地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230426:肝機能障害精査お願いします(解答編)

問題を考えていただいた皆さんありがとうございました。私の問題の出し方が悪くて困った方も多いと思います、お許しください。

それではその後の経過となります。commonな疾患ですので安心してください。

 

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発熱、咽頭痛、後頸部リンパ節腫大、肝腫大、肝機能障害を認めました。カテゴリーとしては、伝染性単核球症かそれに類似するものと考えました。コロナ、インフル、溶連菌、アデノは迅速検査で陰性(全部出す必要があるかは置いておいて)、EBV、CMVは抗体を提出、ワクチン歴や皮疹のないことなどから風疹は否定的と考えました。ペットは飼っておらず、海外渡航歴はありませんでした。

 

ここで上級医と相談しました。CKとBNP追加してみて、尿検査もみておこうか。あーCK低めで、BNPちょっと上がっているね。尿では無菌性膿尿がある。先生が言ってくれた鑑別もそうだけど、’川崎病’を疑ってもう一回診察してみようか。

写真

写真はイメージです、本症例ではもう少し軽かった?

http://www.tanpopokodomo-clinic.com/wp/case/casetype/224/152/

 

いちご舌ありと取りました。川崎病症状としては3/6陽性だね。肝機能障害、BNP高値、無菌性膿尿は川崎病らしい所見として取れる。外注で先生が出してくれた検査の結果を待ちつつ、冠動脈エコーをしてみよう。

写真はイメージです。瘤形成はしていませんが、RCAの軽度拡張を認めました。

http://raise.umin.jp/zsp/download/ZScore-guide.pdf

 

川崎病症状3/6陽性+冠動脈病変陽性で他の疾患が除外的なら不全型川崎病の診断だね。入院で経過を見てみよう。

(第2病日)

眼球結膜の充血が出てきたね。川崎病症状4/6陽性+冠動脈病変陽性で川崎病の診断だね。一応EBやCMVの結果を待ちつつだけど、発熱も続いているから、IVIGの話を家族にしておこう。

(第3病日)

EBV、CMVは陰性だったね。発熱も続いている、今日で発熱から6日目だし、IVIGとASAは開始しよう。

(第4病日)

すっかり解熱して、リンパ節腫脹も肝機能障害も改善したね。川崎病としての経過で良さそうだ。

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というわけで川崎病の症例でした。こんなの経過追っていけばわかるだろ!という方はすみません。自分は正直あまり鑑別に考えておらず、外来フォローでも良いかと思っていました。

それでは少し川崎病について勉強してみましょう。

 

参考文献

川崎病診断の手引き改訂第6版

川崎病診断の手引きガイドブック2020

・あなたもできる!小児冠動脈超音波検査(http://raise.umin.jp/zsp/download/ZScore-guide.pdf

日本小児循環器学会川崎病急性期治療のガイドライン(2020年改訂版)

川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2020年改訂版)

・Up to date:Kawasaki disease:Epidemiology αnd etiology

・Up to date:Kawasaki disease:clinical features and diagnosis

 

1 sentence summary

中型血管に炎症を呈する、管動脈瘤など合併症を伴う東アジアで小児で最もcommonなself limitedな血管炎

 

疫学

日本での5歳未満の小児における発症率

・2007年と2008年に年間10万人あたり約215人

・0歳から4歳の男児における発症率は10万人あたり240人

・最も発生率が高かったのは生後6カ月から11カ月

・日本の小児の約100人に1人が5歳までに発症している

 

診断

主要症状

確定診断は下記の通り

・5/6陽性

・4/6陽性+他疾患の否定

       +冠動脈エコーでZ score≧2.5

                       or 実測値5歳未満3mm以上・5歳未満4mm以上

 

不全型の診断は下記の通り

・3/6陽性+他疾患の否定+冠動脈病変あり

・3-4/6陽性+他疾患の否定+参考条項①からそれらしい

・2/6陽性では要検討(日数によってはIVIGを検討)

 

参考条項

 

