地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230702:JAMA:Caring for Patients With Acute Respiratory Distress SyndromeSummary of the 2023 ESICM Practice Guidelines

ESCIMのARDSガイドライン2023が出まして、それに対してJAMAからsummaryが出ていました。ガイドライン全部読むのは大変なのでsummaryを読みました。2017年からの変更点がわかりやすくまとめられています。

 

以下まとめ

・挿管されていない患者が含まれた。

・HFNCが積極的に推奨された。NPPVはあんまり。

・肺胞リクルートメント手技は推奨されなかった。

・筋弛緩薬は推奨されない。

・高頻度振動換気は推奨されない

・腹臥位が推奨された。

・high PEEPは重症でも控える。

・適応があればECMOは積極的に推奨された。

Caring for Patients With Acute Respiratory Distress SyndromeSummary of the 2023 ESICM Practice Guidelines(JAMA. Published online June 17, 2023.)

 

ARDSの基本事項

・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、非心原性肺水腫という中心的特徴を共有する病態の集合体。典型的には、びまん性肺胞毛細血管透過性と炎症により重篤なガス交換障害が生じる。

・ARDSは50年以上前に初めて報告され、外傷、大量輸血、敗血症性ショック、肺炎などの病態から生じる。

・過去数十年の集中治療の進歩により治療成績は改善されたが、ARDSによる病院死亡率は依然として40%。

 

Major recommendations

心原性肺水腫や慢性肺疾患が原因ではない急性低酸素血症性呼吸不全の非挿管患者
・挿管リスクを減らすために、HFNCを低流量酸素より推奨する(strong recommendation; moderate level of evidence)

 

挿管されたARDS患者
・死亡率を減少させるために、高容量換気より低容量換気(4-8mL/kg(予測体重))を推奨する(strong recommendation; high level of evidence)

・長時間の高圧リクルートメント手技を推奨しない(strong recommendation; moderate level of evidence) 
・短時間の高圧リクルートメント手技を推奨しない (weak recommendation; high level of evidence)

 

中等度から重度のARDSで挿管された患者

・死亡率低下のために腹臥位を推奨する (strong recommendation; high level of evidence)

・ 死亡率低下のために筋弛緩薬の持続投与をルーチンでは推奨しない
(strong recommendation; moderate level of evidence)

・ECMOの基準を満たす患者をECMOセンターに紹介する(strong recommendation; moderate evidence)

 

Key Takeaways Regarding These Clinical Practice Guidelines

2017年から多くの変更点がある

 

Difinition:定義

・2012年に発表されたベルリン定義では①急性発症、②胸部画像上の両側性陰影、③左心不全のみで病態を説明できない、④低酸素血症の4項目でARDSを診断することとなった。(JAMA, 307: 2526-2533, 2012.)

(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第 1 号 66- 71)

・上記の定義では、患者が人工呼吸を受け、少なくとも5cmH2OのPEEPを受けている必要があり、機械的人工呼吸へのアクセスが制限された環境でケアされる患者が除外されている。また、気管挿管の前にHFNCのような治療法が実施される可能性のあるARDS患者での評価が難しい。

⇨今回、人工呼吸器管理を受けていない場合を、既存の肺疾患や心不全では説明できない急性低酸素血症性呼吸不全(AHRF: acute hypoxemic respiratory failure)と分類した。

 

How Best to Care for Patients With AHRF Prior to Intubation:挿管前のAHRF患者の最善のケア方法

・2017年のESICMガイドラインでは、人工呼吸器管理を受けていないARDSリスクのある患者に対する戦略に関する推奨はなかった。

・今回、多くの臨床試験を検討した結果、HFNCはルーチンの酸素投与より優れており、挿管前に試みるべきであると結論づけた。NPPVについては推奨するには十分なエビデンスがなかった

 

How Best to Provide Respiratory Support to the Intubated Patient With ARDS:ARDS気管内挿管患者への呼吸補助の最善の方法

・2017年のESICMガイドラインと同様に、低容量換気(1回換気量4-8mL/kg(予測体重))の使用を推奨した。7つの無作為化試験のプール推定値では死亡率の改善は示されなかったが、病態生理学的根拠に基づいてこの方法は強く推奨された。

PEEPに関しては、5cmH2Oから開始し、その後、低酸素血症を避けるために、吸入酸素の割合とともにPEEPを漸増することが推奨された

別のPEEP戦略(例えば、肺胞のリクルートメントを促進するために高いPEEPを使用する、PEEP反応性の個々の測定値に応じてPEEPを漸増するなど)には、生理学的な根拠があるが有益性がないという強いエビデンスがあると結論づけられ、これらの使用に関する推奨は行わなれなかった

断続的な肺胞リクルートメント手技も、まだ効果が証明されておらず、実際に有害である可能性があり、有害な可能性も示唆され、使用はもはや推奨されなかった

 

Additional Strategies for Intubated Patients With ARDS and Persistent Moderate to Severe Hypoxemia:ARDSで中等度から重度の低酸素血症が持続する挿管患者に対する追加戦略

・2017年に引き続きproning(腹臥位)を推奨。proningに関する無作為化試験のプール推定値で臨床的有益性は示されなかったが、最も信頼性が高く関連性のある試験と考えられるPROSEVA試験で示された死亡率の改善に基づき推奨された(28日死亡率:腹臥位16% vs 仰臥位32.8%、腹臥位の絶対的死亡率benefit:-16.7%[95%CI:-24.4~ -9.0%])

・2017年からの変更として、高頻度振動換気について、有益性がなく有害である可能性が高いというエビデンスの後、あまり使用されていないため、今回記載がなくなった。

・2017年からの変更として、  ECMOは推奨された。EOLIA試験では、ECMOに無作為に割り付けられた患者の死亡率が低いことが報告されたが、統計的有意差はなかった(60日死亡率、ECMO35.4% vs 対照45.6%;ECMOの絶対死亡率benefit、-10.1%[95%CI、-22.2%〜2.0%])。しかしその後、BayesianによりPost hoc解析を行い、ECMOが死亡率を低下させることが示唆された。これに基づき、ECMOは推奨された。

・新規事項として、筋弛緩薬の仕様について、2つの主要な臨床試験で一貫性のない結果が得られていることを指摘した上で、以前から患者と人工呼吸器の非同期性を減らすと主張されていた持続的筋弛緩薬のルーチン使用は控えるように新たに記載された。

 

COVID-19–Specific Statements:COVID-19特有の声明

・COVIDに関連しないARDSに対する強力な推奨事項のほとんどは、COVIDにも当てはまる可能性が高いが、一般的に直接的なエビデンスが少ないため、推奨事項は弱くなる。

・COVIDに特有な提案のひとつは、まだ挿管されていない適格な患者における覚醒時のproningを検討すること。

 

Implications and Next Steps

Defining the Patients for Whom the Guideline Applies:ガイドラインが適用される患者の定義

機械的換気へのアクセスが制限された環境における患者のケアの指針として、また挿管前にHFNCのような戦略を実施する患者を特定する助けとなるため、人工呼吸器管理がされていないARDS患者の定義は必要であった。

・ARDSはAHRFの一部であるが、ARDSとAHRFを別の病態として定義することの臨床的妥当性と必要性は、現在も混乱の原因となっている。

 

Subdividing Patients Based on Treatment Response:治療反応に基づく患者の細分化

・ARDSを治療反応の違いによる分類への関心が高まっている。

 

 

ESICMガイドラインの推奨は以下

ESICM guidelines on acute respiratory distress syndrome: definition, phenotyping and respiratory support strategies

 

Recommendation