週に1回のNEJM case recordまたはCPSの輪読会の日です。本日のcaseはこちらです。
Clinical Problem Solving:An Alternate Explanation(N Engl J Med 2023; 388:1318-1324[PMID 37018496])
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経過
カンファ
本文解説
長年の 2 型糖尿病(直近のHbA1c 6.5%)と慢性腎臓病(Cr 3.3 mg/ deciliter [292 μmol per liter]、 eGFR24 ml/min) の 48 歳男性。複数の指先と足先のしびれと痛み,紫色の変色が 3 ヵ月続いたので主治医に相談に来た.身体検査では、手袋とストッキングの分布で軽い触覚の減少が見られ、橈骨と足の脈拍は触知可能であった。ビタミンB12値は260pg/ml(192pmol/l:正常範囲、190〜950pg/ml[140〜701pmol/l])であった。彼はタバコを吸わず、アルコールを飲まず、違法薬物を使用しなかった。1ヵ月後,左足に外傷性のない傷ができた。ABIは左右とも1.2であった(正常範囲、0.91~1.3)。神経障害性潰瘍と推定され、創傷処置が開始された。
この症例の痺れの分布についてどう思いますか?手袋靴下型の分布と記載があり、polyneuropathyとしてDMの影響と考える人も多いかもしれません。でも違和感がありますね。一つは、痺れの分布が手先と足先の点です。一般的なpolyneuropathy長い神経から順に障害を受けます。手袋靴下型というよりは靴下手袋型の順です。また、下肢の痺れは膝まで生じた時に初めて手にも痺れを生じます。つまり、靴下手袋型というよりストッキング手袋型とでも言いましょうか。このように神経の長さにあった進行する痺れをlength dependent、そうでない場合はnon length dependentと言います。末梢神経障害を考えるときには、まずlength dependentかどうかを考えましょう。もう一つは経過ですね、3ヶ月という経過での進行は、急性と考えるべきです。non length dependentの場合、GBS、CIDPなどの免疫介在性、シェーグレン、腫瘍随伴症候群などを考えます。急性経過の場合には、GBS、血管炎、腫瘍随伴症候群、薬剤性、ビタミンB欠乏などを考えます。上記の情報からは、四肢末端の変色も合わせて、血管炎が筆頭でしょうか。
以下はlength dependentとnon length dependentの比較です。みなさんは、どれがそうかわかりますか?例えば13番や15番はlength dependentですが、10番や12番はnon-length dependentです。
(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008 Feb;79(2):163-9.[PMID 17911181])
以下にに当院神経内科Drの資料を添付します。
知覚障害や感覚障害は小繊維性ニューロパチーの特徴である。糖尿病は遠位感覚性多発ニューロパチーの一般的な原因である。しかし、手指の症状と足指に限局した症状を併せ持つことは、珍しいことです。感覚神経障害の他の一般的な原因としては、アルコールの使用、ビタミン欠乏、特定の薬剤の使用などが挙げられますが、多くの感覚神経障害は原因不明です。血清ビタミンB12値が正常値より低い場合は、ビタミンB12欠乏症をより正確に評価するために、メチルマロン酸値を測定する必要がある。触知可能な脈拍とABI正常は、手指と足指の症状の原因が大血管障害ではないことを示唆している。しかし、高度に石灰化した動脈(糖尿病や慢性腎臓病に多い)は非圧縮性であるため、末梢動脈疾患があるにもかかわらずABIが誤って上昇する可能性があります。このような疾患では、足指上腕血圧比(TBI)は遠位灌流をより正確に測定することができる。
