地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230410 5最男児 1週間前からの左下肢痛

とある小児外来の一コマです。

 

生来健康な5歳男児、1週間前からの左の大腿から膝にかけての痛み、受診当日から痛みで立てなくなり受診されました。車椅子で部屋に入ってきましたが、笑顔であまり辛そうではありませんでした。膝や大腿を触っても痛みはありませんが、左鼠蹊部に圧痛があり、全方向性に他動時に左股関節痛がありました。小児の急性の股関節痛、実はあんまり見たことなかったのでさらっと勉強してみました。

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簡単にまとめを勉強

Up To Date:Approach to hip pain in childhoodのsummary and recommendations

・原因:小児の股関節痛は、良性のものから致命的なものまで、さまざまな原因がある

・評価:小児の股関節痛の病歴と診察は、感染性、炎症性、整形外科的、腫瘍性の原因を区別することに重点を置いている。この区別は、適切な検査とX線写真の評価を行うために必要である。

・病歴:股関節痛のある子どもの病歴で重要なことは、子どもの年齢と性別、痛みのおonset、期間、重症度、部位、関連する全身症状、既往歴、家族歴、社会歴である。

 ※真の股関節病変は通常鼠径部に痛みを生じるのが普通だが、小児(成人でさえ)では大腿部や膝の痛みを訴えることがある。

 ※外側(大転子周辺など)の症状は、通常関節外の病変によって引き起こされる。

 ※-機能的な変化(足を引きずる、活動性の低下)がある痛みは十分に調べる必要があるが、一過性あるいは一瞬の股関節痛はあまり臨床的意義はない。

・機能的な変化(足を引きずる、活動の変化)がある痛みは十分に調べる必要があるが、一過性の、あるいは一瞬の股関節痛は通常、あまり意味がない。

・診察:股関節内と外のどちらから痛みが生じているのか、また単独の問題なのか炎症性疾患の1症状なのかを判断することに重点が置かれる。他の関節、皮膚、成長パラメータに異常がある場合は、全身疾患を示唆することがある。可動域は骨盤を固定するため、腹臥位での評価が望ましい。自力で体重を支えることができないということは、重篤な病態の兆候である。

・血液検査:検査評価では、血算、ESR、CRP、血液培養などを評価する。

・画像検査:

画像診断-病歴、診察、初期検査評価の結果、敗血症性関節炎、骨損傷、腫瘍が鑑別診断に残った患者には、画像診断が必要である。画像診断の方針は、疑われる病因に依存する。(上記の「画像診断」を参照)。

 ・Xpは、骨の異常(例、骨折、骨腫瘍)を同定する。

 ・超音波検査は、関節液(例、敗血症性関節炎、一過性滑膜炎)を特定できる。

 ・磁気共鳴画像法(MRI)は、骨髄炎、初期のペルテス病、初期の大腿骨頭すべり症を特定することができる。造影MRIは炎症性関節炎を特定でき、MRI関節造影は寛骨臼の裂傷を特定できる。

 ・骨シンチは、MRIが不可能な場合や多病巣性疾患が疑われる場合の代替検査である。

 

鑑別の進め方を勉強

Dtsch Arztebl Int. 2020 Jan; 117(5):72-82.

股関節痛の鑑別疾患:基本的には年齢から大方の当たりをつけるが、化膿性関節炎は特にどの年齢でも見逃さない意識が重要

 

Septic coxitis:化膿性股関節炎

・血行性細菌感染症、最も一般的な病原体は黄色ブドウ球菌

・原則的にどの年齢でも起こりうるが、乳幼児(4歳以下)に多く見られる

・急性または亜急性の骨髄炎の後遺症として生じることもある

・90%以上の症例で、発熱や全身倦怠感などの全身症状が見られる

・大腿骨頭破壊や骨端分離を回避するために、早期診断/治療が必要、発症から3日以内に適切な治療を開始することで、軟骨の回復不能な損傷を防ぐことができる

・炎症マーカー上昇+関節液貯留があれば、関節穿刺を行う

※乳児では大量の関節液貯留があっても炎症反応はわずかに上昇するだけか、まったく上昇しないこともある

・関節液の培養陽性で診断(疑われる場合には培養採取後閾値低く治療開始)

