地方内科医の日日是好日

地方中規模病院内科医の日々の診療記録

20230407 Budd–Chiari Syndrome

小児病棟で11歳の肝炎の患者さんがいます。AST/ALT4桁で、検査結果上はEB VCA IgM+/IgG+でIMと考えられています(CMV IgM陽性、抗ミトコンドリア M2抗体も陽性で判断が悩ましいところはあります)が、肝炎の鑑別表をみてると、トランスアミナーゼの著名な上昇の中にバッドキアリ症候群の記載がありました。あまりちゃんと考えたことのない疾患なので勉強してみました。

 

ということで今日のNEJMはこちらのReviewです

Primary Budd–Chiari Syndrome(N Engl J Med 2023; 388:1307-1316[PMID 37018494])

小児のBudd-chiariは以下のReviewも参考にしました

Budd-Chiari syndrome in children: clinical features, percutaneous radiological intervention, and outcome(Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014 Sep;26(9):1030-8.[PMID 25003745])

 

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1 sentence summary

血栓症または静脈壁の障害による肝静脈流出路の閉塞を特徴とする若年の致死的疾患

 

疫学

・診断時の中央値は35-40歳

・男女差はなし

・有病率は100万人あたり年間1例とかなり稀

 

原因

原因としては骨髄増殖性腫瘍が最多

診断の上での注意点は以下の通りとなります

・妊娠中、産後の発症もあるが、基礎疾患の評価は必須である

・約20%は特発性

 

原因検索で重要なことは以下の通り

・最多の原因である骨髄増殖性腫瘍の遺伝子検査を行う:JAK2 V617F⇨JAK2 Exon12、CALR、MPLの順に遺伝子検査を行う

・上記が全て陰性の場合は、偽陰性を考慮して次世代シーケンサーを行い、高感度で同時に解析を行う

・Factor V Leiden(BCS患者では一般集団の2倍多いが、日本では基本的に発症はない)、PNH、APSプロテインS欠損、プロテインC欠損、AT-Ⅲ欠乏のスクリーニングを行う

プロテインC、プロテインS、AT-Ⅲは通常肝臓で合成されるため、肝機能障害では欠乏していても遺伝性かどうかの判断は困難であることが多い(その他の肝臓で合成されるタンパクとの比率を比較する方法が検討されている)

※第II因子変異の検査も通常行われるが、BCS患者におけるこの変異の陽性率は一般集団に比べて明らかに高いとは言えない

・傾口避妊薬の使用、妊娠、産後では血栓傾向であり、BSCのリスクとなるが、上記の疾患の検索を怠らないことが重要である

・局所的要因として、腹部感染、腹部炎症性疾患、腹部外傷などの報告もあるが稀である

 

病態生理

慢性肝静脈閉塞⇨肝うっ血⇨肝繊維化

       ⇨類洞圧上昇⇨門脈圧亢進・腹水形成

                ⇨門脈潅流低下⇨虚血性肝障害・重篤な肝機能障害

代償機構:肝内側副血行路の形成、動脈血流増大

 

臨床症状

上記の図の通り、症状は非特異的であり、無症状のこともあるため疑うことが難しい疾患だが、比較的最近発症した腹痛、発熱、肝腫大、腹水の組み合わせや急性または持続性の肝機能障害は、BCSを疑うきっかけとなる

また、腹壁静脈の怒張、特に尾側から頭側にかけての怒張は下大静脈の閉塞を示す特異的な所見であり、こちらもBSCを疑うきっかけとなる

臨床経過は、acute、chronic、acute on chronicがあり、劇症型となるのは稀

 

血液検査

急性経過では、AST/ALTの著増と虚血性肝障害を思わせる急激な低下となることがある

血球数は門脈圧亢進症に伴う脾機能亢進症により減少するが、骨髄増殖性主要では、血小板数20万以上と低下しないことが特徴

SAAGが1.1以上で門脈圧亢進が示唆され、BCSの疑いが強くなる

 

画像検査

エコー

A:肝臓内の側副血行路を示す無エコー域

B:尾状葉と尾状静脈の腫大、拡大

C:左肝静脈に血栓形成(カラードプラーが乗らない)

