傾向。

亜鉛値は血清亜鉛値が正常の味覚症状も存在し、血清亜鉛/銅比率<0.7以下の場合潜在生亜鉛欠乏として介入を考えるべきであり、銅値もフォローしていくことが重要。

 

味覚障害の自覚症状の改善率

 

感冒後、鉄欠乏、亜鉛欠乏の改善率は良好。外傷性、医原性、心因性は不良。

 

味覚障害の自覚症状の平均治癒期間

・薬剤生は43.2週と長いが、降圧剤や抗凝固剤など中止が困難なことと比べて、抗癌剤・抗生剤など治療後に中止が可能なものに限ると治癒率は12/13(92.3%)、平均治癒期間17.2週と短かった

亜鉛・鉄欠乏や感冒後でも20週近くを要することは認識しておくべき。

 

受診までの期間と治癒率・治癒期間


・6ヶ月未満での受診の方が、治癒率は高く、治癒期間は短かった。早期診断、早期介入は重要そうである。

 

亜鉛欠乏の診断基準

亜鉛欠乏症の診療指針2018

亜鉛の測定は早朝空腹時に同じ時間にフォローすべき

・症状が明らかなら潜在性でも治療すべき

 

日耳鼻 122: 738-743, 2019

 

味覚障害の障害部位別分類

・障害部位は受容器(味蕾)、末梢神経(鼓索神経、舌咽神経、大錐体神経)、中枢神経、心因性、唾液分泌低下による伝達障害に分類される

・原因は特発生、亜鉛欠乏生、薬剤性、内分泌性、感冒後、全身疾患生、心因性、医原性、口腔疾患性、風味障害、嗅覚味覚同時障害(感冒後含む)、放射線性、遺伝性、末梢神経障害、中枢神経障害に分類される

実臨床的には味覚障害が実は嗅覚障害が原因ということも多いので注意

・ただし、現状分類法は統一されておらず、障害部位と原因分類が混在している

・全身疾患として味覚障害を主訴に診断されたものとして、肥厚性硬膜炎、ベーチェット病てんかん、後天性表皮水疱症、Cronkeit-Canada症候群などがある。

 

亜鉛製剤の効果:血清亜鉛値と質的・量的味覚異常による評価

・味覚異常は量的質的に分けられる

量的異常:味覚低下(味が薄い)、味覚消失(味がしない)、解離性味覚障害(特定の味質のみしない)

質的異常:自発性異常味覚(何も食べていないのに特定の味がする)、異味症(普段と味が異なる)、悪味症(何とも言えない嫌な味になる)、味覚過敏(特定の味質のみ)

・質的味覚異常では量的味覚異常と比較して有意に血清亜鉛値が低下している例が少なかった

・血清亜鉛が正常範囲で亜鉛内服療法を行なった場合、質的味覚異常群では有意であった症例は有意に少なかった

量的味覚異常では血清亜鉛値が正常でも潜在性亜鉛欠乏の可能性もあり亜鉛内服両方に効果を示すが、血清亜鉛値が正常範囲である質的味覚異常群では原因が亜鉛欠乏ではない例が多く亜鉛内服療法に効果を示しづらい。

亜鉛補充の注意点:長期投与で血清鉄・銅の低下を生じることがある。血清亜鉛値250μg/dLになれば減量する。基本的にはポラプレジンク投与により1ヶ月で血清亜鉛値は有意に上昇するが投与中止1ヶ月で投与前の戻るため、3ヶ月から6ヶ月は継続する必要がある。血清亜鉛値は日内変動があるため採血はなるべく午前に行い、同じ時間帯に評価することが望まれる。

 

亜鉛内服以外の治療

・鉄欠乏(Plummer Vinson syndromeなど)には鉄剤、ビタミン欠乏(Hunter舌炎など)にはビタミン剤、口腔乾燥症例では人口唾液・ニザチジン/塩酸セビメリンなどの唾液分泌促進薬