手指や足指の変色は、微小循環の乱れ(血管攣縮やクリオグロブリン血症など)を反映している可能性があります。足の潰瘍は通常、動脈または静脈の不全または神経障害に関連した損傷から生じる。この患者の慢性腎臓病はおそらく糖尿病が原因であるが、潰瘍や神経障害を説明する全身的なプロセスの一部でないことを確認するために、さらなる評価が必要である(例:GPA)。
1ヶ月前に患者は急性呼吸困難で病院に入院した。妻曰く、患者は数週間、無気力で活動的でなかった。追加で慢性腰痛の増悪があり、前月に1ヶ月前から断続的にイブプロフェンを服用していたことがわかった。既往として、高脂血症、肥満(13年前にRoux-en-Y胃バイパス術で治療後)であった。内服はアスピリン81mg、アトルバスタチン40mg、ガバペンチン6000mg、マルチビタミン。家族歴としては父親が2型糖尿病で、母親は進行認知症。
バイタルは体温37.1℃、心拍数94回/分、血圧92/50mmHg、呼吸数28回/分、酸素飽和度93%(RA)。身体診察は両足に圧痕性浮腫があり、左足背の潰瘍の上に形成されたびらんが第1~3趾の先端まで広がっていたが、周囲に紅斑や硬結は認めなかった。
血液検査ではHbは6.8g/dL(ベースは7.5)、白血球数、血小板数は正常、Kは6mmol/L、Creは5.6mg/dL[495μmol/L](eGFR12)、T-bilは1.1mg/dL[18.8μmol/L](正常範囲 0.3~1.2mg/dL[5.1~20.5μmol/L])、LDHは196U/L(正常範囲 105~290)、ハプトグロビン114mg/dL(正常範囲 50~200mg/dL)、TnTは0.03ng/mL(正常範囲 0〜0.04)。血液塗抹標本はなし。尿検査ではタンパク尿2+。血液培養は2set陰性。心電図は洞調律。腎臓超音波検査では水腎症はなし。溢水と高Kを伴うAKI on CKDとして血液透析が開始となった。
バイタルからはショックバイタル、呼吸困難、意識障害の原因検索をしていく流れですが、身体所見がほとんど書いていないですね。もちろんIEを考えて血液培養とりつつ、いつも通り救急対応はしていきます。動けていなかったことも合わせて、VTEは評価しておきたいです。まあ、腎機能障害からの尿毒症、浮腫でも良さそうですけどね。血液検査では、提示の仕方に意図がありそうですね。欲しい情報が足りないですが、ひとまずTMAらしさはないぞと言われている気がします。貧血の進行と腎機能障害かつ軽度の意識障害があり一度は想起しましょう。腎機能障害についてもRPGNなど血管炎に随伴するものでないかという目でもみていきましょう。
足の傷の進行に加え、呼吸困難、低血圧、腎臓の障害がある。呼吸困難は、貧血と溢水が進行した結果である可能性があり、肺塞栓症や心タンポナーデなどの他の原因も考えられるため、緊急に検討する必要がある。低血圧は、心血管系、分布系、または血液量減少などの原因によって生じる。急性腎障害は、敗血症(例えば、足潰瘍に由来する感染症)を含むあらゆる原因の低血圧から生じる可能性があり、また、蛋白尿の存在によって示唆される進行性の糸球体障害から生じる可能性もある。腎臓超音波検査の結果から、腎後性急性腎不全の可能性は低い。ベースラインの貧血は慢性腎臓病の貧血に起因すると思われ、その進行は出血や溶血を反映している可能性があります。検査結果から溶血は考えにくいが、溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病のような急性腎障害につながる血栓性微小血管障害を除外するために末梢血塗抹が有用であろう。皮膚潰瘍、指先の虚血、腎障害、神経障害(の可能性)は、全身性血管障害と一致する。
