地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230529 ポートフォリオ発表会:同意できない中での意思決定 ポイントは最大公約数

先週末に当院での家庭医療ポートフォリオ発表会がありました。

 

私は、民間療法への信頼が強く必要な医学的な対応が困難な中年女性の人生の最終段階におけるケアについて発表しました。異なった考え方のため共通の理解基盤が形成できず、かつ陰性感情を持ってしまっていた中で、’スピリチュアリティ’に着目して、ケアの方向性を決めていった症例でした。

 

コメントをいただいた中で印象的だったものをまとめます。

一つは’VBP(value based practice)/ディスセンサス’です。同意できないことについて合意することがテーマで、まさに今回の症例にぴったりでした。関わる人の最大公約数を探しにいくという言葉はとても腑に落ちました。また、関わる看護師含む他の職種の考えや価値観についても質問をいただき、自分はその点の配慮が足りなかったと感じました。VBPの中にも「チームメンバーの多様性ある価値の視点を重視し,バランスをとる」というプロセスがあります。

もう一つは、患者中心の医療の方法の第3コンポーネント共通の理解基盤を形成する)について。こちらのポイントは以下の通り。

・問題とゴールは完全に一致するものを探すのではなく、一致点の最大公約数を探る作業となる。(自分はこれをベクトルで例えます。ある点を探すのではなく、どちらの方向を向くかを探していく、そうすると当事者全員が同じ方向を向きやすく、間違えることがない。)

 ・役割は各人にある。各メンバーを変化のプロセスに参加してもらい、コミットメント度や納得度を上げてチームを作っていく作業となる。

 

 

患者中心の医療の方法〈総論〉─「疾患の治療」だけでなく「病む人へのケア」を[プライマリ・ケアの理論と実践(2)]|Web医事新報|日本医事新報社

 

 

※患者中心の医療の方法(PCCM)については、私たち専攻医で作ったセミナー資料をご参照ください。

www.docswell.com

 

以下、VBP/ディスセンサスについて

VBPとは?

参考:https://icme.m.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2019/06/5-2-p72.pdf

VBP(values-based practice:価値に基づく診療) :なぜ患者側の思いと医療者側の思いがすれ違うのかという観点から,根拠に基づく診療(evidence-based practice:EBP,最善の根拠に従って医療者側の推奨 案を考えるという方法論)と補完し合って臨床現場を 改善しようという枠組み。VBPでは患者側の価値だけでなく,医療者側の価値を考慮することが重要であり、医療者のプロフェッショナリズムの複雑さを再認識し,患者と医療者を含めた当人の価値が臨床上の意思決定にどのように影響しているかをより明瞭に認識することができる。VBP の手順は図1の通り。

 

「前提」,「プ ロセス」,「到達点」という 3 つの相に分けられる。

前提:異なる立場の当事者(当人)が,それぞ れの価値に対して敬意を持って接すること。

到達点:当人それぞれの価値が認識された上 でそれらを内包する総体としての価値が共有され,バ ランスのとれた意思決定に達すること。

プロセス:当人たちが前提を共有し,到達点 に向かって協調しながら歩んでいく道。「 4 つの臨床スキル」、「専門職同士の関係性に関わる2つの側面」、「EBMとの3つの関連性」、「パートナーシップ」というカテゴリーで構成される。この全てを網羅する必要はなく , これらのプロセスのうち1つでも診療に取り入れることで,VBPの実践に近づくことができるとされる。

4 つの臨床スキル
1 .価値への気づき:自身と他者の価値に気づく
2 .推論:事例検討などにより,自身や他者の価値について省察する
3 .知識:価値に関わる情報源を検索し問題解決を図る
4 .コミュニケーション技法::ICE-StAR というスキルを用いたコミュニケーション

※ICE-StAR

Ideas(考え)Concerns(心配)Expectations(期待)

Strengths(強さ)Aspirations(志)Resources(資源)

 

専門職同士の関係性に関わる 2 つの側面
5 .当人中心の診療:患者やその家族の価値に配慮する

6 .多職種チームワーク:チームメンバーの多様性ある価値の視点を重視し,バランスをとる

 

EBPとの 3 つの関連性
7 .二本の足の原則:エビデンスを考えるときは価値 も同様に考える
8 .軋む車輪の原則:価値を考えるときにエビデンスを考えることも忘れない
9 .科学主導の原則:先進医療領域ではエビデンスと価値の統合が重要意思決定における合意形成

 

ディスセンサスによる意思決定

10.パートナーシップ:互いに同意できないことに関して合意する(ディスセンサス[dissensus])ことを通じてパートナーシップを形成する。

 

ディスセンサスとは?

参考:

vbp.hatenablog.com

ディスセンサス(dissensus):コンセンサス(consensus)の対義語。お互いが同意できないことについて合意すること。VBP野中では10のプロセスのうちの10個目であり、ディスセンサスに基づいたパートナーシップにより到達点(落とし所)を模索する、というのがプロセスとまとめることができる。

 

例えるなら、VBPは当人のケアに関わるすべての人の価値の最大公約数を探しにいくプロセス。