・心因的要素が強い、またはうつ傾向の一症状として味覚異常がある場合には抗不安薬抗うつ薬を使用する

・漢方の有用性も示されており、特に自発性異常味覚に対する効果は期待できる。補中益気湯、人参養栄湯、平胃散、小柴胡湯、八味地黄丸など。

八味地黄丸のような補材の場合、罹病期間の半分ほどの治療期間を要するとされ、長期間の内服を必要とすることが多い。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/001159406.pdf

・コロナ罹患後の味覚障害については、日本ではこちらが最新版

・基本的には一般的な味覚障害の対応と変わらない。

1年以上症状が残存することがあることには注意。

亜鉛は試してみるべき。

 

Curr Otorhinolaryngol Rep. 2022; 10(4): 385–392.

PMID:36158900

 

味覚障害の原因

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薬剤副作用:降圧薬(ACE-Iなど)、利尿薬(アミロライド、スピロノラクトン、フロセミドなど)、脂質低下薬(アトルバスタチン、シンバスタチンなど)、抗真菌薬(テルビナフィンなど)、抗菌薬など

・ACE-Iは、局所的なブラジキニン濃度を上昇させ、亜鉛や銅の欠乏を誘発することによって、質的な味覚障害を引き起こす。

・まれな原因として、食物成分(例えば松の実)や腫瘍随伴症状がある。特にsweet dysgeusia(甘味味覚障害は、肺癌や胸腺癌の初発症状として繰り返し報告されているため、胸部画像を検討すべき。

・特殊な病態として口内灼熱症候群(BMSがある。灼熱感、乾燥、痛みを伴う口腔不快感を特徴とし、味覚愁訴は必須ではなく、BMS症例の30%にのみみられる。閉経後の女性に多くみられる。正確な原因はまだ不明であり仮説としては末梢性/中枢性神経障害・幻肢痛症状などが考ええられており、悪化の誘因として心理的要因が疑われている。BMSの治療は、慢性疼痛疾患に準ずることが多い。

・大部分は特発性味覚障害ということも認識すべき。

 

味覚障害の治療の上での注意点

他の感覚系(視覚や聴覚など)とは異なり、味覚系は健康な状態でも病気でも再生率は基本正常であるため、自然回復の度合いが高い。ただし、完全に回復するまでの期間は最大2年であることを意識すべき。この情報を患者に伝え、回復を確認するために経過観察を選択するということが必要である。

神経損傷や感染後味覚障害(COVID-19誘発性でもある)のほとんどすべての症例に対して、第一選択の治療は、患者に適切な情報を知らせ、自然回復を待つことである。それができないまたは経過を見ても回復しない場合に、薬理学的治療を試みることべきである。

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勉強になりました。

 

個人的なポイントをまとめると

・内科医としてすぐに介入できるのは薬剤生、亜鉛欠乏、鉄欠乏など。

心因性と薬剤生が近年増加傾向。

亜鉛値は血清亜鉛値が正常の味覚症状も存在し、血清亜鉛/銅比率<0.7以下の場合潜在生亜鉛欠乏として介入を考えるべきであり、銅値もフォローしていくことが重要。

亜鉛・鉄欠乏や感冒後の改善率は良好だがそれでも20週近くを要する

・質的味覚異常と量的味覚異常で治療効果が異なる

・漢方の選択肢多い、特に自発性異常味覚に対する効果は期待できる。補中益気湯、人参養栄湯、平胃散、小柴胡湯、八味地黄丸など。

・薬剤副作用:降圧薬(ACE-Iなど)、利尿薬(アミロライド、スピロノラクトン、フロセミドなど)、脂質低下薬(アトルバスタチン、シンバスタチンなど)、抗真菌薬(テルビナフィンなど)、抗菌薬など

・特発性の自然改善でも2年くらいかかることもある

 

今回は潜在性亜鉛欠乏として補充しつつ、八味地黄丸処方してフォローとしてみました。今後に期待!