E:下大静脈への出口部分に短い狭窄のあるpatent proximal hepatic vein

造影CT:

D:3大肝静脈の造営されないが下大静脈は造影される

  肝臓中心部が周辺部がより造影される:尾状葉の短肝静脈は直接下大静脈に排出さ  れるため保たれる

F:右肝静脈の短い狭窄

血管造影

G:肝狭窄部分をバルーンで拡張している

F:バルーン拡張による血流が再開している

 

その他の画像の特徴は以下となる

・側副血行路は通常肝内だが、肝外にも認める

・尾状葉の腫大が目立ち、萎縮領域と腫大領域が混在するように見える

・門脈圧亢進症の特徴として食道静脈瘤、脾腫、腹水などを伴う

・動脈相に出現し、門脈相または後期相で消失する実質のモザイクパターンは、類洞の拡張または鬱血を示す

・肝静脈、下大静脈のどちらかまたは両方に内腔のびまん性閉塞(静脈は線維性索の残骸のように見える)と狭窄の上流での拡張

・診断時には約20%で肝静脈と門脈の閉塞が同時に認められる

 

病理

病理学的な特徴としては以下の通りとなります

・虚血性に肝細胞が減少

・類洞の拡張、周囲の繊維、結節形成

⇨これらは臨床的には結節があることがわかる以外有用でないことが多く、うっ血や側副血行路があると出血のリスクが高く、推奨されない

 

診断

・基本的には造影CT、MRIでの肝静脈系の閉塞を持って診断となる

※pitfall:大きな側副血行路が肝静脈と誤認されることがある

 

合併症

肝細胞癌

・肝動脈血流の増加により生じる(慢性管疾患の慢性炎症に伴う繊維化とは機序が異なる)

・AFP>15mg/mL以上で特異度95%

・造影CTでは動脈相で高吸収、門脈相または後期相でウォッシュアウトとなるが、特異度は67%と低い(異常な潅流となっているため)

・肝臓特異的な造影MRI肝細胞癌は高輝度となり、判断に有用かもしれない

・生検しないと診断がつかないことも多い

⇨6ヶ月毎のAFP測定、熟練した技師のエコーが推奨

 

治療

①基礎疾患の治療

②門脈圧亢進症治療:利尿剤(腹水に対して)、非選択的βブロッカー(varixに対して)

③肝静脈の血流改善

 ③-1抗凝固療法:低分子ヘパリン⇨安定したらDOACが推奨だがエビデンスは少ない

 ※未分画ヘパリンは血小板減少のリスクが高く推奨されない

 ③-2血栓溶解療法:カテーテル治療後に機械的または化学的に行うが出血のリスクが高い

 ③-3経皮的血管形成術:バルーン拡張⇨上手くいかない時はステント留置

 ③-4経頸静脈肝内門脈大循環短絡術(TIPS):肝移植への橋渡しとして行われることもある

④肝移植:上記治療が奏功しない場合、肝不全が進行する場合

 

予後

・死亡率:3年後で80%以上だが早期診断治療で劇的に低下しうる

・上記のように予後スコアはいくつかあるが、参考程度

 

小児のBudd-chiari

成人と比較してかなり稀 

BCS児46名[男児29名,年齢中央値10.5(2-16)歳]の検討

・8/12名(75%)に凝固異常あり

・95%の症例でドップラー超音波で診断可能

・全例がchronic BCS

・症状は腹水(82.6%)、肝腫大(84.8%)、脾腫(69.6%)、腹壁静脈怒張(69.6%)、腹腔内静脈瘤出血(34.8%)

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勉強になりました。稀ですが、GIMでは時折目にする疾患です。

BCSの背景疾患で骨髄腫瘍性疾患が最多なのは知りませんでした。妊娠関連、薬関連を考えても、しっかり腫瘍と血栓素因の原因検索をしようと思います。肝機能障害患者でも特徴的な画像を狙って評価しようと思いました。小児でもかなり稀ですが、ある程度報告があるんですね、エコーで狙って評価してみようと思います。

というか、そもそも皆さんどのくらい診られたことありますか?

 

今日はこのあたりで失礼します。