超音波検査で右大腿静脈に深部静脈血栓症、換気-灌流シンチで肺塞栓症を認め、ヘパリンとワルファリン治療が開始となった。腎不全の悪化は、非ステロイド性抗炎症薬を使用していたことが原因であった。抗凝固療法のため、腎生検は行われなかった。翌日,手指,足指,陰茎に壊死性病変が発生し、ワルファリンによる皮膚壊死が疑われた。ワルファリン治療を中止し、アピキサバンが開始となった。
一般的な血管炎の採血は一式提出する流れではありますね。
ここで、静脈血栓症が登場してきたことについてはどうでしょうか。今までの流れだと動脈の病気を考えてきましたが、過凝固の疾患を考えて行った方が良いのでしょうか。一般的にはVの過凝固はプロテインC/S欠損
、AT-Ⅲ欠損など、A・V両方の過凝固はAPS(CAPS含む)、高ホモシステイン血症など、その他DICや腫瘍関連(CAT)などを考えます。今回に関しては、活動性の低下によるものでも良さそうですかね。
ワーファリンの皮膚壊死って実際あんまり経験しないですよね。これがあるからヘパリンブリッジするんですよね。急速に皮膚が壊死するということで、ワーファリン皮膚壊死を見たときには、CAPSやNA過剰使用、クリオブロブリン血症、HITなどをpivot and clusterとして考えましょう。ワーファリン誘発性皮膚壊死については、鑑別疾患も含めてエーザイのwebページがまとまっていましたので、一度目を通しておきましょう。
亜急性疾患における深部静脈血栓症や肺塞栓症の発症は、関連する凝固亢進を伴う基礎的な癌や自己免疫性血管障害のシグナルかもしれない。しかし、血栓症は、亜急性疾患や炎症、足潰瘍による運動能力の低下から生じることもある。
ワルファリンによる皮膚壊死は、ビタミンK拮抗作用により誘発される一過性の凝固亢進状態で、血管閉塞と皮膚壊死を引き起こすが、この過程は通常、治療開始後数日後に起こる。抗凝固療法を行っているにもかかわらず壊死性病変が発生することから、その他の懸念事項として、基礎にある重度の凝固性亢進症(APSなど)や血管炎(PANなど)などが挙げられる。
退院後2ヶ月、主治医への初診から5ヶ月後に、血管内科クリニックで評価された。退院後、徐々に複数の無痛性創傷が出現したことを報告した。左膝に大きな非治癒性の膿瘍があった。右足の3本の指は壊死しており、第2指の自己切断が起こっていた。また、右足の踵にも壊死した傷があった。右手3指は親指と第5指を残して壊死しており、左手4指は親指を残して壊死していた(図1)。橈骨と足底の脈は触知できない。
指先の壊死が目立ちますね。強皮症やNA過剰使用などの時にこうなったりはしますね。まだ、血管炎系の採血などは出されていませんね。こうなる前に血管の評価をしていないですね。普通は先に評価しておかないとアンプタしないと思うんですけどね。。それほど病勢が急性だったということでしょうか。。
動脈硬化、塞栓症、血栓症、解離、血管攣縮、血管炎など、複数のメカニズムが末端器官の虚血につながる可能性があります。これらの疾患のうち、塞栓症、血栓症、血管炎は、亜急性の時間経過でこのように広範囲に分布する場合に最も発生しやすいものです。
播種性血管内凝固を伴う敗血症がないにもかかわらず、血管内感染がほぼすべての指に及んでいるのは異例であり、発熱、白血球増加、菌血症を伴わない敗血症が数ヶ月にわたって発生することはあり得ない。コレステロール塞栓や心房筋腫などの非感染性塞栓症が、腎臓と遠位血管床の両方を傷つけている可能性がある。重度の腎障害とびまん性微小血管閉塞の存在により、カルシフィラキシス(石灰沈着性尿毒症性動脈硬化症としても知られる)を考慮すべきであるが、関連する皮膚病変はこの患者に生じたものとは異なり、通常痛みを伴う。貧血、神経障害、腎障害、凝固能の評価とともに、心エコー検査と切断された脚の手術標本の病理組織学的検査が有益であろう。
