地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230423 NEJM Case record:Case 12-2023: A 44-Year-Old Woman with Muscle Weakness and Myalgia

週に1回のNEJM case recordまたはCPSの輪読会の日です。本日のcaseはこちらです。

Case 12-2023: A 44-Year-Old Woman with Muscle Weakness and Myalgia(

N Engl J Med. 2023 Apr 20;388(16):1513-1520.[PMID:37075144])

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本文経過

カンファ

 

44歳の女性が、近位筋の筋力低下と筋肉痛のため、リウマチ科クリニックに受診した。

 

5年前に両手の小関節に朝のこわばりと痛みが出現した。RFとCCP抗体陽性、ESR高値であり、関節リウマチと診断された。患者は関節リウマチの治療を拒否し、代わりに、セレン、タラ肝油、ウコンの摂取を開始した。朝のこわばりと関節痛は4週間後に改善した。

 

5年前の経過ははほぼRAの診断で良さそうですね。RFは陽性となる疾患がたくさんあります。膠原病もそうですが、IEを含む感染症も有名ですね。CCP抗体はRA全経過中での特異度は高いですが、Tb、HCVなどでの偽陽性はあります。情報は少ないですが、ここまではひとまずRAの診断がついていると考えましょう。

プライマリケア外来をしていて、このくらいの年齢の中年女性で手指のこわばりを主訴に受診した時には何を考えますか?外来を始めていない研修医の先生は馴染みがないかもしれませんが、更年期障害があります。そのほかの更年期症状や月経歴を確認しましょう。

RF陽性となるもの

膠原病:SjS, SLE, MCTD, SSc, PM/DM, クリオグロブリン血症
感染症:IE, HBV, HCV, ムンプス, HIV, 風疹, パルボ, Flu, TB, 梅毒
その他;IP, PBC, 肝硬変, 悪性腫瘍, サルコイドーシス, ワクチンなど
(J Hospitalist Network:RFと抗CCP抗体の臨床的意義

4年前に手の小関節の朝のこわばりや痛みが再び発生し、ヒドロキシクロロキンの治療を開始した。3年前に肝斑が出現し、ヒドロキシクロロキンの投与を中止した。メトトレキサートによる治療を開始したが、朝の手のこわばりと痛みが再発したため、メトトレキサートからレフルノミドに変更し、その後、手の症状は軽減した。

 

 

6ヶ月前から、腕と大腿部の筋肉痛と全身の倦怠感が出現した。腕を頭上に上げることが困難で、髪をとかしたり、化粧をしたりすることができなくなった。筋肉痛は運動すると悪化し、一日の終わりに最もひどくなった。患者は手足のしびれを訴えたが、手の小関節にこわばりや痛みはなかった。

 

これまではRA症状の経過でしたが、今回は、筋痛と筋力低下様の症状が出てきました。近位筋の筋力低下と筋痛があり、筋炎が鑑別となります。RAが背景にあり、RAとオーバーラップするような抗核抗体関連疾患としてはSLE、シェーグレン、炎症生筋疾患、全身性強皮症、MCTDなどがあります。また、筋力低下で鑑別を進めると、近位筋有意であり神経筋接合部疾患(MGなど)が上がりますね、特に本症例では日内変動、夕方になると症状が増悪することはMGと合いますね。あとはRA患者ということもあり環軸椎亜脱臼は見ておきたいですね。RAは診断時に首のXpは撮っておきましょう、急に手術になる人もいるのでコントロールとして評価しておく必要があります。

 

3ヶ月前に、田舎のリウマチ専門医を受診した。CK422U/L(基準40-150)、LDH509U/L(基準110-210)、抗核抗体(ANA)320倍(nuclear homogenous pattern)、抗U1-リボ核タンパク質(U1-RNP)抗体 陽性、C3、C4正常、抗dsDNA抗体 陰性、抗Smith抗体 陰性であった。

2ヶ月前にアザチオプリンによる治療が開始され、当院のリウマチ科に紹介された。

 

ここも情報が少ないですが、アザチオプリンはなぜ入ったのでしょうか?筋炎としてとりあえず入れたのか、リウマチトイド血管炎に対しての使用も考えられます。

 