・治療の基本はドレナージ+抗生剤、乳幼児では関節穿刺を麻酔下で行い、その場でドレナージを行えるようにしておくことが望ましい

抗生物質を4-6週間

 

Transient synovitis:一過性滑膜炎(単純性股関節炎)

・ウイルス感染後に起こる一過性の痛みを伴う関節液貯留が典型的

・小児の股関節痛で最多の原因、common

・痛みのために患部の関節の動きが制限されることが多い、少し足を引きずる程度から全く動かすことができないこともある

・敗血症性関節炎とは異なり、基本的には全身症状はない

・関節液貯留を認めるが、炎症マーカーの上昇はない

・基本的にはself limitedで、症状の持続期間は平均5日、経過が長引くと14日程度になる、必要に応じて鎮痛と荷重制限を行う、関節液が大量に貯留し、痛みが強い場合には関節穿刺を考慮する

・一過性の滑膜炎が後にPerthes病を発症させやすいと言われていたが近年は否定的

 

Perthes病

・幼児の無菌性大腿骨頭壊死

・血流障害によって起こるが、その原因は不明である

・男子は女子の4倍の発症率

・figure 4 sign(Patricks sign)陽性

Image

 

・画像では、早期に超音波検査でのみ関節液貯留が認められるが、X線検査では異常がない、MRIでは早期でも診断可能

・平均2年以内にWaldenströn分類の順に経過し最終的に再形成が起こる

・治療のは定期的な理学療法的運動によって関節がずれないようにしつつ可動性を維持すること、痛みが強い時には時には加重制限を行なう

・予後因子は、診断時の年齢(発症時年齢6歳未満が好ましい)、初期の重症度分類(CatterallまたはHerring)

 

大腿骨頭すべり症

・男性の方がやや罹患率が高い

・発症にはホルモン、肥満、機械的負荷との間に相関関係がある

・臨床的には、急性型(症状2週間未満)と慢性型(症状2週間以上)に分かれる。acute on chronicな経過を辿ることもある

・股関節の可動性(特に内旋)が低下するため、歩行時に凱旋気味になる、患側のDrehmann徴候(股関節を進展から屈曲させたときに、股関節が凱旋してしまう)が陽性となる

・早期診断はXp、MRIで行なう

・外科的治療は、大腿骨頚部と大腿骨頭の角度による、角度が30°までの場合、成長板のさらなる滑落を防ぐためにスクリューやワイヤーでの固定、角度が30°を超える場合は、再形成骨切り術を行なう

 

septic arthritisとtransient synovitisの比較について

Eur J Radiol Open. 2022; 9: 100439.

settic arthritisは骨髄炎の所見を認めた場合、感度70%、特異度99.9%と有用であった

Radiology. 1999 May;211(2):459-65.

Up To Date:Approach to hip pain in childhood

・症状的に片側の一過性滑膜炎患者の4分の1が両側関節液を有するため、両側の関節液は全身性関節疾患または一過性滑膜炎を示唆する。対照的に、敗血症性関節炎はほとん一側性

・炎症性関節炎が鑑別診断に含まれる場合、滑膜炎(滑膜の炎症)と関節液を区別するために、ガドリニウム造影によるMRIが推奨。両者はT2強調画像で高信号だが、造影では滑膜組織が増強するのに対し関節液は増強しない

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勉強になりました。本症例では、年齢から、化膿性関節炎、一過性滑膜炎、Perthes病などを鑑別としました。Xpでは異常なく、L/Dは炎症反応の上昇はありませんでした。ただ、立てないほど痛みが強かったので、親御さんと相談してMRIを撮像しました。左の関節液貯留(右にも僅かに)を認めましたが、その画像だけでは化膿性か一過性滑膜炎か判断できませんでしたが、経過や全身状態、血液検査結果から一過性滑膜炎の可能性が高いと判断し、鎮痛剤で外来フォローとしました。

振り返ってみると、エコーあてれば良くて、緊急でのMRIはいらなかったでしょうか。ただ上記の画像鑑別ポイントを意識してみると、骨髄炎所見はなく、僅かですが、両側の関節液貯留があり、画像上も一過性滑膜炎が示唆されるなと思いました。

 

今日はこの辺で失礼します。