アンプタした足の病理というのは確かに盲点ですね。血管と神経見れば、血管炎の診断がつきますね。アンプタのopeにはなかなか入っていないですね。
実際に診療していた医者からすると、長年のDMがあるひとが、血流障害が進んできて、感染も被って、ワーファリン使うと皮膚壊死があって困ったな、アンプタしないといけなくなって。。と、よくある症例として進んできたんでしょう。
アピキサバンを3ヶ月間投与した後、血栓症の評価を実施した。プロトロンビン20210A変異は検出されず,プロテインC活性は114%,プロテインS活性は116%(正常範囲,70〜150),総ホモシステイン血中濃度は10μmol/L(正常範囲,5〜15),第V因子ライデン変異は検出されず,リポ蛋白(a)血中濃度は17mg/Deciliter(正常範囲,5〜29),アンチトロンビンⅢ活性91%(正常範囲,80〜130).ループスアンチコアグラント、β2-グリコプロテイン1抗体、抗カルジオリピン抗体、クリオグロブリン、抗核抗体、核周囲および細胞質の抗好中球細胞質抗体の検査は陰性で、抗二本鎖DNA、抗Sm、抗Scl-70、抗RNAポリメラーゼ3、抗U1-リボ核タンパク質抗体の検査も陰性だった。補体レベルは正常であった。静脈血栓塞栓症は、壊疽病変に伴う患者の活動レベルの制限に起因するものであった。
経胸壁心エコーでは異常はなかった。ABIとTBIは正常範囲の上限を超え、足腰の非圧縮性動脈に起因する所見であった。大腿部以下の両脚のすべてのレベルで減衰した単相関波形を示した。超音波検査では、動脈の石灰化による音響陰影の結果、音波の乱れが生じた。腹部と下肢のCT血管造影では、動脈硬化を認めない両下肢の広範な動脈石灰化が認められた(図2)。血管内科受診から1ヶ月後、右足の壊死部の著しい近位拡大が認められ、右膝下切断術を施行した。
お前たちの考えていることは全て当然やりましたよ、っていう結果でした。典型的な動脈硬化による血流障害ではなさそうなときにどういう検査を出すか、という意味でまとまっていて勉強になりました。流れとしては構図としては過凝固vs血管炎ということになってきましたね。
エコーやCT状は動脈硬化を認めない中で、高度に血管石灰化がある、そうなると考えるのはカルフィラキシスですかね。カルシフィラキシスはかなり急な経過で来ることもあります。その他には異所性石灰化を考えます、そちらも評価しておきましょう。鑑別としては血管炎が残ります。高安病の成れの果てなどは石灰化を起こします。構図としては、カルシフィラキシスvs異所性石灰化vs大血管炎となります。一つ疑問とすると、動脈硬化性疾患でないとどうやって言っているのでしょうか?画像から?
指の壊死は脈があるかどうか、動脈系か静脈系かどうかも重要です。こちらを参照ください。(N Engl J Med. 2015 Aug 13;373(7):642-55.[PMID 26267624])
ABIとTBI検査、デュプレックス超音波検査、CT血管造影検査でからはびまん性の重度の動脈石灰化があることがわかる。慢性腎臓病と糖尿病により、動脈硬化性疾患のリスクがあるが、画像検査では動脈硬化の証拠は認められなかった。
全身の虚血と壊死の原因として、広範な動脈の石灰化と血栓症を伴う障害が最も考えられる。自己免疫血清検査および凝固検査が陰性であることから、自己免疫性血管炎や遺伝性凝固異常は考えにくい。
右膝下切断の手術標本の病理組織学的検査では、真皮や皮下の毛細血管壁にはカルシウムの沈着がなく、内側に密な動脈性石灰化が認められた(図3)。血管炎、血栓症、動脈硬化の所見はなかった。Ca値は9.0mg/dL(正常範囲:8.5~10.2)、IP値は4.3mg/デシリットル(正常範囲:3.5~4.7)である。Mg、25OHビタミンD、PTH値は正常であった。