田舎のリウマチクリニックでは、患者は手足の筋肉痛としびれが続いていた、アザチオプリンによる治療を開始してから腕を頭上にあげられるようになっていた。2週前に、手と指の筋痙攣が発生し、痙攣を緩和するために手のマッサージが行われた。

 

アザチオプリンはある程度効いたようですね。ここで新しい情報として、痺れと筋痙攣を生じています。神経症状でしょうか。当院では下記のように筋痙攣の原因を考えたりします。本症例では筋症によるもの、神経性、電解質異常などでしょうか。先ほども出ましたが環軸椎亜脱臼は見ておきたいですね。

筋痙攣の原因

特発性

動脈性:PAD

静脈性:静脈不全、DVT

神経性:DM、vitB12、葉酸欠乏、頸椎症

筋原性:甲状腺ミオパチー、炎症性筋疾患、ミトコンドリア病

その他:電解質異常、アルコール、薬剤性、透析患者、妊娠

(玉井道裕. かんかんかんTO鑑別診断)

 

既往歴は、バセドウ病(眼筋麻痺を合併し,メチマゾールを2年間投与した後,放射性ヨード治療を11年前に行い、その後に甲状腺機能低下症が発症した)、甲状腺機能低下症、潜在性結核感染症(INH、RFPで3ヶ月治療)、副甲状腺機能低下症(9年前に診断)。投薬はアザチオプリン、レボチロキシン、カルシウムサプリメント、カルシトリオールであったが、カルシウムサプリメントの処方と用量は不明であった。アメリカ国外に住んでおり、専門的な医療を受けるために定期的にボストンに来ていた。母親と同居し、情報技術職に従事していた。アルコールは機会飲酒、タバコはcurrent smoker、違法薬物使用はなし。家族歴は兄弟にSLEの患者がいた。

 

急に色々な情報が出てきましたね。気になるのは副甲状腺機能低下症ですね。副甲状腺機能低下症の原因は75%は頸部手術後です。今回の放射線ヨード治療で生じるのかはわかりません。その他は遺伝性、浸潤性疾患、自己免疫性疾患、低Mg血症などが有名です。遺伝的なものとして、外来でフォローしている人の中にはDiGeorge症候群の方が副甲状腺機能低下症を生じています。

自己免疫疾患を見た時は全ての自己免疫疾患を考慮することが大切です。オーバーラップ症候群もありますし、多腺性自己免疫症候群(APS)なども考えます。APSで考えてみると3型ですが悪性貧血に伴うvitB12欠乏、MGで痺れや筋力低下は説明ができそうですね。(

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%A4%9A%E8%85%BA%E6%80%A7%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/%E5%A4%9A%E8%85%BA%E6%80%A7%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4)副甲状腺機能低下症がありましたが、低Ca血症での筋、神経症状などは説明できるでしょうか。手指の筋痙攣はテタニー様でしょうか。

 

診察では体温36.3℃、血圧145/70mmHg、脈拍72回/分、呼吸数18回/分、SpO2 100%(RA)。両目に軽度眼球突出、顔面の色素沈着を認めた。関節の可動域は正常、圧痛なし、滑膜炎なし。頚部と股関節の屈曲が軽度低下、それ以外の筋力は感覚と同様に正常であった。発疹はなし。

 

Diagnostic tests were performed, and management decisions were made.

 

ここまでの経過としてはRAの診断は確定しているとしましょう。筋痛、筋力低下についてはオーバーラップとして炎症生筋疾患を含む膠原病を評価したいですね。筋力低下としてはMGも落としたくないですね。痺れや知覚症状は合わないような気もしますので、vitB12の合併や頚椎は見ておきたいですね。既往の副甲状腺機能低下症からの低Caも早めに見ておきたいですね。

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ここまでの経過のまとめ

44歳の女性、Serepositive RAがあり、最近発症した全身倦怠感、近位筋の筋力低下、腕と脚の筋肉痛、手足の知覚障害、手の筋痙攣でリウマチ科のクリニックに来院した。CKとLDHの上昇、RF、抗CCP抗体、ANA、抗U1-RNP抗体が陽性であった。

 