2019年の第5斑から第6班への変更点

・5日以上続く発熱⇨発熱:5日以上発熱が続いていない段階でも診断がつけば早期の治療が推奨されるため

不定形発疹⇨発疹(BCG接種痕の発赤を含む):BCG接種痕の発赤が川崎病に特徴的であると判断され、病的意義が強くなった

・不全型川崎病の明記:不全型川崎病の冠動脈瘤リスクと治療の意義がわかってきたため

・参考条項の追加:不全型川崎病の診断の補助としての参考条項の追加

 

 

主要症状ごとの特徴

鑑別診断

特にpseudo 川崎病として有名なのはエルシニアと最近ではMIS-Cです。一番下のスライド一覧にまとめがありますので、ご参照ください。

※迅速検査や培養検査などで感染症の診断がついても、感染症川崎病の併発は多く(小児で最大33%)、感染の診断が川崎病の否定とはならない

 

前駆症状もその他の感染症様症状となることに注意

 

川崎病らしくない所見、川崎病に特異的な所見

 

診断の手引きなどには載っていないけれど、小児科医が持っている、不全型川崎病を診断する、疑うきっかけとして重要と考えている所見がある

4-5日以上の発熱では川崎病を疑うことは重要であるのは有名です。それ以外に本症例のように発熱+頸部リンパ節腫脹、また発熱+発疹で鑑別として診察、検査をすることも重要でしょう。川崎病症状は有名ですが、見慣れないと判断が難しかったり(四肢末端の紅斑、浮腫)、所見が軽微だと判断が難しかったり(いちご舌)、診察をしなかったり(足底の診察、BCG痕の診察)、意識していないと意外と見落としがちです。

また、参考条項にあげられている項目はこれまで意識できていませんでした。肝機能障害が川崎病で起こるという認識がなかったため、思考があまり川崎病に及ばなかったです。上級医は参考条項に載っている所見(BNP高値、無菌性膿尿、DD上昇など)やCK低下、CRP高値などからより川崎病らしいと判断していました。

冠動脈エコーの閾値も思っていたより低かったです。不全型川崎病の診断でどこの施設でも全例IVIGをするかと言われると難しいですが、冠動脈病変があればIVIGの閾値は下がりますし、川崎病の診断にグッと近づきます。あと、意外に簡単に小児科医の先生方はエコーあてますので、その辺りの感覚が今回とても勉強になりました。

 

治療

日本小児循環器学会 川崎病急性期治療のガイドライン (2020年改訂版)

基本的には1st line通りにガイドライン通りに治療をおこないますが、IVIG不応リスク陽性例での追加オプションや2nd line以降の選択肢は施設によることが多い。

 

その他初期治療の注意点

炎症を早期に終息させ、動脈瘤の発生を抑制するため、汎動脈炎が始まる前の7病日までのIVIG投与が望ましい

IVIG不応で発熱が持続・再燃したとしても冠動脈拡大が始まる前の9病日までに

治療が奏功することを目指す

・発病後10日以内IVIG投与で動脈瘤の有病率が5倍減少(Uptodate:Kawasaki disease: Clinical features and diagnosis)

追加治療は動脈瘤が出現した後だと拡張を抑制できない場合がありIVIG不応例の判定を早期に行うことが望ましい

37.5度以上の発熱がなくても微熱の持続・血液検査上の炎症反応の悪化・心エコーの肝動脈瘤の徴候などがあれば「くすぶり型」としてIVIGの投与を考慮

 

IVIG予測不応スコア



治療の上でプライマリケア医としても意識すべきなのは日数です。もし川崎病だとしたら、今は発熱から何日で、いつまでに冠動脈エコーも含めて小児科の評価をきちんとうけてもらうべきか考えることが重要です。

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勉強になりました。もうちょっと待っていればそりゃ疑うし診断できたよという声もあると思いますし、ごもっともです。ただ、早い段階で川崎病を想起し、川崎病らしい所見がないか、検査結果がないか、川崎病メガネをかけて診察をするということが診断の遅れ、紹介の遅れ、治療の遅れを防ぐと思います。特に私は将来的に島で働きたいと考えていて、おそらく小児科のアクセスは乏しいと思いますので、今回の症例は川崎病の診断について再考する良い機会となりました。

 

それではこの辺で失礼します。

 

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