広範な内側動脈石灰化、広範な壊死(ワルファリン使用によるものと思われる)、進行した慢性腎臓病の組み合わせは、石灰沈着症に特徴的である。しかし、非脂肪組織に傷があること、痛みがないこと、カルシウム、リン、PTHが正常値であることは、非典型的である。さらに、手術標本には微小血管血栓症(血栓症は散発的で一過性の場合もあるが、石灰沈着症に伴う壊死を部分的に媒介する状態)が見られない。進行した慢性腎臓病と糖尿病の患者には、動脈硬化に伴って起こる内膜石灰化とは異なるが、それでも重症四肢虚血の一因となる動脈内側の石灰化が見られることがある。
ワーファリンの使用自体がカルシフィラキシスのリスクになるんですね、忘れていました。石灰化はビタミンK依存性に抑制されているみたいですね。
(N Engl J Med. 2018 May 3;378(18):1704-1714.[PMID:29719190] )
その後、指の壊死が進行し、両手の指が切断されるなど、四肢の欠損が進行した。臨床所見がカルシフィラキシスとは一致しないことから、別の診断が試みられた。動脈組織の全ゲノム配列決定により、リン酸代謝と組織の石灰化に中心的な役割を果たす酵素であるCD73の欠損をもたらすNT5Eのミスセンス変異が判明した。この患者は、CD73の欠損による動脈石灰化、別名ACDCという診断を受けた。
ACDCに特化したものではないが、血管石灰化のある患者にはカルシウムキレート剤であるチオ硫酸ナトリウムが有効であるという報告に基づいて、創傷治療と血液透析中のチオ硫酸ナトリウムの輸液が行われた。その後、開放創はすべて治癒に向かい、壊死していない指は救われた。1年後、傷はすべて治癒し、新たな傷は出現していない。この患者は、血液透析のたびにチオ硫酸ナトリウムの輸液を受け続けていた。
臨床経過がカルシフィラキシスに合わないから遺伝子検査をしたらACDCの診断が付きました、っていう強引な流れでしたね笑
以下本文解説です
末梢の傷と四肢の虚血を呈し、急速に趾や四肢の欠損へと発展した症例でした。動脈硬化を伴わない広範な血管石灰化が確認されたため、鑑別診断が見直され、カルシフィラキシスが除外された後、ゲノム検査により、CD73の欠損による動脈石灰化症と診断された。
末梢動脈疾患は、動脈の内腔が狭くなり、腕や脚の灌流が損なわれ、重症の四肢虚血につながる可能性がある。末梢動脈疾患は、最も一般的には動脈硬化と内膜石灰化によって引き起こされ、プラークの破裂と血栓症に至ることがある。糖尿病、高脂血症、高血圧、喫煙、慢性腎臓病などの動脈硬化の危険因子を持つ患者は、特に末梢動脈疾患とその臨床的後遺症に罹患しやすい。しかし、動脈硬化を引き起こさないメカニズムである動脈内側の石灰化も血管閉塞を引き起こす可能性があるという認識が広まっている1。動脈内側の石灰化を促進する分子機構は、動脈硬化性プラークの石灰化を促進する経路とは異なるが、どちらの表現型も血栓事象と関連している。血管石灰化の血行力学的結果は、血管の弾力性の喪失に起因し、虚血、末端器官機能障害、組織壊死を引き起こす可能性がある。今回の患者では、脚の非圧縮性血管、二重超音波検査での音響影、CT血管造影所見から、重度の血管石灰化が指摘された。また、創傷の急速かつ重篤な進展から、本患者の末梢動脈疾患は、動脈硬化に伴う動脈石灰化とは異なることが示唆された。
カルシフィラキシスは、血管の石灰化を特徴とするまれな疾患で、末期腎臓病患者に最も多くみられ、副甲状腺機能亢進症に関連するが、腎機能が正常でカルシウム、リン酸、PTHが正常値の患者にも症例が報告されていることから、早くから検討されていた。病理組織学的所見としては、中小動脈の石灰化、真皮および皮下の毛細血管壁へのカルシウム沈着、微小血管血栓症が挙げられる。