以下鑑別疾患

RA

既往歴を見た時には、その診断が正しいか確認をすることから始める。5年前に、左右対称の多発小関節炎を発症し、RFと抗CCP抗体が陽性であることが判明している。RAの診断における抗CCP抗体陽性の特異度は95%であり、RF陽性との組み合わせで特異度は98%に上昇する。臨床的および血清学的にRAの診断と一致する。その後、RAはレフルノミドで良好に管理されており、今回の来院時には、関節に関わる症状や所見はなかった。

既往のRAの診断は間違いなさそうである。次は現在の症状がRAに関連しているのか、その他の既往の疾患によるものなのか、新規の疾患なのかを判断する必要がある。まず、近位筋の筋力低下や筋肉痛に関連する疾患のカテゴリーを考える。

 

自己免疫疾患

近位筋の筋力低下と筋肉痛は、RAの特徴的な臨床症状ではない。しかし、RA、バセドウ病副甲状腺機能低下症(これらは自己免疫性疾患によって引き起こされる可能性がある)の診断に基づき、また第一度近親者がSLEであることから、自己免疫性を示すこの患者においては、他のリウマチ性疾患が鑑別診断上重要である。オーバーラップ症候群では、2つ以上のリウマチ疾患の分類基準を満たす。RAの患者さんは、SLE、特発性炎症性ミオパチー、シェーグレン症候群、全身性硬化症などの1つ以上の他のリウマチ疾患を加えたオーバーラップ症候群を持つことがあります。SLE、特発性炎症性筋疾患、全身性硬化症は、近位筋の筋力低下を伴うことがある。この患者にはシェーグレン症候群(例:角結膜炎症状)や全身性硬化症(例:レイノー現象や皮膚肥厚)を示唆する臨床的特徴はなかったが、他のオーバーラップ候群を考慮する価値がある。

 

RAとSLEのオーバーラップ

RAとSLEのオーバーラップ症候群の可能性があるか?ANAが陽性であったが、RA、特発性炎症性筋疾患、オーバーラップ症候群、MCTD

バセドウ病の患者やSLEの患者の第一度近親者にも存在することがある。抗U1-RNP抗体陽性は、SLE患者でも起こりうるが、この患者さんには、口腔内潰瘍、血清炎、発疹、細胞減少などのSLEの典型的な臨床的特徴はなかった。また抗dsDNA抗体と抗Smith抗体の検査が陰性で、C3、C4値も正常であった。全体として、関節リウマチとSLEのオーバーラップ症候群は考えにくい。

 

RAと特発性炎症性筋疾患のオーバーラップ

特発性炎症性筋疾患の分類基準には、近位筋の筋力低下、検査値異常(抗Jo-1抗体陽性、CK、アルドラーゼ、LDH、AS T、ALTの上昇など)、発疹(ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候、ヘリオトロープ疹など)、食道運動障害や嚥下障害、筋生検の病理所見などがある。近位筋の筋力低下とCKおよびLDH上昇を呈したこの患者には、RAと特発性炎症性筋疾患のオーバーラップ症候群の可能性がある。

 

若年性皮膚筋炎は、年齢的に除外できる。封入体筋炎では手指に症状が出ることがあるが、本症例では封入体筋炎に見られる指屈筋の特徴的な脱力は認めなかった。また、アザチオプリンによる治療を開始し速やかに症状が軽減し、封入体筋炎に典型的ではなかった。皮膚筋炎の可能性が高い発疹は認めなかった。スタチンの服用は、免疫介在性壊死性筋炎の発症の必須条件ではないが、一般的には関連があり、本症例では内服がなかった。抗ARS抗体症候群は、炎症性関節炎や近位筋の筋力低下、レイノー現象、発熱、間質性肺疾患、メカニックハンド(母指尺側と示指/中指橈側手の角化性紅斑)、抗ARS抗体の存在と関連している。この患者の炎症性関節炎は関節リウマチによるもので、他に抗ARS抗体症候群を示唆するような臨床的特徴はなかった。

 

この患者では、RA多発性筋炎のオーバーラップ症候群の可能性がある。筋電図および神経伝導検査、筋MRI、筋炎関連または筋炎特異的自己抗体の評価を含む血清学的検査、または筋生検が検討され得る。しかし、多発性筋炎は一般的に、筋痛、知覚異常、筋痙攣を伴わない近位筋の筋力低下を特徴とする。

 

MCTD

近位筋の筋力低下は、MCTDの症状でもある。MCTDは抗U1-RNP抗体が存在し、いくつかの異なるリウマチ性疾患の特徴に関連していることが特徴で、どの疾患の分類基準も満たさない。この患者は、抗U1-RNP抗体検査が陽性であったが、力価は分かっていない。もし抗U1-RNP抗体の力価が低ければ、臨床的な意義はほとんどない。いずれにせよ、RAと診断されたこの患者では、MCTDよりもオーバーラップの可能性が高いと思われる。

 

 

浸潤性疾患

アミロイドーシスとサルコイドーシスは共に近位筋の筋力低下で現れ、手根管症候群を伴うことがあるため、この患者の手の感覚異常を説明することができる。アミロイドーシスやサルコイドーシスの診断により、近位筋の筋力低下と知覚障害を説明することができるが、筋痙攣は珍しい。また、アミロイドーシスを示唆する慢性炎症性疾患、CKD、発疹、巨舌、サルコイドーシスを示唆するリンパ節腫脹、ぶどう膜炎、発疹を認めなかった。代替診断が特定されない場合は、浸潤性疾患を再考する。

 

この考え方も大事ですね。違うと思っていても、頭の隅に置いておく。

 

多くの薬剤が筋肉痛や近位筋の筋力低下に関連している。この患者では、アザチオプリン(筋力低下で来院する2ヶ月前に開始)、レフルノミド(関節リウマチの治療)、カルシウムとカルシトリオール(副甲状腺機能低下症の治療)、レボチロキシンバセドウ病の治療後に発症した甲状腺機能低下症の治療)があった。アザチオプリン治療以前から症状があり、この薬を飲み始めてから改善したのでので、アザチオプリンによる副作用は考えづらい。レフルノミドは筋肉痛を引き起こすことがあるが、筋力低下との関連はない。カルシウムサプリメント、カルシトリオール、レボチロキシンは、近位筋の筋力低下を引き起こすことは知られていない。

その他の薬剤には、メトトレキサート、リファンピン、イソニアジド、メチマゾール、ヒドロキシクロロキンが含まれています。メトトレキサートとリファンピンは、通常、筋肉に関連する副作用はない。イソニアジド、メチマゾール、ヒドロキシクロロキンは筋病理学的な副作用を持つことがあるが、この患者がこれらの薬剤を使用したのは以前のことであり、関連は低いと考えられる。

 

薬も丁寧に鑑別していて模範的ですね。

感染症

筋肉痛や近位筋の筋力低下を伴うことが多い細菌感染症は、侵襲性の黄色ブドウ球菌感染症がある。コクサッキーウイルスB、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、サイトメガロウイルスEBウイルス、B型/C型肝炎ウイルス、SIRS-COVID2などの感染も、筋肉痛や近位筋の筋力低下に関連しうる。真菌類では、アスペルギルス、クリプトコッカス、ニューモシスチス・ジロベシイ、寄生虫では、トリシネラ、トキソプラズマ・ゴンディなどが考えられる。この患者は2ヶ月間アザチオプリンを服用していたため、免疫不全に陥っていたが、発熱などの感染症はなく、感染症の可能性はあるが、今回の症状を説明するのは難しいと思われる。

 

感染症の鑑別は少し雑ですね。笑

菌血症での全身痛はSeptic thigh painが有名ですが、あんまり論文ないんですよね、かなり前のJAMAの論文しか知りません。(Arch Intern Med. 1985;145(12):2271. )

代謝異常

糖質、脂質、プリン体代謝障害に関連する代謝性ミオパチーの患者さんでは、近位筋の筋力低下が見られることが多いが、代謝性ミオパチーが原因であれば、もっと早い時期から症状があったと考えられる。

近位筋の筋力低下は、ビタミンD、リン、カルシウムが不足している患者や、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症の患者で現れることがある。この患者は、筋肉症状だけでなく、神経症状(知覚異常、筋痙攣)も認められたため、筋肉症状と神経症状の両方を説明できる病態を中心に解説する。