この患者では、痛みがないこと、傷が手、足、脚に限局していること、PTH値が正常であることから、医療従事者は別の原因を検討した。さらに、右膝下切断の手術標本の組織学的評価では、厚肉血管の緻密な内側動脈石灰化が認められたが、真皮や皮下脂肪組織におけるカルシウム沈着や微小血管血栓症といった石灰沈着症の典型的所見は認められなかった。
全ゲノム配列決定により、NT5Eのミスセンス変異(c.1126A→G、p.Thr376Ala)同定され、これはACDCの原因となることが知られているいくつかの配列変異の1つである。NT5EはCD73をコードし、アデノシン一リン酸をアデノシンと無機リン酸に変換する。CD73のレベルが低い機能喪失変異は、アデノシン産生の低下と組織非特異的アルカリホスファターゼ活性の上昇をもたらし、結果として異所性石灰化を刺激する下流メディエーターのシグナルが増加する(図4)。
ACDCは、関節周囲の石灰化と末梢動脈(腸骨、大腿骨、脛骨)の石灰化を引き起こし、大動脈や頸動脈、冠動脈などの大きな中心動脈は免れる、まれな常染色体劣性の成人発症の遺伝子疾患である。ACDC患者の組織分析では、動脈内膜石灰化とは異なる動脈内層にある石灰化を認める。
ACDCの臨床症状には、手足の関節痛、創傷、跛行、重症四肢虚血などがある。初期のケースシリーズでは、ほとんどの患者が20歳から50歳で、腎機能正常、血糖値正常、カルシウム、リン酸、PTH値正常と報告された。
この患者さんは、カルシウムキレート剤であるチオ硫酸ナトリウムの輸液を開始した後、虚血過程が著しく改善された。チオ硫酸ナトリウムと過剰なカルシウムとの反応による副産物は、体内から容易に排出される。カルシフィラキシス患者を対象とした観察研究では、チオ硫酸ナトリウムを投与された患者の死亡率は、チオ硫酸ナトリウムを投与されなかった患者の過去のデータに基づいて報告された死亡率よりも低く、またその使用に伴う病変サイズの減少が認められた。この患者におけるチオ硫酸ナトリウムの有効性は、カルシウム代謝に影響を与える薬剤が急速に進行する石灰化障害の治療に有用であることを示唆している。ビスフォスフォネートは組織非特異的アルカリフォスファターゼ活性の競合的阻害剤であり、現在ACDCの治療法として検討されている。
この患者の血管石灰化障害に起因する血管疾患に早く気がつけば、チオ硫酸ナトリウムの投与が早まり、四肢の救命につながったかもしれない。下肢の創傷の場合、ABIが正常でも末梢動脈疾患の除外には不十分であり、血管不全を明らかにする脈波・体積記録や波形解析などを併用する必要がある。入院中に壊疽病変が発生した場合は、その原因を調べ、新たに発生した創傷に十分な灌流を確保するために、血管造影による評価が必要となる。
この症例は、動脈硬化以外の経路で重症四肢虚血を引き起こす可能性があるという事実が明らかでした。この患者では、遺伝子配列の決定により、臨床医は別の診断であるACDCを導き出しました。
勉強になりました。
流れとしては、痺れがnon length dependent、急性経過というところから血管炎を考えつつ、凝固異常と血管炎を考え進めていきましたが、画像所見からカルシフィラキシスvs異所性石灰化vs大血管炎を考えることになりました。ただ、痛みがないことや血液検査結果、進行性の経過からそのほかの鑑別を考え、遺伝子検査でACDCの診断になりました。
疾患としては知らなかったですが、若年で発症して、治療法があり、予後が変わってくるので、早期診断するために知っておくべき疾患であると感じました。原因不明のPAD、カルシフィラキシスのPivot and clusterでの考え方が勉強になりました。