甲状腺機能低下症は、特に手根管症候群の文脈で、筋肉症状と知覚異常の両方を伴うことがある。この患者はバセドウ病の治療で甲状腺機能低下症になり、レボサイロキシンの補充量が少なすぎる可能性がる。さらに、副甲状腺機能低下症があり、カルシウムの補給とカルシトリオールが処方されていたが、カルシウム補給の処方と用量が不明であったため、カルシウム補給が適切でなかった可能性がある。副甲状腺機能低下症は、それに伴う低カルシウム血症を伴い、近位筋の筋力低下と筋肉痛が現れ、さらに筋痙攣の症状を伴うことがある。重篤な低カルシウム血症の患者は、CKが上昇することがある。全体として、副甲状腺機能低下症に起因する低カルシウム血症が、最も可能性の高い。診断のための検査は、カルシウムとアルブミン血中濃度の測定を含む包括的な代謝パネルである。

 

とても実際に臨床をやっていそうな教育的な鑑別の進め方でしたが、まさかの低Caっぽいですね。最初から見ておいて欲しかったですが、確かに筋症状と神経症状を両方説明するなら確かに低Ca血症がmost likelyですかね。

副甲状腺機能低下症は面白いんです。何が面白いかというと不足しているホルモンの補充が治療として行われない唯一の内分泌疾患なんです。最近骨粗鬆症治療で組み替えヒトPTHが欧米では承認されましたが、日本でも臨床使用が将来的に検討されています。ホルモンが補充できないので、治療がとても難しいです。

 

内分泌的評価

リウマチクリニックでの検査結果は、Camg/dL(1.5mmol/L、基準:8.5-10.5mg/dL[2.1-2.6mmol/L])、IPが4.5mg/dL(1.5mmol/L、基準:2.6-4.5mg/dL[0.8-1.5mmol/L])、イオン化Ca値は0.77mmol/L(基準:1.14-1.30)、CKは2645U/Lであった。

Alb、Cre、25(OH)D、TSHの血中濃度は正常であった。PTHは35pg/ml(基準:10-60)と正常であり、副甲状腺機能低下症であることが示された。IPも基準範囲の上限であり、副甲状腺機能低下症と一致した。この患者の関連症状を伴う重度の低カルシウム血症は、当初カルシウムの静脈内投与で治療された。本症例の副甲状腺機能低下症の原因は完全には明らかではなかった。副甲状腺機能低下症の鑑別診断には、頚部手術、浸潤性・破壊性疾患、自己免疫疾患、遺伝性疾患などがある。本症例では低Ca血症の家族歴はなく、多腺性自己免疫症候群1型に一致する病歴はなく、小児期に低カルシウム血症を早期に発症した病歴もなかった。低カルシウム血症に関連することが知られている薬剤は投与されていなかった。バセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けたことがあり、そのような状況で副甲状腺機能低下症が発症したとのまれな症例報告がある。後天性副甲状腺機能低下症は、自己免疫疾患に伴うカルシウム感知受容体に対する自己抗体の活性化を含む自己免疫メカニズムによる場合があり、自己免疫疾患の基礎疾患を持つこの患者には関連性があると考えられる。

副甲状腺機能低下症の患者では、25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換が障害され、ビタミンDの補充にカルシトリオール(合成1,25(OH)2D)による治療が必要である。この患者は、クエン酸カルシウム-コレカルシフェロールとカルシトリオールの安定した経口投与に移行し、その後カルシウム値は8.4mg/dL(2.1mmol/L)へと正常化した。副甲状腺機能低下症の治療は、PTH値が低いために遠位ネフロンでカルシウムが再吸収されず、尿中Ca濃度が上昇し、最終的に腎石症になる可能性がある。現在では、症状を最小限に抑え、過剰な尿中カルシウム排泄を避けるために、正常なカルシウム値を低くすることを目標に、カルシウムの補充とカルシトリオールによる治療が一般的である。サイアザイド系利尿剤は、尿中カルシウム排泄量を減らすのに役立つが、この患者には使用されなかった。PTH補充療法は食品医薬品局によって承認されているが、現状では利用できない。しかし、これは将来的に有望な治療選択肢となる可能性がある。

 

サイアザイドは保険適応外ですが、尿中Caを見つつ必要なお時は使いますね。あとは低Mgをきちんと見ておくことが重要です。低Mgがあると、Mg補充しないと治療抵抗性となるため、忘れないようにしましょう。

 

膠原病的評価

患者を最初に評価したとき、カルシウム値が5.9mg/dL、CK高値を認めた。近位筋の筋力低下、筋肉痛、CK高値から、特発性炎症性筋疾患が疑われた。しかし、副甲状腺機能低下症に伴う低カルシウム血症があれば、筋痙攣や知覚異常、ミオパチーも説明できる。甲状腺機能亢進症のようないくつかの内分泌疾患は、CKが正常な患者にミオパシーを引き起こすのが普通である。一方、副甲状腺機能低下症の患者は、通常、CKの上昇を示す。したがって、本症例では副甲状腺機能低下症が最も可能性の高い診断であると考えられた。

Ca補充療法を開始した後、症状やCKをモニターすることで、低Ca血症性副甲状腺機能低下症の診断を確定することができた。しかし、症状が入院に至ったこと、特発性炎症性筋疾患の罹患率、米国外に住んでいることなどから、特発性炎症性筋疾患の可能性をさらに評価することにした。

 

筋炎特異的抗体と筋炎関連抗体の両方を評価した。筋炎特異的抗体が存在すれば、本症例では特発性炎症性筋疾患がが示唆される。このような抗体の存在は、疾患の表現型と重症度を予測する上でも有用である。しかし、これらの抗体は特発性炎症性筋疾患患者の約40%には存在しない。さらに、筋炎抗体陽性は、炎症性筋炎の検査前確率と抗体の特異性に特に注意しながら慎重に解釈しなければならない。

MRIとEMGは、特に特発性炎症性筋疾患患者において、筋損傷を検出するための比較的感度の高い方法である。しかし、どちらの方法に基づいても、ミオパチーの存在は非特異的で、筋損傷の原因を確認するものではない。また、どちらの方法も、筋生検の適切な部位を決定するために、どの筋群が関与しているかを特定するために重要である。特発性炎症性筋疾患は左右対称の傾向があり、筋電図中の筋刺激が筋生検の結果に影響を及ぼす可能性があるため、この目的で筋電図を取得する場合、通常、片側の筋電図を行い、その後、対側の生検を行う。この症例では、左腕のMRIを撮影することにした。

 

左腕の単純MRIでは、T2WIでは、骨髄、筋肉、筋膜の浮腫は認めらレズ、T1WIでは、筋肉の脂肪浸潤や萎縮は認められなかった。骨折や骨髄置換性病変は確認されなかった。

MRIの結果が陰性で、特発性炎症性筋疾患の可能性がさらに低くなったため、筋生検は行わないことにしました。カルシウム補充療法を行ったところ、症状は急速に軽快し、退院時にCKは227U/Lまで低下していた。筋炎抗体は全て陰性であった。したがって、カルシウム補充療法への反応、MRIと筋炎抗体の陰性は、すべて低Ca血症性副甲状腺機能低下症ミオパチーと一致した。アザチオプリンによる治療後に体調が良くなった理由は不明であったが、レフルノミドによる治療で関節リウマチが寛解していたこと、ミオパチーが炎症性でないことから、アザチオプリンの中止とレフルノミドの再開を勧めた。

 

その後の経過

カルシウム製剤とカルシトリオールの投与量を適切に調整し、尿中カルシウム濃度をモニターし、PTH補充療法を含む新しい治療法を検討した。この患者の症状が人生の後半まで発症しなかったことを考えると、遺伝子変異の可能性は低いと考えた。自己免疫疾患との関連で、カルシウム感受性受容体に対する自己抗体の評価も有用であろう。

 

最終診断

副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症性ミオパチー

 

勉強になりました。

低Ca血症が見つけられずこじれるとこうなるんですね。ポイントは神経と筋が両方やられる時は、低Ca血症を考えることでしょうか。実臨床ではsmall fiber neuropathy様の症状を訴えることが多い印象がありますね。

病歴や診察の情報は少なかったですが、臨床推論の進め方はとても丁寧で見習わなければいけないと感じました。

 

今日はこの辺で失礼します。